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第七章 孤独な鳶は月に抱かれて眠る
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綺麗に整備された水路を、小さな船が流れている。
乗っているのは二人の男。
遠目に見ると大人と子どもほどの身長差があるが、会話ややり取りは対等な関係──それどころか、小柄な方が大柄な方をまあ、まあ、となだめすかしている。
「ったくよ、ヘイレンのやつ、人使い荒いぜ」
「ほんとだねぇ」
「あっち行け、こっち行けって、俺たちは便利屋じゃねぇっての!」
「うん、うん」
季節は夏。
二人は汗を拭いつつ、櫂でうまく船を操っている。
「……まあ、今回のは仕事ばっかじゃねぇけどな」
「そうだね」
ムスッとしている大柄な連れに対して、小柄な方は鷹揚にこう続ける。
「久しぶりに会えるの、楽しみだよね」
水路はいつの間にか、両側を急峻な崖に挟まれている。水の流れが速くなり、二人は櫂を置いた。あとは水流に任せるとばかりに。
船着場も整備されているが、他に船の姿も人間の姿もない。あまり来客が多い場所ではないようだ。
しかし出迎えが待っていた。人間ではなく、妖精がひとり。
「あれぇ?王様自らお出迎え?」
船から降りながら、大柄な方がすっとぼけた声を上げる。
「君たちの声が聞こえたからね」
「わざわざありがとう」
和やかにあいさつが交わされて、三人連れ立って崖に作られた急な階段を登っていく。
「それにしても、ヘロン」妖精が大柄な方へ苦笑いで言う。「『王様』はやめてくれないか」
「えー、だって、王様じゃん。ここは『妖精の国』で、ウィノはその代表なんだから」
「対外的にはそう言っておいた方がわかりやすいからそうしているだけで、わたしたち妖精はあまり『国』という概念がない。だから、わたしも王ではない」
「細かいことはいいじゃん」
「ヘロンの軽口に付き合わなくていいから、ウィノ」小柄な方がいい笑顔で辛辣なことを言う。「まじめに訂正するだけ時間の無駄だよ。っていうかヘロンは、そうやってまじめな人をからかって楽しんでるだけなんだから」
「うっわー、なんだよ、最近のラーク、俺に対して厳しすぎねぇ?!」
「ぼくが厳しくしないと、話も仕事もぜんぜん進まないんだもん」
「そんなことねーだろ!?俺だってやる時はやるぜ」
「やる時しかやらないからでしょ」
「うがー!!ちょっとウィノ!どう思うよ、これ?!せめて言い方!言い方くらい優しくしてっ」
「じゅうぶん優しいと思うけど?ね、ウィノ」
二人から同時に意見を求められて、妖精は児戯を見守るような目をさらに細くする。
「君たちがいつも通り元気で、わたしはうれしいよ」
でこぼこコンビは顔を見合わせて、バツが悪そうに口を閉じる。子どもっぽい言い合いだったと自覚したようだ。
「ん゛ん」そして気を取り直して、「そんで、そっちは元気だった?」と近況を尋ねる。
ちょうど階段が終わり、開けた場所へ到着する。『妖精の国』の入口を示すように、三つの顔を持つ鳥の像が二体、三人を出迎えた。右は真新しいが、左はかなり傷んだものを修復したように見える。
「おかげさまで、みんな元気。あの二人もようやくここの生活に慣れてきたようだし」
「そっかぁ……いいことなんだけど、やっぱりここに落ち着いちゃうつもりなのかなぁ」
「あれ?君たちは賛成なんじゃあなかった?」
「あー……そりゃあ、二人の意思が最優先だけどよ、ヘイレンとアイビスの気持ちもわかるっつーか、なあ?」
「う~ん、もったいない、とは思うよね」
妖精も小さく頷いて同意を示したが、この場では議論よりも近況報告を優先する。
「ヘイレンとアイビスも息災?」
「おう。好き勝手するヘイレンのお守りで、アイビスは血管切れそうだけどなー」
「あれはねー、アイビスがしっかりし過ぎるから、ヘイレンも平気で行方不明になるんだよねー」
「そのうち商会の責任者、取って代わられるんじゃねぇ?つーか今も半分、アイビスが動かしてるようなもんだし」
「うーん……そうなったらむしろ、ヘイレンの思うツボなんじゃ……?」
「あー……たしかに。あいつ、盗賊団やってる方がイキイキしてるもんな。商会、押しつけようとしてんのかも」
『妖精の国』という割にそれらしい人工物は入口の像くらいで、建造物も見当たらない。しかしだからといって、何もない寂しい場所でもない。
草木や花や小川や岩棚、そして何より多くの妖精たちが行き交い、彩りを添えている。
「他のみんなはどう?最近、会えてる?」
妖精が言う『みんな』は三人の間では共通認識らしく、すぐに何人かの名前が出てくる。
「ついこの前まで、アスカとフェザントとは一緒だったよ。あっちの……大山脈の裏側のもめ事を解決するのに、助けてもらったんだ」
「ドワーフって単純なのか複雑なのかよくわかんねぇよな。さっきまで戦ってたと思ったら、次の日には宴会して仲良くなってたり」
「でも、大きな戦いにならなくてよかったよ」
「クレインとジェイは、まあ、変わりなしだな。変わったことっていえば……あっ!クウェイルのとこに養子が来たって話、したっけ?」
「いや、初耳」
「クウェイルの姉ちゃんの子どもで、領主を継ぎたいって子がいたんだって。これで、メイとの結婚を反対してたやつらが大人しくなるといいけどな」
「結婚式から一年経つのに、まだ反対派が?」
「頭かたいよね。もうヴェルドットや他の国でも異種間婚は認められてるし、教会だって後押ししてるのに」
「なっ!クウェイルの領地なんてかなり先駆けて解禁したから、異種間婚の聖地とか言われてんのによ」
「そうそう。それで領地が観光地になってて」
「人魚がたくさん来るからって理由もあるだろうけど。なーんかいつの間にか、『人魚の休憩所』だの『人魚との縁結びの地』だの、いろんな二つ名がついてて……うけるよなっ!」
「おかげでよそ者が増えて大変だって、クレインがグチってたよね」
「クレインもジェイも田舎でのんびりするつもりで領兵になったのになー。こんなんじゃ、俺たちみたいにギルドの傭兵やってた方が気楽だったかも」
話しながら歩いているうちに、初めての建造物が見えてきた。こじんまりとした木造の家だ。畑に囲まれ、鶏が放し飼いにされている。
その畑に、男がひとりしゃがんでいる。
騒がしい声が耳に届いて、ひょいっと首を伸ばした。そして訪問者たちの素性に気づき、大きく手を振る。
「あっ!」訪問者たちも手を振り返し、あと少しの距離を駆け寄る。家主はかぶっていた麦わら帽子を取ると、短い青髪を風になびかせて三人を迎えた。
「ラーク!ヘロン!」
「ユエ!」
「久しぶりだね」
「おーす!あれぇ、ユエひとり?旦那は?」
いかにもなからかい口調だったが、尋ねられた側はからかわれたとは思っていないようで「今日は向こうで橋の修理中」と普通に返した。
