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4.妹の決意(後編)
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妹を自室まで送り届けたとき、彼女は少しだけ表情が普段通りになっていた。
「じゃあ、また明日な?」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
そして、翌日。
普段と変わらない朝を迎えて、僕はショートボウを片手に裏庭の練習場へと向かう。
すると……
「……!」
僕は驚きながら、妹イネスの後ろ姿を眺めていた。
なんと彼女は、弓の稽古を続けていたのである。確か僕は夕べにペガサスライダーになることは難しいと、そう答えたはずだ。あれはきっとイネスにとっては辛い一言だったはずだ。僕が彼女の立場ならきっと……心が折れていただろう。
彼女は矢のストックを使い終えると僕を見た。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「おはよう……お前もしかして、まだ諦めてないのか?」
あえて気楽に聞いてみると、イネスは笑いながら答えてくる。
「私ね……やっぱり諦めたくない!」
「どうしても騎士になりたいのか?」
「うん、普通の有翼人なら……自分の翼でお空を飛んで、みんなを守ることができる」
彼女は悲し気な表情をした。
「だけど私は……やっぱりペガサスに頼るしかない」
「ペガサスは……」
僕が言いかけると、イネスはしっかりと僕を見つめてきた。
「私は、空を飛べないからっ!」
その真剣な表情を見て、僕の全身の細胞が震えている。
普段は穏やかで優しい妹だが、真剣に物事を考えている奴なんだ。だから、こういう時にしっかりと自分の意志が出てくるし、言葉一つ一つにも真剣さが現れる。
僕もまた、しっかりと妹に意見することにした。
「確かに、お前の翼の関節部分は弱いって、お医者さんも言ってたしドクターストップもかかっている」
「う、うん……」
「だけど、完全に飛べないと決まったワケじゃない。成長の中で身体って少しずつ変わるものだしな」
そこまで言うと、僕は妹の頭を撫でた。本当に大きくなったなコイツ……
「だから、身体も無理しない程度には鍛えとけよ。天馬騎士になりたいんならな?」
「うん……わかった!」
当たり前だけど、天馬騎士というのは強い意志と才能さえあればなれるモノではない。
まず天馬騎士になりたければ、ペガサスを入手しなければならないが、これを直接買おうとすれば……安いペガサスでも大金貨50枚。
物価等を考慮すると、だいたい5000万円くらいはかかる。
意地悪な僕は、どうやって高価なペガサスを手に入れるのか妹に聞いてみることにした。
「……というワケで、一番安いペガサスでも、だいたい大金貨50枚くらいかかるようだぞ?」
「うん、それ……私も考えたんだけど、ちょうどいい調達方法があるよ」
調達方法か。それはぜひ僕にも教えて欲しいものである。
「へぇ、それは是非……教えて欲しいな」
「協力してくれるのなら話すけど」
「犯罪行為はダメだぞ?」
「わかってるよ!」
彼女は少し頬を膨らませると、ゆっくりと答えた。
「敵が襲ってきたときに、騎士を仕留めてペガサスを奪う」
な、なるほど……最近は王国の天馬騎士隊が常駐してくれていると言っても、敵の侵入も多いからな。
貧乏な僕たちにとっては、最も現実的な調達方法だ。
「じゃあ、鎧や武器はどうする? これはお前専用のサイズじゃないと厳しいと思うぞ?」
イネスは少し考えてから僕を見た。
「ペガサスを何頭か捕まえて、1・2頭を売ればいいんじゃない?」
こ、コイツ……頭の回転が早いな。いや、もしかしたらどうすれば天馬騎士になれるのか、普段から考えているのかもしれない。
じゃあ、これはどうだろう?
「そもそも王国正規の騎士になるには、難しい試験とかをパスしなきゃいけないし、騎士として登録するにもツテとかないとダメだぞ?」
この質問をしたら、さすがのイネスも難しい顔をしていた。
さすがにこれで……諦めるのだろうか?
