きつく縛って、キスをして【2】

青森ほたる

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反省は態度で

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「千尋さん、俊光様はお待ちですよ」

土曜の夜、佐久間さんの運転で連れてこられた俊光様のマンションの駐車場で、後部座席の扉をあけた佐久間さんは私がなかなかおりようとしないのでそう声をかけてきた。

「はい………」

私は、すぅっと息を吐いて、震える足に力をいれて車から降り立つ。

実のところ例の飲み会の日から、俊光様とはほとんど顔を合わせていない。たまたま私のこなしていた仕事に、俊光様と直接やりとりが必要な事案がなかったのもあるし、なにより俊光様が忙しくしていて、先週の土日なんてずっと出社されていたそうだ。

今日の土曜だって無理やり時間をつくったのではないか。

私を叱るために、わざわざ??
そんな時間を過ごすくらいなら、もっと二人でいろいろ……いや、こういう考えもまた反省していないといわれる原因なのかもしれない。

ぶんぶんと強く首をふる私と、無言の佐久間さんをのせたエレベーターが最上階に到着し、ふわふわの絨毯生地の廊下をすすんで俊光様の部屋の前につく。

私がおずおずとドアベルに手をのばすより先に、佐久間さんが容赦無くベルを鳴らし「では、私はこれで失礼します」と、颯爽と隣の部屋へと歩き去っていく。

一人きりになった私が、ぐっと唾をのみこんだとき、目の前で扉が開いて俊光様が立っていた。

「入れ」

俊光様はスーツをかっちりと着込んでいて、やはり今日も仕事だったようだ。

「失礼します」

つい頭をさげながら、部屋にあがる。私がついてくるか確認もせず、まっすぐにリビングに向かう俊光様の背中を追いかけた。

「座れ」

ソファを指し示されて、私は俊光様とガラスのローテーブルをはさんで向かい合うように腰掛けた。

なんだか面談でも始まるような謎の座席位置は、とても居心地が悪い。私はそわそわとした気持ちを押さえ込むようにして、ソファの上にちいさくなって座っていた。

俊光様がかたわらから角2の大きな封筒を取り出してローテーブルの上を滑らせてこちらへ寄越し、目で開けろと指示してくる。

なにが入っているのか全く想像ができず、開いた封筒のなかからでてきた紙の束に、私は予想外の方向から殴られたような衝撃声もでなかった。

封筒のなかには、あの例の飲み会に参加していた人たち全員の顔写真と、履歴書のようなプロフィールが入っていた。

あの小一時間で、初対面だった人たち。私はもう顔も名前を若干忘れかけていた人たちだったが、確実に全員の個人情報がそこにそろっていた。

ざっと血の気が引いて、心臓がばくばくいっている。どうやって調べたのだろう。それは、飲み会に参加していたのは、全員うちの社員だったから社長の俊光様が調べようと思えば簡単に調べられる人たちだ。

「こ、これ……あの日の……」
「先週の水曜日、お前が参加したコンパの参加メンバーだな?」
「え、あ、あの、この人たちは、なにも悪くないんですっ!!!!」

個人情報一式を握りしめながら主張する私に、俊光様が「そんなことはわかっている」とかぶせてくる。

「なにを勘違いしているのか知らないが、これはただの確認だ。こいつらを、どうこうしようというわけではない。私が怒っているのは、恋人がいながら男女の出会いを目的とした飲み会に黙って参加するような奴に対してだけだ」

後半にかけて徐々に俊光様の声に怒りがこもりはじめるのを察知して、私はますます姿勢を正して叫ぶ。

「わ、わ、わかっています!!!!」

「なにが、わかってるんだ?」
俊光様が呆れたように眉をひそめる。

「俊光様が怒っていること……俊光様に黙って、し、知らない人がいる飲み会に軽々しく参加したこと。わ、悪いことをしたとわかっているんです」

「それ、で?」

う……、こわい。こわいけど、ちゃんと伝えないと。私が今日までいかに反省しているか伝えるために考えてきたことを。

「こ、こんなことは二度としません。知らない人たちの飲み会なんて参加しません。誰かと出かけるときは俊光様に報告します。この人たちとも今後一切関わらず、連絡もとることもしません。今回のこと、本当にごめんなさい……。そ、それで、わ、悪いことをしたので……」

私はそこでソファから立ち上がる。無言で私を見つめている俊光様の目の前で、私は自分のズボンに手をかけて思いきって勢いよく下着と一緒におろす。

「あの、反省するために……、じ、自分でお仕置きしてきました」

真後ろをむいてシャツをたくしあげ、俊光様にお尻を晒す。

「毎日、物差しで30回ずつ……」

お尻は満遍なく、赤く痣になっている。今日まで毎日、細長い物差しで叩いてきた。

痛みは日に日に蓄積されていくし、常にお尻が腫れている状態で日中過ごさなければならないので、正直五日目くらいでやめたくなったけれどやめなかった。

「千尋、こっちへ来い」
と、俊光様の声が飛んでくる。

私は足元に下ろしたズボンと下着をどうするか迷ったが、そのまま足を引き抜いて俊光様に歩み寄った。

近くに呼ばれるのは悪い兆しではないと思う。

「大して反省もしていない、と言われたから考えてきたんだな?」

「……そう、です」
「自分で? それとも、もしや佐久間の入れ知恵か?」

「ぁ、さ、佐久間さんにどうしたらいいのかと言ったら、反省しているのがちゃんと伝わるような、態度をとらないといけないと言われて、自分で考えました」

「ここへうつ伏せになれ」
俊光様が膝をたたいて私を呼ぶ。私はすぐに俊光様の膝の上に体を横たえた。

「……っ……」

俊光様の手がためらいなく私のお尻に触って、するすると撫で始める。赤く痣になっているところを上から触られるのは、じくじくとした痛みを伴う。

ましてこの痣の上から叩かれたら確実に普通より痛いことは分かっている。分かっているし、今日きっと俊光様からのお仕置きで叩かれるだろうことも分かっていたけれど、だからあえて反省していることを示すために自分で自分のお尻を叩いてきたのだ。

するすると撫で続けていた俊光様の手がお尻から離れて、いきなりパァァアンッパァァアンッパァァアンッと、平手が打ち下ろされた。

「んんっ……っ!!ぁっぁぁっ……!!!ぁぁぅぅっ!!」

手のひらでも、やっぱりうっすらと涙が滲んでしまうほど痛い……。

「千尋も、少しは利口になったな。いいだろう、お前がちゃんと反省してきたことは認めてやろう」

俊光様の感心するような声がして、私は胸をなでおろした。私のしたことはどうやら正解だったらしい。

「もちろん、お仕置きはするが。尻叩きの道具は千尋に選ばせてやる」

パシィィンッと、もう一度尻を叩かれて「ぅっ……!」と私は短い声でそれに答えた。
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