飛べない妹有翼人と目指すペガサスマスターへの道 ~努力家イネスの夢を叶えるため、転生ニート兄貴は本気出す~

スィグトーネ

文字の大きさ
上 下
38 / 43

38.敵vs敵

しおりを挟む
 間もなく敵の第3陣は、自分たちの村へと帰還した。
 どうやら彼らは、村で新たに兵力や装備を整えてから、本腰を入れてデュッセ村を討伐しようと考えていたようだ。

 そのボルル村では、村長の元に思わぬ知らせが届くことになる。
「村長……妙なことが起こっています!」
「妙な事とは?」
「ガーフィス殿が率いる本隊が、この村に向かっています!」

 その言葉を聞いた村長は、首を傾げた。
「そんなことはありえない。打ち合わせではガーフィス隊は人魚の隠れ里を攻略する予定だろう」
「それが……本当なのです!」

 村長は訝しい顔をしたまま、若者と一緒に村の門の前まで向かった。
 そこでは出撃準備を進めている戦士たちが集まっていたが、警備のために門だけは閉じている。慎重なボルル村では日常的な風景だったが、それを見た敵本隊は違う印象を持ったようだ。


「リーダー。どうやら連中は我々と戦う準備を進めているようです」
「なるほど……あのキツネめ。よくも我らを謀ってくれたな……!」

 怒りに燃えるガーフィスとは違い、ボルル村の村長は不思議そうな顔をしたまま、ガーフィス一行を眺めた。
「ガーフィス殿……どうしてこのようなところに?」
「貴様ら……よくもいけしゃあしゃあと、そのようなことがほざけたな!」
「は?」

 ボルル村の村長は、ポカンとしていたがガーフィスは叫んだ。
「長弓隊……一斉射せよ!」
「ははっ!」

 間もなく無数の矢が放たれると、次々とボルル村の戦士や家畜……更にボルル村長にまで突き刺さった。
「ぎゃあ!」
「何をするんだ貴様ら!」


 すでに戦闘準備を進めていたボルル村の戦士たちも、次々と長弓を出して応戦をはじめた。
 ガーフィス率いるマーズヴァン帝国側のウェアウルフ250。対するボルル村の第3陣125。
 数の上ではガーフィスたちの方が有利だが、ボルルは村にこもって戦っているため、互角の勝負となっていた。


 急に和解をする可能性もあるので、アルディザに植物を使った監視を続けてもらったが、このガーフィス派とボルル村の戦いは晩秋になって雪が降り始めても続き、冬が訪れても続き、12月になって厳冬になってもまだやり合っていた。

 そしてアルディザの話によると、このときには両者ともにけが人であふれるようになり、特にボルル村の被害が大きいことがわかった。
 このままでは、いくら村長が矢を受けて死亡したとはいえ、ガーフィス率いるマーズヴァン帝国の軍門に再び従ってしまうことは目に見えている。


 何かいい方法はないかと人魚のカロルに相談すると、彼女は少し考えてから答えた。
「そういえばボルル村は、ヒヨッミー村と古くから付き合いがあります」

 なるほど。つまりユニコーンの聖水や傷薬……それから武器や食糧を取引させることができれば、ボルル村はまだまだ戦うことができそうだ。
 問題は搬送方法だけど、ガーフィス派のウェアウルフたちもずっとボルル村を包囲している訳ではない。連中は携帯食料や武器がなくなると、自分たちの村へと帰ってから補充し、兵を休ませてからまた攻めるという方法を取っている。


 こうして僕は、ヒヨッミー村に使者を送って、ボルル村との取引を仲介してもらうことにした。
 最初のうちはヒヨッミーも乗る気ではなさそうだったようだが、使者として交渉したカロルは、ガーフィスの人柄を思い出させることにしたようだ。

 ボルル村とヒヨッミー村は、親交があるためボルル村が落とされると、ヒヨッミー村も難癖をつけられて降伏して戦争の手伝いをさせられるか攻め込まれる。
 そう説得されると、ヒヨッミー村の人々も重い腰を上げて、取引することを承諾したという。


 こうして僕は、聖水150、傷薬120と引き換えに、ボルル村が管理していたオスペガサス3、メスペガサス5を手に入れることができた。
 どうやらボルル村も、天馬を使いこなせる人間もおらず、かといって管理は大変なうえにエサ代はかかるしで、扱いには困っていたようだ。

 他にもヒヨッミー村は、食料や武器はもちろん村の傭兵として援軍も派遣したため、ボルル村はしっかりと息を吹き返し、真冬にも関わらずガーフィス派と果敢にも戦いを続けたようだ。

 そして、いつまでもボルル村を攻略できないことに嫌気がさしたのか、ガーフィスに従っている部族のうちの1つが、勝手に帰ってしまう事態にまでなった。

『少しずつ、敵の結束が乱れつつあるようだね』
 そう伝えると、アルディザも頷いた。
「はい。長引く戦を嫌がってマーズヴァン帝国側の村から、こちらの村に移り住むウェアウルフも増えています。中には徴兵されることを嫌がってペガサスに乗って、こちらに向かっている者もいるようですね」

 その話を聞いて、僕も頷いた。
『それは是非、会ってみたいね』
「もうじき、到着すると思います」

 間もなく到着したのは、まだ若いウェアウルフの青年だった。
 隣にいるのは立派なオスペガサスなので、よく脱出して来れたものだと思う。
「一角獣様、このペガサスを献上いたしますので……どうか、僕を保護してください!」
『そういう話なら預かるが、ペガサスはモノではない。そのことは間違えないようにして欲しい』

 そう釘をさすと、その青年はドキッとした顔をしていた。
 何やらいじり甲斐のありそうな若者だと思う。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...