18 / 21
第18話 七色に光る泉
しおりを挟む
「よく来てくれたね」
広間の入口から、ロマニオが現れた。網にかかった獲物を捕らえるようなギラギラとした顔をしている。
シヴァンは、鋭い目でロマニオを見た。
「やはり、お前だったんだな……」
「わかっていて、のこのことやってきたのか?」
挑発するように言われて、シヴァンはギリリと唇をかんだ。
ロマニオに笑いかけられたスレーは、警戒を深めて、腰に隠した薬の袋を、服の上から握りしめた。
「これはこれは……君が大魔法使いだったんだね」
スレーの方へ、じわりと歩み寄ってくる。
「そんな証拠がどこにある?」
弱みを見せないように強く言い切ったシヴァンだったが、ロマニオはそれを鼻で笑った。
「いいことを教えてあげよう。……この泉。いつもは水色だが、七色に光っているだろう。魔法使いのエネルギーに反応して色が変わるんだよ。噂には聞いていたが綺麗だな。七色は初めてだ」
「嘘を言うな。最初から七色だったんだろう」
シヴァンの突っぱねた様子を見て、ロマニオはニヤリと笑った。
「色の変化は、イーリスちゃんが見ているはずだ。どうだったかな?」
そう言われた瞬間、イーリスの紺色の瞳から光が消えた。
「……最初は緑色だったけど……二人が来てからは七色になったわ……」
イーリスはポツリポツリと話した。瞳に力がないのは、故意に言わされているようだ。
最初の緑色は、ロマニオの魔法エネルギーに反応した色だろうか。
「ほらね」
得意げに笑ったロマニオを見て、シヴァンは不満げに腕を組む。
「お前、イーリスを操っているんじゃないのか?」
「失敬な。僕には人を操る能力はないよ。あるとすれば、まぼろしを見せる能力と、本当のことを言わせる能力ぐらいかな」
種明かしをするように手のひらを見せた。
本当のことを言わせる能力。嘘がつけない。そんなことは異能を持つ人しかできない。魔法使いしか。
もしかして、とシヴァンは思い当たる。まぼろしを見せる能力を使って、イーリスをトンネルの外へ誘い出したのだろうか。
「答え合わせをしよう。『魔力を減らす薬』だ。これを使えば、すべてがわかる」
ロマニオが買ったのは若返りの薬だけ。もし、『魔力を減らす薬』がロマニオの手元にあるとするならば、どさくさにまぎれて盗んでいったに違いない。
瓶の中身は緑色の液体。本当に『魔力を減らす薬』のようだ。
「さあ、黒猫に戻るんだ」
「あっ!」
ロマニオは薬の瓶を開けると、スレーの頭から液体をかけた。
イーリスが棚から落とした薬屋と同じ薬。魔力が減ったら、スレーは人から黒猫になってしまう。
シュウシュウと白い煙が立って、スレーの姿が形を変える。
黒猫になった瞬間、着ていた服の上から跳ね出した。
ロマニオは、黒猫の行く手に立ちふさがった。
「逃がさないよ」
突然、強い風が吹く。
その風に髪や服が強く揺さぶられ、泉には波紋が浮かぶ。
風の発生源はロマニオが持つ鉄のカゴだった。
「うっ……!」
黒猫のスレーは苦しい声をあげる。踏ん張っているのに風圧に耐えられない。体重が軽いだけではなく、見えない力に引っ張られている。
スレーの足が地面を離れた。吹き飛ばされて、吸い込まれるようにカゴの中へ。
「捕まえたよ」
カゴを閉じて、鍵をかけた。中に入ったスレーが柵を前足で揺らしても、全く動かない。
「自分たちの販売している薬が、こんな使われ方をされるは思いもしなかっただろう?」
ロマニオはカゴを手にしたままニヤリと笑った。
「そして、このカゴ。特殊なカゴでね。一度捕らえたら、二度と開けることができない。ずっと黒猫のまま過ごすことになる。もし、魔力が戻って黒猫から人に姿を変えようものなら、カゴに身を裂かれて死んでしまうだろうね」
絶体絶命のピンチだ。イーリスは捕まったままで、スレーも黒猫に姿を変えられた上に捕まってしまった。動けるのはシヴァンしかいない。
腰に下げた剣に手を添えたシヴァンだったが、ロマニオはすぐに言い放った。
「すぐに剣を床に置いて。人質に怪我をしてほしくなければね」
言うとおりにするしかない。シヴァンはゆっくりと剣を置いた。
にらみあいは続く。このままだと、シヴァンも捕まってしまう。
「侵入者を捕まえろ!」
守衛官数人を引き連れて現れたのは、第二王子だった。金髪に碧眼、ヒラヒラした白襟に紺色のズボンで、まさに王子の服装をしている。
さらに状況は悪い。
長いやりを持った守衛官たちが、シヴァンを神殿のすみに追い詰めた。
「ぐっ」
抵抗できずに後ろ手に縄をかけられて、床にどさりと投げられた。シヴァンは痛みで顔を歪ませる。
「綺麗な顔のお兄さん。お姫さまを救出できなくて残念だったね」
絶世の美女と呼ばれる王妃から生まれて、その容姿を色濃く受け継いだ王子だったが、その笑い方はみにくい。
広間の入口から、ロマニオが現れた。網にかかった獲物を捕らえるようなギラギラとした顔をしている。
シヴァンは、鋭い目でロマニオを見た。
「やはり、お前だったんだな……」
「わかっていて、のこのことやってきたのか?」
挑発するように言われて、シヴァンはギリリと唇をかんだ。
ロマニオに笑いかけられたスレーは、警戒を深めて、腰に隠した薬の袋を、服の上から握りしめた。
「これはこれは……君が大魔法使いだったんだね」
スレーの方へ、じわりと歩み寄ってくる。
「そんな証拠がどこにある?」
