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第4部 妖精の森編
86 心のカケラ
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この修羅場を、どのように収拾させたら良いものか。
これ以上刺激してはダメだ。妖精王の娘、ディディには冷静になってもらわなくては。
しかし、その方法は私には思い浮かばなかった。
ディディは涙を浮かべながら、ロウに詰め寄った。
「どうして私じゃないの? 私はずっとロウさまを待っていたのに……!」
彼女の悲しみと怒りは、お日さまのように暖かく柔らかい風を荒々しく変えた。
草花は激しく揺れ、空には灰色の暗雲が立ち込めた。急に暗くなったので、妖精たちは不安そうにざわめき始めた。
妖精王はディディを止めようと手を伸ばしたが、彼女はそれを振り払ってしまった。
「ディディ、やめなさい!」
妖精王は叫ぶが、ディディは止まらない。彼女のエメラルドグリーンの瞳は怒りに満ちた輝きを放ち、握り締めた手には氷のオーラが集まっていく。
「ロザリーなんか、消えてしまえ!」
ディディの言葉と共に、氷の槍が彼女の手から放たれ、私に向かってまっすぐ飛んでいった。
え? えー!
私は咄嗟に動けず、防御魔法の発動も間に合わない。
氷の槍が突き刺さってしまう……と目を閉じた。
その瞬間、ロウが私の前に飛び出して、氷の槍を自らの体で受け止めたのだ。槍はロウの胸に突き刺さり、瞬く間に彼の体を凍らせていった。
「いやぁ、ロウ!」
私は叫ぶ。が、ロウの体は動かない。氷は彼の体を覆い、彼を完全に閉じ込めてしまった。その氷は青白い光を放ち、白い煙を発した。
妖精王は眉を吊り上げ、娘のディディを叱責した。
「何をしたのだ、ディディ! すぐにその魔法を解け!」
しかし、ディディは後悔と怒りで混乱していた。
「私はただ、ロウさまと幸せになりたかっただけなのに……」
彼女は小さく呟いた。まだ感情が抑えられないのか、ロウの周囲の氷はますます強固になっていった。
私はロウを救出するべく、魔法の力で氷を溶かそうとするも、私の魔法が打ち消されてしまう。
ディディの暴走した魔法は予想以上に強力だった。
「ディディ! すぐにその力を止めて! ロウが死ぬわよ!」
私が叫ぶと、ディディはハッと我に返り、ようやく自分のしたことに気づいたようだった。
「あ……あ、私……」
彼女は両手を震えさせていたが、目の前で氷に閉じ込められたロウを一刻も早く救出しなければならないことを悟ったようだ。
「私がやらなきゃ……ロウさまを助けなきゃ!」
ディディは急いで氷を解こうと、両手をかざした。その力で氷は溶け始めたが、ピシッと亀裂が入った。
とてつもなく、嫌な予感がする。
「落ち着いて、ディディ! 一気にやろうとすると、ロウが……!」
私の言葉を聞かず、ディディは全力で氷を溶かそうとした。
しかし、急激に魔法を行使したことで、予想外の事態を引き起こすことになる。
ロウの体を覆っていた氷は一瞬で溶けたものの、彼の心の奥底に深刻なダメージを与えた。
「ロウさま、大丈夫!? ねぇ、目を開けて!」
ディディは叫んだが、ロウは反応しない。
その代わりに、ロウの胸から青白い光を放つ楕円の物体が浮き出てくる。
その光球にはヒビが入り、砕けたカケラが飛び散った。
嫌な予感がしたのと同時に、妖精王は眉をひそめた。
「これはまずい。ディディ、君の行動の誤りを自覚しなければならない。ロウの心を取り戻すには……心のカケラを集めなければならないだろう」
