14 / 98
第一部 勇者パーティ追放編
14 その頃の勇者パーティは④
しおりを挟む
いくらなんでもこのタイミングでフィアルが辞めるとか冗談でしょう?
私は呆れて開いた口が塞がらない。
「フィアル! 無責任なことを言わないでちょうだい! 今は任務進行中なのよ、せめてこのダンジョンから帰ってから……」
必死に説得しようとしたら、フィアルから冷ややかな瞳で一瞥された。
「リーダーがこんな状態になって、任務進行中と言えますか? 異常事態ですよ」
「そう……だから一度出直して、アーサーさまに匹敵するくらいの剣士を仲間に入れて、再度迷宮ダンジョンの任務をしましょう?」
考え直してほしい一心で、再度説得を試みる。
しかし、フィアルの心には響かなかったようだ。
「リーダーもいらなくなったら捨てるのですか? ロザリーみたいに?」
ロザリーの名前を出されて、私は「うっ」と推し黙る。
フィアルは怯んだ私を見逃さなかった。
「変な理由をつけてロザリーを追い出したことも気に食わなかったんですよね。ま、僕も辞めようと思っていたんで見逃してあげましたけど」
フィアルが初めて反抗した。
もしかして。ロザリーの脱退を賛同してくれたんじゃなくて、フィアルも辞めようとしてたから何も言わなかったってこと?
「僕は敬愛するロザリーがいなくなったパーティに興味はないんで。じゃあ」
キッパリと衝撃の事実を言い放ったフィアルは、バイバイと手を振ると迷宮ダンジョンから去った。
フィアルがいなくなったパーティはさらに混沌とした。
棒付きキャンディを舐めたまま、どこに連れて行ってもらえるのかとワクワクした顔のアーサーさま。
口喧嘩してから、視線さえ合わせないネイヴァと私。
「魔物討伐を続けるのは無理だわ。迷宮ダンジョンの入り口に戻りましょう」
「……そうだな」
同じことを考えていたのだろう、ネイヴァは素直に同意してくれた。
――勇者の精神が蓋をしていることに悩んでいるようだな。
急に地の底に響くような声が頭の中に響いてきた。上位の魔物の中には脳に直接語りかけることができる個体がいるらしいことは知っていたけど。
(そうです。あなたにはわかるのですか!?)
今最大の悩みに共感してくれたことが嬉しくて、つい反応を返してしまった。
気づいたときには、魔物の術中にハマっていた。
――ああ。精神の蓋を取り除くのは人間には不可能だろう。だが、我なら治すことができる。
本能的に怪しいと感じたが、魔物の提案が魅力的すぎて抗うことができなかった。
(それなら……アーサーさまを治してください。お願いします)
――我には可能だ。だが、タダじゃあ治せないな。
声の主がニタァと笑ったような気がした。
やはり、願いを叶えるために魔物と取引をするには代償が必要。
(……どうすればよろしいでしょうか)
――我の封印を解くのだ。
そんな簡単なことでいいのか。と、思ってしまった私は魔物の思う壺だった。
せめてフィアルがいたならば、鋭く察知して、これからすることを止めてくれたかもしれない。しかし彼はいない。
ダンジョンの入り口へと戻っていたはずの私が足を止めて、クルッと方向転換したのを見たネイヴァは声を上げる。
「……ちょっとソニア、どこへ行くんだ!」
「やらなくてはいけないことができたの」
「お、おい! 急にどうした!」
私を一人にしておけないと思ったのだろう。もしくはアーサーさまと二人で取り残されたくなかったのだろうか。ネイヴァはアーサーさまを連れて私の後ろをついてくる。
魔物の導きで、行き止まりの道に来た。石の壁には古びた剣が突き刺さっている。
――剣を抜くのだ。
(わかりました)
剣を抜けばこの魔物の封印が解けるのだろう。
「なんだよ、これは……」
ネイヴァの驚きの声を無視して、壁に突き刺された剣を抜いた。聖女の力に反応したのか、案外軽くズズズと音をさせながら抜ける。
パアアアッ!
辺りが光った。眩しくて目を細める。
封印を解いて発生した青白い光で、壁だと思っていたのが魔物の尾だとわかった。その魔物の尾は、砂煙を上げながらゆっくりと動く。
――封印が解けたようだな。お前の約束を果たそう。
皮膚は石の鱗、人の二倍の高さのある大きなトカゲのような図体で、首をもたげ、大きな赤い目にギョロリと見つめられてギクリとした。
「……ネアトリアンダー」
ネイヴァは呆然と、伝説の勇者パーティが封印した魔物の名を呟いた。
私、なんて罰当たりなことを……。
アーサーさまが青白い光に包まれて、目を開いた。
懐かしい理知的な瞳だった。
「ソニア、助けてくれて感謝する」
「アーサーさま……」
やっと正気を取り戻したアーサーさまに会えたことが嬉しくて、涙がポロリと流れた。
(こんなにすんなりと伝説の勇者パーティの封印が解けてしまっていいの!?)
戸惑って剣を握りしめた私の疑問に、魔物が親切にも答えてくれた。
――それは、封印されたときに細工をしたからだ。人間が触れば簡単に抜けるように。
(そうか。だからか……)
知恵の働く魔物だわ。自分で封印を解いたというのに恐ろしくなった。
魔物を封印した大魔法使い、さらには王都に最悪をもたらすだろう。
でも、封印を解かなければアーサーさまを救えなかったわけで……。
ごめんなさい。謝っても許してもらえないけど、ごめんなさい。
何が悪かったの? ロザリーを追放したのが元凶だったの?
