勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里

文字の大きさ
上 下
56 / 98
第二部 極北の修道院編

56 堕ちた聖女の処遇

しおりを挟む
「ルイ。ロザリーに何か言うことはないのか?」

 手の拘束の解かれたロウが第一声に発したのは、第一王子が私にした一連のことだ。

 あのときは家でくつろいでいたのに、騎士団に捕まって散々な目にあった。第一王子はルールに忠実……融通の効かない性格だから、型にはめ込んでしまっただけだと思うけれど。それが非常に良くなかった。

「すまない! 国の英雄を疑って申し訳なかった!」

 第一王子は膝に顔がくっつくくらい低く頭を下げた。話を促されてから謝罪の言葉があったのは、どうも誠意に欠ける。けれど、修道院への突撃で協力してもらったから、私はだいぶ目を瞑った。

「あ、別に不便してなかったから、気にしていないわ」
「許してくれるのか……?」
「修道院に着いてきてくれたから帳消し。謝るならロウに謝ってよね。私の名誉回復のために体を張って奔走してくれたんだから」

 第一王子は口をギュッとつぐんで納得できていない様子だ。

「クッ……奴に謝るのは癪だ……」
「そんなこと言ってられるのかしらね」

 私が呆れると、第一王子は思うことがあったのかロウに向き直った。

「ロウ、すまなかった」
「謝罪する気持ちがあるのなら、一方的に俺を嫌うのはやめてくれないか」
「……俺に嫌われることをしたくせに、まったく覚えていないのか?」

 どうやら第一王子に嫌われる原因を作ったのはロウに原因があるらしい。しかし、ロウにしてみれば、それはどこ吹く風のようで……。

「は? 俺が? まったく覚えていない。一体何があったのか教えてくれよ」
「……覚えていない、だと? それは自分で思い出せ。俺からは言わない」

 よほど恨みがあるのか、第一王子は教えてくれなかった。昔は仲良かったのに、毛嫌いするくらいに目の敵にする理由を。素直に言ってあげればいいのにね。

「あああああ! わ、私の手が……」

 急にソニアの叫び声が上がった。緩んだ空気が、一瞬にして吹き飛んだ。

 何事!? 私はソニアに視線を走らせると、敵が現れた訳ではなく、ひとまずホッとする。
 彼女は呆然と自分の手の甲を見つめた。

 しっとりとした手だったのに、骨張って細かい皺が入っていた。肌の水分が抜けて、まるで老婆の手になったようだ。
 手だけでなく、ソニアの顔にも異変が起こった。目が落ち窪んで皺だらけの顔になったのである。彼女は最悪な事態が起きていないか確認するように、ペタペタと自分の頬を触った。

 ソニアの体はボロボロだった。ネアちゃんが修道女をほぼ全員操り、極限まで能力を使い込んでいたため、魔法の反動が来たのだ。おそらく、ソニアの寿命を対価にしていたのだろう。

「私の美しい顔が――」

 ソニアはショックを受けて言葉を詰まらせた。自分の身に何が起こったのか理解したのだろう。

「ロザリー! 私を元の姿に戻して!」

 しわがれた声で、私に近づいてきて懇願してきた。だが、できないものはできない。
 寿命を延ばす黒魔術にでも手を出さなければ、それは不可能だ。その黒魔術は禁忌とされて、使うことはできない。
 私は静かに首を振った。

「ソニアは以前に魔獣との契約をしてしまったはずよ。魔獣が死んでも契約は有効となる。それはソニアも知っているはずよね。どうしても元には戻せないの」
「そ、そんなああああああ!」

 ソニアは叫んだ。叫び切ると目元が垂れ下がって、さらに老け込んだ。
 魔獣はソニアの寿命の残量を把握しながら体を操っていたようだ。本当にタチの悪い魔獣だった。

 ソニアは体を丸くして地面にへたり込む。私の回復魔法が効かないとわかると、懇願するのを諦めたようだ。
 取り返しのつかないことをした結果、もう手遅れだ。数ヶ月程の短い寿命を大切に生きるしかない。

 ああ、本当に、ソニアには私と関係のない世界のどこかで幸せになってほしかった。

 悲しみに暮れるソニアを見かねたロウは口を開いた。

「見た目を若返らせる魔道具があるが、使ってみるか?」

 ソニアの濁った瞳に一筋の光が差した。

「見た目を若返らせる……」
「変わるのは見た目だけで、声や体力は衰えたままになるだろうが……それでも使ってみるか?」

 万能な魔道具ではないが、せめてもの気休めになるだろうとロウは言った。
 ソニアは嗚咽を漏らし、ポロポロと涙を流した。

「それだけでいいんです。大魔法使いさまのご厚意に感謝します……。結局、私が一番大事だったのは自分の美しさだったのよ。笑われても仕方がないわ……」

「そう思っても別にいいんじゃないか? 美しさを求める人もいる。俺は笑ったりはしない」

 自嘲してソニアに、ロウはケロッとして言った。
 皺だらけの顔なのに、ソニアは少女のように頬を赤く染める。ロウのカッコ良さに気づいてしまったようだ。

「あ、ありがとうございます……」
「特に大したことはしていない」

 無闇にファンを増やさないでほしい。人たらしのロウなんだから!


 その後のソニアの処遇は、王城の地下施設に終身刑となった。
 魔獣をその身に宿した罪は極刑が適用されるはずだが、魔獣がいなければ犯行に及ばなかったことが大いに考慮された。寿命が残り少ないことも刑の緩和の後押しされた。

 そして、ソニアは牢屋の中で穏やかに死期を迎えたらしい。棺に魔道具と共に埋葬された亡骸も若く美しい姿で……。それだけが、唯一の救いだった。



 と、それからの私は、無事名誉回復されて……。復活した魔獣の二度目の国家の危機を救った英雄として語り伝えられるほどになった。その中で英雄ロザリーの凱旋パレードが計画されたようだけど、丁重に断った。

 顔が広く知れ渡ると、ソロ冒険者の旅に支障が出るからね!

 ソロ冒険者がメインで、影の英雄でいいんだ、私は。
 ロウと同じように、表舞台で派手に過ごすよりは慎ましく生きる方が性格に合っているから。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...