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3.可愛い私の相棒

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 家には沢山の動物がいました。
 犬や猫、鳥に魚──後はリスなんかも飼っていましたよ。
 残念ながらリスさんは一週間もしない内に外へと旅に出たきり戻っては来ませんでしたが……幸せに生きた事を願うばかりです。
 私には大好きな相棒が居て、名前をバッツといいました。とても賢く優しいハスキー犬で、絶対に人を噛んだりしない子でした。
 私によく懐いてくれて、お世話係もバッツだけは私が全てを担当していたと思います。
 黒い毛並みが綺麗で、太陽に照らされて輝く色素の薄い瞳も宝石のよう──ぴんと立ったお耳は何とも可愛らしいし、時折小首を傾げたり眉を動かしたり、とても表情が豊かでした。
 そして何より私が好きだったのはバッツの特技。
 バッツは夕方になると「おかーさーん」と鳴くんです。実際はもっと犬らしい「おわーわーん」のような感じでしたが。
 私が毎日そうやって母を呼んでいたのを聞いていたんですね。私の声に合わせてそうやって鳴いたり、私を呼ぶときなんかもしていたように思います。
 それを聞くと私はとってもおかしくなって、いつも笑っていました。とても芸達者な私の相棒です。

 私の心を作る、大切な支柱でもありました。
 
 でも、そんな大切な相棒を殺したのは私なんです。他ならないこの私が殺した。バッツを、大切なバッツを。
 バッツは餓死しました。
 いいえ、実際に死体を見た訳ではないんです。後で兄から言われたんです、「お前のせいで死んでいたぞ」と。
 私はある時からバッツに会いにいかなくなりました。
 小さな私はそのせいでバッツが死ぬなんて、これっぽっちも考えていなかった。頭がそこまで回っていなかったんです。
 教えられたのは痩せ細って死んでいたバッツが、近くの山に埋葬されて少し経った後でした。

 私ね、どうしても許せない人が居るんです。
 私、毎日バッツとお話するのが大好きでした。きっと言っている事は分からなくても、たまに鳴いて返してくれるのが嬉しくてよく話しかけていたんです。
 ご飯美味しい? とか、会いに来たよ、とか。小さな私はそんな事だけでも幸せをいっぱいに感じていました。
 そうやって話しかけていた時、気がつけば男の子が近くに立っていました。
 顔に見覚えはありました、確かお姉ちゃんの同級生の男の子だ。たまに遊んでいるのを見かける程度で、話したこともないので緊張しましたが「なんですか」のような事を聞いたと思います。
 彼はお姉ちゃんを探している、と返しました。
 また遊ぶんだと思って快諾しました。お姉ちゃんに伝えに行ってそれからまたバッツと遊びました。

 その日の夜、だったと思います。
 一人で部屋で遊んでいるとお姉ちゃんに話しかけられました。
 「もしかしてバッツに話しかけたりした?」と。
 私は頷きました。それがどうしたのという気持ちでした。
 その先に言われた事は今でも忘れる事が出来ません。そのせいで私はバッツに会いに行けなくなってしまったのですから。
 「それ見たあいつが“お前の妹頭おかしいんじゃないか”って言ってた」とお姉ちゃんが言いました。私は頭を鈍器で殴られたような、そんな衝撃がありました。
 どうしてそんな事を言われないといけないんだろうと怒りも覚えました。見ず知らずの他人なのに、どうしてと。
 私はそれから、頭がおかしいと言われたショックで、バッツに会いに行く事が出来なくなりました。小さな子供にはあまりにもショックな言葉でした。
 頭の中でぐるぐると回るその言葉から逃げるように耳を塞ぎ、布団にこもりました。初めて赤の他人から私を否定された瞬間でした。

 実を言うとね、そこからの記憶はないんです。
 気がつけばバッツは死んでいて、私が殺したと言われた。
 それまでずっと一緒だったのに呆気なく居なくなってしまった。
 私が殺したんです、バッツを。
 兄には「なんで餌あげなかったの」と言いました。だって他にも沢山犬は居て、餌だってあげていたはずだから。
 でも「バッツの餌やりはお前だろ」と言われて何も言えませんでした。本当にその通りだと思いました。

 毎日泣いて暮らしたのか、ぼんやりと過ごしたのか、今ではそれすら思い出せないんです。
 ただ胸に残るのはバッツを殺してしまった自分への呪いと──ねえ、さとし君。私に頭がおかしいと言ったあなたへの怒りだけです。
 責任転嫁するつもりはありません、バッツが死んだのは他ならない私の責任です。
 でもね、どうしても私はあなたを許せない。
 そんな事、覚えてもいないでしょう。幸せな顔をして家庭をもって、子を作り、親になっているあなたがとてつもなく憎たらしい。
 
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