後悔してもあの頃には戻れない。
私は呆れて開いた口が塞がらない。
「フィアル! 無責任なことを言わないでちょうだい! 今は任務進行中なのよ、せめてこのダンジョンから帰ってから……」
必死に説得しようとしたら、フィアルから冷ややかな瞳で一瞥された。
「リーダーがこんな状態になって、任務進行中と言えますか? 異常事態ですよ」
「そう……だから一度出直して、アーサーさまに匹敵するくらいの剣士を仲間に入れて、再度迷宮ダンジョンの任務をしましょう?」
考え直してほしい一心で、再度説得を試みる。
しかし、フィアルの心には響かなかったようだ。
「リーダーもいらなくなったら捨てるのですか? ロザリーみたいに?」
ロザリーの名前を出されて、私は「うっ」と推し黙る。
フィアルは怯んだ私を見逃さなかった。
「変な理由をつけてロザリーを追い出したことも気に食わなかったんですよね。ま、僕も辞めようと思っていたんで見逃してあげましたけど」
フィアルが初めて反抗した。
もしかして。ロザリーの脱退を賛同してくれたんじゃなくて、フィアルも辞めようとしてたから何も言わなかったってこと?
「僕は敬愛するロザリーがいなくなったパーティに興味はないんで。じゃあ」
キッパリと衝撃の事実を言い放ったフィアルは、バイバイと手を振ると迷宮ダンジョンから去った。
フィアルがいなくなったパーティはさらに混沌とした。
棒付きキャンディを舐めたまま、どこに連れて行ってもらえるのかとワクワクした顔のアーサーさま。
口喧嘩してから、視線さえ合わせないネイヴァと私。
「魔物討伐を続けるのは無理だわ。迷宮ダンジョンの入り口に戻りましょう」
「……そうだな」
同じことを考えていたのだろう、ネイヴァは素直に同意してくれた。
――勇者の精神が蓋をしていることに悩んでいるようだな。
急に地の底に響くような声が頭の中に響いてきた。上位の魔物の中には脳に直接語りかけることができる個体がいるらしいことは知っていたけど。
(そうです。あなたにはわかるのですか!?)
今最大の悩みに共感してくれたことが嬉しくて、つい反応を返してしまった。
気づいたときには、魔物の術中にハマっていた。
――ああ。精神の蓋を取り除くのは人間には不可能だろう。だが、我なら治すことができる。
本能的に怪しいと感じたが、魔物の提案が魅力的すぎて抗うことができなかった。
(それなら……アーサーさまを治してください。お願いします)
――我には可能だ。だが、タダじゃあ治せないな。
声の主がニタァと笑ったような気がした。
やはり、願いを叶えるために魔物と取引をするには代償が必要。
(……どうすればよろしいでしょうか)
――我の封印を解くのだ。
そんな簡単なことでいいのか。と、思ってしまった私は魔物の思う壺だった。
せめてフィアルがいたならば、鋭く察知して、これからすることを止めてくれたかもしれない。しかし彼はいない。
ダンジョンの入り口へと戻っていたはずの私が足を止めて、クルッと方向転換したのを見たネイヴァは声を上げる。
「……ちょっとソニア、どこへ行くんだ!」
「やらなくてはいけないことができたの」
「お、おい! 急にどうした!」
私を一人にしておけないと思ったのだろう。もしくはアーサーさまと二人で取り残されたくなかったのだろうか。ネイヴァはアーサーさまを連れて私の後ろをついてくる。
魔物の導きで、行き止まりの道に来た。石の壁には古びた剣が突き刺さっている。
――剣を抜くのだ。
(わかりました)
剣を抜けばこの魔物の封印が解けるのだろう。
「なんだよ、これは……」
ネイヴァの驚きの声を無視して、壁に突き刺された剣を抜いた。聖女の力に反応したのか、案外軽くズズズと音をさせながら抜ける。
パアアアッ!
辺りが光った。眩しくて目を細める。
封印を解いて発生した青白い光で、壁だと思っていたのが魔物の尾だとわかった。その魔物の尾は、砂煙を上げながらゆっくりと動く。
――封印が解けたようだな。お前の約束を果たそう。
皮膚は石の鱗、人の二倍の高さのある大きなトカゲのような図体で、首をもたげ、大きな赤い目にギョロリと見つめられてギクリとした。
「……ネアトリアンダー」
ネイヴァは呆然と、伝説の勇者パーティが封印した魔物の名を呟いた。
私、なんて罰当たりなことを……。
アーサーさまが青白い光に包まれて、目を開いた。
懐かしい理知的な瞳だった。
「ソニア、助けてくれて感謝する」
「アーサーさま……」
やっと正気を取り戻したアーサーさまに会えたことが嬉しくて、涙がポロリと流れた。
(こんなにすんなりと伝説の勇者パーティの封印が解けてしまっていいの!?)
戸惑って剣を握りしめた私の疑問に、魔物が親切にも答えてくれた。
――それは、封印されたときに細工をしたからだ。人間が触れば簡単に抜けるように。
(そうか。だからか……)
知恵の働く魔物だわ。自分で封印を解いたというのに恐ろしくなった。
魔物を封印した大魔法使い、さらには王都に最悪をもたらすだろう。
でも、封印を解かなければアーサーさまを救えなかったわけで……。
ごめんなさい。謝っても許してもらえないけど、ごめんなさい。
何が悪かったの? ロザリーを追放したのが元凶だったの?
後悔してもあの頃には戻れない。
39
お気に入りに追加
1,082
あなたにおすすめの小説

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる