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37.子供の誕生

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 12月の上旬。
 僕は執務中もソワソワとしていた。今は忙しい時期なので仕事をしなければならないが、それでもアデルハイトのことが気になる。
 書類仕事をさっさと終わらせて彼女の部屋へと戻ると、苦しそうに陣痛に耐えていた。

「…………」
 噂には聞いていたが、何というか言葉には表せない凄まじさを感じる。
 侍女たちの邪魔にならないように、その様子を見守っていると……やがて産声を共に子供が生まれてきた。

「……お喜び下さい! 男の子です!」
 その言葉を聞いたアデルハイトは、目を大きく開くと嬉しそうに目尻に涙を溜めていた。
 侍女たちは生まれてきた我が子の体をお湯で洗うと、慣れた様子で布に包んでからアデルハイトへと差し出していいる。


 侍女のひとりが僕を見た。
「陛下……早速ですが、未来のお世継ぎ様のために教育係を決めてください」

 その言葉を聞いて僕はハッと我に返っていた。
 今までは自分が父親になったんだと、ひとりの青年に過ぎない気分だったけれど僕は魔王なんだ。
「……そうだったね。すぐにリットーヴィント号、ロドルフォ、イヴォナ、オリヴァー、ブルンフリートを呼んで欲しい」

 彼らもアデルハイトが身ごもっていることを知っていたので、実はこのリットーヴィント城に来ていたのだ。
 早速呼び寄せると、彼らは次々と挨拶をしたり、生まれたばかりの息子を見たがったりと、それぞれが違った反応を見せてくれる。
「みんな、集まってくれてありがとう……僕の子の教育係に関してだけど、誰が一番ふさわしいと思う?」

 そう質問すると、エルフのオリヴァーはイヴォナを見た。
「私はこの中では新参者ですし、王家に入って日も浅い身……ここはイヴォナ殿が適任では?」
 イヴォナはすぐに反論する。
「いえいえ、私はあいにくですが子育ての経験がありません……ここは子育てを実際にしたことのある、ロドルフォ殿か、オリヴァー殿か、ブルンフリート殿こそ相応しいかと」
 今度はブルンフリートが言う。
「私は外様の者ですし、宗教の影響を強く受けています……未来の皇太子さまの思想にも関係しそうですから、ここはロドルフォ殿が適任かと」

 自分にお鉢が回ってくると、さすがのロドルフォも表情を崩した。
「いえいえいえ……私のような無骨者が教育係などとんでもない! 知性も豊富で馬術も教えられるリットーヴィント殿こそ相応しい!」
 その言葉を聞いたリットーヴィントも表情を崩した。
『お、お待ちください……私では皇太子さまに危険が迫ったときに抱き上げられません。手がありませんゆえ!』
「む、むううう……」


 アデルハイトがかわいそうだから表情を変えないように気を付けているが、この5人の押し付け合いがおもしろすぎる。
 いや、僕の子供の教育係をみんなで押し付け合っているのだから、本当なら怒るべきなんだろう。僕って本当にダメオヤジだなと思いながらも、5人の押し付け合いをそのまま眺めることにした。

 そのやり取りを見ていた侍女は、少し呆れた表情で言った。
「国の未来を背負って立つ、重臣の皆様がそんなことでどうするのですか?」
『いや、そうは言われてもな……』
「では、皆様は誰が相応しいとお考えなのですか?」

 リットーヴィント号は、ブルンフリートに顔を向け、
 ブルンフリートは、リットーヴィント号を見て、
 オリヴァーは、イヴォナを見て、
 イヴォナは、ロドルフォを見て、
 ロドルフォは、オリヴァーを見ていた。

 無理矢理決めるのもなんだから、消極的ながら僕は【ある方法】を使うことにした。
「しょうがないな……じゃあこう質問しようかな?」

 全員がこちらに視線を向けたので、僕はすぐにこう聞く。
「業務や家庭的な事情から、どうしても辞退したい人……手を上げて」

 そう質問すると、ブルンフリート、オリヴァー、イヴォナ、ロドルフォは一斉に手を上げた。まあ、城主3人は多忙だろうし、ロドルフォも警察のトップみたいな立場だから、しょうがないと言えばしょうがない。

 では、消去法で残っているリットーヴィント号に聞いてみることにしよう。
「じゃあ、リットーヴィント号……やってくれる?」
『全員が忙しい方々ですから仕方ありませんが……陛下、一言だけよろしいでしょうか?』
「なんだい?」
『私には脚しかありませんので、手の上げようがありません!』


 まあ、本当は僕自身でしっかりと教育できるのが一番なのだけどね。
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