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24.リュド、本気出す

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 ケガをした人魚女性を治療して1時間後。
 すっかり人魚たちの態度が変わっていた。

 僕は隠れ里の中でも、集会場として使われていた小屋に案内されると、そこで過ごすように言われた。
「一角獣様、私が村の長老のメラニーと申します」
『吾が名はサイレンスアロー。よろしく頼むぞメラニーよ』
「ははっ……もし、過ごしづらいことがあれば、何なりとお申し付けください」

 なるほど。では早速、本題に入るとしよう。
『わかった。では率直に言おう……』
「ははっ!」
『この隠れ里に、天馬騎士が滞在できるエリアと、空中に向けて発進できる設備を導入せよ』


 そう伝えると、さすがの女長老もキョトンとしていた。
「え、ええと……あの……それは……」

 やはりこういう態度になるかと心の中では納得しつつも、僕はなるべく表情に出さないように努めた。あくまで威厳のあるお馬様でなければならない。
『吾の使命は、あの暴虐なマーズヴァン帝国を倒すことである。連中と戦うには自由に空を舞う天馬が必要不可欠だ』
「そ、それはそうですが……天馬騎士たちが言うことを聞くのですか?」


 御尤もな反論を頂きました。メラニーさんの仰る通りだと思います、はい。
 だけど、ここで引き下がったら、何のためにおウマ様になったのかわからない。僕はニート時代に培ったヘリクツで対応することにした。
『貴殿の心配もよくわかる。だがな……メラニー』
「な、なんでしょう?」
『人生で成果を上げるには、1に実行、2に実行……3・4がなくても5に実行だ! こんな穴倉生活をいつまでもしたくなければ実行せよ!!』

 はい。今世紀最大級のオマイウ、お前が言うな発言でございます。これを若き実業家とかが言ったらサマになっているんだろうなぁ。

 仕えるべき主人を間違えた人魚の長メラニーは、まるで目から鱗でも落ちたかのような表情で僕を見ていた。
「わ、我々が間違っておりました……そうです。一角獣様の仰る通り……直ちに手配いたしまする!」
『仕事が特定の人間に集中しすぎないように、シフト制にして対応せよ。作業に当たる人間には休息もしっかりとな?』
「は、はい!」


 ちなみに人魚の隠れ里である洞窟は、意外にも中は広いため、地面を均一になるように整備したり、建物を新たに建てるだけで、天馬騎士やペガサスの居住スペースは確保できた。
 そして僕は同時に、人魚カロルに戦況を確認してもらう。

「偵察から戻りました」
『どうだった?』
「丘にあったマーズヴァン帝国の基地ですが、ここはツーノッパ王国の天馬隊が制圧していましたが、再びマーズヴァン帝国の反撃に遭い、天馬隊は撤退しています」

『……それはチャンスかもしれんな。逃げ遅れた天馬騎士や天馬がいたら、すぐに隠れ家に案内しろ』
「ははっ……早速、仰せの通りに!」
『敗残兵の回収を優先したいから、こちらに多くの人員を割くようにメラニーに伝えてくれ』
「承知いたしました」


 人魚たちは川を中心に、王国軍の敗残兵を集めてくれた。
 その中にはなんとイネスの姿もあり、彼女はカロルに連れられて僕の前までやってきたのである。
「一角獣様、人間の娘を見つけてきました」

 さて、僕はすぐにイネスだと理解できたが、イネス本人はと言えば少し動揺した様子だった。僕の態度が普段とはあまりに違うため、別人……というか別ウマに見えたのだろう。
「では、引き続き、捜索を続けてきます」
『マーズヴァン帝国の空襲に気を付けるのだぞ』
「ははっ!」


 翼のないイネスは、不安そうな顔をしたまま僕の顔を眺めていた。その顔はどう見ても……お兄ちゃんだよね? と言いたそうだったが、言い出せなかったのだろう。
 僕は少し彼女をからかうことにした。
『有翼人の娘よ』
「は、はい!」
『肩が凝った。少し揉むがいい』

「…………」
 彼女は少し考えてから、じっと僕を見つめてきている。
「リュドお兄ちゃん……だよね?」
『そうだ。今は、超ドヘンタイウマウマ教の教祖をしている』

 そこまで言うと、僕は真顔になった。
『ふつつかものだが、よろしく頼む』

 イネスは表情を変えた。
「……なんだか変だよ。頭でも打ったの?」

 安心しろ妹よ。兄がおかしいのは今に始まったことではない。
 まもなくイネスは、僕の隣に腰掛けて様々な質問をしてきた。

【兄を心配するイネス】

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