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はじめての、
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夢も見ないほどぐっすり眠っていた。
肩を乱暴に揺らされ、重い瞼をあげる。
「私はこれでもお前を厳しく躾けてきたつもりだったのだが、どうやら甘かったようだな」 「よ、し……さまっ」
声が掠れる。義隆さまが怒りをにじませた声とは裏腹に、微笑んで私を見下ろした。
「言い付けを破って、バイブでイクのは気持ちよかったか?」
手首と足首と、つながった拘束具の鍵が外され、手足が自由になったのに指一つ動かせない。
口を開いても、声がでない。
「お前の堪え性のないペニスを、罰してやらないとな」
義隆さまが、枕元の机の二段目の引き出しを開け、細長い紐状の鞭を取り出した。
「こちらを向き足を開いて、両手で膝を抱えろ」 「ご、ごめんな、さ…っ」
「黙って、足を開け」
鞭が私に向かって勢いよく振り下ろされ、バシィッと反射的に顔をかばった右腕と額に鋭い痛みが走る。
こんな鞭で、打たれたら…。
息が浅くなる。
それでも義隆さまを前にして、反抗することなど許されない。
私はそろそろと膝裏をつかんで両足を開いた。
全身が震える。
バシィイインッ!!と、振り下ろされる鞭。
「ひぃぁあああっっ」
叫びが喉を突き破る。背中が反り返って、頭が真っ白になる。
「ごめんなさいぃっごめんなさぁいっっっ」
1打で、汗も涙も飛び散る。それでも義隆さまはもう一度鞭を振り上げる。
「や、あぁぁっ……っ!!」
目がチカチカする。
義隆さまが3打目を振り上げる。
その瞬間、電話のベルの音が鳴り響いた。
義隆さまは不機嫌そうに顔を歪めて、鞭を下ろし受話器を取った。
私は足を支える力も尽きて、ベッドの上で涙をぼろぼろ流しながらうずくまった。
「電話はかけるなと言っておいただろう」
義隆さまの低い声が聞こえてくる。
しばらく相手が話している沈黙が続いたかと思うと、義隆さまは何も言わずに電話を切った。
私は慌てて、元の体勢に戻ろうと身体を起こしたが、義隆さまは私に見向きもせず、そのまま鞭を放って、急ぎ足で寝室を出て行った。
残された私は、どうすればいいのか分からずに、ただ涙を拭った。
義隆さまが帰ってきたら、あと何回打たれるのだろう。
そう考えると床に転がっている鞭をいますぐ窓から放り投げたくなる。
そんなこと、絶対に出来ないけれど。
それからどれくらいの時間が経ったのか、寝室の扉が開く音に身体が緊張する。
けれど扉を開けて入ってきたのは、義隆さま…ではなく焦げ茶色のコートを着た優太さまだった。
「ゆ、ゆうた、さま……っ?」
なんで。なんで、ここに優太さま、が。
優太さまは私の元へ走り寄ってくる。
いや、だ。
イヤだ、こんな姿を見られたくない。
ベッドの上で、後ずさりした私を、優太さまの両腕が勢いよく引き寄せる。
ぎゅっ、と苦しいくらいに優太さまの胸に身体が押し付けられる。
「章人」
いつもの優太さまの声。
昼間なんども、頭の中で聞こえていた声。
優しくて柔らかくてなによりも甘い優太さまの声。
「章人、急にいなくなったりしたら、心配するでしょう」
まるで、迷子になった子供を叱るような口調で、優太さまが囁く。
「ゆう、た…さま……っ」
苦しいくらいに抱きしめられていた腕が解けて、顔を向き合わせる。
優太さまの黒い瞳が、潤んでいた。
「章人、見つかって、よかった」 「……な、んで、ここ、に…?」
優太さまはまるで涙がこぼれるのを我慢するように、一度瞼を閉じて、また開いた。
「朝、起きたら……章人が突然いなくなってて、訳も分からないまま……代わりの個人秘書を派遣しますと電話があって。そんなの、受け入れられるわけ、ない、でしょ……。そんな、いきなり」
ぽつりぽつりと、優太さまが喋る。
「代わりの個人秘書なんか、いらないから章人と直接話したいって、何度も言ったけど、受入れてもらえなくて……。本社ビルまで行ったけど、謝られるばかりで話にならない。それで……もしかしたら章人は、社長さんの家にいるんじゃないかと思って。どうしたの、章人何があったの…? 僕の個人秘書を辞めるというのは、章人の意思? 僕の何がいけなかったの?」
優太さまが私の肩をつかんで、口調は優しく私を問い詰める。
「そんな、そんな優太さまは、なにも…っ」
優太さまにそんな誤解を与えるつもりはなかった。
「全て、私が悪いだけなんです」 「悪い、ってなにが? なんで……本当に辞めるつもりなら、全部、正直に、話して」
優太さまの黒い瞳で見つめられたら……心の奥へとしまい込んだ思いがあふれてしまう。
「個人秘書は……どんなときでも、ご主人様の命令を一番に、自分の感情などなくすことが、最も大事なことなんです。それなのに、私は優太さまのそばにいると、自分の感情が…コントロールできなく、なってしまいました……。そんな自分が恐い。優太さまの側にいるのが、恐くて、触れられるのが恐くて……でも本当は、誰よりも側にいてほしい。私だけを見て、私だけに触れていてほしい……」
両手が震える。
こんな、気持ちは、初めてだ。
必死に繋ぎ止めていたものが、壊れて、ぐちゃぐちゃになって、汚れた自分を晒してしまうのが恐かった。
口にしたら、自分が壊れてしまうんじゃないかと思っていた。
優太さまは私を見つめて固まったまま動かない。
「私は…優太さまが好きになってしまったんです」
「あきひと」
瞬きを、する間も無く、優太さまの唇が私の唇に重なる。
息が止まる。優太さまの睫毛が見える。
触れるだけの、優しいキス。
優太さまとの、はじめてのキス。
「僕も…章人が好きだよ。だからずっと側にいて。勝手に、いなくなったりしないで」
優太さまの睫毛を濡らす涙が、宝石みたいに輝いている。
「優太さ…ま……」
私はその涙の粒を見つめながら、時間が止まってしまえばいいのに、と思った。
肩を乱暴に揺らされ、重い瞼をあげる。
「私はこれでもお前を厳しく躾けてきたつもりだったのだが、どうやら甘かったようだな」 「よ、し……さまっ」
声が掠れる。義隆さまが怒りをにじませた声とは裏腹に、微笑んで私を見下ろした。
「言い付けを破って、バイブでイクのは気持ちよかったか?」
手首と足首と、つながった拘束具の鍵が外され、手足が自由になったのに指一つ動かせない。
口を開いても、声がでない。
「お前の堪え性のないペニスを、罰してやらないとな」
義隆さまが、枕元の机の二段目の引き出しを開け、細長い紐状の鞭を取り出した。
「こちらを向き足を開いて、両手で膝を抱えろ」 「ご、ごめんな、さ…っ」
「黙って、足を開け」
鞭が私に向かって勢いよく振り下ろされ、バシィッと反射的に顔をかばった右腕と額に鋭い痛みが走る。
こんな鞭で、打たれたら…。
息が浅くなる。
それでも義隆さまを前にして、反抗することなど許されない。
私はそろそろと膝裏をつかんで両足を開いた。
全身が震える。
バシィイインッ!!と、振り下ろされる鞭。
「ひぃぁあああっっ」
叫びが喉を突き破る。背中が反り返って、頭が真っ白になる。
「ごめんなさいぃっごめんなさぁいっっっ」
1打で、汗も涙も飛び散る。それでも義隆さまはもう一度鞭を振り上げる。
「や、あぁぁっ……っ!!」
目がチカチカする。
義隆さまが3打目を振り上げる。
その瞬間、電話のベルの音が鳴り響いた。
義隆さまは不機嫌そうに顔を歪めて、鞭を下ろし受話器を取った。
私は足を支える力も尽きて、ベッドの上で涙をぼろぼろ流しながらうずくまった。
「電話はかけるなと言っておいただろう」
義隆さまの低い声が聞こえてくる。
しばらく相手が話している沈黙が続いたかと思うと、義隆さまは何も言わずに電話を切った。
私は慌てて、元の体勢に戻ろうと身体を起こしたが、義隆さまは私に見向きもせず、そのまま鞭を放って、急ぎ足で寝室を出て行った。
残された私は、どうすればいいのか分からずに、ただ涙を拭った。
義隆さまが帰ってきたら、あと何回打たれるのだろう。
そう考えると床に転がっている鞭をいますぐ窓から放り投げたくなる。
そんなこと、絶対に出来ないけれど。
それからどれくらいの時間が経ったのか、寝室の扉が開く音に身体が緊張する。
けれど扉を開けて入ってきたのは、義隆さま…ではなく焦げ茶色のコートを着た優太さまだった。
「ゆ、ゆうた、さま……っ?」
なんで。なんで、ここに優太さま、が。
優太さまは私の元へ走り寄ってくる。
いや、だ。
イヤだ、こんな姿を見られたくない。
ベッドの上で、後ずさりした私を、優太さまの両腕が勢いよく引き寄せる。
ぎゅっ、と苦しいくらいに優太さまの胸に身体が押し付けられる。
「章人」
いつもの優太さまの声。
昼間なんども、頭の中で聞こえていた声。
優しくて柔らかくてなによりも甘い優太さまの声。
「章人、急にいなくなったりしたら、心配するでしょう」
まるで、迷子になった子供を叱るような口調で、優太さまが囁く。
「ゆう、た…さま……っ」
苦しいくらいに抱きしめられていた腕が解けて、顔を向き合わせる。
優太さまの黒い瞳が、潤んでいた。
「章人、見つかって、よかった」 「……な、んで、ここ、に…?」
優太さまはまるで涙がこぼれるのを我慢するように、一度瞼を閉じて、また開いた。
「朝、起きたら……章人が突然いなくなってて、訳も分からないまま……代わりの個人秘書を派遣しますと電話があって。そんなの、受け入れられるわけ、ない、でしょ……。そんな、いきなり」
ぽつりぽつりと、優太さまが喋る。
「代わりの個人秘書なんか、いらないから章人と直接話したいって、何度も言ったけど、受入れてもらえなくて……。本社ビルまで行ったけど、謝られるばかりで話にならない。それで……もしかしたら章人は、社長さんの家にいるんじゃないかと思って。どうしたの、章人何があったの…? 僕の個人秘書を辞めるというのは、章人の意思? 僕の何がいけなかったの?」
優太さまが私の肩をつかんで、口調は優しく私を問い詰める。
「そんな、そんな優太さまは、なにも…っ」
優太さまにそんな誤解を与えるつもりはなかった。
「全て、私が悪いだけなんです」 「悪い、ってなにが? なんで……本当に辞めるつもりなら、全部、正直に、話して」
優太さまの黒い瞳で見つめられたら……心の奥へとしまい込んだ思いがあふれてしまう。
「個人秘書は……どんなときでも、ご主人様の命令を一番に、自分の感情などなくすことが、最も大事なことなんです。それなのに、私は優太さまのそばにいると、自分の感情が…コントロールできなく、なってしまいました……。そんな自分が恐い。優太さまの側にいるのが、恐くて、触れられるのが恐くて……でも本当は、誰よりも側にいてほしい。私だけを見て、私だけに触れていてほしい……」
両手が震える。
こんな、気持ちは、初めてだ。
必死に繋ぎ止めていたものが、壊れて、ぐちゃぐちゃになって、汚れた自分を晒してしまうのが恐かった。
口にしたら、自分が壊れてしまうんじゃないかと思っていた。
優太さまは私を見つめて固まったまま動かない。
「私は…優太さまが好きになってしまったんです」
「あきひと」
瞬きを、する間も無く、優太さまの唇が私の唇に重なる。
息が止まる。優太さまの睫毛が見える。
触れるだけの、優しいキス。
優太さまとの、はじめてのキス。
「僕も…章人が好きだよ。だからずっと側にいて。勝手に、いなくなったりしないで」
優太さまの睫毛を濡らす涙が、宝石みたいに輝いている。
「優太さ…ま……」
私はその涙の粒を見つめながら、時間が止まってしまえばいいのに、と思った。
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