勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里

文字の大きさ
上 下
87 / 98
第4部 妖精の森編

87 魔道具屋と懐かしき人

しおりを挟む
 魔道具屋の扉を開けた瞬間、懐かしい匂いがした。
 木材や金属、石などの素材の香りが鼻に抜ける。
 ここにはロウがいないはずなのに、店の奥に彼が椅子に腰掛けているのではないかと錯覚した。

 ディディは相変わらず目に涙を浮かべていて、その表情には後悔と不安が滲んでいる。

「ロウの心のカケラにはタイムリミットがあるの?」

 私の問いに、ディディはさらに涙を滲ませた。

「分からない……。でも、早く見つけないと」

 ディディは顔を曇らせた。
 はっきりとした期限は分からないが、あまり時間は残されていないようだ。

「メソメソしてたって状況は変わらないんだから、さっさと行くわよ!」
 
「そ、そうね……!」

 私が歩き始めると、ディディも後ろから着いてきた。
 ロウが普段使っていた机の上に、キラッと光るカケラを見つけた。
 
「もしかして、これ……」
 
 私がそっと手を伸ばすと、小さな光の粒が手のひらに触れた。それは、紛れもなくロウの心のカケラだった。
 拾い上げると、カケラから映像が浮かび上がってくる。

『ロザリーはクッキーを食べるとき、一緒に何飲みたい?』

 ロウの声が聞こえてきて、映像の中の私が答えた。

『紅茶かな。紅茶の茶葉のお店にクッキーも売ってるもの』

『いいや、コーヒーの方がクッキーとの相性が断然いいはずだ。苦味と甘さのバランスが最高だからな』

 そう力説するロウに、私は意見を譲ろうとはしない。かなり、どうでもいいことなのに……。

『でも、紅茶の優しい香りとクッキーの甘さが絶妙に合うのよ。それに、クッキーに紅茶を浸して食べるのもいいじゃない』

『ロザリーはわかってないな……。まあ、今に見てろって』

 ロウがニッと笑ったかと思うと、映像が消えた。

「あ……」

 あのときは、私の勢いに負けたロウが折れて、仮に紅茶で決定したんだっけ。

「コーヒーか紅茶かって、どうでもいいじゃない……クスッ」

 ディディが笑い声を上げた。

「本当に。馬鹿だったわ。でも、どうして、映像が流れてくるの……?」

「妖精の国から離れたからかな……?」

 ディディも知らないようだ。
 
 そうしている間に、店の外からノック音が聞こえた。
 店のおもてには閉店の看板を掛けてあったはずだけど、私たちの物音が聞こえたらしい。

「誰かいますか?」

 私は店主不在を伝えようとして、ドアを開けると、男性が二人立っていた。その一人は、懐かしい顔――勇者パーティ時代の仲間、魔法使いのフィアルだった。彼の目は驚きに満ちていた。

「ロザリー?」
「フィアル……」
「どうしてここに?」
「色々あって、店主の留守を預かっているの」

 私は訝しげな顔をしたフィアルに答えた。
 
「では、ロウさまの代わりにお願いを聞いてもらえますか?」

「私で良ければ」

「実は仲間の装備の魔道具を揃えたくて、こちらに来ました」

 仲間の装備……。
 フィアルはどこかのパーティに属する予定だと聞いていたけれど、この剣士が新しい仲間だろうか。

 ゆっくり話をする時間があれば、フィアルの近況を聞いてみたかったけれど、残念ながらそれはできない。

「あいにく、店主がいないから、魔道具のオーダーは受けられないの」

「オーダーを受けられないくせに、留守を預かっているなんておかしな話だな。なあ、フィアル」

 剣士はフィアルに話しかけた。これ見よがしにジロジロと私を見てくる。
 
 でも、勝手に店に入ってきたのはあなたたちのくせに……!
 
 フィアルは少し悩んだ様子だったが、私に向き直った。

「では、いつ頃店主は戻って来ますか?」
「それは……わからないの」
「わからない!?」

 私の返答に眉尻を上げたのは剣士だった。

「どういうことだ?」
「どうって……」
 
 私は言葉に詰まった。

「ロザリー、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

 フィアルは心配そうに尋ねてきた。

「実は……」

 私はフィアルに事情を説明した。
 ロウが妖精王の娘の魔法で氷漬けにされたこと。
 そして、ロウの心のカケラを散らばったこと。
 その心のカケラを集めないと、ロウの意識が戻らないこと……。

 フィアルは信じられないという表情をしていた。

「では、ロザリーはロウさまの心のカケラを集めているんですね」
「そうよ」
「困ったときはお互い様です。僕が助けになれることはありますか?」

 フィアルは力強く言ったが、私は首を振った。
 本当は猫の手も借りたい。でも、自分たちで見つけないといけないものだから、人を頼るわけにはいかない。

「いいえ、これは私たちの問題だから……」
「わかりました。無理はしないでくださいね」

 フィアルはそれ以上、言い募ろうとはしなかった。

「魔道具のオーダーはまた今度にします」

 フィアルと剣士は、店から去っていった。
 
 私たちはその後、店の中をくまなく探したが、心のカケラは見つからなかった。

「どうしよう……」
「ロウさまの家に行きましょうよ」
 
 ディディの提案に、私は衝撃を受けた。
 
「え? ロウの家?」
「そうよ。ロウさまの寝食を過ごしている場所なら、まだそこに心のカケラが残っているかもしれないわ」

 ロウのプライベートルームだけは入ったことがなかった。まさか、ロウが留守の間に、勝手に侵入することになるとは。
 ああ、そこには何があるのか、いろんな意味で怖い……。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

処理中です...