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35.天馬の放し飼いに驚く父
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アルディザが仲間になって2日後。
僕の父親サイモンと、ツーノッパ王国の中隊長がマーメイドの隠れ里に来てくれた。
「久しぶりだな、リュド……いやサイレンスアロー殿に、イネス君」
『ご無沙汰しております』
イネスもお辞儀をすると、父はお土産を出してくれた。
ハチミツに、チーズに、塩など、懐かしい故郷の名産品が並んでいるから、思わずよだれが出そうになってしまう。
『ありがとうございます。ぜひ、こちらをお受け取りください』
僕はそう言ってイネスに視線を向けると、彼女も頷きながら聖水や傷薬の入った瓶を手渡した。
それを見た中隊長は、目を丸々と開いて言った。
「こ、これはすまないな……かえって高価なモノを……」
『これくらいのお礼は当然。何せ今日は、吾からお願いして視察に来ていただいたのです』
そう笑いあうと、少し父に隠れ里を視察してもらうことにした。
洞窟内のマナ管理をしているフェアリーを見て、父は微笑みながら中をチェックしている。
「これはいいな……ここまで広いのなら、天馬たちも伸び伸びと過ごせるだろう」
『近いうちに、奥の区画に納屋を建てる予定です』
「ところで……サイレンスアロー殿、貴殿の管理している天馬はいずこに?」
中隊長が質問をした直後に、僕は軽く口笛を吹いてみた。
すると、耳の良い天馬たちは洞窟の奥や川辺、更には洞窟の外から次々と集まってきてくれる。
オス6頭、メスも前よりも1頭増えて10頭が勢ぞろいし、中隊長や父を出迎えた。
「も、もしや……放し飼いにしていたのか!?」
父も中隊長も驚いていたので、僕はあることを思い出してもらおうと思いながら答えた。
『はい。ペガサスはとてもケガをしやすい生き物です。なので……吾の治療の腕を認めてもらえれば、ご覧のように慕ってくれるのです』
その言葉を聞くと、父よりも先に中隊長の方が納得していた。恐らく、天馬騎士として何度も名馬の骨折などを目の当たりにしているのだろう。
「天馬の放し飼いか……私も見習い時代から何度も夢見たことだが……安全上の理由から断念せざるを得なかった」
父も頷いた。
「そうですね。ペガサスの脱走は様々な施設で度々問題になっていますし、人や建物に被害を与えたら目も当てられません」
『その点、ここなら……民家はかなり離れた場所にしかありませんし、森が危険だということはペガサスも理解しているので、そんなに遠出もしません』
そう説明すると、中隊長も父親も頷いた。
「なるほど……確かに、ここで天馬を管理するというのもアリかもしれない」
「空爆を受けても、被害を受けないのも大きいですね。是非、砦に戻ってから皆さんで……」
「ああ、この広さを伝えるだけでも、かなり意義がある」
2人で話し合っていると、ハイエルフのアルディザが姿を見せた。
「おや……初めて見る少女だな」
『彼女の名はアルディザ。数日前に仲間になった妖精族の人です』
アルディザは中隊長と父に挨拶をすると、僕を見て言う。
「一角獣様……実は、洞窟の一角に温泉がわき出している場所を発見しました」
『それは本当!?』
みんなでその場所に向かってみると、ちょうど川の側の崖にあった。
そこからは確かに硫黄の香りが漂っていて、更に近づくと湯気も出ている。どうして早く気付かなかったのだろう。
「ほ、本物!」
イネスも驚いていたので、僕もよく匂いを嗅いでみた。すると湯気から様々なことがわかる。
『ミネラルとか塩とか、色々な物質が溶け込んでる……これは身体に良さそうだな』
この様子を見ていた人魚カロルは首をひねった。
「以前ここには何もなかったのですが、不思議ですね……」
「3か月ほど前に地震があったので、岩に割れ目ができたのかもしれません」
「アルディザ殿の仰る通りかも……」
僕はカロルやアルディザを見ると、すぐに露天風呂を作るように働きかけることにした。人間にしても天馬にしても、疲れを癒せる設備があるのは大きい。
『では、なるべく早く露天風呂を作って欲しい』
「は、はい!」
『できれば、男用、女用、天馬用の3つがあるのが理想だ』
「承知いたしました」
指示を出してから父と中隊長を見ると、何やら2人が楽し気に何かを考えこんでいた。
そういえば、僕の故郷の牧場にもペガサス用のお風呂はなかったな。まあ、温泉がわき出すような場所はないからしょうがないことだけど。
「わかった。ここを拠点にしてマーズヴァン帝国攻略の足掛かりにすべきかどうか……上層部と話し合ってくる」
『次回までには、もっと整備を進めます』
僕が中隊長や父と話をしているとき、別の場所でも話し合いが行われていた。
人魚族と敵対関係にあったウェアウルフ4部族は、それぞれの長が集まって【一角獣】に関しての話し合いを行っていたようだ。
