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第二部 極北の修道院編
54 黒幕の弱点に気づく
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第一王子が先手必勝とばかりに駆けて行って、剣を振りかぶった。
ところが、ネアちゃんは剣筋が見えるのか、軽い足のステップで攻撃を避けた。
それに続く修道院長は、隠し持っていた神官の武器であるメイスで打撃攻撃をした。これもクルッと回るだけで避けられてしまう。嘲笑ってくる余裕さえ見えた。
この二人と私で上級の魔物討伐のパーティを組めるくらい十分に強いはずだが、肝心な攻撃が当たらない。
「フン! 生ぬるい攻撃だな。我は軽く避けているだけだ。このままではお前たちが魔力切れしたところに、我がトドメを指すことになるだろう。……お前たちに良いことを教えてやろう。我には物理攻撃が効かぬ。なにしろ最強の魔獣だからな」
物理攻撃が効かないと言えば、私たちが絶望感から戦意喪失すると踏んだらしい。ネアちゃんはわざわざそれを教えてくれた。実際のところも事実なのだろう。
でも、その手には乗らないわ! 鎖に繋がれて身動きのできないロウに危害があっては困るから、足止めをするためにも攻撃はしないとね。
「シャインアロウ!」
私の手から光の矢が放たれる。
ところが、地面に矢が突き刺さるだけで、攻撃を避けられてしまった。やはり、闇雲に攻撃するのは効果がない。
でも、最強の魔獣とはいえ、何かしらの弱点があるはずだ。
きっと勝機はある。
ネアちゃんの邪悪な気が辺りに漂っているから、浄化の魔法をかけながら戦っていた。そうしないと、息を吸うだけでも苦しいから。
戦いの様子を俯瞰して見る癖も、勇者パーティで体得した。
そのおかげで、私はネアちゃんの弱点に気づいてしまった。
戦いの最中にやけに右手を庇っていたのだ。まるで、浄化魔法からその右手を守るように。
それはソニアがジャラジャラと付けていた魔道具の一つの指輪。修道女になっても、指輪だけは外せなかったらしい。今は魔道具としては機能していないが……。
もしかして、魔獣の核となるものが、指輪に宿っているのでは……?
「……私、ネアちゃんの弱点が分かったわ!」
「何を言うか! 我に弱点などない!」
私のハッタリに、ネアちゃんは強気にそう言い張ってくる。それは本当かしらね?
「さっき、ネアちゃんが『物理攻撃は効かない』とご丁寧に教えてくれたじゃない。それじゃあ、物理攻撃でなきゃ効くものもあるんでしょ? ……例えば、浄化魔法とか」
最後の言葉をゆっくりと言って様子を窺う。
ネアちゃんは一瞬だけど、ギョッと目を見開いた。ヤバいって顔だね。あ、わかりやす!
すぐに澄まし顔に戻ったけれど、決定的瞬間はしっかりと見た!
「……さすが、ロザリーだな」
牢屋の中で、戦いの様子を見ていたロウがそう言ってくれた。
彼も私と同じことに気づいたようだ。
『さすがご主人さまです!』
妖精リアは喜んで周囲を旋回して飛ぶ。
「ソニアの自慢の指輪、どす黒くなっているわ。私が綺麗に汚れを取ってあげるわね」
そう言って、私がニッコリと笑いかけると、ネアちゃんはサッと左手で指輪を隠した。
「待て! 我に構うな!」
慌てる様子に、ははーん。さては図星ね。私はさらにニヤリと笑った。
「待てと言われて、素直に待つはずないでしょ? 浄化魔法――ホワイト・ピュリフィケーション!」
私はソニアの指輪に向けて、容赦無く浄化魔法を放った。
見事に命中。指輪の宝石部分にピシッと亀裂が入る。粉砕まではいかなかったが、ネアちゃんから発される邪気の量が少し減った。効果あり。やはり、指輪が弱点のようだ。
「動くでない! この娘の体がどうなっても知らぬぞ!」
短剣の先を自身のソニアの首元に向けたのだ。不利を悟ったネアちゃんがソニアを囮にして、脅して来た。
私たちは動きを止める。下手に動いたら、ソニアの首が斬られて死んでしまう。
ネアちゃんはソニアの体を使っているだけで、彼女自身がどうなろうと知ったこっちゃないのだろう。
「この体が死ねば、また新しい宿主を見つけて蘇る。この体は色々と都合が良かったが、我は大して困りはせぬ」
「そうはさせないわ!」
これ以上、野放しにはできない。次の犠牲者が出る前に必ず捕まえる。これでけりを付けなくては。
どうする? 大ピンチをどうやって切り抜ける?
一瞬で深く考えた私が導き出した答えは……。
「ソニア。あなたの聖女の力はなくなったわ。だけど心まで魔獣に渡すつもり?」
その瞬間、ネアちゃんは顔を歪めた。
短剣を持つ手には、細かい震えが走っている。
「耳を貸すな! あの女の言うことなど聞かなくていい」
おや。ということは。物理攻撃だけではなく、説得すればソニアを引きずり出せる?
