上 下
34 / 48

31.銀製武器の配備

しおりを挟む
 勇者パワハーダが、王国の城を攻め落としたという話は、数日後に僕の耳に入った。
「食料を全て焼くか……ずいぶんと思い切ったことをしたね」
『馬鹿と天才は紙一重といいますが、今回はまさに賭けに勝ったという結果でした』

 全くその通りだと思う。
 勇者の身になって考えれば後ろ盾もないのだ。戦に負けたら待っているのは全てを失った逃亡生活と死とみて間違いない。
 そんな立場の人間が、自分から食料という名の命綱を切るようなマネをしたのだから、僕のような凡人には理解できない話だ。
「とりあえず、勇者は危険な男だということは理解したよ」
『私もまた、奴と戦う場合は細心の注意を払います』
「そうだね」


 そんな話をしていたら、アデルハイトが姿を見せた。
 彼女も妊娠6ヶ月半となり、お腹の中の我が子もだいぶ成長している。
 彼女は、ゆっくりと椅子に腰掛けると、こちらを見た。
「あなた。リットーヴィント城の硝石ですが、やはり不死者の封印されている洞窟から出ていたという証言を得たと調査隊が……」
「ありがとう。普段の執務はなるべく僕が行うから、君はゆっくりしていて」
「わかりました」

 硝石は思った通り、不死者たちを退けないと手に入らないようだ。これは、リスクもある程度は覚悟すべきか。
 僕はリットーヴィント号を見た。
「君も人材で良さそうな人がいたら積極的に勧誘して。勇者を相手にする場合でも、アンデッドを相手にする場合でも、心強い仲間がいれば犠牲は減るはずだ」
『承知致しました』

 リットーヴィント号は、独自の情報網を駆使して人材を探し続けてくれたが、さすがにこのあたりの浪人で優秀な人は雇い尽くしてしまったのか、空振りとなってしまった。
『ここ半月ほど探してみましたが、陛下にお勧めできる人材は居ませんでした』
「そ、そうか……いないものはしょうがない」

 まあ、幸いにも国内の人材不足も、だいぶ改善されてきてはいるから、ここからは気長に待ちながら着実に領土も拡大して行くべきだろう。


 そんなことを考えていたら、兵士がやってきた。
「申し上げます。注文していた銀製の槍の残り分が届きました」
「わかった。すぐに確認したい」
「ご案内します」

 リットーヴィント号やロドルフォと一緒に武器庫に向かうと、そこには白銀色に光る槍が壁に収められていた。
 これにはリットーヴィント号も『ほう……』と感心した声を漏らし、ロドルフォも満足そうに頷いている。
「刃先から霊力を感じますな」
『これはいい……想像以上の出来です!』

 僕も一振り手にとってみると、僕の霊力がまるで身体の一部のように槍の刃先にまで伝わっていく。
「君たちの言うとおりだ。身体の一部のように手に馴染む!」

 僕は元あったように槍を戻すと、なかなかの手応えを感じていた。
「前線部隊に配布したい。イヴォナに連絡を!」
「ははっ!」

 こうして僕は、前線部隊に銀製の槍2500振りを配備すると、ムキム隊とゲアハード隊の全員が銀武装をした。
 これに、リットーヴィント号を筆頭にしたユニコーン3頭の部隊も配置し、入念な下準備を済ませた。
「今回は、僕の本隊、リットーヴィント隊、ムキム隊、コード隊、ゲアハード隊の5部隊で突入する。ロドルフォ……留守は頼んだよ」
「畏まりました!」

 こうして僕は、総勢10000人を率いてリットーヴィント城の北東部へと向かった。
 アンデッドが封印されている空間まで来ると、さすがに瘴気が少しずつ漏れ出しているらしく、植物が枯れたり虫などの小動物が妙な動きをしている。
 ちなみに今回の大義名分は【少しずつ侵略してくる亡者の討伐】である。
「ここから先は、死と闇が支配する場所だ……各自、気を引き締めて開拓に臨んでくれ!」

