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第一部 勇者パーティ追放編

19 大魔法使いさま、正装で式典に出席する

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 式典の会場である野外ホールは人で賑わっていた。
 会場に行く途中の道には屋台の出店があって、軽食を売っていたり花を売っていたり、まるでお祭りのようだ。実際のところお祭りだけどね。
 妖精のリアは家でお留守番。人が多いところは好きじゃないんだって。

 ロウからもらったチケットには「1-7」と書かれていた。
 もしかして、最前列!?
 椅子の裏を見れば、番号が振られていて予感は的中した。

 やったー! 最前列だ! ロウってば、最前列のチケットを譲ってくれるなんてやるじゃん!
 ステージが近くて嬉しい。私はドキドキしながら着席した。
 後ろをみると、座席は全部埋まりつつあった。場内にアナウンスが入る。

「みなさま、マグナルツォ王国の百周年記念式典にお越しくださり、誠にありがとうございます。まもなく開始の時間になります」

 魔道具から吹き込まれた声が拡散されると、ざわめき声が止んだ。
 人々の視線は一気にステージに注目が集まる。アナウンスしていた進行役の女性は慣れた様子でステージ脇を手で指し示した。

「来賓の入場です。みなさま拍手でお迎えください」

 大魔法使いさまの登場だ。やっとお目にかかれる。
 私は期待を込めて大きく手を叩いた。

 周辺国の要人、国内貴族の代表者と続いていき、現在の勇者パーティが現れた。
 とは言っても、観客の中で現在の勇者パーティだと気づいたのは私ぐらいだろう。功績を上げれば知れ渡っていくが、伝説の勇者パーティに比べれば大した実績がないからだ。観客にしてみれば彼らは王侯貴族の一員とでも思われているのだろう。

 私も元勇者パーティのメンバーだけど、会場に入っても誰からも気づかれる様子はない。ま、別に構わないけどね。
 と、聖女のソニアと目が合った。私が観客席にいると気づいたようだ。けれど、不意に視線を外される。

 あれ? いつもなら、「何見てるのよ!」と言わんばかりのガンを飛ばしてくるのに、元気がないな。彼女は澄まし顔で席に座った。印象が悪いのは通常運転のようだ。うん。私の気のせいかな?
 ……あれ? フィアルがいない?

 現れたのは、勇者のアーサー、聖女のソニア、女剣士のネイヴァの三人だけ。一人足りない。
 体調でも崩して今日は出席してないだけかな。

 小さな違和感たちをそう軽く考えて、次に現れるであろう大物を待ち構えた。
 あ! 伝説の勇者パーティが来た! 現れた瞬間に周りから声援が上がる。

「大魔法使いさま、万歳!」
「きゃあ、大魔法使いさまよ!」
「伝説の勇者パーティを揃って見られるのは、これ以上の幸せはない!」

 他の人たちが私の気持ちを代弁してくれている。会場の人々の期待も大魔法使いさまにあったようで、興奮が高まっていく。

 大魔法使いさまは声援に応えて手を振ってくれた。私は感動でため息が出る。
 カッコいい! やっと貴方に会えた! 五年前に助けてもらった、あの大魔法使いさまがいる!

 正装の漆黒のローブを纏い、その下に黒いスーツと黒いシャツを着ている。全身黒い衣装だったけれど、彼の金髪が映えて服選びのセンスを感じられた。
 聖女になるための修行をしていれば、大魔法使いさまに会う機会があるかもしれない……と思っていたけれど、修行は厳しく神殿で缶詰になって勇者パーティの引退セレモニーにも行けなかった。ようやく念願叶ってこの場にいる。

 私は胸の高鳴りを抑えられない。だって、同じ空間に大魔法使いさまがいる。これ以上の幸せはある?

 大魔法使いさまの隣には、同じく伝説の勇者パーティ出身の現在はギルド副長のアルマさま。二人が言葉を交わされる様子は、尊いものを見たような気持ちになった。

 さらに伝説の勇者こと第二王子のレオンさまとのご歓談で、大魔法使いさまの理知的な緑色の瞳は優しげに細められる。レオンさまが安心して背中を預けられるのは大魔法使いさまだけだと言っていたけれど、他のメンバーも納得したって。嫉妬したり、足の引っ張り合いをしないチームだからこそ伝説の勇者パーティと言われるゆえんなのかな。

 私は大魔法使いさまの一挙一動を目を皿のようにして見ていた。私の熱い視線に気づいたのか、大魔法使いさまがこちらを向いた。

 え? 目が合った……!?
 もしかして、五年前に助けた子だって覚えてくれてる? いやいや、そんなことはない。だいぶ前のことだし、大魔法使いさまにしてみれば、数々の救ってきた人々の一人に過ぎない。

 視線があったのは一瞬だけで、大魔法使いさまは伝説の勇者パーティのメンバーとの歓談に戻られた。
 ほら、気のせいだったじゃない。
 悲しいような、少しホッとしたような。第一、このピアスを渡せたとしても、大勢からの贈り物の一つに過ぎないだろうし。

「国王陛下より開会の言葉をお願いします」

 司会からのアナウンスで、話し声は止んだ。国王さまがお出ましになると、ピリと引き締まった雰囲気になる。
 国王陛下が開会の言葉を話されている間も、私は大魔法使いさまを見ていた。国王陛下の言葉に耳を傾けられる横顔もカッコいいなぁ。

「……では、マグナルツォ王国の繁栄を祈って拍手!」

 国王陛下が挨拶を締めくくると、大きな拍手が鳴り響いた。
 そして、隣国の王族からも祝辞が述べられ、少年少女合唱団によるお祝いの歌が贈られた。
 大魔法使いさまを見ていたら時間はあっという間で、式典は終盤に差し掛かった。
 閉会の言葉が終わると、来賓が退場を始めた。

「大魔法使いさま、受け取ってください!」

 幼い女の子が母親と一緒に小さな花を握り締めてステージ元まで駆けてくる。

「素敵なレディ。ありがとう」

 大魔法使いさまは受け取った花を胸ポケットに差した。幼い女の子は受け取ってもらえた嬉しさに頬を赤らめている。

 よーし、私も!
 椅子から腰を上げようとしたら、人の大群が押し寄せてきた。
 あっという間に道を塞がれる。

「大魔法使いさま、助けてもらったお礼です! 受け取って!」
「私も! 私も!」

 考えることは皆一緒で贈り物を持った人ばかりだ。
 負けずに私も群れの中に突撃しようとしたら、おばさまの力に弾かれた。
 若い女性を筆頭におばさままで、女性人気が半端ない。

 だ、だめだぁ……。近づけない。
 まさか他の人に圧倒されて、ピアスを渡せないとは。
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