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40.再び現れた浮遊大陸
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雪も解け始めたとき、僕はエルフの天馬騎士ルドヴィーカと共に、納屋や放牧エリアの害虫退治をしていた。
洞窟の中は湿気が籠りやすいため、ウッドチップやペガサスの体にノミやシラミが住み着きやすいのである。
そのため僕は定期的に、ユニコーンホーンの光を当ててペガサスの毛並みやウッドチップの影に隠れている害虫を退治しているのだが、今回はルドヴィーカも手伝ってくれていた。
彼女は炎系の魔法を使えるので、ウッドチップが燃えない程度に温度を上げることもできる。
『ありがとう。これはお礼の聖水だ』
「感謝いたします。これで任務中にケガをしても安心です」
そんなやり取りをしていると、表にいたイネスが走ってきた。
「大変だよお兄ちゃん!」
『どうした?』
「浮遊大陸が……姿を現したの!」
『なんだって!?』
僕たちは大急ぎで洞窟の坂道を走って、丘の上に上がった。
その青空の先には浮遊大陸が悠々と浮かんでおり、マーズヴァン派のウェアウルフたちの集落より奥に影を落としている。
「あそこにいるの……ガーフィス派の幹部じゃないか?」
天馬に乗って逃げて来たウェアウルフの青年が指さしているので、よく見てみると……確かにガーフィスと思しき人物と取り巻たちが、丘の上で土下座をしながら何かを叫んでいた。
何だろう。いつも浮遊大陸が現れたときには、こういうやり取りをしているのだろうか。
興味を持ちながらやり取りを眺めていると、浮遊大陸から10騎ほどの天馬隊が下りてきた。
そのリーダーと思しき男が、何かを叫んで槍を向けると、他の部下たちが一斉に矢を放ってガーフィスたちを射殺している。
僕はその光景を見て開いた口が塞がらなかった。協力者を何だと思っているのだろう。こいつらはどういう神経をしているのだろうか?
「お兄ちゃん……あれって、私たちに負けたから……責任取らされたってこと?」
イネスが言うと、望遠鏡を使っていたブリジット隊長が答えた。
「唇の動きを見るに、ペガサスの回収に失敗したことを責めているようでした」
「なるほど……それに、少しずつ大陸も動き始めてない?」
僕らはもうしばらく動きを見ていると、浮遊大陸の中から50騎ほどの天馬騎士たちが出撃して、ガーフィスたちのいたウェアウルフの村に攻撃を仕掛けていた。
この距離だとよく見えないのだが、望遠鏡で様子を眺めているブリジットは「なんてことを……」という言葉を漏らしている。
「何が起こっているんですか!?」
ペガサスで脱走してきた青年が質問すると、ブリジットは答えた。
「味方だったはずのウェアウルフを襲い、更に家まで燃やしています!」
「なっ……なんて奴らだ……!」
『ポール、貴殿の家族は!?』
「そ、それは大丈夫です。親戚も含めてちゃんと脱出して、今はデュッセ村に住んでいますから」
その答えを聞いて少しだけ安堵したが、さすがに丸腰の人間にまで矢を向ける行為は許されない。
『いずれ連中には、きっちりと落とし前をつけないとな』
そして、そのガーフィス派の村が壊滅させられた事件は、他のウェアウルフたちも目の当たりにしていたらしく、次々と村を捨てて逃げ出す事態となった。
もちろん僕も、すぐにアルフレートたちに洞窟へと退避するように命じる。何せ浮遊大陸は少しずつこちらに近づいてきているからだ。
「食料を全て運び込みました」
『よし、籠城戦の準備を進めてくれ。武器は長弓を中心に』
「ははっ!」
準備もだいぶ整ったとき、表を見張っていたイネスが下りて来た。
「お兄ちゃん、敵の……浮遊大陸が止まったよ」
『使者でも送って来るかな?』
そう呟きながら、岩の割れ目から表を見ると、浮遊大陸からは次々と天馬騎士たちが飛び立っていた。
どうやら連中は、交渉などせずに腕ずくで僕たちを滅ぼすつもりのようだ。なるほど……そう来るとはね。
隣で様子を窺っていたアルフレートは、横目で僕を見てきた。
「いかが……なさいますか?」
『様子見で籠城する。全員洞窟の奥に身を隠して!』
そう伝えると、彼らは「ははっ!」と歯切れよく返事を返して走り出した。部下たちに命令を伝えるのだろう。
間もなく洞窟の天井からミシミシと音が聞こえてきた。どうやら敵の第一陣がこちらの洞窟の上にある山に炎魔法を打ちこんだのだろう。
いよいよ、連中との決戦がはじまる。
洞窟の中は湿気が籠りやすいため、ウッドチップやペガサスの体にノミやシラミが住み着きやすいのである。
そのため僕は定期的に、ユニコーンホーンの光を当ててペガサスの毛並みやウッドチップの影に隠れている害虫を退治しているのだが、今回はルドヴィーカも手伝ってくれていた。
彼女は炎系の魔法を使えるので、ウッドチップが燃えない程度に温度を上げることもできる。
『ありがとう。これはお礼の聖水だ』
「感謝いたします。これで任務中にケガをしても安心です」
そんなやり取りをしていると、表にいたイネスが走ってきた。
「大変だよお兄ちゃん!」
『どうした?』
「浮遊大陸が……姿を現したの!」
『なんだって!?』
僕たちは大急ぎで洞窟の坂道を走って、丘の上に上がった。
その青空の先には浮遊大陸が悠々と浮かんでおり、マーズヴァン派のウェアウルフたちの集落より奥に影を落としている。
「あそこにいるの……ガーフィス派の幹部じゃないか?」
天馬に乗って逃げて来たウェアウルフの青年が指さしているので、よく見てみると……確かにガーフィスと思しき人物と取り巻たちが、丘の上で土下座をしながら何かを叫んでいた。
何だろう。いつも浮遊大陸が現れたときには、こういうやり取りをしているのだろうか。
興味を持ちながらやり取りを眺めていると、浮遊大陸から10騎ほどの天馬隊が下りてきた。
そのリーダーと思しき男が、何かを叫んで槍を向けると、他の部下たちが一斉に矢を放ってガーフィスたちを射殺している。
僕はその光景を見て開いた口が塞がらなかった。協力者を何だと思っているのだろう。こいつらはどういう神経をしているのだろうか?
「お兄ちゃん……あれって、私たちに負けたから……責任取らされたってこと?」
イネスが言うと、望遠鏡を使っていたブリジット隊長が答えた。
「唇の動きを見るに、ペガサスの回収に失敗したことを責めているようでした」
「なるほど……それに、少しずつ大陸も動き始めてない?」
僕らはもうしばらく動きを見ていると、浮遊大陸の中から50騎ほどの天馬騎士たちが出撃して、ガーフィスたちのいたウェアウルフの村に攻撃を仕掛けていた。
この距離だとよく見えないのだが、望遠鏡で様子を眺めているブリジットは「なんてことを……」という言葉を漏らしている。
「何が起こっているんですか!?」
ペガサスで脱走してきた青年が質問すると、ブリジットは答えた。
「味方だったはずのウェアウルフを襲い、更に家まで燃やしています!」
「なっ……なんて奴らだ……!」
『ポール、貴殿の家族は!?』
「そ、それは大丈夫です。親戚も含めてちゃんと脱出して、今はデュッセ村に住んでいますから」
その答えを聞いて少しだけ安堵したが、さすがに丸腰の人間にまで矢を向ける行為は許されない。
『いずれ連中には、きっちりと落とし前をつけないとな』
そして、そのガーフィス派の村が壊滅させられた事件は、他のウェアウルフたちも目の当たりにしていたらしく、次々と村を捨てて逃げ出す事態となった。
もちろん僕も、すぐにアルフレートたちに洞窟へと退避するように命じる。何せ浮遊大陸は少しずつこちらに近づいてきているからだ。
「食料を全て運び込みました」
『よし、籠城戦の準備を進めてくれ。武器は長弓を中心に』
「ははっ!」
準備もだいぶ整ったとき、表を見張っていたイネスが下りて来た。
「お兄ちゃん、敵の……浮遊大陸が止まったよ」
『使者でも送って来るかな?』
そう呟きながら、岩の割れ目から表を見ると、浮遊大陸からは次々と天馬騎士たちが飛び立っていた。
どうやら連中は、交渉などせずに腕ずくで僕たちを滅ぼすつもりのようだ。なるほど……そう来るとはね。
隣で様子を窺っていたアルフレートは、横目で僕を見てきた。
「いかが……なさいますか?」
『様子見で籠城する。全員洞窟の奥に身を隠して!』
そう伝えると、彼らは「ははっ!」と歯切れよく返事を返して走り出した。部下たちに命令を伝えるのだろう。
間もなく洞窟の天井からミシミシと音が聞こえてきた。どうやら敵の第一陣がこちらの洞窟の上にある山に炎魔法を打ちこんだのだろう。
いよいよ、連中との決戦がはじまる。
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