どうやら、夜遅くには結論が出て……4部族共同で、僕たちとデュッセ地域のウェアウルフたちを討伐するということで話はまとまったらしい。
僕の父親サイモンと、ツーノッパ王国の中隊長がマーメイドの隠れ里に来てくれた。
「久しぶりだな、リュド……いやサイレンスアロー殿に、イネス君」
『ご無沙汰しております』
イネスもお辞儀をすると、父はお土産を出してくれた。
ハチミツに、チーズに、塩など、懐かしい故郷の名産品が並んでいるから、思わずよだれが出そうになってしまう。
『ありがとうございます。ぜひ、こちらをお受け取りください』
僕はそう言ってイネスに視線を向けると、彼女も頷きながら聖水や傷薬の入った瓶を手渡した。
それを見た中隊長は、目を丸々と開いて言った。
「こ、これはすまないな……かえって高価なモノを……」
『これくらいのお礼は当然。何せ今日は、吾からお願いして視察に来ていただいたのです』
そう笑いあうと、少し父に隠れ里を視察してもらうことにした。
洞窟内のマナ管理をしているフェアリーを見て、父は微笑みながら中をチェックしている。
「これはいいな……ここまで広いのなら、天馬たちも伸び伸びと過ごせるだろう」
『近いうちに、奥の区画に納屋を建てる予定です』
「ところで……サイレンスアロー殿、貴殿の管理している天馬はいずこに?」
中隊長が質問をした直後に、僕は軽く口笛を吹いてみた。
すると、耳の良い天馬たちは洞窟の奥や川辺、更には洞窟の外から次々と集まってきてくれる。
オス6頭、メスも前よりも1頭増えて10頭が勢ぞろいし、中隊長や父を出迎えた。
「も、もしや……放し飼いにしていたのか!?」
父も中隊長も驚いていたので、僕はあることを思い出してもらおうと思いながら答えた。
『はい。ペガサスはとてもケガをしやすい生き物です。なので……吾の治療の腕を認めてもらえれば、ご覧のように慕ってくれるのです』
その言葉を聞くと、父よりも先に中隊長の方が納得していた。恐らく、天馬騎士として何度も名馬の骨折などを目の当たりにしているのだろう。
「天馬の放し飼いか……私も見習い時代から何度も夢見たことだが……安全上の理由から断念せざるを得なかった」
父も頷いた。
「そうですね。ペガサスの脱走は様々な施設で度々問題になっていますし、人や建物に被害を与えたら目も当てられません」
『その点、ここなら……民家はかなり離れた場所にしかありませんし、森が危険だということはペガサスも理解しているので、そんなに遠出もしません』
そう説明すると、中隊長も父親も頷いた。
「なるほど……確かに、ここで天馬を管理するというのもアリかもしれない」
「空爆を受けても、被害を受けないのも大きいですね。是非、砦に戻ってから皆さんで……」
「ああ、この広さを伝えるだけでも、かなり意義がある」
2人で話し合っていると、ハイエルフのアルディザが姿を見せた。
「おや……初めて見る少女だな」
『彼女の名はアルディザ。数日前に仲間になった妖精族の人です』
アルディザは中隊長と父に挨拶をすると、僕を見て言う。
「一角獣様……実は、洞窟の一角に温泉がわき出している場所を発見しました」
『それは本当!?』
みんなでその場所に向かってみると、ちょうど川の側の崖にあった。
そこからは確かに硫黄の香りが漂っていて、更に近づくと湯気も出ている。どうして早く気付かなかったのだろう。
「ほ、本物!」
イネスも驚いていたので、僕もよく匂いを嗅いでみた。すると湯気から様々なことがわかる。
『ミネラルとか塩とか、色々な物質が溶け込んでる……これは身体に良さそうだな』
この様子を見ていた人魚カロルは首をひねった。
「以前ここには何もなかったのですが、不思議ですね……」
「3か月ほど前に地震があったので、岩に割れ目ができたのかもしれません」
「アルディザ殿の仰る通りかも……」
僕はカロルやアルディザを見ると、すぐに露天風呂を作るように働きかけることにした。人間にしても天馬にしても、疲れを癒せる設備があるのは大きい。
『では、なるべく早く露天風呂を作って欲しい』
「は、はい!」
『できれば、男用、女用、天馬用の3つがあるのが理想だ』
「承知いたしました」
指示を出してから父と中隊長を見ると、何やら2人が楽し気に何かを考えこんでいた。
そういえば、僕の故郷の牧場にもペガサス用のお風呂はなかったな。まあ、温泉がわき出すような場所はないからしょうがないことだけど。
「わかった。ここを拠点にしてマーズヴァン帝国攻略の足掛かりにすべきかどうか……上層部と話し合ってくる」
『次回までには、もっと整備を進めます』
僕が中隊長や父と話をしているとき、別の場所でも話し合いが行われていた。
人魚族と敵対関係にあったウェアウルフ4部族は、それぞれの長が集まって【一角獣】に関しての話し合いを行っていたようだ。
どうやら、夜遅くには結論が出て……4部族共同で、僕たちとデュッセ地域のウェアウルフたちを討伐するということで話はまとまったらしい。
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