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28.浮遊大陸が移動し、到来したチャンス

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 外に出てみると、表の風景が変わっていることに気が付いた。
 ウェアウルフたちの集落からは、マーズヴァン帝国の浮遊大陸がよく見えるはずなのだが、それがすっかりと姿を消していたのだ。
『……浮遊大陸はどこだ?』

 そう呟いていると、水を運んでいたイネスが僕を見た。
「お兄ちゃんも気が付いたんだね。浮遊大陸が……昨晩のうちに大きく動いたの」
『なんだって!?』

 そう聞き返すと、イネスだけでなく少し後ろにいたエルフのルドヴィーカも頷いた。
「イネスの言う通りです。どうやら、昨日の我が軍の空襲は、マーズヴァン帝国に甚大なダメージを与えたらしく、あの直後に帝国の浮遊大陸は、移動速度を大幅に上げています」

 間もなく僕はブリジット隊長から、味方の被害を聞いた。
 どうやら第3天馬大隊50騎のうち12騎が未帰還。14騎が負傷。
 第4天馬大隊50騎のうち7騎が未帰還。16騎が負傷。
 有翼人村の19騎のうち7騎が未帰還。8騎が負傷したようである。

「まあ村の守備隊の未帰還騎のうちの3騎は……私たちなのですから、被害はもっと少ないですけどね」
『なるほど。そして戦果は……浮遊大陸の天馬牧場の納屋の幾つかを焼き討ちし、飛行用の施設を壊した……』
「他にも兵舎と思われる建物や、王宮と思しき施設に打撃を与えることにも成功しています」


 そこまで被害を与えたのなら、浮遊大陸も逃げ出すワケだと思う。
 僕は頷きながら言った。
『わかった。つまり今が、マーズヴァン帝国に組したウェアウルフ族に、考えを改めてもらうチャンスというワケか』
「その通りです。私たちはこれから……有翼人の村に戻ります。貴方はどうしますか?」

 僕は即答した。
『吾はこのまま、このデュッセ地方に残る』
 ブリジット隊長は、少し険しい顔をしていたが、僕は話を続けた。
『この地域に、天馬騎士の基地を作れれば、大きな足掛かりになる』

 その言葉を聞いたブリジットは頷いた。
「わかりました。イネス君はどうしますか?」
「私もここで兄を助けたいと思います」
「わかりました。では我々は戻りますが……定期的に連絡は取り合いたいと思います」
『ご助力……感謝する』
 そう伝えると、まずはブリジットが天馬に跨って飛び立ち、続いてルドヴィーカも飛び立っていった。


 彼女たちの後ろ姿を見送ると、隣に立っていたイネスがこちらを見た。
「さて、これからどうしようか?」
『そうだな……まずは、ウェアウルフたちが安心できるように、薬や聖水をストックしておきたい。ビンのように密閉できるモノがあるといいのだが……』

「それなら、人魚の隠れ里にビンと作れるアビリティを持っている人がいたよ」
『それは本当!?』
 思わず、昔の言葉が出ると、イネスは少し安心した表情をしてから頷いた。
「アルフレートさんに交渉してもらおうか?」


 間もなく僕たちは、アルフレートに聖水や薬のストックを作っておく旨を伝えた。彼はビンに保存するという話を聞くと、大きく頷いて答える。
「現実的なお考えだと思います。ただ、私は経験の浅い戦士に稽古を付けなければいけないので、代わりの者を使者に立てましょう」
『では、ビンが手に入り次第、聖水を作りたい。可能なら100ほど調達して欲しい』
「わかりました」

 アルフレートにビンの調達をしてもらっているあいだも時間が空くので、僕はイネスに薬草を摘み取ってもらって、それをペースト状にする仕事をしてもらった。


 これだけでも効果はあるのだが、更にユニコーンホーンを近づけてヒーリング効果を付加すると、ペーストを塗ると同時にヒーリング効果も付与できる。
 ちょうど、稽古中にケガをしたウェアウルフがいたので、腕に塗ってみたら……しっかりと効果があることも確認できた。
「凄い! 痛みがすっと引いていく!」

 ペーストを塗ったウェアウルフがそう喜ぶと、他のウェアウルフたちも「おおっ!」と声を上げて驚いていた。多くのウェアウルフたちが、僕の作った薬草ペーストを欲しがるなか、使者として向かったウェアウルフが戻ってきた。
「一角獣様。人魚のビン職人は、作ることを承諾してくれましたが……製品を50ほど分けて欲しいそうです」
『……なるほど。わかった、そのように手配しよう』


 間もなく、人魚たちがビンを持ってきてくれたので、僕はあらかじめ作っておいた聖水をビンへと注ぎ込んでもらい、50をウェアウルフたちに、残りの50を人魚たちに持たせた。

『では、吾はそろそろ人魚の拠点に戻って薬や聖水づくりを続ける。何かまた気になることがあったらすぐに教えて欲しい』
 そう伝えると、ウェアウルフたちはビシッと敬礼して返事をした。
 どうやら僕は、彼らの心を掴むことに成功したようだ。


【浮遊大陸が移動した様子(近くの丘の上から)】
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