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11 ジャガイモの皮を包丁で剥く、の巻②
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作り置きしたコールスローサラダを冷蔵庫から取り出すと、残り一食分の量だった。
(作り置きがあれば、明日が安心だよね)
追加分を作ろうと、野菜と包丁を用意する。
いざ、野菜を切ろうとしたところで、心の中でストップがかかった。
(手が動かない。……包丁が、怖い)
どうしても包丁で手を切ったことを鮮明に思い出してしまう。
指の傷はもう治った。だけど、踏ん切りがつかない。
(包丁を使う気になれないなら、無理をせずに違うことをするに限る)
キッチンを離れてリビングへ。
ソファーの上は本来なら人の座る場所なのに、乾き終わった洗濯物の定位置になっている。
洗濯物を上に重ねるようにどかして、一人分の座るスペースを確保する。
手持ち無沙汰になって、慣れない洗濯物畳みをすることにした。
目に付いた手前の洗濯物をから畳み始める。
(包丁が怖いと、素直に福留くんに話してもいいのかもしれない)
料理はできないことの連続。
今までは福留くんのアドバイスで何とか乗り越えてきた。
でも、包丁を握れないことには料理は始まらない。
(相談すれば、包丁を使わなくても作れる料理があるかもしれない。そうだ。それでいい)
畳んで積み上がった洗濯物を満足げに見た。
福留くんの料理講座は明日に迫っている。
「……福留くん、これは何!?」
カフェ&レストランに着いた時の私の第一声は、悲鳴に近かった。
テーブルの上には、大量のジャガイモ。
しかも「どのくらい放っていたの!?」と聞きたくなるくらい芽が伸びている。
長い芽で三センチ程度。どこかグロテスクで直視できない。
「何って、ジャガイモですよ」
福留くんは冷静に返してくる。
そうじゃなくて……! これをどうするのかって聞きたかったの!
ジャガイモくらい見ればわかるわ、とツッコミをしたくなった。
「……ジャガイモをどうするの?」
「芽が出ていたって、ちゃんと取り除けば食べることができるのですよ。さぁ、ジャガイモの皮剥きを始めましょうか」
包丁とまな板をセットして、早速料理講座を始めようとしている。
「待って。包丁が怖くなったって話をしたよね?」
事前に福留くんに連絡をしていた。包丁が使えないかもしれないから、できれば包丁を使わない料理が良いと。
「苦手を克服しようとするなら、数をこなさないとできるようになりませんよ」
真っ当なことを涼しげな顔で言ってくる。優しいはずの福留くんが意地悪をしてきたように見えた。
「それはそうなんだけど! やりたくてもできないことってあるじゃない」
「……今度こそは指を切らないように、皮剥きができるようにさせてみせます」
福留くんは料理のことになると頑固になる。
(あぁもう。熱意に負けた)
「……やってみる」
「ありがとうございます」
嬉しそうな福留くんを見ると、もう何も言えなくなった。
「包丁の進行方向に指があったら、すぐに指を逃がすことを考えてください」
ジャガイモを手に持ち、福留くんに教えてもらいながら包丁を動かす。
「指に近づいてきた、逃げる。そうです」
包丁との距離を測りながら、ジャガイモの周りを剥き終わった。
「指を逃がすことを考えながら動かしていくと、指を切ることはなくなります」
「包丁が滑ってしまうときは?」
「剥いた皮を親指で押さえながら、進めていくと良いと思います」
皮を剥いていない部分の皮を剥いていく。皮を剥いて、指を逃しての繰り返し。
包丁のアゴで深く芽の部分を取り除くと、ジャガイモが出来上がった。
「出来た!」
「一個完成ですね」