 そう伝えると、武将も兵士たちも一斉に「はい!」と答えた。気合は十分という様子だ。
「じゃあ……」
 頷くと、最前列に立っていたリットーヴィント号が角を光らせた。
 すると、少しずつ岩に貼り付けられていた封印の魔法陣が消えていき、岩そのものに亀裂が走っていく。

 これでもう……後戻りはできない。
 岩が割れて崩れ落ちると、この世のモノとは思えない瘴気が周囲に流れ出て、僕自身も少し気分が悪くなりそうだった。瘴気だけでなく……何かが腐敗したような異臭もする。


 だけど……おかしい。
 魔物の気配がしないのである。これは罠か……それとも……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】淑女の顔も二度目まで

凛蓮月
恋愛
 カリバー公爵夫人リリミアが、執務室のバルコニーから身投げした。  彼女の夫マクルドは公爵邸の離れに愛人メイを囲い、彼には婚前からの子どもであるエクスもいた。  リリミアの友人は彼女を責め、夫の親は婚前子を庇った。  娘のマキナも異母兄を慕い、リリミアは孤立し、ーーとある事件から耐え切れなくなったリリミアは身投げした。  マクルドはリリミアを愛していた。  だから、友人の手を借りて時を戻す事にした。  再びリリミアと幸せになるために。 【ホットランキング上位ありがとうございます(゚Д゚;≡;゚Д゚)  恐縮しておりますm(_ _)m】 ※最終的なタグを追加しました。 ※作品傾向はダーク、シリアスです。 ※読者様それぞれの受け取り方により変わるので「ざまぁ」タグは付けていません。 ※作者比で一回目の人生は胸糞展開、矛盾行動してます。自分で書きながら鼻息荒くしてます。すみません。皆様は落ち着いてお読み下さい。 ※甘い恋愛成分は薄めです。 ※時戻りをしても、そんなにほいほいと上手く行くかな? というお話です。 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※他サイト様でも公開しています。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン
ファンタジー
【この時計を持つ者に、権利と責務を与える。】…その言葉が刻まれた時計を持つ2人の少女が出会い物語が始まる… 【HOTランキング最高22位】記録ありがとうございます。 『メソポタミア』×『ダークファンタジー』 ×『サスペンス』 バビロニア帝国西圏側の第四騎士団で使用人として働く源南花は、成人として認められる記念すべき18回目の誕生日が生憎の曇天で少し憂鬱な朝を迎えていた… 本来ならば、魔術を扱える者証である神格を持つ者の中でも、更に優秀な一部の人間しか、 騎士団に所属することは出来ないのだが… 源南花は、神格を有していないにも関わらず、騎士団へ所属出来る例外的な理由がある。それは… 『せめて娘が成人するまでは生かしてやって欲しい…』 それが、南花の父であり、帝国随一の武器職人だった源鉄之助の遺言… その遺言通り保護された、南花は、父の意志を銃職人を目指す形で引き継ぐ… 南花自身が誕生日の食材の一つとしてハイイロガンを、ルームメイトであるエルフの少女マリアと共に狩猟へと向かう。 その一方、工業化・化学の進歩が著しい帝国東圏側にある、士官学校に通う… アリサ・クロウは、自身の出自に関するイジメを受けていた。 無神格の2人、南花とアリサの出会いが、帝国の行く末を変えていく… 【1章.地下遊演地】 【2章.ギルタブリル討伐】 【3章.無神格と魔女の血】 【4章.モネータとハンムラビ】 【終章.バビロニア・オブ・リビルド】 【-epilogue-】迄投稿し完結となります。 続編に当たる『ハイカラ・オブ・リビルド』の投稿開始に合わせて、【-epilogue-】に新規エピソードを追加しました。 ※ダークファンタジーと言うジャンル上、過激な描写だと受け取ってしまわれるシーンもあるかと思いますが、ご了承いただけると幸いです。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・出来事とはいっさい関係がありません。 『カクヨム』と『小説家になろう』と『ノベルアップ+』にて、同作品を公開しております。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...