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7.マーキングという大切なお仕事
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6月も間近に迫ったある日。小生は父馬に呼ばれた。
「何だい父さん?」
「ジュニア。お前は来年には3歳馬になる。群れの牡馬の一員として……やらなければならない仕事があるのだ」
その言葉を聞いて、気が引き締まる思いがした。
3歳馬というのは、人間で言えば元服の儀式を行う歳である。人間に飼われているウマなどの中には、クラシックレースと呼ばれる由緒正しい大会に呼ばれるモノもいるらしい。
小生たち野生馬も彼らのように、大人の仲間入りを果たす覚悟がいるようだ。
「わかった。その仕事って?」
「来なさい」
父馬が案内してくれたのは、縄張りの境界と言えるポイントだった。
うちの群れは、そこそこ広い縄張りを持っているが、もちろん近隣にはライバルと言える群れもあるので、管理を怠っていれば、あっという間に境界を削られてテリトリーが減ってしまう。
テリトリーの中には、ミツバチが巣をつくるポイントや、塩が混じっている岩場があったりするので、縄張りは減らないようにするのが大事だ。
「着いたね」
そう伝えると、父馬も頷いた。
「ジュニアよ。我らが安全に暮らすためには、この縄張りを守り抜かないといけない」
「はい!」
気を引き締めて返事をすると、父もまた厳しい表情で言う。
「いいか、こうやって自分たちの領土だと、主張するのだ!」
父はそう言うと、身体を木の幹に擦り寄せて、自分のにおいをたっぷりと擦り付けた。ここまでするのはウマではなくユニコーンならではかもしれない。
「なるほど。因みに父さん?」
「なんだ?」
「おしっこしたいんだけど、かけてもいい?」
そう質問すると、父はもちろんと言いたそうに頷く。
「ああ、この辺りにかけて、新馬としてデビューを果たすがいい!」
「おお、いいねぇ! さっそくやるよ!!」
そう答えると、小生はさっそく木の根元におしっこをかけた。根本にはしっかりと小生のニオイが上書きされていき、近隣の猛者たちに対して、栗毛ジュニアの存在をアピールしていく。
父である元祖栗毛も、満足そうに微笑みながら言う。
「ヒトの世界では、2歳の6月辺りから、新馬がデビューしはじめると聞くが、我らもそのイベントに間に合って良かった」
「うん。今日このとき、小生もおしっこデビューを果たしたんだ……」
「では、次の場所に行くぞ」
「うん!」
次の場所も、獣道が交わる重要な場所だった。
父と小生は、すぐに近くの木の幹に身体を寄せると、しっかりと自分たちのにおいを擦り付けていく。
「あ、そういえば父さん!」
「ん、どうした?」
「大きいの……」
「我が仔なから抜け目ない奴だな。構わんぞ」
父からの許可も出たので、小生はおっきな置き土産を、この重要拠点に残していくことにした。
実は先日に、ドクダミやミントをたっぷりと食べたので、お腹の中で発酵して凄まじい臭いに仕上がっている。これは、さすがの父馬も苦笑いだった。
「ジュニア……このボロは、どんな秘伝の食材を混ぜ合わせて作ったのだ? お父さんの鼻が曲がってしまうぞ??」
「フッフッフッ……レシピは後で提供するよ。このボロは我ら栗毛一族の奥義としよう」
「近隣の猛者たちも、顔をしかめること間違いなしだな」
3個所目は、岩場の近くだった。
ここにも臭いは付けておくべきだろう。小生は体を擦り寄せていると、今度はオナラがしたくなったので、豪快に試射することにした。
ここには牝馬もいないわけだし、別に構わないだろう。
「利用できるものは、何でも利用するか……私も見習わないとな」
「これで重要ポイントは全部かい?」
「ああ、我らが守らなければならないのは、この3個所だ」
「わかった」
さて、そろそろ帰るのかと思っていたら、父は岩を舐めはじめた。これは、岩に隠れた僅かな塩分を取ろうとしているのだろう。
「どう? しょっぱい?」
「ここの岩は、他の場所と比べても、しょっぱい感じがするからな。見回りの後に舐めるようにしているのだ」
「じゃあ、小生も……」
こうして、塩分補給をしていると、白毛オジサンがやってきた。
「おい、マーキングしようとしたら……すげえ臭いのボロが落ちてたな。あんな機雷を仕掛けたのは……栗毛か?」
「ううん、小生だよ」
その言葉を聞いた白毛オジサンは表情を崩した。
「俺様を轟沈させるつもりか! こりゃ、後で鹿毛ヤローをいじりに行くしかねーな」
人はそれを、八つ当たりという。
【白毛おじさん】
つぶらな瞳が特徴的な名物おじさん。
栗毛ジュニアとウマが合うため話をすることは多いが、基本的に仔馬たちからは怖がられている。
