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34.勝利後の僅かな違和感

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 無事にコボルド使いを拘束すると、アヴェリーノは言った。
「フォセット隊のみんな、妹が大変お世話になった……兄として何とお礼を言えばいいか……」
 彼のお礼の言葉を聞くと、ジルーたちは嬉しそうに微笑んでいた。
 ジルーやマーチルは、操りの首輪の後遺症で気分が優れないようだし、ラックドナもスライム拘束から解放されたばかりの状況なので、ここまで表情を変えるのは相当嬉しいのだろう。
 フォセットも微笑みながら答えた。
「はい。これだけ素晴らしい友人たちを持って、フォセットは幸せ者です」
「や、やめてよ~ そ、そんなことよりも……早く捕まっていた人たちを村に帰そうよ?」
 ジルーが照れた様子で言うと、マーチルやラックドナも頷いた。
「そうですね。それがいいよ!」
「アヴェリーノさんも、早く戻りましょう」
「いや、私はまだまだ、ここにトラップや悪用される恐れのあるモノがないか調べる必要がある。君たちは被害者の帰還と、コボルド使いの護送を行って欲しい」
「わかりました」
 僕がお辞儀をすると、ジルーとマーチルは、捕縛されたコボルド使いの縄を持った。
「ほら、行くよ、ワンコ使いちゃん」
「や、やめてよ~ こんなことしなくても歩くし……逃げないよ」
「はいはい。続きは怖~~~~いお兄さんたちが、詰め所で聞くからね」
「ひぃぃぃぃぃ!」
 アヴェリーノも、コボルド使いの危険性を充分に承知していたらしく、獣人の自警団員を3人も付けてくれた。

 移動を始めて、およそ1時間後にはコニール村へと捕まっていた女性たちを連れ帰ると、村長も満足した様子で微笑んでいた。
 しかも、村にはロランスが心配した様子で、僕たちを待っていた。
「皆さん……無事ですか!?」
「ええ、スライム拘束を受けましたが……ソラたちが助けてくれました」
「近くにコボルドの森があるというのに、貴方たちだけに調査を行わせたのは私のミスです……ごめんなさい」
「そ、そんなに謝らないでください。結果として取り返せたし、犯人も捕まえることができました」
 ロランスはじっとコボルド使いを見ると、険しい表情をした。
「……特異な気の持ち主ですね。この者がコボルド使いですか」
「はい。どうやら私の体を乗っ取るつもりだったようです」
「詳しい取り調べは、隠れ里の自警団員に任せましょう。彼らなら……」
「ちょっと待ってくれ!」
 そう言いながら近づいてきたのは、槍や弓、更には農具のフォークや、錆びた剣で武装した村人たちだった。
 村人たちは僕たちを取り囲んでいく。
「お、お前たち……村のために戦った人たちに、なんて態度だ!」
 村長が言うと、村の若者たちは叫んだ。
「村長のやり方は手ぬるいんだよ!」
「そうだ、そうだ!」
「契約には、犯人の引き渡しもあっただろう! その女は置いていけ!!」
 様子を見ていたロランスは、険しい表情をしたまま言った。
「……コボルド使いは、彼らに引き渡しましょう」
「は、はい……」
 不本意ではあるが、ロランスの言う通りにコボルド使いを村人たちに引き渡すと、彼らは引きずるようにコボルド使いを引っ張っていった。
「や、やめてぇ~~~~~!」
「うちの娘に手を出しやがって!」
「来い! 妻の分の礼をたっぷりとしてやる!」
 ロランスはすぐに、こちらに視線を向けてくる。
「これから故郷に向かいましょう。隊員全員の健康状態をチェックした方がいいですから……」
「わかりました」

 こうして僕たちは、コニール村を後にしてエルフの隠れ里を目指した。
 途中には森があり、更にジルーたちは本調子ではないので、少々警戒心を強めていたが、フォセットの姉ロランスが一緒だったから、必要以上に警戒する必要もなかった。
 僕だけでなく、フォセットも背中でリラックスしていると、ふと何かが落ちる音が聞こえてきた。
「ちょっとみんな……止まって!」
「え?」
 気になったので足元を探ってみたが、特にそれらしいモノは見当たらない。
「いかがなさいましたか?」
 フォセットが聞いてくると当時に、ジルーたちも足を止めて僕を眺めてきた。
「いや、何かモノが落ちる音が聞こえてさ……」
「え……そんな音した?」
 ジルーがフォセットやロランスに聞いたが、彼女たちは一様に首を横に振った。
「いいえ」
「私にも聞こえませんでした」
 僕よりも耳の良い、獣人・エルフのメンバーたちが聞こえないというのだから、空耳だったのではないかと感じた。
「ごめん、気のせいだったみたいだ」
 そう伝えると、ジルーたちはそりゃそうだよねと言いたそうに微笑んだ。
「いやいや、わかるよ。私もちょっとした物音が気になっちゃうことあるんだ~」
「特にジルーは耳が良いからね」
 ロランスも笑いながら言ったが、フォセットだけは声のトーンを下げた。
「何やら、不吉な気配がしますので……早めに里に戻りましょう」
「そ、そうだね」

 僕たちがエルフの隠れ里に到着していたとき、コニール村では複数の男たちが愕然とした表情のまま立っていた。
 彼らは古井戸にコボルド使いを括り付け、水責めという拷問を行っていたようなのだが、途中で女の姿が消え、代わりにキツネの尻尾のようなモノがぶら下がっていたという。

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