勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里

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第三部 竜の棲む村編

58 気ままな旅が始まる

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 最凶の魔獣、ネアトリアンダーの危機を二度も救った英雄。その評判はマグナルツォ王国の国中に広まった。
 その英雄が、一時的に王宮に拘留された話が広がるや否や、原因を作った第一王子に批判が集中した。
 
 責任を追及された第一王子は、王位継承権を剥奪された。
 この処分にショックを受けた第一王子は、一時寝込んだそうだ。
 王太子の座が第二王子に移り、色々なしがらみから解放されて自由の身になった第一王子は司法の世界に邁進まいしんすると決めた。
 
 この決定に反対する者はいなかった。相当な処分だったことと、収まるところに収まったと誰もが思ったのだろう。
 
 私には、司法省で書面と睨めっこする第一王子の姿が目に浮かんだ。国のトップよりは、与えられた役目を担う方が向いているような。
 そう、大魔法使いさまと友好関係を築けていない点で王位継承は難しいよね。この魔獣の騒ぎで、お互いに多少の苦手意識は克服したようだけど。
 
 大魔法使いさまの評判は他国まで広がって、外交の重要な切り札にもなっているから、これを利用できない第一王子にはそもそも国王になるのは難しかったけどね。
 
 国王陛下との謁見で私の栄誉を讃えられると、国の英雄を王宮でもてなしたいから長期滞在しないかと提案された。
 しかし、念願の冒険をスタートさせたいのと、快適過ぎる王宮暮らしには既に飽きてしまったので丁重に断った。
 
「国王陛下からのお誘いを断って本当に良かったのか?」

 謁見の後、あの場に同じく招かれていたロウから呼び止められた。
 
「ロウもそれを聞くのね。借りてきた猫みたいな生活を送るのは私らしくないわ。冒険に出て、刺激的な毎日を送った方がずっと楽しいの」
「……ロザリーらしいな」
 
 ロウはクックと楽しげに笑い、さらに私へ質問を投げかけてくる。
 
「ロザリーはこれからどんな冒険をしたい?」

 そう聞かれて、私の心の中で返事は既に決まっていた。

「行ったことのない場所に行ってみたいわね。できれば、ロウも行ったことのない場所。知らない土地で、自由気ままな旅に憧れるわ」
 
「自由気ままな旅とは、まるで新婚旅行みたいだな」
「し、新婚旅行!?」

 驚いて声を上げる。話が飛躍しすぎじゃありませんか! いずれはそうなればいいなと思っているけれど、気が早すぎるわ。
 呆然としていると、ロウはとぼけたような表情で口を開いた。

「冗談はさておき、見知らぬ土地の旅には危険がつきものだ。下調べはしっかりしていこう」
「……そうね」

 私が反応に困っていたから、冗談だと言ってくれたのだろうか。そう言われて助かったような、物足りないような。

「その肝心な目的地はどこにする?」

 一番重要なことが決まってなかった。勇者パーティにいた時は、目的地は魔物がいる場所と必然的に決まったけれど、今は自由に決められる。
 ロウからの問いに答える前に、私は横に飛ぶ妖精リアへ話しかける。
 
「リアは私たちに着いてくる?」
 
 リアが望むなら、ツツジの木に戻ってもいいけれど、多分それだと退屈してしまう。誘いはするけれど、リアの選択に委ねることにした。
 
「もちろんです! ご主人さまの行きたいところに着いて行きます!」
「ありがとう。旅の間に、リアの行ってみたいところや欲しいものが出てきたら遠慮なく言ってね」
「ご主人さま、ありがとうございます!」
 
 リアは私の声がけに感激したのか、瞳をうるうるとさせた。

「目的地……そうね! 竜。竜に会いに行ける場所はどうかな?」

 伝説級の生物で、地上には滅多に姿を現さない。
 勇者パーティの遠征中に、竜がどこかに潜んでいるという噂を小耳に挟んだだけだ。そのときは竜が魔物じゃないから、見に行くことはなかったけれど。
 
「竜……か」
 
 ロウの声には戸惑いがあった。
 大魔法使いのロウなら、私よりも竜のことを知っているはずだ。それでも、やはり難しいのだろうか。

「竜に会える可能性のある場所に思い当たりが二つある。それは……この国のはずれにある竜の村と、隣国のアンデルーラ王国だ。アンデルーラ王国の方は国家機密で秘匿されているから俺たちが実際に目にするのは難しいだろうな。そうすると、竜の村だな」

「竜の村があるのね!」

 どんな村なんだろう。楽しそうだな。
 行動を決める時に、ワクワクするかって大事な要素じゃない?
 
 私には竜に憧れがあった。竜の背中に乗って高い空を飛んだら気持ちよさそうだと思ったから。

「俺も噂程度にしか知らないが、その村の湖に竜神さまが棲まうらしい。雨の恵みの神として祀っているそうだ」
「竜神さまって呼ばれてるんだね……。そうしたら、竜の背中に乗る……なんてことは無理だよね?」

 私の予想が外れていればいいなと思いながら、恐る恐るロウに確認する。
 けれど、悲しいことに、ロウは真顔で肯定してきた。
 
「そうだな。竜は気位が高く、めったに人を背に乗せることはないだろうな。小さい頃から飼い慣らせば話は別だが」
「小さい頃から飼い慣せばいいのね」
「それをやっているのが、アンデルーラ王国だ。子どもの竜と出会うには親の竜とも信頼関係が必要だ。それをあの国は脈々とやっている。詳しくは国家機密だがな……まあ、竜の背中は諦めろ」
「そうね……」

 やっぱりそうですよね!
 そう簡単な話ではなく、ロウの指示に従った方が良さそうだ。

「竜の村は俺も気になっていた。閉鎖的な村で、ほぼ情報がない。しかし、隣の村からであれば、情報が得られるだろう。隣の村で情報集めしてから、竜の村へ行く、ということでいいか?」
「それでぜひお願いします」

 こうして、新たな二人旅、さらに妖精一匹の目的地が決まった。
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