今では性格も丸くなったが、若い頃は群れ一番の気性難として知られており、様々なライバルたちとやり合った過去を持つ。
「何だい父さん?」
「ジュニア。お前は来年には3歳馬になる。群れの牡馬の一員として……やらなければならない仕事があるのだ」
その言葉を聞いて、気が引き締まる思いがした。
3歳馬というのは、人間で言えば元服の儀式を行う歳である。人間に飼われているウマなどの中には、クラシックレースと呼ばれる由緒正しい大会に呼ばれるモノもいるらしい。
小生たち野生馬も彼らのように、大人の仲間入りを果たす覚悟がいるようだ。
「わかった。その仕事って?」
「来なさい」
父馬が案内してくれたのは、縄張りの境界と言えるポイントだった。
うちの群れは、そこそこ広い縄張りを持っているが、もちろん近隣にはライバルと言える群れもあるので、管理を怠っていれば、あっという間に境界を削られてテリトリーが減ってしまう。
テリトリーの中には、ミツバチが巣をつくるポイントや、塩が混じっている岩場があったりするので、縄張りは減らないようにするのが大事だ。
「着いたね」
そう伝えると、父馬も頷いた。
「ジュニアよ。我らが安全に暮らすためには、この縄張りを守り抜かないといけない」
「はい!」
気を引き締めて返事をすると、父もまた厳しい表情で言う。
「いいか、こうやって自分たちの領土だと、主張するのだ!」
父はそう言うと、身体を木の幹に擦り寄せて、自分のにおいをたっぷりと擦り付けた。ここまでするのはウマではなくユニコーンならではかもしれない。
「なるほど。因みに父さん?」
「なんだ?」
「おしっこしたいんだけど、かけてもいい?」
そう質問すると、父はもちろんと言いたそうに頷く。
「ああ、この辺りにかけて、新馬としてデビューを果たすがいい!」
「おお、いいねぇ! さっそくやるよ!!」
そう答えると、小生はさっそく木の根元におしっこをかけた。根本にはしっかりと小生のニオイが上書きされていき、近隣の猛者たちに対して、栗毛ジュニアの存在をアピールしていく。
父である元祖栗毛も、満足そうに微笑みながら言う。
「ヒトの世界では、2歳の6月辺りから、新馬がデビューしはじめると聞くが、我らもそのイベントに間に合って良かった」
「うん。今日このとき、小生もおしっこデビューを果たしたんだ……」
「では、次の場所に行くぞ」
「うん!」
次の場所も、獣道が交わる重要な場所だった。
父と小生は、すぐに近くの木の幹に身体を寄せると、しっかりと自分たちのにおいを擦り付けていく。
「あ、そういえば父さん!」
「ん、どうした?」
「大きいの……」
「我が仔なから抜け目ない奴だな。構わんぞ」
父からの許可も出たので、小生はおっきな置き土産を、この重要拠点に残していくことにした。
実は先日に、ドクダミやミントをたっぷりと食べたので、お腹の中で発酵して凄まじい臭いに仕上がっている。これは、さすがの父馬も苦笑いだった。
「ジュニア……このボロは、どんな秘伝の食材を混ぜ合わせて作ったのだ? お父さんの鼻が曲がってしまうぞ??」
「フッフッフッ……レシピは後で提供するよ。このボロは我ら栗毛一族の奥義としよう」
「近隣の猛者たちも、顔をしかめること間違いなしだな」
3個所目は、岩場の近くだった。
ここにも臭いは付けておくべきだろう。小生は体を擦り寄せていると、今度はオナラがしたくなったので、豪快に試射することにした。
ここには牝馬もいないわけだし、別に構わないだろう。
「利用できるものは、何でも利用するか……私も見習わないとな」
「これで重要ポイントは全部かい?」
「ああ、我らが守らなければならないのは、この3個所だ」
「わかった」
さて、そろそろ帰るのかと思っていたら、父は岩を舐めはじめた。これは、岩に隠れた僅かな塩分を取ろうとしているのだろう。
「どう? しょっぱい?」
「ここの岩は、他の場所と比べても、しょっぱい感じがするからな。見回りの後に舐めるようにしているのだ」
「じゃあ、小生も……」
こうして、塩分補給をしていると、白毛オジサンがやってきた。
「おい、マーキングしようとしたら……すげえ臭いのボロが落ちてたな。あんな機雷を仕掛けたのは……栗毛か?」
「ううん、小生だよ」
その言葉を聞いた白毛オジサンは表情を崩した。
「俺様を轟沈させるつもりか! こりゃ、後で鹿毛ヤローをいじりに行くしかねーな」
人はそれを、八つ当たりという。
【白毛おじさん】
つぶらな瞳が特徴的な名物おじさん。
栗毛ジュニアとウマが合うため話をすることは多いが、基本的に仔馬たちからは怖がられている。
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