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38.敵vs敵
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間もなく敵の第3陣は、自分たちの村へと帰還した。
どうやら彼らは、村で新たに兵力や装備を整えてから、本腰を入れてデュッセ村を討伐しようと考えていたようだ。
そのボルル村では、村長の元に思わぬ知らせが届くことになる。
「村長……妙なことが起こっています!」
「妙な事とは?」
「ガーフィス殿が率いる本隊が、この村に向かっています!」
その言葉を聞いた村長は、首を傾げた。
「そんなことはありえない。打ち合わせではガーフィス隊は人魚の隠れ里を攻略する予定だろう」
「それが……本当なのです!」
村長は訝しい顔をしたまま、若者と一緒に村の門の前まで向かった。
そこでは出撃準備を進めている戦士たちが集まっていたが、警備のために門だけは閉じている。慎重なボルル村では日常的な風景だったが、それを見た敵本隊は違う印象を持ったようだ。
「リーダー。どうやら連中は我々と戦う準備を進めているようです」
「なるほど……あのキツネめ。よくも我らを謀ってくれたな……!」
怒りに燃えるガーフィスとは違い、ボルル村の村長は不思議そうな顔をしたまま、ガーフィス一行を眺めた。
「ガーフィス殿……どうしてこのようなところに?」
「貴様ら……よくもいけしゃあしゃあと、そのようなことがほざけたな!」
「は?」
ボルル村の村長は、ポカンとしていたがガーフィスは叫んだ。
「長弓隊……一斉射せよ!」
「ははっ!」
間もなく無数の矢が放たれると、次々とボルル村の戦士や家畜……更にボルル村長にまで突き刺さった。
「ぎゃあ!」
「何をするんだ貴様ら!」
すでに戦闘準備を進めていたボルル村の戦士たちも、次々と長弓を出して応戦をはじめた。
ガーフィス率いるマーズヴァン帝国側のウェアウルフ250。対するボルル村の第3陣125。
数の上ではガーフィスたちの方が有利だが、ボルルは村にこもって戦っているため、互角の勝負となっていた。
急に和解をする可能性もあるので、アルディザに植物を使った監視を続けてもらったが、このガーフィス派とボルル村の戦いは晩秋になって雪が降り始めても続き、冬が訪れても続き、12月になって厳冬になってもまだやり合っていた。
そしてアルディザの話によると、このときには両者ともにけが人であふれるようになり、特にボルル村の被害が大きいことがわかった。
このままでは、いくら村長が矢を受けて死亡したとはいえ、ガーフィス率いるマーズヴァン帝国の軍門に再び従ってしまうことは目に見えている。
何かいい方法はないかと人魚のカロルに相談すると、彼女は少し考えてから答えた。
「そういえばボルル村は、ヒヨッミー村と古くから付き合いがあります」
なるほど。つまりユニコーンの聖水や傷薬……それから武器や食糧を取引させることができれば、ボルル村はまだまだ戦うことができそうだ。
問題は搬送方法だけど、ガーフィス派のウェアウルフたちもずっとボルル村を包囲している訳ではない。連中は携帯食料や武器がなくなると、自分たちの村へと帰ってから補充し、兵を休ませてからまた攻めるという方法を取っている。
こうして僕は、ヒヨッミー村に使者を送って、ボルル村との取引を仲介してもらうことにした。
最初のうちはヒヨッミーも乗る気ではなさそうだったようだが、使者として交渉したカロルは、ガーフィスの人柄を思い出させることにしたようだ。
ボルル村とヒヨッミー村は、親交があるためボルル村が落とされると、ヒヨッミー村も難癖をつけられて降伏して戦争の手伝いをさせられるか攻め込まれる。
そう説得されると、ヒヨッミー村の人々も重い腰を上げて、取引することを承諾したという。
こうして僕は、聖水150、傷薬120と引き換えに、ボルル村が管理していたオスペガサス3、メスペガサス5を手に入れることができた。
どうやらボルル村も、天馬を使いこなせる人間もおらず、かといって管理は大変なうえにエサ代はかかるしで、扱いには困っていたようだ。
他にもヒヨッミー村は、食料や武器はもちろん村の傭兵として援軍も派遣したため、ボルル村はしっかりと息を吹き返し、真冬にも関わらずガーフィス派と果敢にも戦いを続けたようだ。
そして、いつまでもボルル村を攻略できないことに嫌気がさしたのか、ガーフィスに従っている部族のうちの1つが、勝手に帰ってしまう事態にまでなった。
『少しずつ、敵の結束が乱れつつあるようだね』
そう伝えると、アルディザも頷いた。
「はい。長引く戦を嫌がってマーズヴァン帝国側の村から、こちらの村に移り住むウェアウルフも増えています。中には徴兵されることを嫌がってペガサスに乗って、こちらに向かっている者もいるようですね」
その話を聞いて、僕も頷いた。
『それは是非、会ってみたいね』
「もうじき、到着すると思います」
間もなく到着したのは、まだ若いウェアウルフの青年だった。
隣にいるのは立派なオスペガサスなので、よく脱出して来れたものだと思う。
「一角獣様、このペガサスを献上いたしますので……どうか、僕を保護してください!」
『そういう話なら預かるが、ペガサスはモノではない。そのことは間違えないようにして欲しい』
そう釘をさすと、その青年はドキッとした顔をしていた。
何やらいじり甲斐のありそうな若者だと思う。
どうやら彼らは、村で新たに兵力や装備を整えてから、本腰を入れてデュッセ村を討伐しようと考えていたようだ。
そのボルル村では、村長の元に思わぬ知らせが届くことになる。
「村長……妙なことが起こっています!」
「妙な事とは?」
「ガーフィス殿が率いる本隊が、この村に向かっています!」
その言葉を聞いた村長は、首を傾げた。
「そんなことはありえない。打ち合わせではガーフィス隊は人魚の隠れ里を攻略する予定だろう」
「それが……本当なのです!」
村長は訝しい顔をしたまま、若者と一緒に村の門の前まで向かった。
そこでは出撃準備を進めている戦士たちが集まっていたが、警備のために門だけは閉じている。慎重なボルル村では日常的な風景だったが、それを見た敵本隊は違う印象を持ったようだ。
「リーダー。どうやら連中は我々と戦う準備を進めているようです」
「なるほど……あのキツネめ。よくも我らを謀ってくれたな……!」
怒りに燃えるガーフィスとは違い、ボルル村の村長は不思議そうな顔をしたまま、ガーフィス一行を眺めた。
「ガーフィス殿……どうしてこのようなところに?」
「貴様ら……よくもいけしゃあしゃあと、そのようなことがほざけたな!」
「は?」
ボルル村の村長は、ポカンとしていたがガーフィスは叫んだ。
「長弓隊……一斉射せよ!」
「ははっ!」
間もなく無数の矢が放たれると、次々とボルル村の戦士や家畜……更にボルル村長にまで突き刺さった。
「ぎゃあ!」
「何をするんだ貴様ら!」
すでに戦闘準備を進めていたボルル村の戦士たちも、次々と長弓を出して応戦をはじめた。
ガーフィス率いるマーズヴァン帝国側のウェアウルフ250。対するボルル村の第3陣125。
数の上ではガーフィスたちの方が有利だが、ボルルは村にこもって戦っているため、互角の勝負となっていた。
急に和解をする可能性もあるので、アルディザに植物を使った監視を続けてもらったが、このガーフィス派とボルル村の戦いは晩秋になって雪が降り始めても続き、冬が訪れても続き、12月になって厳冬になってもまだやり合っていた。
そしてアルディザの話によると、このときには両者ともにけが人であふれるようになり、特にボルル村の被害が大きいことがわかった。
このままでは、いくら村長が矢を受けて死亡したとはいえ、ガーフィス率いるマーズヴァン帝国の軍門に再び従ってしまうことは目に見えている。
何かいい方法はないかと人魚のカロルに相談すると、彼女は少し考えてから答えた。
「そういえばボルル村は、ヒヨッミー村と古くから付き合いがあります」
なるほど。つまりユニコーンの聖水や傷薬……それから武器や食糧を取引させることができれば、ボルル村はまだまだ戦うことができそうだ。
問題は搬送方法だけど、ガーフィス派のウェアウルフたちもずっとボルル村を包囲している訳ではない。連中は携帯食料や武器がなくなると、自分たちの村へと帰ってから補充し、兵を休ませてからまた攻めるという方法を取っている。
こうして僕は、ヒヨッミー村に使者を送って、ボルル村との取引を仲介してもらうことにした。
最初のうちはヒヨッミーも乗る気ではなさそうだったようだが、使者として交渉したカロルは、ガーフィスの人柄を思い出させることにしたようだ。
ボルル村とヒヨッミー村は、親交があるためボルル村が落とされると、ヒヨッミー村も難癖をつけられて降伏して戦争の手伝いをさせられるか攻め込まれる。
そう説得されると、ヒヨッミー村の人々も重い腰を上げて、取引することを承諾したという。
こうして僕は、聖水150、傷薬120と引き換えに、ボルル村が管理していたオスペガサス3、メスペガサス5を手に入れることができた。
どうやらボルル村も、天馬を使いこなせる人間もおらず、かといって管理は大変なうえにエサ代はかかるしで、扱いには困っていたようだ。
他にもヒヨッミー村は、食料や武器はもちろん村の傭兵として援軍も派遣したため、ボルル村はしっかりと息を吹き返し、真冬にも関わらずガーフィス派と果敢にも戦いを続けたようだ。
そして、いつまでもボルル村を攻略できないことに嫌気がさしたのか、ガーフィスに従っている部族のうちの1つが、勝手に帰ってしまう事態にまでなった。
『少しずつ、敵の結束が乱れつつあるようだね』
そう伝えると、アルディザも頷いた。
「はい。長引く戦を嫌がってマーズヴァン帝国側の村から、こちらの村に移り住むウェアウルフも増えています。中には徴兵されることを嫌がってペガサスに乗って、こちらに向かっている者もいるようですね」
その話を聞いて、僕も頷いた。
『それは是非、会ってみたいね』
「もうじき、到着すると思います」
間もなく到着したのは、まだ若いウェアウルフの青年だった。
隣にいるのは立派なオスペガサスなので、よく脱出して来れたものだと思う。
「一角獣様、このペガサスを献上いたしますので……どうか、僕を保護してください!」
『そういう話なら預かるが、ペガサスはモノではない。そのことは間違えないようにして欲しい』
そう釘をさすと、その青年はドキッとした顔をしていた。
何やらいじり甲斐のありそうな若者だと思う。
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