勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里

文字の大きさ
上 下
68 / 98
第三部 竜の棲む村編

68 たどり着いた先は

しおりを挟む
 私の顔を覗き込んでいたのは、ドジョウだった。
 ドジョウがしゃべった⁉︎
 
 そこにいるのが人間だと思いたかった。
 けれど、黒い艶々とした目と目が離れていて、ガウンの袖口から見える手のようなヒレは魚類特有の光沢感があった。
 さらに違和感が。私の背丈よりも頭一つ高くて、ドジョウにしては大き過ぎる。

 湖の水が襲いかかってきて、私はそこで意識が無くなった。
 ……ということは、ここは湖の中⁉︎
 海藻の敷き詰められたベッドで寝かせられていた。背中は柔らかく、少しひんやりとして気持ちいい。

「お嬢さま、お具合は大丈夫でしょうか?」

 再度そう尋ねられて、体を起こして返事をしようとすると、コポコポと口から水泡が出てきた。
 目の前に広がっているのは水で満たされた部屋。ということは……。
 い、息ができない……!

「落ち着いてください。ここは水の中ですが、そのまま息ができるはずです」

 私が慌てたのを見て、ドジョウが優しく声をかけてくれる。
 言われた通りに呼吸をすると、空気は薄い感じがするけれど少し気分が落ち着いてきた。

「た、助かったわ……」

「良かったです。お嬢さまが着ていた衣装は、ここでは水を含んで動きづらくなってしまうため、私が着替えをさせていただきました」

 そう言われて初めて、私の着せられた服がドジョウの服と似ていることに気づく。
 ガウンは胸の下で紐結びされ、さらに上に別のガウンを羽織っていた。
 さっきまで着ていたスイリュ村の民族衣装は、丁寧に折りたたまれて、ベッドの脇に置いてあった。
 
「あなたが私のお世話をしてくれたのね。ありがとう」

「いいえ。大事なお客さまと伺っておりまして、当然のことをしたまででございます」

 大事なお客さま――どうやら歓迎されているようね。

 そういえば……と、手で頭を押さえる。
 あった。体の一部となっていた黒いカチューシャがそこにあってホッとした。

 濁流に飲み込まれても、このカチューシャだけは取れなくて良かったわ。
 
 安心した私は、丁寧に応対してくれるドジョウに尋ねる。
 
「そのお客さまは私だけ? 他に一緒に来た人はいなかったかな?」
 
 もしかしたら、ロウもこの場所に来ているかもしれない。
 しかし、その期待は外れた。

「この場所に招かれたのは、お嬢さまだけだと聞いています。他の人間さまはお越しになっていません」

「そうですか……」
 
 残念だ。妖精リアの気配もないから、本当に私一人だけがここにやってきたんだわ。
 
 話すたびに揺れるドジョウのヒゲを見ながら思う。
 私はどなたの大事なお客さまなのかしら?
 
 ここが竜の棲む湖だとしたら、本当に……?

「竜神さまを呼んで参りますので、少々お待ちください」
「はい……」
 
 ドジョウはするりと、この部屋の海藻ののれんをくぐり出て行った。
 やっぱり、この湖の主である竜神さまだった!
 憧れの竜神さまに会えてしまうの?
 
 だけど、湖の外でロウが心配しているかもしれない。
 早く地上へ戻りたいと思う心と、竜神さまに会ってみたい好奇心がせめぎあった。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

処理中です...