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22.スライムキング再び

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 小生と青毛娘たちは、岩山の下に避難して雨宿りをしていた。
 雨脚は一向に弱くはならないが、青毛娘たちが話し相手になってくれているので、退屈に感じることはない。栗の木やミカンの木などの話をしていると、群れで一番年下の青毛娘の妹が、岩壁を眺めた。
「ねえお姉ちゃーん、これなーに?」
「これは……す、スライム!?」

 どうやら青毛娘たちは、スライムキングを見たのは初めてのようだ。
 スライムキングは、相変わらず部下のスライムたちと合体して、約3000グラムほどの大きなスライムを装っていたが、やはりよく見ると、一枚岩ではないことが窺える。
 早速、部下のスライムがスライムキングに質問をしていた。
『ボス。大変です……ウマたちに見つかりました』
『えーそうですねぇ……困りましたねぇ~』
『ボス、これは以前から、問題として取り上げられていたことです。考える時間は充分にあったと思いますが……その点に関してはどのようにお考えですか?』
 別の部下のスライムが質問すると、スライムキングは一呼吸してから答えた。
『えーその点にー関しましては―、6月中に何とか収まるとー思っていましてー』
 スライムキングの言葉を聞き、牝馬たちはお互いを見てからクスクスと笑っていた。確かに今は6月なので、6月中さえやり過ごせば、解決しない訳ではない。

 当然のことながら、こんないい加減な返答で、部下スライムたちが納得するわけがなく、次々と質問をしはじめたのである。
『6月中もなにも、いま、ここで、問題が起こっているのですボス! その点に関してはどうお考えですか?』
『えー、それはーですねー、まだ審議中と言いますかー』
『ボス、ご覧下さい。この可愛らしいお馬さんたちを! 彼女たちは今まさに、我々のことを何だろうコイツ……って感じに見ています。危険でピンチなんです!』
 危険でピンチという言葉を聞き、牝馬たちはヒソヒソとささやきだした。重要なことなので2度言いたかったのだろうが、なんというか特徴的すぎる言い回しである。

 スライムキングは苦し紛れという様子で答えた。
『危ないとは思っていますが、危険であるという認識ではなかったです』
 さすがにこれは失言に近い受け答えだったらしく、部下スライムの全員が暫く絶句していた。
『どっちなんですか!』
『ボス、どっちです!』
『ですから……危ないとは思っていますが、危険であるという認識ではなかったと、申し上げています』
 確かに、ボスが言っていることが、支離滅裂に感じる。
『ボス、せめて……総合的に活動する観点から判断……くらいは仰ってください!』
『そうですよ! というか、既にウマたちがジロジロとこちらを見ています!』
『危機的で極めてデンジャラスだと、認識してください!』
『わ、わかりました……では、これより臨時の話し合いの場を設けたいと思います!』

 スライムキングが言うと、他のスライムはもちろん、話を聞いていた牝馬たちもスライムキングを眺めていた。
「でー、スライムさん、一体何を話し会うの?」
 そう青毛娘の妹(1歳の次女)が話しかけると、部下スライムたちはお互いを見合い、やがてスライムキングに視線を向けた。
『えー、ですから……危険であるという認識についての話し合いから……』
『いえいえ、ボス……我々はいま、ウマたちに見られているのです! この極めて危険な状況について、話し合いを行うべきだと思うのですが、ボスのお考えを聞かせてください!』
『でー、だから、ですから……危険である認識について、まず話し合いを行い、それからこの状況を打開する策をですね……』
『そんな悠長なことを言っている場合ですか!?』
『そうですよ! この状況を打開するためには、迅速かつスピーディーな対応を求められています!』

 スライムキングもヤキモキしていたらしく、やや苛立った様子で答えた。
『ですから、危険である認識についてまず、話し合いを行う必要があるのです。モンスター語……わかって頂けますでしょうか?』
『ですからボス、そんな悠長な話し合いをしていたら、間に合うモノも間に合わなくなります。モンスター語……わかって頂けますでしょうか?』
 スライムキングは遂に、声を荒げながら言った。
『では、わたくしの言っていることがおかしいと思う方……挙手を』

 その言葉を聞くと、部下スライム全員が手のような部位を空に向かってあげ、さらに話し合いを見物していた、牝馬たちも前脚を空に上げていた。

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