「わたしが呼んでこよう」
笑いを堪えながら、指差した方角へ妖精が飛んでいく。
「う~む。天然はからかいがいがないな……」残念がるひとりを無視して、あとの二人は近況報告を続けている。
妖精はすぐに戻ってきた。
そして少し遅れて、ひとりの男が現れる。黒髪はさっぱりと精悍で、がっしりとした体格の割りに足取りは軽やか、そして不思議な存在感がある。
三十歳前後にしか見えないのにまとう雰囲気は老成していて、どこか、太く根を張った大樹のような泰然とした安心感がある男。
「カイト!」
名前を呼ばれて、男は小さく手を挙げて応えた。
******
久しぶりの来客を迎えて、ユエももちろんだが、家も張り切っているように見える。
ユエがお茶を淹れ終わったころに、来客用の寝室を整えていたカイトも戻ってきて、いつもは静かな居間が活気付く。
「それで?」
カップを受け取りながら、カイトはユエの隣に腰を落とす。机を挟んで、向こう側のソファにラークとヘロンが座り、机の上に用意した妖精用のイスにウィノが腰かけている。
「わざわざこんな遠くまで、顔を見に来ただけじゃないだろう?」
「いやいやっ、ご機嫌うかがいだよ!」」
早々に本題に入ろうとするカイトに、ヘロンはわかりやすくうろたえる。見た目はすっかり青年なのに、今はいたずらを隠そうとする子どものよう。
「いや、まじで!カイトとユエと、それから!鍵の調子もどうかな~って!」
カイトよりもユエの表情が気になるらしく、ちらっと盗み見るような視線が飛んでくる。
「……どうせ、ヘイレンも一枚噛んでるんでしょ」
ユエはヘロンの後ろに見えるヘイレンへ向かって、ため息混じりに吐き出す。
「はぁ……なんでこう、見透かしたような頃合いで」
「ユエ?」
「えっ、なに?どういう意味?!」
ラークとヘロンが戸惑う中、ユエは首にかけている鎖を手繰って服の中に隠れていたものを取り出す。
現れたのは、宵闇のように深く、濃く、けれどどこか優美で高貴な黒い色をした『鍵』だ。
けれどユエが手の平に乗せた途端、すうっとその色が変化する。闇を包み込むようにして広がっていくのは、蒼。まるで海が闇を呑み込むように、黒い鍵が蒼い鍵へと変わっていく。
「「おお!!」」
初めて見るラークとヘロンは、思わず立ち上がって身を乗り出した。
「えぇ?!なにこれ、なにこれっ?!」
「すごい……え、ってことは、ユエ……?」
期待に応えて、ユエはその鍵を胸で回してみせる。光が収束すると、人魚姿のユエがカイトに支えられてソファに座っていた。
「人魚に戻れるようになったんだっ」
「これでやっと、反抗期は終わりか?!」
大騒ぎする二人を前にユエはすぐに人間へと戻ると、「ところがね」と鍵をウィノへ向けて差し出す。ウィノも心得ていて、受け取ろうと手を伸ばした──が、接触する寸前でパチッ!と弾かれる。
「──と、いうわけ」
触れることを拒否されたウィノは、苦笑いで指先をさする。
「相変わらず、触れるのはおれとカイトだけなんだ」
ユエがそう言ってカイトに鍵を渡すと、闇が海を侵食するようにして黒色へと戻っていく。
「ウィノ以外の妖精にも試してもらったが、触れもしないから、色が変わるかどうかまで確かめようがなくてな。アスカにも試してもらいたいところだが」
黒い鍵はカイトの手で元あった場所へと返された。
「なーんだ。反抗期は継続かよ」どかりとソファに座り直したヘロンに、「前から聞こうと思ってたけど」とラークが首を傾げる。「『反抗期』って、なに?」
「今の鍵の状態だよ。反抗期っぽいじゃん。触るな!命令するな!って感じで」
「ええ?それをいうなら、生まれたての赤ん坊みたいじゃない?」
「はあ?どこが」
「カイトとユエにしか懐いてないとこ。親から離れたくない、みたいな」
「そんな純粋には見えねぇけどな!」
『鍵』をまるでヒトのように扱うことを不思議がる者は、ここにはいない。
「この変化がいいのか、悪いのかはまだわからんが」おかしな方向での言い争いになりかけたところを、カイトが引き戻す。「もしかしたらこの黒い鍵には、かつての『三鍵』の能力も引き継がれているのかもしれん」
「人魚が持てば『人魚の鍵』になって、妖精が持てば『妖精の鍵』、ドワーフが持てば紅くなる──そうなったらおれだけじゃなくて、なりたいヒトは誰でも人間になれる、かも?」
ユエも期待と不安が半々という口調だ。
全面的に喜べない理由は、ウィノが次に言う通り。
「懸念されるのは、鍵の奪い合い。今や鍵はたったひとつしかないのだから」
カイトを救うために統合された『三鍵』は黒い鍵となり、大役を果たした。しかしその後は、ヘロンのいう『反抗期』的な意思を示すだけの状態が続いていたのだ。
そのため世間的には、異種間で子孫を残す方法が以前はあったが、今は失われた──ということになっている。
しかしそれが覆るとなると、混乱は必至。今の情勢からすると、奪い合いはすぐさま血が流れる争いになるという予想が容易に立てられる。
今現在、世界は不安定な均衡の上に成り立っている。
箱庭の外で一定数を保って生まれていた純血たちは、扉が閉じられていた期間もずっと三種で争い続けていたらしい。
その約二千年に渡る妖精・人魚・ドワーフの三つ巴の対立に、新たな勢力・人間が加わったことで、良くも悪くも変革が起こった。
良い点は種族間という大きな戦争が一時休戦されたこと。
悪い点はといえば、四つ巴でのもっと現実的な諍いが増えたこと。例えば領土争いや海の支配権を巡る争い、種の違いによる常識や習性の乖離など、など。
箱庭の中と外の全面対決はどうにか避けられたが、小さな火種は日常茶飯事、それが大火とならないようにヘイレンとアイビスを始めとする面々が暗躍しているという現状だ。
けれど希望もある。
ここ『妖精の国』──かつてのメーディセインと『妖精の谷』を合わせて正式に国となった──を始めとした元箱庭の中でも、世界がひとつに戻ってから再び純血が生まれるようになっている。
彼らはきっとユエやアスカ、ウィノをならって、純血と人間の仲を取り持つ存在になってくれるだろう。
そしてきっと遠くない未来に、種族など関係なく愛し合い、そして鍵を必要とするヒトが現れるだろう。
それは素晴らしい未来ではあるが、一方でウィノか指摘するような懸念も生まれる。
「うっわ……まじで絶妙に間がいいっつーか……悪いっつーか」
ヘロンは独り言にしては大きな声でそう言うと、天を仰ぐついでに隣のラークへ助けを求めた。
ラークも困った顔を隠さず、言うべきか言わざるべきか迷っていたが、カイトとユエの落ち着いた空気に後押しされて、今回の訪問の本当の目的を語り始める。
「実は……ちょっと嫌なウワサが流れてて」
「どんな?」
「新たに『鍵』をつくろうとする勢力がいる、とか」
「『鍵』を?それはどういう目的でだ?本来の、純血が人間になるためという目的なのか、それとも、力を蓄積するという副次的な能力を求めて?」
「さすがカイト、話が早い」
パチンと指を鳴らして、大事なところをヘロンがかっさらっていく。
「その勢力っつーのがどうやら……人間らしいんだよっ!」
それを聞いて、そっくりな不快顔が三人そろう。つまり目的は副次的な力の方で、しかもそれを求める勢力がその力を世界平和のために使う──などという楽観視はとてもできない。
「だが、『鍵』の作り方はわたしたちしか知らないはず」
ウィノは自分を安心させるようにうなずく。
「うん、だからね、その勢力は手当たり次第に情報収集してる段階みたい。それで人魚にも接触してきて……」
「あー……全部聞かなくても、だいたいわかる。あれでしょ、それで人魚たちが怒って、もめて?」
ユエが促した先を、ラークが引き取る。
「人間全体に不信感を持っちゃって、一触即発。だから、その……できればユエに仲裁をお願いしたくて」
「人魚からのご指名なんだよ」ヘロンが言い訳がましく付け加える「『ユエ以外は信用しない』って」
ユエはため息混じりにカイトと目を合わせる。なるほど、確かにこれは間が悪いのか、いいのか──言葉にしなくても互いがそう思っていることが伝わる。
ラークとヘロンはその反応をあまり歓迎されていないと判断したのか、慌てて前言を覆すようなことを言い始める。
「あっ、でもねっ、無理ならほんといいから!」
「そうそう!俺らはあくまでヘイレンに頼まれて来ただけだしっ」
「うんうん!アイビスにも、今回はとりあえず今の状況を伝えるだけでいいって言われたから、ねっ?」
「おう!それから、カイトの調子を見てこいって──あっ……!」
「あ、ばかっ、ヘロン!!」
口を手で隠す仕草は『失言しました』と宣伝するようなもの。二人はそろって気まず気に目を伏せた。
ところが──「なるほどな」カイトの声があまりに軽快で、ラークとヘロンは「んん?」と顔を上げる。
「俺が使えるかどうか確認してこいとでも言われたんだろう?ヘイレンが言いそうなこった」
「それと」ユエも少しからかいを込めて言う。「おれが外出許可を出すかどうか探ってこい、ってとこかな」
「えーと……」「え、へへへ?」
今度は『図星です』のお手本のようなごまかしをして、ラークとヘロンはすべてを白状した。
カイトの読み通り、二人がこの家を訪ねた理由はただのご機嫌うかがいではない。ヘイレンとアイビス──つまりギルドからの依頼を預かっていた。
しかしその依頼を話すかどうかの判断は、ラークとヘロンに一任されていた。直接会って、話して、カイトとユエが引き受けてくれそうなら、という条件付きだったのだ。
その条件が付けられた背景には、カイトの体調の問題があった。
そしてユエの気持ちの問題も。心配と独占欲から、ユエがカイトをこの国に留めておきたがっているだろうと、仲間たちは考えていた。
そのためヘイレンとアイビスもダメ元での打診で、ラークとヘロンも断られると覚悟して、返事を待っていた。
「んー……」ユエはたっぷり焦らしてから、「とりあえず、仲裁の依頼は引き受けてもいいよ」
「えっ、いいのか?!」
「ほんとに?ユエっ」
予想外の返事に、ヘロンもラークも驚きを通り越して信じられないと疑いの眼差しを向けてくる。
「ただし……!調査の方は長期になりそうだから、ちょっと考えさせて」ユエはそう言ってから、カイトにも「それで、いい?」と同意を求める。
カイトは穏やかな表情のまま、鷹揚に頷いた。決定権はユエにある、という信頼が垣間見える。
「え、と……ほんとうに大丈夫?」
ラークが念押しする気持ちもわかるため、ユエはしつこいとは思わずにきちんと説明することにした。
「大丈夫だよ。『黒い鍵』に変化があった日にカイトと話し合ったんだ、今後について。意見は一致。『隠居はまだ早い』ってことで」
「とはいえ、『鍵』を狙う勢力がいるなら、少しばかり方針は変えざるを得ないがな」
カイトからの助言に、ユエは素早く考えを巡らせる。
「ん、そうだね。『鍵』がまた使えるようになったことは、しばらく秘密にしておいたほうがいいかな」
「反対に、はっきり公表するという手もある。ユエにしか使えない、と」
「でもそれだと、おれたちごと狙われちゃうんじゃない?」
「敵を炙り出すと同時に、味方を増やす効果につながるかも。俺が『ノクス』だと公表したときのように」
「あ、なるほど」
結局、この場での即決は依頼側──ラークとヘロンの方が避けて、明日までに決めてほしいということになった。ここ『妖精の国』は日帰りが難しいということで元々泊まりの予定だったために、その流れは自然だった。
******
夕食の準備は、旅をしていた頃のようにみんなで協力して作ることになり、狭い炊事場が人でいっぱいになる。
できあがった料理を前に、ユエはせっかくだからととっておきのお酒を出した。
ゆったりとした贅沢な時間。
最初に酔っ払ったのはヘロンだったが、ユエの隣のカイトももう肩が熱い。
「飲みすぎないでね」と耳元で言うと、カイトはしまったという目で自分の手の中のコップを見た。
ほどなくして、カイトの顔も赤らんでくる。
それを合図に、客人三人は客室へと向かう。今夜は珍しく、ウィノもこの家に泊まっていくという。
***
ユエは先にカイトを寝室へと追いやって、ひとりで居間を片づけてから、コップに水を汲んで後を追う。
カイトは案の定、ベッドに仰向けになって赤ら顔を冷やしていた。
「大丈夫?」水を渡しながらユエが訊くと、苦笑いでからだを起こし水を受け取る。
ユエは隣に座ると、こてんともたれかかる。触れた肩から熱が伝わる。カイトも自然な動作でユエの肩を抱き寄せる。
これしきの酒量で酔っ払うということは、以前のカイトにはなかったこと。
ユエはもう見慣れたが、初めて目の当たりにしたラークとヘロンは動揺を隠せていなかった。
これはほんの一端だ。
弱体化ともいえる、カイトのからだに起きている変化のほんの一端。
カイトはもう、妖精の笛の音を聴くことはできない。人魚になったユエと深海には潜れないし、フェザントのような怪力も、屋根まで跳び上がる跳躍力もない。
それもそのはず。
カイトが人間ながらにして純血に匹敵する力を発揮できたのは、生まれながらに持っていた過剰な力のおかげ。
そして、それを『黒い鍵』で取り除いたのだ。特別な力は失われた。カイトはもはや亜種でもない、平均的な『普通の人間』となった。
こうなることを、カイトは眠る前から覚悟していたらしい。
ユエはそこまで考えが及ばなかったけれど、知らされた時の気持ちはカイトと同じだった。
──これが代償なら安いものだ。
いや、それどころか、これは二人が望んだ結末でもある。弱体化は言い換えれば、老化だ。一緒に年齢を重ねる未来を手に入れた証だった。
けれどその変化に対応するには、カイトといえども時間を要した。
目覚めてからの約一年は、ほとんど慣らしの時間だ。長い間眠っていた肉体を動かすことから始まって、支えなしで歩けるようになるまで半年、さらに半年かけて日常生活に支障ないまでに回復した。
そしてこの家を構えてからの一年は、カイトの中のズレを埋める時間だった。
昔の経験則で動くとからだがついてこない。何度も失敗を繰り返しながら、『できないこと』をからだに覚え込ませていった。
ユエはそのすべてを、隣で支えてきた。
川に落ちたり、屋根から飛び降りた時にうまく着地できなかったり、持てると思った荷物が持てなかったり──安全な妖精の国で、戦いのない平穏な生活の中で、笑い話で終わる失敗を繰り返して。
もどかしさは当然あっただろうに、カイトは一度も『過去の自分』を追い求めることはなかった。弱くなった自分を自覚して、受け入れて、それでも諦めずに鍛錬を続けてきたカイトを、ユエは尊敬する。
だから二人にとって『弱くなったこと』は禁句でも何でもないのだが、仲間たちの認識は違うことが、腫れ物に触るようなラークとヘロンの反応からもよくわかった。
その誤解を解くには、見せることが一番だろう。
ユエはカイトの手を握る。分厚く、ゴツゴツと鍛えられた手。積み重ねてきた戦いの歴史は無くなっていない。
「みんな、びっくりするだろうね。カイトが一年でこんなに強くなったって知ったら」
「強く、か」
「がんばったもの、ね?」
「……とりあえず、転ばない程度には、な」
少し照れながら謙遜するカイトに、ユエは太鼓判を押す。
「大丈夫!きっとみんなも安心するよ」
ヘイレンからの依頼がなくとも、カイトとユエは近いうちに旅に出るつもりだった。
目的はいくつかあるが、仲間たちにカイトの完全復活を見せて安心してもらうことも、そのひとつ。
ドワーフ王国で純血のドワーフとの折衝役を担うアスカを始め、アスカを補佐するフェザントも、商会に引き抜かれたアイビスも、領兵になったクレインとジェイも、なかなか自由に動けない立場になってしまったため、こちらから出向こうと話し合ったのだ。
「ただ、いきなりもめ事の仲裁となると……戦いの勘はまだまだだからな。剣を抜く前に収められればいいが」
弱気なカイトに、ユエは「任せて!」自分の胸をドン!と叩いてみせる。
「カイトの背中はおれが守るよ!おれも強くなったんだから」
「それは頼もしいな」という言葉をもらって、ユエは得意げな顔を隠さずカイトのひざに登り上がる。背中を支えてくれる腕は、以前と変わらず安心感に満ちている。
たくましい胸にひたいをぐりぐり押しつけると、カイトはユエの髪に指を通してさらっと梳く。カイトだけが切る権利を持っている蒼い髪は、今は短くこざっぱりしている。
「人魚のところへ行くなら、カイトが眠ってる間に知り合った人たちにカイトのこと自慢したいな」
「自慢って……紹介程度にしといてくれ」
「自慢の恋人で、自慢の家族だって言うよ。言いたいの。だってみんな勘違いしてるもの」
「勘違い?」
「ほんとうの救世主はカイトなのに、おれとかばっかり持ち上げられるのはおかしいよ!」
「そんなことないだろう。人魚から仲裁の『ご指名』が来るのは、ユエ自身が信頼を勝ち取ったからだ。アスカやウィノも同じで、だから中立的な仲裁役として頼られている──」
「けど!おれもアスカもウィノもカイトに助けられて今があるんだから、やっぱりカイトのおかげ、でしょう?」
ユエの勢いに押されたカイトは、自慢されることを約束してしまって苦笑いになる。
「あ……でも、あんまりカイトが有名になっちゃうのは困るかも。『ご指名』がカイトにもたくさん来るようになったら、二人の時間が減っちゃう」
そこでユエは気づく。もしかして自分はヘイレンの思惑に乗るところだったのでは、と。
間違いなくヘイレンは、カイトほどの人材を田舎に眠らせておくなんてもったいない、と考えている。
これを機にカイトを表舞台に引っ張り出して、以前のように、ギルドや商会に来る面倒な依頼を押しつけるつもりだ──そう推測したユエは、「あぶない、あぶない……」
「ユエ?」
「ううんっ、なんでもない!でも……やっぱり自慢はほどほどにしておくね」
わざわざカイトの名前を宣伝して『ご指名』を増やしちゃダメだ、とユエは慌てて軌道修正する。ユエの変わり身の早さをカイトはあまり気にしないで、「そうしてくれ」とむしろ歓迎した。
「依頼を済ませたら、まずどこへ行こうか」
カイトは抱えたユエごとからだをベッドに沈ませながら、うきうきした声を隠さず言う。
「『氷の大陸』は?カイト、見てみたいって言ってたでしょう?」
「最初の旅としては、さすがに遠過ぎないか?」
「ん~……じゃあ!大山脈の裏側は?あそこならおれが案内できるし」
「内海があるんだったか?」
「そう!一緒に泳ごうっ」
「いいな、楽しみだ」
この会話ではまるで、旅行のついでに依頼を受けてやろうとでも言いたげだが──それは誤解でも何でもなく、真実、その通り。
二人にとって旅の一番の目的は、こちらなのだ。
──世界を見て回ること。
カイトの好奇心は、己のことを知って全てが解決したからといって消えるようなものではなかった。
新しい世界を自分の目で見たい、行ったことのない土地へ行きたい、知らないことを知りたい──ユエはそれを心配だからと止めるのではなく、一緒に楽しむことにした。
きっと、以前の自分なら止めていた、とユエは思う。
変わったのは、カイトが眠っていた時間と二人きりで過ごしたこの家での一年間があったから。
カイトはちゃんと帰ってきてくれる、という安心感を、「ただいま」と「おかえり」を繰り返してユエに教え込んでくれた。
そうしてユエの中では、心配を安心が上回るようになっていった。
「留守の間、この家の管理はウィノたちに任せるとして……」
「せっかく修理した橋を使う人がいなくなっちゃうけどね」
「まあ、ちょくちょく帰ってこればいいさ」
「だね。おれたちの家はここだもの」
それからカイトにも心境の変化があったようで──。
「『家』は確かにここだが……どこであっても、ユエのいる場所が俺の帰る場所だからな」
もう、『家』という形にはこだわらない。それよりも確かなものが、目には見えなくとも二人の間にはあるのだから。
見つめ合って、キスをして、甘い雰囲気に──なりかけたところでユエが「あっ」と何かを思い出す。
「どうした?」
「待って、待って、今日、まだ言ってないよ!」
「……なにを?」
「『ただいま』と『おかえり』!」
「ああ……ラークたちがいたから」
はい、どうぞ、と待ち構えるユエに、カイトは今さらか?と苦笑いしながらも、欲しい言葉をくれる。
「ただいま、ユエ」
「おかえり!カイト」
「もう、『おやすみ』の時間だけどな」
「じゃあ、ついでにそっちも」
「ついでに、か」
「はい、どうぞ」
「……おやすみ、ユエ」
「おやすみ、カイト」
また一日が終わり、そして明日が来る。
その当たり前の日常に感謝しながら、二人は一緒に目を閉じた。
乗っているのは二人の男。
遠目に見ると大人と子どもほどの身長差があるが、会話ややり取りは対等な関係──それどころか、小柄な方が大柄な方をまあ、まあ、となだめすかしている。
「ったくよ、ヘイレンのやつ、人使い荒いぜ」
「ほんとだねぇ」
「あっち行け、こっち行けって、俺たちは便利屋じゃねぇっての!」
「うん、うん」
季節は夏。
二人は汗を拭いつつ、櫂でうまく船を操っている。
「……まあ、今回のは仕事ばっかじゃねぇけどな」
「そうだね」
ムスッとしている大柄な連れに対して、小柄な方は鷹揚にこう続ける。
「久しぶりに会えるの、楽しみだよね」
水路はいつの間にか、両側を急峻な崖に挟まれている。水の流れが速くなり、二人は櫂を置いた。あとは水流に任せるとばかりに。
船着場も整備されているが、他に船の姿も人間の姿もない。あまり来客が多い場所ではないようだ。
しかし出迎えが待っていた。人間ではなく、妖精がひとり。
「あれぇ?王様自らお出迎え?」
船から降りながら、大柄な方がすっとぼけた声を上げる。
「君たちの声が聞こえたからね」
「わざわざありがとう」
和やかにあいさつが交わされて、三人連れ立って崖に作られた急な階段を登っていく。
「それにしても、ヘロン」妖精が大柄な方へ苦笑いで言う。「『王様』はやめてくれないか」
「えー、だって、王様じゃん。ここは『妖精の国』で、ウィノはその代表なんだから」
「対外的にはそう言っておいた方がわかりやすいからそうしているだけで、わたしたち妖精はあまり『国』という概念がない。だから、わたしも王ではない」
「細かいことはいいじゃん」
「ヘロンの軽口に付き合わなくていいから、ウィノ」小柄な方がいい笑顔で辛辣なことを言う。「まじめに訂正するだけ時間の無駄だよ。っていうかヘロンは、そうやってまじめな人をからかって楽しんでるだけなんだから」
「うっわー、なんだよ、最近のラーク、俺に対して厳しすぎねぇ?!」
「ぼくが厳しくしないと、話も仕事もぜんぜん進まないんだもん」
「そんなことねーだろ!?俺だってやる時はやるぜ」
「やる時しかやらないからでしょ」
「うがー!!ちょっとウィノ!どう思うよ、これ?!せめて言い方!言い方くらい優しくしてっ」
「じゅうぶん優しいと思うけど?ね、ウィノ」
二人から同時に意見を求められて、妖精は児戯を見守るような目をさらに細くする。
「君たちがいつも通り元気で、わたしはうれしいよ」
でこぼこコンビは顔を見合わせて、バツが悪そうに口を閉じる。子どもっぽい言い合いだったと自覚したようだ。
「ん゛ん」そして気を取り直して、「そんで、そっちは元気だった?」と近況を尋ねる。
ちょうど階段が終わり、開けた場所へ到着する。『妖精の国』の入口を示すように、三つの顔を持つ鳥の像が二体、三人を出迎えた。右は真新しいが、左はかなり傷んだものを修復したように見える。
「おかげさまで、みんな元気。あの二人もようやくここの生活に慣れてきたようだし」
「そっかぁ……いいことなんだけど、やっぱりここに落ち着いちゃうつもりなのかなぁ」
「あれ?君たちは賛成なんじゃあなかった?」
「あー……そりゃあ、二人の意思が最優先だけどよ、ヘイレンとアイビスの気持ちもわかるっつーか、なあ?」
「う~ん、もったいない、とは思うよね」
妖精も小さく頷いて同意を示したが、この場では議論よりも近況報告を優先する。
「ヘイレンとアイビスも息災?」
「おう。好き勝手するヘイレンのお守りで、アイビスは血管切れそうだけどなー」
「あれはねー、アイビスがしっかりし過ぎるから、ヘイレンも平気で行方不明になるんだよねー」
「そのうち商会の責任者、取って代わられるんじゃねぇ?つーか今も半分、アイビスが動かしてるようなもんだし」
「うーん……そうなったらむしろ、ヘイレンの思うツボなんじゃ……?」
「あー……たしかに。あいつ、盗賊団やってる方がイキイキしてるもんな。商会、押しつけようとしてんのかも」
『妖精の国』という割にそれらしい人工物は入口の像くらいで、建造物も見当たらない。しかしだからといって、何もない寂しい場所でもない。
草木や花や小川や岩棚、そして何より多くの妖精たちが行き交い、彩りを添えている。
「他のみんなはどう?最近、会えてる?」
妖精が言う『みんな』は三人の間では共通認識らしく、すぐに何人かの名前が出てくる。
「ついこの前まで、アスカとフェザントとは一緒だったよ。あっちの……大山脈の裏側のもめ事を解決するのに、助けてもらったんだ」
「ドワーフって単純なのか複雑なのかよくわかんねぇよな。さっきまで戦ってたと思ったら、次の日には宴会して仲良くなってたり」
「でも、大きな戦いにならなくてよかったよ」
「クレインとジェイは、まあ、変わりなしだな。変わったことっていえば……あっ!クウェイルのとこに養子が来たって話、したっけ?」
「いや、初耳」
「クウェイルの姉ちゃんの子どもで、領主を継ぎたいって子がいたんだって。これで、メイとの結婚を反対してたやつらが大人しくなるといいけどな」
「結婚式から一年経つのに、まだ反対派が?」
「頭かたいよね。もうヴェルドットや他の国でも異種間婚は認められてるし、教会だって後押ししてるのに」
「なっ!クウェイルの領地なんてかなり先駆けて解禁したから、異種間婚の聖地とか言われてんのによ」
「そうそう。それで領地が観光地になってて」
「人魚がたくさん来るからって理由もあるだろうけど。なーんかいつの間にか、『人魚の休憩所』だの『人魚との縁結びの地』だの、いろんな二つ名がついてて……うけるよなっ!」
「おかげでよそ者が増えて大変だって、クレインがグチってたよね」
「クレインもジェイも田舎でのんびりするつもりで領兵になったのになー。こんなんじゃ、俺たちみたいにギルドの傭兵やってた方が気楽だったかも」
話しながら歩いているうちに、初めての建造物が見えてきた。こじんまりとした木造の家だ。畑に囲まれ、鶏が放し飼いにされている。
その畑に、男がひとりしゃがんでいる。
騒がしい声が耳に届いて、ひょいっと首を伸ばした。そして訪問者たちの素性に気づき、大きく手を振る。
「あっ!」訪問者たちも手を振り返し、あと少しの距離を駆け寄る。家主はかぶっていた麦わら帽子を取ると、短い青髪を風になびかせて三人を迎えた。
「ラーク!ヘロン!」
「ユエ!」
「久しぶりだね」
「おーす!あれぇ、ユエひとり?旦那は?」
いかにもなからかい口調だったが、尋ねられた側はからかわれたとは思っていないようで「今日は向こうで橋の修理中」と普通に返した。
「わたしが呼んでこよう」
笑いを堪えながら、指差した方角へ妖精が飛んでいく。
「う~む。天然はからかいがいがないな……」残念がるひとりを無視して、あとの二人は近況報告を続けている。
妖精はすぐに戻ってきた。
そして少し遅れて、ひとりの男が現れる。黒髪はさっぱりと精悍で、がっしりとした体格の割りに足取りは軽やか、そして不思議な存在感がある。
三十歳前後にしか見えないのにまとう雰囲気は老成していて、どこか、太く根を張った大樹のような泰然とした安心感がある男。
「カイト!」
名前を呼ばれて、男は小さく手を挙げて応えた。
******
久しぶりの来客を迎えて、ユエももちろんだが、家も張り切っているように見える。
ユエがお茶を淹れ終わったころに、来客用の寝室を整えていたカイトも戻ってきて、いつもは静かな居間が活気付く。
「それで?」
カップを受け取りながら、カイトはユエの隣に腰を落とす。机を挟んで、向こう側のソファにラークとヘロンが座り、机の上に用意した妖精用のイスにウィノが腰かけている。
「わざわざこんな遠くまで、顔を見に来ただけじゃないだろう?」
「いやいやっ、ご機嫌うかがいだよ!」」
早々に本題に入ろうとするカイトに、ヘロンはわかりやすくうろたえる。見た目はすっかり青年なのに、今はいたずらを隠そうとする子どものよう。
「いや、まじで!カイトとユエと、それから!鍵の調子もどうかな~って!」
カイトよりもユエの表情が気になるらしく、ちらっと盗み見るような視線が飛んでくる。
「……どうせ、ヘイレンも一枚噛んでるんでしょ」
ユエはヘロンの後ろに見えるヘイレンへ向かって、ため息混じりに吐き出す。
「はぁ……なんでこう、見透かしたような頃合いで」
「ユエ?」
「えっ、なに?どういう意味?!」
ラークとヘロンが戸惑う中、ユエは首にかけている鎖を手繰って服の中に隠れていたものを取り出す。
現れたのは、宵闇のように深く、濃く、けれどどこか優美で高貴な黒い色をした『鍵』だ。
けれどユエが手の平に乗せた途端、すうっとその色が変化する。闇を包み込むようにして広がっていくのは、蒼。まるで海が闇を呑み込むように、黒い鍵が蒼い鍵へと変わっていく。
「「おお!!」」
初めて見るラークとヘロンは、思わず立ち上がって身を乗り出した。
「えぇ?!なにこれ、なにこれっ?!」
「すごい……え、ってことは、ユエ……?」
期待に応えて、ユエはその鍵を胸で回してみせる。光が収束すると、人魚姿のユエがカイトに支えられてソファに座っていた。
「人魚に戻れるようになったんだっ」
「これでやっと、反抗期は終わりか?!」
大騒ぎする二人を前にユエはすぐに人間へと戻ると、「ところがね」と鍵をウィノへ向けて差し出す。ウィノも心得ていて、受け取ろうと手を伸ばした──が、接触する寸前でパチッ!と弾かれる。
「──と、いうわけ」
触れることを拒否されたウィノは、苦笑いで指先をさする。
「相変わらず、触れるのはおれとカイトだけなんだ」
ユエがそう言ってカイトに鍵を渡すと、闇が海を侵食するようにして黒色へと戻っていく。
「ウィノ以外の妖精にも試してもらったが、触れもしないから、色が変わるかどうかまで確かめようがなくてな。アスカにも試してもらいたいところだが」
黒い鍵はカイトの手で元あった場所へと返された。
「なーんだ。反抗期は継続かよ」どかりとソファに座り直したヘロンに、「前から聞こうと思ってたけど」とラークが首を傾げる。「『反抗期』って、なに?」
「今の鍵の状態だよ。反抗期っぽいじゃん。触るな!命令するな!って感じで」
「ええ?それをいうなら、生まれたての赤ん坊みたいじゃない?」
「はあ?どこが」
「カイトとユエにしか懐いてないとこ。親から離れたくない、みたいな」
「そんな純粋には見えねぇけどな!」
『鍵』をまるでヒトのように扱うことを不思議がる者は、ここにはいない。
「この変化がいいのか、悪いのかはまだわからんが」おかしな方向での言い争いになりかけたところを、カイトが引き戻す。「もしかしたらこの黒い鍵には、かつての『三鍵』の能力も引き継がれているのかもしれん」
「人魚が持てば『人魚の鍵』になって、妖精が持てば『妖精の鍵』、ドワーフが持てば紅くなる──そうなったらおれだけじゃなくて、なりたいヒトは誰でも人間になれる、かも?」
ユエも期待と不安が半々という口調だ。
全面的に喜べない理由は、ウィノが次に言う通り。
「懸念されるのは、鍵の奪い合い。今や鍵はたったひとつしかないのだから」
カイトを救うために統合された『三鍵』は黒い鍵となり、大役を果たした。しかしその後は、ヘロンのいう『反抗期』的な意思を示すだけの状態が続いていたのだ。
そのため世間的には、異種間で子孫を残す方法が以前はあったが、今は失われた──ということになっている。
しかしそれが覆るとなると、混乱は必至。今の情勢からすると、奪い合いはすぐさま血が流れる争いになるという予想が容易に立てられる。
今現在、世界は不安定な均衡の上に成り立っている。
箱庭の外で一定数を保って生まれていた純血たちは、扉が閉じられていた期間もずっと三種で争い続けていたらしい。
その約二千年に渡る妖精・人魚・ドワーフの三つ巴の対立に、新たな勢力・人間が加わったことで、良くも悪くも変革が起こった。
良い点は種族間という大きな戦争が一時休戦されたこと。
悪い点はといえば、四つ巴でのもっと現実的な諍いが増えたこと。例えば領土争いや海の支配権を巡る争い、種の違いによる常識や習性の乖離など、など。
箱庭の中と外の全面対決はどうにか避けられたが、小さな火種は日常茶飯事、それが大火とならないようにヘイレンとアイビスを始めとする面々が暗躍しているという現状だ。
けれど希望もある。
ここ『妖精の国』──かつてのメーディセインと『妖精の谷』を合わせて正式に国となった──を始めとした元箱庭の中でも、世界がひとつに戻ってから再び純血が生まれるようになっている。
彼らはきっとユエやアスカ、ウィノをならって、純血と人間の仲を取り持つ存在になってくれるだろう。
そしてきっと遠くない未来に、種族など関係なく愛し合い、そして鍵を必要とするヒトが現れるだろう。
それは素晴らしい未来ではあるが、一方でウィノか指摘するような懸念も生まれる。
「うっわ……まじで絶妙に間がいいっつーか……悪いっつーか」
ヘロンは独り言にしては大きな声でそう言うと、天を仰ぐついでに隣のラークへ助けを求めた。
ラークも困った顔を隠さず、言うべきか言わざるべきか迷っていたが、カイトとユエの落ち着いた空気に後押しされて、今回の訪問の本当の目的を語り始める。
「実は……ちょっと嫌なウワサが流れてて」
「どんな?」
「新たに『鍵』をつくろうとする勢力がいる、とか」
「『鍵』を?それはどういう目的でだ?本来の、純血が人間になるためという目的なのか、それとも、力を蓄積するという副次的な能力を求めて?」
「さすがカイト、話が早い」
パチンと指を鳴らして、大事なところをヘロンがかっさらっていく。
「その勢力っつーのがどうやら……人間らしいんだよっ!」
それを聞いて、そっくりな不快顔が三人そろう。つまり目的は副次的な力の方で、しかもそれを求める勢力がその力を世界平和のために使う──などという楽観視はとてもできない。
「だが、『鍵』の作り方はわたしたちしか知らないはず」
ウィノは自分を安心させるようにうなずく。
「うん、だからね、その勢力は手当たり次第に情報収集してる段階みたい。それで人魚にも接触してきて……」
「あー……全部聞かなくても、だいたいわかる。あれでしょ、それで人魚たちが怒って、もめて?」
ユエが促した先を、ラークが引き取る。
「人間全体に不信感を持っちゃって、一触即発。だから、その……できればユエに仲裁をお願いしたくて」
「人魚からのご指名なんだよ」ヘロンが言い訳がましく付け加える「『ユエ以外は信用しない』って」
ユエはため息混じりにカイトと目を合わせる。なるほど、確かにこれは間が悪いのか、いいのか──言葉にしなくても互いがそう思っていることが伝わる。
ラークとヘロンはその反応をあまり歓迎されていないと判断したのか、慌てて前言を覆すようなことを言い始める。
「あっ、でもねっ、無理ならほんといいから!」
「そうそう!俺らはあくまでヘイレンに頼まれて来ただけだしっ」
「うんうん!アイビスにも、今回はとりあえず今の状況を伝えるだけでいいって言われたから、ねっ?」
「おう!それから、カイトの調子を見てこいって──あっ……!」
「あ、ばかっ、ヘロン!!」
口を手で隠す仕草は『失言しました』と宣伝するようなもの。二人はそろって気まず気に目を伏せた。
ところが──「なるほどな」カイトの声があまりに軽快で、ラークとヘロンは「んん?」と顔を上げる。
「俺が使えるかどうか確認してこいとでも言われたんだろう?ヘイレンが言いそうなこった」
「それと」ユエも少しからかいを込めて言う。「おれが外出許可を出すかどうか探ってこい、ってとこかな」
「えーと……」「え、へへへ?」
今度は『図星です』のお手本のようなごまかしをして、ラークとヘロンはすべてを白状した。
カイトの読み通り、二人がこの家を訪ねた理由はただのご機嫌うかがいではない。ヘイレンとアイビス──つまりギルドからの依頼を預かっていた。
しかしその依頼を話すかどうかの判断は、ラークとヘロンに一任されていた。直接会って、話して、カイトとユエが引き受けてくれそうなら、という条件付きだったのだ。
その条件が付けられた背景には、カイトの体調の問題があった。
そしてユエの気持ちの問題も。心配と独占欲から、ユエがカイトをこの国に留めておきたがっているだろうと、仲間たちは考えていた。
そのためヘイレンとアイビスもダメ元での打診で、ラークとヘロンも断られると覚悟して、返事を待っていた。
「んー……」ユエはたっぷり焦らしてから、「とりあえず、仲裁の依頼は引き受けてもいいよ」
「えっ、いいのか?!」
「ほんとに?ユエっ」
予想外の返事に、ヘロンもラークも驚きを通り越して信じられないと疑いの眼差しを向けてくる。
「ただし……!調査の方は長期になりそうだから、ちょっと考えさせて」ユエはそう言ってから、カイトにも「それで、いい?」と同意を求める。
カイトは穏やかな表情のまま、鷹揚に頷いた。決定権はユエにある、という信頼が垣間見える。
「え、と……ほんとうに大丈夫?」
ラークが念押しする気持ちもわかるため、ユエはしつこいとは思わずにきちんと説明することにした。
「大丈夫だよ。『黒い鍵』に変化があった日にカイトと話し合ったんだ、今後について。意見は一致。『隠居はまだ早い』ってことで」
「とはいえ、『鍵』を狙う勢力がいるなら、少しばかり方針は変えざるを得ないがな」
カイトからの助言に、ユエは素早く考えを巡らせる。
「ん、そうだね。『鍵』がまた使えるようになったことは、しばらく秘密にしておいたほうがいいかな」
「反対に、はっきり公表するという手もある。ユエにしか使えない、と」
「でもそれだと、おれたちごと狙われちゃうんじゃない?」
「敵を炙り出すと同時に、味方を増やす効果につながるかも。俺が『ノクス』だと公表したときのように」
「あ、なるほど」
結局、この場での即決は依頼側──ラークとヘロンの方が避けて、明日までに決めてほしいということになった。ここ『妖精の国』は日帰りが難しいということで元々泊まりの予定だったために、その流れは自然だった。
******
夕食の準備は、旅をしていた頃のようにみんなで協力して作ることになり、狭い炊事場が人でいっぱいになる。
できあがった料理を前に、ユエはせっかくだからととっておきのお酒を出した。
ゆったりとした贅沢な時間。
最初に酔っ払ったのはヘロンだったが、ユエの隣のカイトももう肩が熱い。
「飲みすぎないでね」と耳元で言うと、カイトはしまったという目で自分の手の中のコップを見た。
ほどなくして、カイトの顔も赤らんでくる。
それを合図に、客人三人は客室へと向かう。今夜は珍しく、ウィノもこの家に泊まっていくという。
***
ユエは先にカイトを寝室へと追いやって、ひとりで居間を片づけてから、コップに水を汲んで後を追う。
カイトは案の定、ベッドに仰向けになって赤ら顔を冷やしていた。
「大丈夫?」水を渡しながらユエが訊くと、苦笑いでからだを起こし水を受け取る。
ユエは隣に座ると、こてんともたれかかる。触れた肩から熱が伝わる。カイトも自然な動作でユエの肩を抱き寄せる。
これしきの酒量で酔っ払うということは、以前のカイトにはなかったこと。
ユエはもう見慣れたが、初めて目の当たりにしたラークとヘロンは動揺を隠せていなかった。
これはほんの一端だ。
弱体化ともいえる、カイトのからだに起きている変化のほんの一端。
カイトはもう、妖精の笛の音を聴くことはできない。人魚になったユエと深海には潜れないし、フェザントのような怪力も、屋根まで跳び上がる跳躍力もない。
それもそのはず。
カイトが人間ながらにして純血に匹敵する力を発揮できたのは、生まれながらに持っていた過剰な力のおかげ。
そして、それを『黒い鍵』で取り除いたのだ。特別な力は失われた。カイトはもはや亜種でもない、平均的な『普通の人間』となった。
こうなることを、カイトは眠る前から覚悟していたらしい。
ユエはそこまで考えが及ばなかったけれど、知らされた時の気持ちはカイトと同じだった。
──これが代償なら安いものだ。
いや、それどころか、これは二人が望んだ結末でもある。弱体化は言い換えれば、老化だ。一緒に年齢を重ねる未来を手に入れた証だった。
けれどその変化に対応するには、カイトといえども時間を要した。
目覚めてからの約一年は、ほとんど慣らしの時間だ。長い間眠っていた肉体を動かすことから始まって、支えなしで歩けるようになるまで半年、さらに半年かけて日常生活に支障ないまでに回復した。
そしてこの家を構えてからの一年は、カイトの中のズレを埋める時間だった。
昔の経験則で動くとからだがついてこない。何度も失敗を繰り返しながら、『できないこと』をからだに覚え込ませていった。
ユエはそのすべてを、隣で支えてきた。
川に落ちたり、屋根から飛び降りた時にうまく着地できなかったり、持てると思った荷物が持てなかったり──安全な妖精の国で、戦いのない平穏な生活の中で、笑い話で終わる失敗を繰り返して。
もどかしさは当然あっただろうに、カイトは一度も『過去の自分』を追い求めることはなかった。弱くなった自分を自覚して、受け入れて、それでも諦めずに鍛錬を続けてきたカイトを、ユエは尊敬する。
だから二人にとって『弱くなったこと』は禁句でも何でもないのだが、仲間たちの認識は違うことが、腫れ物に触るようなラークとヘロンの反応からもよくわかった。
その誤解を解くには、見せることが一番だろう。
ユエはカイトの手を握る。分厚く、ゴツゴツと鍛えられた手。積み重ねてきた戦いの歴史は無くなっていない。
「みんな、びっくりするだろうね。カイトが一年でこんなに強くなったって知ったら」
「強く、か」
「がんばったもの、ね?」
「……とりあえず、転ばない程度には、な」
少し照れながら謙遜するカイトに、ユエは太鼓判を押す。
「大丈夫!きっとみんなも安心するよ」
ヘイレンからの依頼がなくとも、カイトとユエは近いうちに旅に出るつもりだった。
目的はいくつかあるが、仲間たちにカイトの完全復活を見せて安心してもらうことも、そのひとつ。
ドワーフ王国で純血のドワーフとの折衝役を担うアスカを始め、アスカを補佐するフェザントも、商会に引き抜かれたアイビスも、領兵になったクレインとジェイも、なかなか自由に動けない立場になってしまったため、こちらから出向こうと話し合ったのだ。
「ただ、いきなりもめ事の仲裁となると……戦いの勘はまだまだだからな。剣を抜く前に収められればいいが」
弱気なカイトに、ユエは「任せて!」自分の胸をドン!と叩いてみせる。
「カイトの背中はおれが守るよ!おれも強くなったんだから」
「それは頼もしいな」という言葉をもらって、ユエは得意げな顔を隠さずカイトのひざに登り上がる。背中を支えてくれる腕は、以前と変わらず安心感に満ちている。
たくましい胸にひたいをぐりぐり押しつけると、カイトはユエの髪に指を通してさらっと梳く。カイトだけが切る権利を持っている蒼い髪は、今は短くこざっぱりしている。
「人魚のところへ行くなら、カイトが眠ってる間に知り合った人たちにカイトのこと自慢したいな」
「自慢って……紹介程度にしといてくれ」
「自慢の恋人で、自慢の家族だって言うよ。言いたいの。だってみんな勘違いしてるもの」
「勘違い?」
「ほんとうの救世主はカイトなのに、おれとかばっかり持ち上げられるのはおかしいよ!」
「そんなことないだろう。人魚から仲裁の『ご指名』が来るのは、ユエ自身が信頼を勝ち取ったからだ。アスカやウィノも同じで、だから中立的な仲裁役として頼られている──」
「けど!おれもアスカもウィノもカイトに助けられて今があるんだから、やっぱりカイトのおかげ、でしょう?」
ユエの勢いに押されたカイトは、自慢されることを約束してしまって苦笑いになる。
「あ……でも、あんまりカイトが有名になっちゃうのは困るかも。『ご指名』がカイトにもたくさん来るようになったら、二人の時間が減っちゃう」
そこでユエは気づく。もしかして自分はヘイレンの思惑に乗るところだったのでは、と。
間違いなくヘイレンは、カイトほどの人材を田舎に眠らせておくなんてもったいない、と考えている。
これを機にカイトを表舞台に引っ張り出して、以前のように、ギルドや商会に来る面倒な依頼を押しつけるつもりだ──そう推測したユエは、「あぶない、あぶない……」
「ユエ?」
「ううんっ、なんでもない!でも……やっぱり自慢はほどほどにしておくね」
わざわざカイトの名前を宣伝して『ご指名』を増やしちゃダメだ、とユエは慌てて軌道修正する。ユエの変わり身の早さをカイトはあまり気にしないで、「そうしてくれ」とむしろ歓迎した。
「依頼を済ませたら、まずどこへ行こうか」
カイトは抱えたユエごとからだをベッドに沈ませながら、うきうきした声を隠さず言う。
「『氷の大陸』は?カイト、見てみたいって言ってたでしょう?」
「最初の旅としては、さすがに遠過ぎないか?」
「ん~……じゃあ!大山脈の裏側は?あそこならおれが案内できるし」
「内海があるんだったか?」
「そう!一緒に泳ごうっ」
「いいな、楽しみだ」
この会話ではまるで、旅行のついでに依頼を受けてやろうとでも言いたげだが──それは誤解でも何でもなく、真実、その通り。
二人にとって旅の一番の目的は、こちらなのだ。
──世界を見て回ること。
カイトの好奇心は、己のことを知って全てが解決したからといって消えるようなものではなかった。
新しい世界を自分の目で見たい、行ったことのない土地へ行きたい、知らないことを知りたい──ユエはそれを心配だからと止めるのではなく、一緒に楽しむことにした。
きっと、以前の自分なら止めていた、とユエは思う。
変わったのは、カイトが眠っていた時間と二人きりで過ごしたこの家での一年間があったから。
カイトはちゃんと帰ってきてくれる、という安心感を、「ただいま」と「おかえり」を繰り返してユエに教え込んでくれた。
そうしてユエの中では、心配を安心が上回るようになっていった。
「留守の間、この家の管理はウィノたちに任せるとして……」
「せっかく修理した橋を使う人がいなくなっちゃうけどね」
「まあ、ちょくちょく帰ってこればいいさ」
「だね。おれたちの家はここだもの」
それからカイトにも心境の変化があったようで──。
「『家』は確かにここだが……どこであっても、ユエのいる場所が俺の帰る場所だからな」
もう、『家』という形にはこだわらない。それよりも確かなものが、目には見えなくとも二人の間にはあるのだから。
見つめ合って、キスをして、甘い雰囲気に──なりかけたところでユエが「あっ」と何かを思い出す。
「どうした?」
「待って、待って、今日、まだ言ってないよ!」
「……なにを?」
「『ただいま』と『おかえり』!」
「ああ……ラークたちがいたから」
はい、どうぞ、と待ち構えるユエに、カイトは今さらか?と苦笑いしながらも、欲しい言葉をくれる。
「ただいま、ユエ」
「おかえり!カイト」
「もう、『おやすみ』の時間だけどな」
「じゃあ、ついでにそっちも」
「ついでに、か」
「はい、どうぞ」
「……おやすみ、ユエ」
「おやすみ、カイト」
また一日が終わり、そして明日が来る。
その当たり前の日常に感謝しながら、二人は一緒に目を閉じた。
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縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
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