短剣の位置は首元のまま変わらなかったが、どこからか短剣を下ろす力に反発していた。
どうやら、ネアちゃんとソニアの意志が葛藤しているようだ。
「ソニアがどうなろうが知ったこっちゃないけれど、ここまで落ちぶれているのを見せつけられるのは不快だわ」
「う、うるさい!」
内なるソニアに向けて叫んだ。
「帰って来なさい、ソニア!」
ところが、ネアちゃんは剣筋が見えるのか、軽い足のステップで攻撃を避けた。
それに続く修道院長は、隠し持っていた神官の武器であるメイスで打撃攻撃をした。これもクルッと回るだけで避けられてしまう。嘲笑ってくる余裕さえ見えた。
この二人と私で上級の魔物討伐のパーティを組めるくらい十分に強いはずだが、肝心な攻撃が当たらない。
「フン! 生ぬるい攻撃だな。我は軽く避けているだけだ。このままではお前たちが魔力切れしたところに、我がトドメを指すことになるだろう。……お前たちに良いことを教えてやろう。我には物理攻撃が効かぬ。なにしろ最強の魔獣だからな」
物理攻撃が効かないと言えば、私たちが絶望感から戦意喪失すると踏んだらしい。ネアちゃんはわざわざそれを教えてくれた。実際のところも事実なのだろう。
でも、その手には乗らないわ! 鎖に繋がれて身動きのできないロウに危害があっては困るから、足止めをするためにも攻撃はしないとね。
「シャインアロウ!」
私の手から光の矢が放たれる。
ところが、地面に矢が突き刺さるだけで、攻撃を避けられてしまった。やはり、闇雲に攻撃するのは効果がない。
でも、最強の魔獣とはいえ、何かしらの弱点があるはずだ。
きっと勝機はある。
ネアちゃんの邪悪な気が辺りに漂っているから、浄化の魔法をかけながら戦っていた。そうしないと、息を吸うだけでも苦しいから。
戦いの様子を俯瞰して見る癖も、勇者パーティで体得した。
そのおかげで、私はネアちゃんの弱点に気づいてしまった。
戦いの最中にやけに右手を庇っていたのだ。まるで、浄化魔法からその右手を守るように。
それはソニアがジャラジャラと付けていた魔道具の一つの指輪。修道女になっても、指輪だけは外せなかったらしい。今は魔道具としては機能していないが……。
もしかして、魔獣の核となるものが、指輪に宿っているのでは……?
「……私、ネアちゃんの弱点が分かったわ!」
「何を言うか! 我に弱点などない!」
私のハッタリに、ネアちゃんは強気にそう言い張ってくる。それは本当かしらね?
「さっき、ネアちゃんが『物理攻撃は効かない』とご丁寧に教えてくれたじゃない。それじゃあ、物理攻撃でなきゃ効くものもあるんでしょ? ……例えば、浄化魔法とか」
最後の言葉をゆっくりと言って様子を窺う。
ネアちゃんは一瞬だけど、ギョッと目を見開いた。ヤバいって顔だね。あ、わかりやす!
すぐに澄まし顔に戻ったけれど、決定的瞬間はしっかりと見た!
「……さすが、ロザリーだな」
牢屋の中で、戦いの様子を見ていたロウがそう言ってくれた。
彼も私と同じことに気づいたようだ。
『さすがご主人さまです!』
妖精リアは喜んで周囲を旋回して飛ぶ。
「ソニアの自慢の指輪、どす黒くなっているわ。私が綺麗に汚れを取ってあげるわね」
そう言って、私がニッコリと笑いかけると、ネアちゃんはサッと左手で指輪を隠した。
「待て! 我に構うな!」
慌てる様子に、ははーん。さては図星ね。私はさらにニヤリと笑った。
「待てと言われて、素直に待つはずないでしょ? 浄化魔法――ホワイト・ピュリフィケーション!」
私はソニアの指輪に向けて、容赦無く浄化魔法を放った。
見事に命中。指輪の宝石部分にピシッと亀裂が入る。粉砕まではいかなかったが、ネアちゃんから発される邪気の量が少し減った。効果あり。やはり、指輪が弱点のようだ。
「動くでない! この娘の体がどうなっても知らぬぞ!」
短剣の先を自身のソニアの首元に向けたのだ。不利を悟ったネアちゃんがソニアを囮にして、脅して来た。
私たちは動きを止める。下手に動いたら、ソニアの首が斬られて死んでしまう。
ネアちゃんはソニアの体を使っているだけで、彼女自身がどうなろうと知ったこっちゃないのだろう。
「この体が死ねば、また新しい宿主を見つけて蘇る。この体は色々と都合が良かったが、我は大して困りはせぬ」
「そうはさせないわ!」
これ以上、野放しにはできない。次の犠牲者が出る前に必ず捕まえる。これでけりを付けなくては。
どうする? 大ピンチをどうやって切り抜ける?
一瞬で深く考えた私が導き出した答えは……。
「ソニア。あなたの聖女の力はなくなったわ。だけど心まで魔獣に渡すつもり?」
その瞬間、ネアちゃんは顔を歪めた。
短剣を持つ手には、細かい震えが走っている。
「耳を貸すな! あの女の言うことなど聞かなくていい」
おや。ということは。物理攻撃だけではなく、説得すればソニアを引きずり出せる?
短剣の位置は首元のまま変わらなかったが、どこからか短剣を下ろす力に反発していた。
どうやら、ネアちゃんとソニアの意志が葛藤しているようだ。
「ソニアがどうなろうが知ったこっちゃないけれど、ここまで落ちぶれているのを見せつけられるのは不快だわ」
「う、うるさい!」
内なるソニアに向けて叫んだ。
「帰って来なさい、ソニア!」
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