出来ないと思っていたから尚更、達成感が大きい。
「感覚を忘れないうちに、もう一個やりましょう」
「そうだね」
皮を剥いて、指を逃して。タイミングを掴めてきて、指を離す距離感がわかってくる。
「慣れてきましたね」
一個、二個と剥いていくうちに、ジャガイモを剥くのが苦にならなくなってきた。
「福留くん。ありがとう」
「いえいえ。僕の無茶振りに着いてきてくれた真島さんがいたから、出来たのですよ」
無茶振りだと自覚があったらしい。
「福留くんって意外にスパルタなんだね」
「真島さんのことを思って言っているのでスパルタではないと思いますが、そう感じたのでしたらスパルタなのかもしれませんね」
「……ううん。私はやれって言われないとやらないタイプだったのかも。福留くんの判断は正解だよ」
冗談のつもりで言ったのに、拗ねてしまったのでフォローを入れる。
やれと言われないとやらないタイプというのは本当。実家暮らしに甘んじていた私は、追い出されないと一人暮らしをすることはなかっただろうから。
「ジャガイモを持ってきた甲斐がありました。これから復習でポテトサラダでも作りますか」
「今から?」
「今度は、僕は教えませんから一人で作ってみてくださいね」
「……やっぱりスパルタかも」
「え?」
ボソッと呟いた言葉が聞こえなかったようで聞き返してくる。
「ううん。その判断は正解だよ。作ってみます」
聞こえていなかったみたいでよかった。教えてもらう立場なんだから、先生の機嫌を損ねてはダメだ。
福留くんから教わったコツを思い出すことに専念することにした。
○ジャガイモの皮剥きのおさらい
①縦長の部分を一周ぐるっと剥く。(天と地を切り落としてから縦長の部分を剥いても良いです)
②天から地に向かって皮を剥いていく。この時に真ん中を剥いてから左右を剥くと早く剥ける。
③皮を剥き終わったら、ジャガイモの芽を取り除く。ジャガイモの芽には毒素があるため、包丁の角を使って、くぼみの奥の根元を掘るようにする。
※ジャガイモの皮剥きで手を切らないようにするには、包丁の進行方向に手を置かないようにしましょう。包丁の進行方向に指があると察知したら、指を逃がすことが大事です。
(作り置きがあれば、明日が安心だよね)
追加分を作ろうと、野菜と包丁を用意する。
いざ、野菜を切ろうとしたところで、心の中でストップがかかった。
(手が動かない。……包丁が、怖い)
どうしても包丁で手を切ったことを鮮明に思い出してしまう。
指の傷はもう治った。だけど、踏ん切りがつかない。
(包丁を使う気になれないなら、無理をせずに違うことをするに限る)
キッチンを離れてリビングへ。
ソファーの上は本来なら人の座る場所なのに、乾き終わった洗濯物の定位置になっている。
洗濯物を上に重ねるようにどかして、一人分の座るスペースを確保する。
手持ち無沙汰になって、慣れない洗濯物畳みをすることにした。
目に付いた手前の洗濯物をから畳み始める。
(包丁が怖いと、素直に福留くんに話してもいいのかもしれない)
料理はできないことの連続。
今までは福留くんのアドバイスで何とか乗り越えてきた。
でも、包丁を握れないことには料理は始まらない。
(相談すれば、包丁を使わなくても作れる料理があるかもしれない。そうだ。それでいい)
畳んで積み上がった洗濯物を満足げに見た。
福留くんの料理講座は明日に迫っている。
「……福留くん、これは何!?」
カフェ&レストランに着いた時の私の第一声は、悲鳴に近かった。
テーブルの上には、大量のジャガイモ。
しかも「どのくらい放っていたの!?」と聞きたくなるくらい芽が伸びている。
長い芽で三センチ程度。どこかグロテスクで直視できない。
「何って、ジャガイモですよ」
福留くんは冷静に返してくる。
そうじゃなくて……! これをどうするのかって聞きたかったの!