ディディは涙に濡れた目で父親を見上げ、唇を噛んだ。
「心のカケラ……?」
「胸の奥にある心のことだ。ディディがダメージを与えたから、壊れてしまったのだ」
「そんな、私はどうすれば……」
「心のカケラを集めて、丸い形に戻し、ロウの体に返すのだ。そうすれば、意識が戻る可能性がある」
ディディは震える手を握り締め、うつむいた。自分がやったことの重大さに気づき、どうすればいいのかわからなくなっていた。
「わ、わたし……なんてことを! ごめんなさい」
「……その謝罪は、意識が戻ったロウに言ってよね。今はロウの心のカケラを集めることに専念しましょう」
私はそう言った。そう言うしかなかった。
ふつふつとした怒りは胸の中にあった。せめて、人の話を聞く耳を持ちなさいと。
だけど、この出来事は彼女には十分すぎる薬だっただろう。
この妖精の国で、私たち三人でカケラ探しを始めた。
幸い、この花畑には心のカケラが落ちている。
妖精たちの力も借りて、すぐにカケラをいくつか集めることができた。しかし、その数はあまりにも少ない。ロウの心を取り戻すにはまだ足りなかったのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ディディは泣きながら謝り続けた。
「あの……ちょっといいかしら?」
その私の声に、妖精王とディディは、手を挙げた私を見てくる。
「何かな? ロザリー」
「妖精の国の外にも、心のカケラが落ちている可能性もあるんじゃないかしら?」
私の問いに、妖精王は低く唸った。
「うむ、その可能性は否定できない。しかし、私はこの国から出ることができないから、君たちに心のカケラの捜索を頼むことになる」
「もちろん、そのつもりよ」
私は頷いた。
ディディは涙ながらに私を見る。
「ロザリー……ごめんなさい」
「謝罪はもういいわよ。それよりも……」
ロウの心のカケラを集めましょう、と言おうとしたが言葉が出なかった。
心のカケラを胸に抱き、彼の名を叫ぶディディの姿があったからだ。それはあまりにも痛々しくて、見ていられなかったのだ。
そんな私の気持ちを察したのか、妖精王は私に言った。
「君は優しい女の子だね。ディディのことは面倒をかけてしまうが……」
「そんなことはいいのよ。ロウの意識さえ戻れば……」と私は苦笑した。
私はこれまで拾い集めた心のカケラを預かり、なくさないようにロケットペンダントの中に入れた。そして、首から下げて服の中へ。
それからディディと共に妖精の国を出て、私の転移魔法を使い、ロウの生活拠点である魔道具の店へ向かった。
これ以上刺激してはダメだ。妖精王の娘、ディディには冷静になってもらわなくては。
しかし、その方法は私には思い浮かばなかった。
ディディは涙を浮かべながら、ロウに詰め寄った。
「どうして私じゃないの? 私はずっとロウさまを待っていたのに……!」
彼女の悲しみと怒りは、お日さまのように暖かく柔らかい風を荒々しく変えた。
草花は激しく揺れ、空には灰色の暗雲が立ち込めた。急に暗くなったので、妖精たちは不安そうにざわめき始めた。
妖精王はディディを止めようと手を伸ばしたが、彼女はそれを振り払ってしまった。
「ディディ、やめなさい!」
妖精王は叫ぶが、ディディは止まらない。彼女のエメラルドグリーンの瞳は怒りに満ちた輝きを放ち、握り締めた手には氷のオーラが集まっていく。
「ロザリーなんか、消えてしまえ!」
ディディの言葉と共に、氷の槍が彼女の手から放たれ、私に向かってまっすぐ飛んでいった。
え? えー!
