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43.瞬く間に平定される勇者の領土

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 どうやら本当に勇者派は、僕たち魔王軍の勢力知らなかったようだ。
 ズィルバー城に侵攻したことで勇者の耳に入ったらしく、慌てて部隊を差し向けてきたが、僕は前もって最前線の城と、ズィルバー城の間にある山道に崖崩れを起こしておいた。

 この辺りはまだ雪に覆われているので、有翼人隊が10人ほどで焙烙玉を落とせば容易に補給路を寸断できる。
 ズィルバー城自体には大した数の守備兵はおらず、更に城主も忠誠心が低かったと見えて、城を包囲したら3日と持たずに白旗を揚げた。


「よし、このズィルバー城の城主はレオニーにしよう。元城主のアレックスも補佐役として彼女を支えてくれ」
「は、ははっ!」
 補佐役を任せると言うと、アレックスはとても安心した表情をしていた。どうやら彼にとって一番恐ろしかったことは、僕に追放されて行き場所が無くなることだったようである。

 そしてレオニーはと言えば、瞳を真っ赤にしながらズィルバー城の窓から城下町を眺めている。
 自分が城主になれたことも嬉しいだろうが、それ以上に伯父の居城を取り戻せたことが何よりも嬉しいようだ。その証拠に僕に対しての忠誠度が100になっていた。

「よし、次はマルコス城を攻略するよ!」
 そう伝えると、ロドルフォも頷く。
「賛成です。あまりグズグズしていると王国軍が来ます……厄介な敵が増える前に攻略しましょう」


 さて、このマルコス城だが、実は有翼人たちが攻撃に向かうと大編隊に驚いたらしく、城主と思しき人が現れてすぐに白旗を揚げた。
 すると兵士たちも、城のあちこちに白旗を掲げだし、城に付き合うように城下町の人々も白旗を揚げていく。

 有翼人隊300人に、焙烙玉なんて落とされてはたまらないということなのだろう。
 様子を見ていたブルンフリートは、すぐに空襲を取りやめ、地上部隊であるロドルフォ隊が向かうと、すぐに城主が出てきて、ロドルフォたちの前に剣を捨てたという。

 こうしてマルコス城の城主としてロドルフォを任命すると、僕の城数は7。そして勇者の城数は1まで減っていた。
 さて、求職中の将軍の中から、また文官を中心にたくさん雇おうかと思っていると、兵士がやってきた。
「陛下……お仕事中に失礼いたします」
「どうしたんだい?」
「ツーノッパ王国から使者の方が参られました……いかがなさいますか?」

 使者か。何の用だろう。
「わかった。すぐに謁見の間に行こう」
「ははっ……!」


 謁見の間で待っていると、使者がやってきた。
 ん……男の人が来るのかと思っていたら女性。それも頭上に出ていた名前を見て、僕は驚かずにはいられなかった。
「貴女は……王女殿か?」
「はい。ツーノッパ国王の第6王女アリーシャと申します。今日は……王国の使者としてお伺いしました」
「君も大変だね……ところで要件は?」
「王国と魔王軍の間で……同盟を結んで頂けないでしょうか?」

 彼女の提案に驚いてしまったが、よくよく考えると王国から見てもアリな話だと思った。
 いま王国は、北の大国と戦争中だ。この状況で南から僕たち魔王軍に攻撃されれば、南北から攻められることになる。
「……そうだね。僕としては1つ懸念していることがある」
「懸念? それはなんでしょうか?」
「ツーノッパ王国には、マーフォークやエルフ、有翼人など、僕の国の人間と同じ宗教を信じている同族がたくさんいる。彼らの移住を王国が斡旋してくれるのなら……前向きに考えてもいいかな?」


 提案すると、アリーシャ王女は拍子抜けした表情をしている。
「か、畏まりました……善処しましょう」

 その後は、アリーシャと国境に関する取り決めや残った勇者に関する処遇に関しても話し合いを行った。
 どうやら王国は、北の大公国との戦いに手いっぱいらしく、勇者一行と不法占拠している城に関しては、こちらで討伐して構わないようだ。
「ただし、もし勇者一行を捕らえた場合は、王国への身柄の引き渡しをお願いします」
「わかっていますが……僕はまず空襲で勇者の城に攻撃を仕掛ける予定です。そこで戦死する可能性も高いですが……」
「その場合は構いません」


 僕は間もなく、勇者の居城に向かって空襲を仕掛ける予定だったが、それもまた無駄に終わった。
 実は王国軍と魔王軍が同盟を組んだ話は、国王の手引きで勇者派にも伝えられており、その話を聞いた部下たちは、挟み撃ちにされることを恐れ、クーデターを起こしたのだ。

 勇者たちは城からは逃れたが、民衆に討たれたとも、山の中で野生動物に襲われて最期を迎えたとも言われているが、確かなことはわからない。

 その後、クーデター派は開城したが、僕は残らず王国に犯罪者として引き渡し、城だけを入手することにした。
 だって、こいつら……野心だけは高いけど、他の能力が全然魅力的じゃないんだもん。こんなのを配下に入れていたら、次は僕が寝首を掻かれそうだ。


【作者からの挨拶】
 最後まで【婿入り魔王シャリオヴァルトの滅亡寸前国家再興記】をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 自分自身はあまり強くはないタイプの魔王というモノが居てもいいのではないかと思ったのが、この作品を作るきっかけとなりました。
 財力に尖らせてみようと思って、主人公の設定を決めたところで構想が膨らみ、10万文字近い作品に仕上げることができました。とても勉強になったと思います。

 ちなみにこの後の魔王軍ですが、シャリオヴァルトは義理堅い人物のため、王国との同盟も維持したまま国を発展させて、戦争の無い豊かな国を作っていきます。

 設定としては、史実のヨーロッパのように、主人公没後の500年後にツーノッパでも産業革命が起こり、やがて2度の世界大戦に巻き込まれて、魔王軍も強国に呑み込まれて一度は滅亡します。
 その後は、民主国家として独立し、ツーノッパの中堅国家の一員として、そのまま現代に似た世界でツーノッパ連合の一翼を担うことになります。


 最後に次回作の話ですが、次は異世界転移モノを作る計画です。
 ちょうど年末年始の休暇もあり、時間もたくさん取れそうなので今のうちから張り切って話の骨組みなどを整理しています。
 少し大掛かりな作品になりそうなので、なるべく早く公開できれば……と考えております。

 ではみなさま……来年もよろしくお願い致します!

 2023年 12月26日 スィグ・トーネより。
 
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