ジャガイモくらい見ればわかるわ、とツッコミをしたくなった。
「……ジャガイモをどうするの?」
「芽が出ていたって、ちゃんと取り除けば食べることができるのですよ。さぁ、ジャガイモの皮剥きを始めましょうか」
包丁とまな板をセットして、早速料理講座を始めようとしている。
「待って。包丁が怖くなったって話をしたよね?」
事前に福留くんに連絡をしていた。包丁が使えないかもしれないから、できれば包丁を使わない料理が良いと。
「苦手を克服しようとするなら、数をこなさないとできるようになりませんよ」
真っ当なことを涼しげな顔で言ってくる。優しいはずの福留くんが意地悪をしてきたように見えた。
「それはそうなんだけど! やりたくてもできないことってあるじゃない」
「……今度こそは指を切らないように、皮剥きができるようにさせてみせます」
福留くんは料理のことになると頑固になる。
(あぁもう。熱意に負けた)
「……やってみる」
「ありがとうございます」
嬉しそうな福留くんを見ると、もう何も言えなくなった。
「包丁の進行方向に指があったら、すぐに指を逃がすことを考えてください」
ジャガイモを手に持ち、福留くんに教えてもらいながら包丁を動かす。
「指に近づいてきた、逃げる。そうです」
包丁との距離を測りながら、ジャガイモの周りを剥き終わった。
「指を逃がすことを考えながら動かしていくと、指を切ることはなくなります」
「包丁が滑ってしまうときは?」
「剥いた皮を親指で押さえながら、進めていくと良いと思います」
皮を剥いていない部分の皮を剥いていく。皮を剥いて、指を逃しての繰り返し。
包丁のアゴで深く芽の部分を取り除くと、ジャガイモが出来上がった。
「出来た!」
「一個完成ですね」
出来ないと思っていたから尚更、達成感が大きい。
「感覚を忘れないうちに、もう一個やりましょう」
「そうだね」
皮を剥いて、指を逃して。タイミングを掴めてきて、指を離す距離感がわかってくる。
「慣れてきましたね」
一個、二個と剥いていくうちに、ジャガイモを剥くのが苦にならなくなってきた。
「福留くん。ありがとう」
「いえいえ。僕の無茶振りに着いてきてくれた真島さんがいたから、出来たのですよ」
無茶振りだと自覚があったらしい。
「福留くんって意外にスパルタなんだね」
「真島さんのことを思って言っているのでスパルタではないと思いますが、そう感じたのでしたらスパルタなのかもしれませんね」
「……ううん。私はやれって言われないとやらないタイプだったのかも。福留くんの判断は正解だよ」
冗談のつもりで言ったのに、拗ねてしまったのでフォローを入れる。
やれと言われないとやらないタイプというのは本当。実家暮らしに甘んじていた私は、追い出されないと一人暮らしをすることはなかっただろうから。
「ジャガイモを持ってきた甲斐がありました。これから復習でポテトサラダでも作りますか」
「今から?」
「今度は、僕は教えませんから一人で作ってみてくださいね」
「……やっぱりスパルタかも」
「え?」
ボソッと呟いた言葉が聞こえなかったようで聞き返してくる。
「ううん。その判断は正解だよ。作ってみます」
聞こえていなかったみたいでよかった。教えてもらう立場なんだから、先生の機嫌を損ねてはダメだ。
福留くんから教わったコツを思い出すことに専念することにした。
○ジャガイモの皮剥きのおさらい
①縦長の部分を一周ぐるっと剥く。(天と地を切り落としてから縦長の部分を剥いても良いです)
②天から地に向かって皮を剥いていく。この時に真ん中を剥いてから左右を剥くと早く剥ける。
③皮を剥き終わったら、ジャガイモの芽を取り除く。ジャガイモの芽には毒素があるため、包丁の角を使って、くぼみの奥の根元を掘るようにする。
※ジャガイモの皮剥きで手を切らないようにするには、包丁の進行方向に手を置かないようにしましょう。包丁の進行方向に指があると察知したら、指を逃がすことが大事です。
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