私は咄嗟に動けず、防御魔法の発動も間に合わない。
氷の槍が突き刺さってしまう……と目を閉じた。
その瞬間、ロウが私の前に飛び出して、氷の槍を自らの体で受け止めたのだ。槍はロウの胸に突き刺さり、瞬く間に彼の体を凍らせていった。
「いやぁ、ロウ!」
私は叫ぶ。が、ロウの体は動かない。氷は彼の体を覆い、彼を完全に閉じ込めてしまった。その氷は青白い光を放ち、白い煙を発した。
妖精王は眉を吊り上げ、娘のディディを叱責した。
「何をしたのだ、ディディ! すぐにその魔法を解け!」
しかし、ディディは後悔と怒りで混乱していた。
「私はただ、ロウさまと幸せになりたかっただけなのに……」
彼女は小さく呟いた。まだ感情が抑えられないのか、ロウの周囲の氷はますます強固になっていった。
私はロウを救出するべく、魔法の力で氷を溶かそうとするも、私の魔法が打ち消されてしまう。
ディディの暴走した魔法は予想以上に強力だった。
「ディディ! すぐにその力を止めて! ロウが死ぬわよ!」
私が叫ぶと、ディディはハッと我に返り、ようやく自分のしたことに気づいたようだった。
「あ……あ、私……」
彼女は両手を震えさせていたが、目の前で氷に閉じ込められたロウを一刻も早く救出しなければならないことを悟ったようだ。
「私がやらなきゃ……ロウさまを助けなきゃ!」
ディディは急いで氷を解こうと、両手をかざした。その力で氷は溶け始めたが、ピシッと亀裂が入った。
とてつもなく、嫌な予感がする。
「落ち着いて、ディディ! 一気にやろうとすると、ロウが……!」
私の言葉を聞かず、ディディは全力で氷を溶かそうとした。
しかし、急激に魔法を行使したことで、予想外の事態を引き起こすことになる。
ロウの体を覆っていた氷は一瞬で溶けたものの、彼の心の奥底に深刻なダメージを与えた。
「ロウさま、大丈夫!? ねぇ、目を開けて!」
ディディは叫んだが、ロウは反応しない。
その代わりに、ロウの胸から青白い光を放つ楕円の物体が浮き出てくる。
その光球にはヒビが入り、砕けたカケラが飛び散った。
嫌な予感がしたのと同時に、妖精王は眉をひそめた。
「これはまずい。ディディ、君の行動の誤りを自覚しなければならない。ロウの心を取り戻すには……心のカケラを集めなければならないだろう」
ディディは涙に濡れた目で父親を見上げ、唇を噛んだ。
「心のカケラ……?」
「胸の奥にある心のことだ。ディディがダメージを与えたから、壊れてしまったのだ」
「そんな、私はどうすれば……」
「心のカケラを集めて、丸い形に戻し、ロウの体に返すのだ。そうすれば、意識が戻る可能性がある」
ディディは震える手を握り締め、うつむいた。自分がやったことの重大さに気づき、どうすればいいのかわからなくなっていた。
「わ、わたし……なんてことを! ごめんなさい」
「……その謝罪は、意識が戻ったロウに言ってよね。今はロウの心のカケラを集めることに専念しましょう」
私はそう言った。そう言うしかなかった。
ふつふつとした怒りは胸の中にあった。せめて、人の話を聞く耳を持ちなさいと。
だけど、この出来事は彼女には十分すぎる薬だっただろう。
この妖精の国で、私たち三人でカケラ探しを始めた。
幸い、この花畑には心のカケラが落ちている。
妖精たちの力も借りて、すぐにカケラをいくつか集めることができた。しかし、その数はあまりにも少ない。ロウの心を取り戻すにはまだ足りなかったのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ディディは泣きながら謝り続けた。
「あの……ちょっといいかしら?」
その私の声に、妖精王とディディは、手を挙げた私を見てくる。
「何かな? ロザリー」
「妖精の国の外にも、心のカケラが落ちている可能性もあるんじゃないかしら?」
私の問いに、妖精王は低く唸った。
「うむ、その可能性は否定できない。しかし、私はこの国から出ることができないから、君たちに心のカケラの捜索を頼むことになる」
「もちろん、そのつもりよ」
私は頷いた。
ディディは涙ながらに私を見る。
「ロザリー……ごめんなさい」
「謝罪はもういいわよ。それよりも……」
ロウの心のカケラを集めましょう、と言おうとしたが言葉が出なかった。
心のカケラを胸に抱き、彼の名を叫ぶディディの姿があったからだ。それはあまりにも痛々しくて、見ていられなかったのだ。
そんな私の気持ちを察したのか、妖精王は私に言った。
「君は優しい女の子だね。ディディのことは面倒をかけてしまうが……」
「そんなことはいいのよ。ロウの意識さえ戻れば……」と私は苦笑した。
私はこれまで拾い集めた心のカケラを預かり、なくさないようにロケットペンダントの中に入れた。そして、首から下げて服の中へ。
それからディディと共に妖精の国を出て、私の転移魔法を使い、ロウの生活拠点である魔道具の店へ向かった。
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