弱みを見せないように強く言い切ったシヴァンだったが、ロマニオはそれを鼻で笑った。
「いいことを教えてあげよう。……この泉。いつもは水色だが、七色に光っているだろう。魔法使いのエネルギーに反応して色が変わるんだよ。噂には聞いていたが綺麗だな。七色は初めてだ」
「嘘を言うな。最初から七色だったんだろう」
シヴァンの突っぱねた様子を見て、ロマニオはニヤリと笑った。
「色の変化は、イーリスちゃんが見ているはずだ。どうだったかな?」
そう言われた瞬間、イーリスの紺色の瞳から光が消えた。
「……最初は緑色だったけど……二人が来てからは七色になったわ……」
イーリスはポツリポツリと話した。瞳に力がないのは、故意に言わされているようだ。
最初の緑色は、ロマニオの魔法エネルギーに反応した色だろうか。
「ほらね」
得意げに笑ったロマニオを見て、シヴァンは不満げに腕を組む。
「お前、イーリスを操っているんじゃないのか?」
「失敬な。僕には人を操る能力はないよ。あるとすれば、まぼろしを見せる能力と、本当のことを言わせる能力ぐらいかな」
種明かしをするように手のひらを見せた。
本当のことを言わせる能力。嘘がつけない。そんなことは異能を持つ人しかできない。魔法使いしか。
もしかして、とシヴァンは思い当たる。まぼろしを見せる能力を使って、イーリスをトンネルの外へ誘い出したのだろうか。
「答え合わせをしよう。『魔力を減らす薬』だ。これを使えば、すべてがわかる」
ロマニオが買ったのは若返りの薬だけ。もし、『魔力を減らす薬』がロマニオの手元にあるとするならば、どさくさにまぎれて盗んでいったに違いない。
瓶の中身は緑色の液体。本当に『魔力を減らす薬』のようだ。
「さあ、黒猫に戻るんだ」
「あっ!」
ロマニオは薬の瓶を開けると、スレーの頭から液体をかけた。
イーリスが棚から落とした薬屋と同じ薬。魔力が減ったら、スレーは人から黒猫になってしまう。
シュウシュウと白い煙が立って、スレーの姿が形を変える。
黒猫になった瞬間、着ていた服の上から跳ね出した。
ロマニオは、黒猫の行く手に立ちふさがった。
「逃がさないよ」
突然、強い風が吹く。
その風に髪や服が強く揺さぶられ、泉には波紋が浮かぶ。
風の発生源はロマニオが持つ鉄のカゴだった。
「うっ……!」
黒猫のスレーは苦しい声をあげる。踏ん張っているのに風圧に耐えられない。体重が軽いだけではなく、見えない力に引っ張られている。
スレーの足が地面を離れた。吹き飛ばされて、吸い込まれるようにカゴの中へ。
「捕まえたよ」
カゴを閉じて、鍵をかけた。中に入ったスレーが柵を前足で揺らしても、全く動かない。
「自分たちの販売している薬が、こんな使われ方をされるは思いもしなかっただろう?」
ロマニオはカゴを手にしたままニヤリと笑った。
「そして、このカゴ。特殊なカゴでね。一度捕らえたら、二度と開けることができない。ずっと黒猫のまま過ごすことになる。もし、魔力が戻って黒猫から人に姿を変えようものなら、カゴに身を裂かれて死んでしまうだろうね」
絶体絶命のピンチだ。イーリスは捕まったままで、スレーも黒猫に姿を変えられた上に捕まってしまった。動けるのはシヴァンしかいない。
腰に下げた剣に手を添えたシヴァンだったが、ロマニオはすぐに言い放った。
「すぐに剣を床に置いて。人質に怪我をしてほしくなければね」
言うとおりにするしかない。シヴァンはゆっくりと剣を置いた。
にらみあいは続く。このままだと、シヴァンも捕まってしまう。
「侵入者を捕まえろ!」
守衛官数人を引き連れて現れたのは、第二王子だった。金髪に碧眼、ヒラヒラした白襟に紺色のズボンで、まさに王子の服装をしている。
さらに状況は悪い。
長いやりを持った守衛官たちが、シヴァンを神殿のすみに追い詰めた。
「ぐっ」
抵抗できずに後ろ手に縄をかけられて、床にどさりと投げられた。シヴァンは痛みで顔を歪ませる。
「綺麗な顔のお兄さん。お姫さまを救出できなくて残念だったね」
絶世の美女と呼ばれる王妃から生まれて、その容姿を色濃く受け継いだ王子だったが、その笑い方はみにくい。
8
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

ぬらりひょんと私
四宮 あか
児童書・童話
私の部屋で私の漫画を私より先に読んでいるやつがいた。
俺こういうものです。
差し出されたタブレットに開かれていたのはwiki……
自己紹介、タブレットでwiki開くの?
私の部屋でくつろいでる変な奴は妖怪ぬらりひょんだったのだ。
ぬらりひょんの術を破った私は大変なことに巻き込まれた……
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
【完結】緑の奇跡 赤の輝石
黄永るり
児童書・童話
15歳の少女クティーは、毎日カレーとナンを作りながら、ドラヴィダ王国の外れにある町の宿で、住み込みで働いていた。
ある日、宿のお客となった少年シャストラと青年グラハの部屋に呼び出されて、一緒に隣国ダルシャナの王都へ行かないかと持ちかけられる。
戸惑うクティーだったが、結局は自由を求めて二人とダルシャナの王都まで旅にでることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる