三鍵の奏者

春澄蒼

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第四章 地下に眠る太陽のカケラ

64 心のカケラ ※

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 いつの間にか、ランタンの火は消えていた。

 月下に浮かぶ白い肌は、唾液で濡れて艶めき、二人が動くたびに陰影が美しく変化する。
 濃密な空気が皮膚にまとわりつき、どこか重苦しく感じるほど。二人分の湿った呼吸音が、さらにこの部屋を秘めていく。

「っ、あぁ!だめ、カイト……!!もっ、ぁ、も……っ!!……っ、あぁ、ぁぁ……!ふぁ……んン……」
 放らつで丸まった躰が、徐々に力を失って開いていく。

 この夜二回目の射精は、カイトの口の中。
 残滓まで吸い出される感覚に、ひくんひくん、と薄い腹部と太ももが痙攣する。

「ぁ、ぁ、」と溢れる口元には、唾液の線が流れ、首筋には無数の紅い跡、ぴんと勃つ乳首は濡れて腫れ、へそには手淫で放った白い粘液が溜まっている。



 ユエの無垢なカラダは、すでにカイトの手によって、奔放に快楽を享受するモノに変わっていた。

 彼によって与えられる全てを、『気持ちいいこと』として受け容れることに、ユエは戸惑いも不安もなかった。

 だが──高まるカラダに置いていかれるように、ココロにはまだ熱が灯らない。




 呼吸を整える間も与えられずに、ユエはすぐに次の波に飲み込まれる。

「あっん!ぁ、だめぇ……!そこっ、あっ、もぉ痛い……っ!」
 紅く色づく種がコリッと歯を立てられて、さらに熟れる。

 口淫の間放置されていた乳首が、待っていたように喜んでじんっ……と頭を痺れさせる。

 まだ自慰を覚えたばかりの躰に、未熟な知識しか持たないユエにとっては、毒にも等しい快楽が溜まり続けていた。

「う、やっ……ぁん……!」
 ぢゅっぅう、と強く吸われた瞬間に、思わずカイトの硬い髪を引っ張ると、お仕置きのように反対の乳首を指でぎりっとつねられた。

「ひっ……あ、やぁ……!いたいっ、やだ、カイトっ!」
 がむしゃらにカイトの顔を手で引きはがすと、あっさりと唇も指も離れていく。

「ふ、え……?」
「……嫌なら、やめるか」
「カイト……?」
「嫌なんだろう?二回もイったんだ。もう、いいだろう」

 そう事務的に言ってカイトは、行為自体を終わらせるつもりなのか、本当に身体を起こしてしまう。



「えっ、や……っ、カイト!やめないで……っ!いやじゃないっから!」
 追いすがったユエは、必死になってカイトの肌に手を這わせて、ちゅ、ちゅ、と首に唇を落とす。

「おい、ユエ……」
「おれっ、今度は、俺がするから……っ、んっんっ、カイトのこと気持ちよく──」

 自分がしてもらったことを思い出しながら、ユエは愛撫を施すが、たどたどしい手つきでは、カイトの余裕を奪うことなどできない。

 そこには経験の差だけではなく、気持ちの差が感じられて、ユエの眉が下がっていく。

「ユエ、もう終わり──」「いや……っ」
 わがままな子どもをあやすような言い方に、ユエは涙を溜めてかぶりを振る。

「やだ……ちゃんと最後まで、して……」
「最後、って……」
「いれる、んでしょう……?」
「ユ、エ……」
「カイトが教えてくれた、男同士の交尾……その、お、しりに……」


 カイトから聞き及んだ知識しか持たないユエは、禁忌タブー感が薄い。それでもさすがに、目を伏せて羞恥心を見せる。

 恥じらいが、ユエの色気を匂い立たせる。

 だがカイトは「……べつに、そこまでしなくてもいい」と素っ気なく跳ねのける。

「……カイトは、いや……?」
「……必ずしも、挿入しないといけないことはない」
「したくない……?」

 目を逸らすカイトを、ユエは逃さない。涙は溢れ、自信なく声は震えているのに、卑屈には見えない。むしろ──

「おれ、してほしい……」
「ユエ──」
「カイトが嫌じゃない、なら……い、れて……」

 眩しいほどに潔く、カイトの目を射った。

「俺ばっかり気持ちいいだけじゃ、やだよ……俺もカイトのこと、気持ちよくしたい……っ!」
「……やめとけ。……後悔、することになるぞ」
「後悔……それは、俺が?それとも……カイトが?」
 核心を突く言葉に、カイトの宵闇の瞳が揺らぐ。

 それを真っ直ぐに見つめ返すユエを、カイトはもう子ども扱いできない。
「俺は後悔しないよ。カイトが初めてなら、後悔しない……俺の『最初』はぜんぶ、カイトがいい……」



***
 カイトはユエの覚悟を甘く見ていた。
 少し追い詰めれば、すぐに逃げ出すだろう、と。

 だから能動的な奉仕はさせないで、ユエの快楽を引き出すだけで、終わらせるつもりだったのだ。
 そしてそれには、自制の意味もあった。

 ことを避けるために──。


「くっ……!」
 両手で陰茎を支え、舌を伸ばして唾液をまぶせながら、上目遣いに見るユエ──視界を占める光景に、カイトの腰が勝手に揺れる。


 遠い過去に置いてきたはずの、男の本能が甦る。
 ──ただ出すだけでは足りない。熱い粘膜に包まれて、腰を打ちつけて、啼かせて請わせて、ナカに……────。


 カイトの鋼の自制心をここまで壊すことができたのは、ユエだからこそ。カイトにとってユエは、間違いなく『特別』だった。

 だが、それを『恋』や『愛』だと認めることは、カイトにはできない。自覚してしまえば──カイトは、ユエと離れる決断をしなくてはならなくなる。


 これは『性欲』だと、カイトは自分に言い聞かせる。
 勃ってしまったものは、どうにかしなければいけない。そしてユエも望んでいることだ。ちょうどいいから、二人の欲求を同時に満たせばいい。それだけのこと……──。



***
 ユエはカイトのそこに触れることに、全く嫌悪感はなかった。
 それどころか────


「す、ごぃ、あっ……かたくて、は、あ……ごつごつして……」
 浮き出た隆起を指でなぞり──

「カイト、気持ちい……?あっ、ん……もっとおおきくなった……」
 ぐぐっ……と体積が増すのを喜び──

「ね、……舐めても、いい……?」
 はぁ……と、薄く開いた唇の隙間から赤い舌で誘い、自分から口を寄せたのだった。


「う、ん……ンっぁー……」
 あぐらをかいたカイトの膝の上に、ユエは横向きに身を伏せている。

 くらくらとした酩酊の中のユエは、隆起に舌を這わせては、滲んでくる体液をちゅうちゅうと吸って、自分の中にカイトのモノが侵ってくる感覚にさらに酔わされていた。

「んっんっ!ンふ、んー……っ」ユエは初めての口淫に夢中になっていたが、「あっぅん!!」

 カイトの手が伸びる、丸みを帯びた双丘──そのあわいから駆け登った、ぞわっという震えに、唇から陰茎が飛び出した。


 最初、カイトの指は、遠慮がちに表面をなぞっていた。だが、ユエの前から伝った体液でぬかるんでいたそこは、カイトの指を歓迎するように、すぐに馴染んでいった。

 くんっ、と指の腹で圧されて道を開き、ぬぬ、と潜り込んだ中指に絡みついて、今では二本を飲み込んでいる。

「ふぁンっ……!んっふ、あっあっ」
 ユエの背筋を震えさせる場所を、カイトの指がもう一度かすめる。

「あーっ、あんっ……カイト、そこぉ……っ」
 確かめるような動きから、今度は明確な意思を持って、ユエを翻弄する。


 とろとろと溢れるユエのモノと、カイトが自分の指にまぶせた唾液が、ちゅっ、くちゅっ、と中で混ざり合う音が絶えない。

「んっ、んー……ぷ、ぁ……っ、ふっ、ンー……」
 舌を伸ばして擦りつけるだけで精一杯になったユエから、カイトは己の怒張を取り戻して、自分で扱き始めた。

「や、ぁ……ん、カイト……っ」
「舌、出せ。それでここを──」
「うんっ、ん……っ、はぁ……ン……」

 押し当てられるモノを、とにかく舐めて吸っていたユエは、「……っ、は」いきなり濃くなったカイトの匂いに、「ぁ、あ……」腰が崩れ落ちる。

「ユエ、腰をこっちに……」「んー……」「もっと、高く」

 うつ伏せにさせたユエの双丘に、カイトは自分の手に放った白濁を塗りつける。
 滑りを増した指が、隘路を広げるために何度も何度も────。


 それが、どれくらい続いたのか──後ろの感覚がなくなるほどの準備に、ユエは「かいと、カイト……」名前を呼んで懇願する。

「もぅそこ、へんっ……!へん、なる……っ、カイトぉ……!」
「……まだ、無理だ」
「やっ、もぉいれて……!もっ、いい、から……っ!」

 くたり、と力の入らない身体を、何とか裏返して、ユエは手を伸ばしてカイトを呼ぶ。
 腕を引いて、開いた脚の間に招き入れ、顔を引き寄せて、鼻が触れる距離で見つめ合う。

「……ユエ──」「すき」
 ユエはその一言で、カイトの最後の逡巡を打ち消した。

「カイト、すき……好き……っ」
「……息を、止めるな」
「っ、うん、う……あっーーーっ……!」

 ユエの心も身体も、素直にカイトを受け入れる。ユエが身構えていなかったからか、しつこいくらいの準備のおかげか、あまり抵抗もなく一番太い部分を飲み込んだ。


「あっあっ!」
 ユエの呼吸に合わせて、ジリジリと進められた腰は、半分ほどが埋まったところで止められる。

「ユエ……大丈夫、か?」
「うっん、へいき……あ、入ってる、の……?」
「っ、ああ」
「ふぁ……っ、すごい……」

 繋がったところに目を落としたユエは、「ほんとうだ……うれ、しい……」てらいもなく喜びを伝える。

「お、前……」カイトは思わず言いかけた言葉の代わりに、優しい手つきで乱れたユエの髪を梳いた。

 淫靡なはずのこの時に似つかわしくない、静かで柔らかな時間──だがそれも、長くは続かない。


 視線を交わしたまま、カイトは揺するように腰を動かし始める。
「あっ、あっあっ……」

 ユエの喘ぎの中に、くちゅくちゅ、と混ざった水音が、高くなる声に応じて粘度を増していく。

「カイト、きもちい……っ、あっ、も……!」
「っ、出そう、か?」
「うんっ、ぅン……っ!……っ、あーっ!!」

 激しい手淫に導かれ、ユエはひときわ大きく鳴いて、びくん、びくん、と身体を痙攣させる。

「……っ、く……」
 まだ白濁を零し続けるユエのそこに、カイトは窄まりから引き抜いた自らを押しつけて、断続的に熱を放出した。

「ぁ……ん、あつい……」
 自分の下腹に溜まった白濁を、ユエは手の平で塗り広げるように確かめる。

 その仕草に煽られて、カイトのモノにまた、グググっと血がたぎり、それを見たユエの腰がねだるように揺れ────。

 長い、初めての夜は、まだ始まったばかり。



******
 侍女に起こされた時、すでに日は昇りきっていた。
 乱れた寝台に横たわる淫れたユエを見ても、彼女は眉ひとつ動かさない。有無を言わさず、湯浴みと着替えを命じられると、移動を急かされた。

 今になってカイトは、昨夜の自分はどうかしていた、と頭を抱えたくなっている。

 ここは王女の別邸で、自分たちはただの客人。ここへユエが押しかけただけでもかなりの不敬なのに、その上、王女を待たせてしていたことが、男同士の性交だ。それも、一晩中──。


 不敬罪で斬り捨てられてもおかしくない場面なのだが……それに反して、屋敷の中は妙に浮かれた空気が漂っている。

 腰の立たないユエと、それを支えながら歩くカイト──侍女たちはその姿を、無表情を取り繕いながらも興味津々と目を輝かせて見送る。

 その奇妙な視線が理解できないカイトは、珍しくユエに助けを求めたが……ユエはまだ余韻が残る身体を持て余して、周囲など目にも入っていない。カイトと目が合ったことが嬉しくて、ただはにかんだだけだった。

 ユエの鈍感さに、カイトは呆れを通り越して、心強さを感じるほどだ。

 二人は共犯者として、王女に立ち向かわなければならなくなってしまったことで、気まずさを感じる暇もなくなっていた。



 二人を見世物のように並べた王女もまた、侍女たちと同じキラキラとした目を向けるから、さすがのカイトもどう切り出すのが正解なのか全く読めない。

「……殿下、申し訳──」
 とりあえず謝罪しておこうとしたが、

「構わん。お前たちの事情は聞いた」
 王女はそれを遮って、愉しそうに目を輝かせた。

『事情』?カイトが聞き返す前に、王女は勝手に話を進めていく。


「わたしにできることを考えてな。──これを」
 差し出されたのは、漆塗りの木箱だ。

 受け取っていいものか、カイトは一瞬考えたが、中身を見ないことには断ることもできない、と手を伸ばす。

 ぎゅっと腕に絡みつくユエをそのままに、受け取ったカイトが蓋を開けると──
「これ、は……」

 絶句するカイトに、王女は得意顔で微笑みを向ける。
「お前たちの仲を、わたしが認めたという証だ」

 訳が分からず、思わずユエと顔を見合わせる。そんな二人を見つめる王女は、どこか恍惚としていた。

「反対する者がいたら、これを示して言ってやれ。『ヴェルドットの王女シンシアが、二人の愛を認めた証としてこれを与えた』と」

 カイトは手の上に転がり込んだ目的の品に、狼狽を隠して目を落とす。
 チリッと弾ける紅が輝きを放つ様は、確かに『太陽のカケラ』と呼ばれるに相応しいものだった。



******
 怒涛の展開に茫然としていた二人は、気がついたら商会の馬車に揺られていた。
 そして屋敷が見えなくなったところで、カイトは木箱を取り出して「どうなっている?」と、迎えの使者に問い質す。

 商会の幹部──ベレン卿の館に使者として訪れたのも、昨日、ユエを送り届けたのも、この男だ──はカイトの剣幕にも動じずに、特徴のない声で語り始める。


「シンシア王女はこれを、ある人物からローサ姫に贈られた愛の証だと思っているのです。その人物は、この国の建国に陰ながら貢献した男だと言われています。むろん、建国史には載っていませんがね」

 面食らったカイトに代わって、ユエが「それって、ローサ姫の日記に書かれてた……?」と思い出すと、幹部の男は肯定し、

「そしてさらにその男性、実は初代ヴェルドット王ローランドの想い人であった──」「なんだそれは」「と、シンシア王女は思い込んでいるのです」

 カイトにツッコミを挟まれても、淡々とした声音は変わらない。

「王女は禁断の恋というものが、お好きなようです。特に……男同士、という関係が……──彼女だけでなく、最近では高貴な女性たちの間での流行りらしいですよ、男同士の恋愛物語」

 知らない世界の話に、カイトとユエは困惑を隠せない。


「特に人気なのが、ローランド王とその謎の人物の恋愛譚です。男同士に加えて、王と得体の知れない男という、身分違い。さらにローサ姫とローランド王が恋敵であるという、三角関係──なかなか劇的な物語に仕上がっています」

「……まるで読んだことがあるような口ぶりだな?」
「はい、読みました」
 さらっと言い放った男に、カイトは得体の知れないものを見るような目を向ける。

 とは言えこの男にとっては、それは仕事──商会の勢力を広げるための調査の一環だ。商会では本も扱うから、この国の流行を把握することは重要なのだ。


「……もしかして、王女様の『憧れの君』って……」
「ええ、その物語のローランド王のお相手の男性です」
 ユエの質問は、カイトには寝耳に水だったが、次の説明で謎がほとんど解明される。


「私が見せていただいた本には、挿絵がありましてね。その謎の人物は、こんな外見で描かれていました。──黒髪黒目、ローランド王より高い背丈、整った顔立ちと鍛えられた体躯、佩剣した傭兵──」

「あぁ……」
 ユエが納得してカイトを見ると、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「つまり王女は、カイト殿をその人物に重ねていたのですね。だから一目で気に入った。そしてそこに──男の恋人の登場」
「……っ!!」
「ユエ殿は高貴な家柄で、傭兵の、それも男との交際など言語道断!反対にあって離れ離れになったお二人……しかしユエ殿は愛しい人を追って……──と、事情を話したところ、王女はいたく同情してくださり、『何か援助を』と仰ってくださったので」

「……そんな作り話で、この紅光石を持ち出させるとは……詐欺師になれるな」

 全てはヘイレンの掌の上だったことに、カイトは憤まんやる方ない。

 さらに「そのうち、お二人のことも物語になるかもしれませんねぇ」という、からかいなのか本気なのか読めない言葉に、カイトの目はいっそう鋭くなる。

「……王女はこれを俺たちに贈ったんだ。ドワーフ国王が持っているところを見られたら、マズいんじゃないのか?」
「王女は近々、他国に嫁ぐことが決まっております。ドワーフ王国の情報は届かなくなることでしょう」

 カイトの最後の悪あがきも通じずに、紅光石はドワーフ王国に返却されるため、商会の手に奪われていった。




******
 ────時は遡り、アスカ村にて。

 ユエを部下に預けたヘイレンが、一足先にフェザントと共に戻って来たところを、アイビスが捕まえる。

「お前……何がしたいんだ?」
「うん?抽象的な質問だな」
「はぐらかすな!ユエをわざと煽って……最初から、ユエの行動は、お前の中では織り込み済みだったんだろう?」

 今回、ヘイレンと行動を共にすることが多かったアイビスは、この男の違和感をずっと感じていた。

「言ったろう?俺はただ、穏便に紅光石を取り戻したいだけさ」
 ニヤリと笑うヘイレンに、アイビスは攻め方を変える。

「お前なら、今回の騒動をもっと楽に収められたんじゃないのか?」
「うん?」
「ずっと違和感があった。なんだか……お前はわざわざ、回りくどいやり方を選んでいたんじゃないか……?って」

 交渉術、人心掌握、資金力に情報力──ヴァンダイン商会を仕切るヘイレンの能力を、アイビスは間近で見せつけられた。
 そしてそれを最大限に発揮すれば、それこそ一国を動かすことも容易なように、アイビスの目には写った。

 ヘイレンが一行に協力を要請したのは、何かウラがあるのではないか……?
 深読みするアイビスに、ヘイレンは思わぬ無防備な表情を見せる。


「あんま過大評価されても困るぜ。俺はただ……カイトの仲間に入ってみたかっただけなんだから」
「……はぁ?」
「これでも俺は、カイトのことすっげぇ気に入ってるんだぜ?だからあいつの仲間にも興味があったし、俺も混ぜて欲しかったのさ」
「…………子どもか!」

 アイビスの渾身のツッコミに、ケラケラと笑うヘイレン。本音でしかないそれも、どこか嘘っぽく見せてしまう。


「……ユエに、何をさせるつもりなんだ?」
 答えはないだろうと半ば諦めて出した、グチ混じりの質問だったが、予想外に即答が返る。
「重石さ」
「は?」
「カイトを捕まえておくための、重石になってもらおうと思って」

 また訳の分からないことを……と、睨みつけようとしたアイビスの目に、表情を一変させたヘイレンが突き刺さる。

「カイトはユエの告白を『こんな時に、くだらない』と言ったが……案外『愛』ってやつが、世界を、人を動かしてるんだよな」

 臭いセリフに似合わない深刻な表情が、アイビスに言いようのない不安をもたらす。

「ユエなら、カイトを救えるかもしれない」

 ポツリと零れ落ちた言葉が、風に乗って流れていった。



******
 ──同じ頃、世界を揺るがせる一大事が、教会の総本山で起きていた。

 一見、色も形もバラバラに見えていた欠片ピースが組み合わさって、ひとつの絵になっていく。
 カイトを中心として形作られる絵に、またひとつ、新たな欠片ピースが姿を現したのだ。


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