「何と言えばいいのかなぁ……」
「うん」
「私としては……村のみんなが安心して暮らせればいいから、正規騎士とか、そういうのに興味ないかな?」
そう来たか……。
「な、なるほど……そこまで真剣に考えているのなら、お兄ちゃんは反対しない」
「さすがはお兄ちゃん! ありがと!」
妹は喜ぶと修業を再開したが、僕が後ろを見ると父さんと母さんも物陰なら僕たちのやり取りを見守っていたようだ。
父親エドモンは、どこか困った顔をしながら僕を見つめてくる。
これは、どうして妹が天馬騎士になる夢を持つに至ったか……僕から説明する必要がありそうだ。
【狩人エドモン】
レベル 72
空中攻撃能力 A ★★★★★★★
地上攻撃能力 C ★★★★
攻撃命中率 A ★★★★★★★★
防御能力 B ★★★★★
回避能力 A ★★★★★★★
航続距離 B ★★★★★
探索能力 B ★★★★★★
荒鷹の異名を持つ熟練冒険者。
所有アビリティはまだ判明していないが、そもそも弓の達人なので、その特殊能力を使わせるよりも前に戦いを終わらせることも多い。
ちなみに普段の冒険者業務の中には、貴族の子息に弓術を教えるという仕事もある。
「じゃあ、また明日な?」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
そして、翌日。
普段と変わらない朝を迎えて、僕はショートボウを片手に裏庭の練習場へと向かう。
すると……
「……!」
僕は驚きながら、妹イネスの後ろ姿を眺めていた。
なんと彼女は、弓の稽古を続けていたのである。確か僕は夕べにペガサスライダーになることは難しいと、そう答えたはずだ。あれはきっとイネスにとっては辛い一言だったはずだ。僕が彼女の立場ならきっと……心が折れていただろう。
彼女は矢のストックを使い終えると僕を見た。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「おはよう……お前もしかして、まだ諦めてないのか?」
あえて気楽に聞いてみると、イネスは笑いながら答えてくる。
「私ね……やっぱり諦めたくない!」
「どうしても騎士になりたいのか?」
「うん、普通の有翼人なら……自分の翼でお空を飛んで、みんなを守ることができる」
彼女は悲し気な表情をした。
「だけど私は……やっぱりペガサスに頼るしかない」
「ペガサスは……」
僕が言いかけると、イネスはしっかりと僕を見つめてきた。
「私は、空を飛べないからっ!」
その真剣な表情を見て、僕の全身の細胞が震えている。
普段は穏やかで優しい妹だが、真剣に物事を考えている奴なんだ。だから、こういう時にしっかりと自分の意志が出てくるし、言葉一つ一つにも真剣さが現れる。
僕もまた、しっかりと妹に意見することにした。
「確かに、お前の翼の関節部分は弱いって、お医者さんも言ってたしドクターストップもかかっている」
「う、うん……」
「だけど、完全に飛べないと決まったワケじゃない。成長の中で身体って少しずつ変わるものだしな」
そこまで言うと、僕は妹の頭を撫でた。本当に大きくなったなコイツ……
「だから、身体も無理しない程度には鍛えとけよ。天馬騎士になりたいんならな?」
「うん……わかった!」
当たり前だけど、天馬騎士というのは強い意志と才能さえあればなれるモノではない。
まず天馬騎士になりたければ、ペガサスを入手しなければならないが、これを直接買おうとすれば……安いペガサスでも大金貨50枚。
物価等を考慮すると、だいたい5000万円くらいはかかる。
意地悪な僕は、どうやって高価なペガサスを手に入れるのか妹に聞いてみることにした。
「……というワケで、一番安いペガサスでも、だいたい大金貨50枚くらいかかるようだぞ?」
「うん、それ……私も考えたんだけど、ちょうどいい調達方法があるよ」
調達方法か。それはぜひ僕にも教えて欲しいものである。
「へぇ、それは是非……教えて欲しいな」
「協力してくれるのなら話すけど」
「犯罪行為はダメだぞ?」
「わかってるよ!」
彼女は少し頬を膨らませると、ゆっくりと答えた。
「敵が襲ってきたときに、騎士を仕留めてペガサスを奪う」
な、なるほど……最近は王国の天馬騎士隊が常駐してくれていると言っても、敵の侵入も多いからな。
貧乏な僕たちにとっては、最も現実的な調達方法だ。
「じゃあ、鎧や武器はどうする? これはお前専用のサイズじゃないと厳しいと思うぞ?」
イネスは少し考えてから僕を見た。
「ペガサスを何頭か捕まえて、1・2頭を売ればいいんじゃない?」
こ、コイツ……頭の回転が早いな。いや、もしかしたらどうすれば天馬騎士になれるのか、普段から考えているのかもしれない。
じゃあ、これはどうだろう?
「そもそも王国正規の騎士になるには、難しい試験とかをパスしなきゃいけないし、騎士として登録するにもツテとかないとダメだぞ?」
この質問をしたら、さすがのイネスも難しい顔をしていた。
さすがにこれで……諦めるのだろうか?
「何と言えばいいのかなぁ……」
「うん」
「私としては……村のみんなが安心して暮らせればいいから、正規騎士とか、そういうのに興味ないかな?」
そう来たか……。
「な、なるほど……そこまで真剣に考えているのなら、お兄ちゃんは反対しない」
「さすがはお兄ちゃん! ありがと!」
妹は喜ぶと修業を再開したが、僕が後ろを見ると父さんと母さんも物陰なら僕たちのやり取りを見守っていたようだ。
父親エドモンは、どこか困った顔をしながら僕を見つめてくる。
これは、どうして妹が天馬騎士になる夢を持つに至ったか……僕から説明する必要がありそうだ。
【狩人エドモン】
レベル 72
空中攻撃能力 A ★★★★★★★
地上攻撃能力 C ★★★★
攻撃命中率 A ★★★★★★★★
防御能力 B ★★★★★
回避能力 A ★★★★★★★
航続距離 B ★★★★★
探索能力 B ★★★★★★
荒鷹の異名を持つ熟練冒険者。
所有アビリティはまだ判明していないが、そもそも弓の達人なので、その特殊能力を使わせるよりも前に戦いを終わらせることも多い。
ちなみに普段の冒険者業務の中には、貴族の子息に弓術を教えるという仕事もある。
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