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28.分裂する王国

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 僕たちが戦力強化を進めているとき、ツーノッパ王国では大きな事件が起こっていた。
 遂に勇者率いる反国王派は、国王派の城に侵攻し、ツーノッパ地域を二分する戦いが始まったのである。

 勇者の行動によって、5つの城と37の地域がツーノッパ王国から独立し、どさくさに紛れて3つほど勢力も分離独立したので、ツーノッパ王国は城数6支配地域35まで減っている。
 その話をリットーヴィント号から聞いた僕は、頷きながら答えた。
「いい感じに仲間割れをしてくれたね!」
『私もそう思います。これからどうなさいますか?』

 僕は地図を眺めながら少し考えた。
 位置的にシャリオヴァルト魔王軍が兵を挙げたら、王国軍と勇者派を挟み撃ちにする形になる。ただ、今の僕の勢力はまだ城数3で、勇者派と比べると半分程度の力しかない。
 王国軍と勇者軍で潰し合い、お互いが疲弊したところで襲い掛かるのがベストだろう。
「今はまだ時期尚早というヤツだね。国力を付けながら、勇者派に気付かれないように戦力を増強したい」


 そう自分の意見を言ってみると、シャリオヴァルトは少し考えてから答えた。
『この王国内乱は、多くの民が難民となって周辺地域にあふれ出るでしょう。そうなることを見越して……呪われた土地を開拓するのはいかがでしょう?』
「呪われた土地?」
『はい。元ゴブリンキングの居城……現在のシャリオヴァルト城の北側に封印された洞窟がありまして……その先には、ゾンビやゴーストと言った亡者たちがひしめく魔の盆地があるのです』
「そこを開拓して領土化するということかい?」

 そう聞き返すと、リットーヴィント号は頷く。
『その通りです。調査を進めてみたところ、どうやらこの洞窟内に硝石が眠っている可能性が高いです』


 確かにリターンは大きそうだが、今度の相手はアンデッドか。
 いくらユニコーンがいるとはいえ、一度封印を解いてしまったら亡者たちから攻撃を受ける危険性も出てくる。入念な下準備が必要そうだ。
「確か、亡者には銀製の武器が効くのでしたね?」

 アデルハイトが確認するように問いかけると、シャリオヴァルトは頷いて答える。
『その通りです。とはいっても大量の銀は手に入らないので銀の槍を作るのが精一杯でしょう』

 僕もその話を聞きながら考え込んだ。
「なるほど。僕自身が銀を出すのと、金貨にして買い付けるの……どっちがいいのかな?」

 そう言いながら自分自身の交換レートと、アデルハイトに調べてもらった価格表を見ると……金貨を出してから購入する方が良いことに気が付いた。
 金属を大量に出すよりも、希少な金属を少しだけ出す方が僕にとっては得意なようだ。

「じゃあ、アデルハイト……金貨を出すから、銀の調達と武器への加工をお願い」
「わかりました。職人たちに作って頂きましょう」
「リットーヴィントは、引き続き有能そうな人を見かけたら登用して」
『ははっ!』


 こうして銀製武器の制作と、人材集めを並行して行うことにした。
 それにしてもリットーヴィント号は、優秀な文官や武官ばかりを集めて来るが、どれくらいの浪人を見つけているのだろう。
 ちょうど水をお茶代わりに飲んでくつろいでいるので聞いてみることにした。
「ねえ、リットーヴィント?」
『陛下! いかがなさいましたか?』
「ちょっと気になったことがあってさ。君はいろいろな渡り鳥から職探しをしている浪人の情報を集めているけど、やっぱり巷にはお眼鏡に叶わなかった浪人が沢山いるのかい?」

 そう質問すると、リットーヴィント号はもちろんと言いたそうに頷く。
『仰る通りでございます。というか巷では能力が低いにも関わらず、法外に高い給金を要求している輩が何人もいます』
「そ、そうなんだ……!」


 歴史シミュレーションゲームなどでも、討ち死にをしない仕様にしておけるモノがある。
 そうすると、最後の方は能力が低くてどこの勢力からも雇ってもらえない僕のような浪人であふれかえっているが、どうやらこの異世界も例外ではなかったようだ。
『ところで、この者はいかがでしょうか?』

【サミュエル ドワーフ男 28歳
農業37 商業71 野戦12 籠城8 智謀31 義理49 忠誠55 野心51

所有アビリティA:ガラス職人(安価でガラスを作るノウハウを持つ)】

 そのアビリティを見て、僕は思わず唸っていた。
 西洋風の城は石造りのモノが多く、冬場は暖炉を燃やしていても凍えるような寒さなのだと聞いている。しかし窓ガラスがあれば、出窓などを塞ぐことができるので、冬場でもかなり快適に過ごせそうだ。
「この人は、僕の地域に配属しよう」
『はは……後は、こういう人材もいます』

【コネリウス ヒューマン男 37歳
農業62 商業51 野戦38 籠城36 智謀25 義理53 忠誠61 野心40

所有アビリティA:保存食作成(食べ物を長期間保存する)】


【ジャン エルフ男 34歳
【農業61 商業68 野戦12 籠城19 智謀53 義理62 忠誠65 野心60

所有アビリティA:ワイン製作(質の良いワインを作るノウハウを持つ)】


 間もなく、僕はコネリウスをイヴォナのいるリットーヴィント城に、ジャンをブルンフリートのいるアデルハイト城へと移動させることにした。

 彼らに命じた後で、僕はこんな質問をしてみた。
「他に武官はいなかったのかい?」
『さすがに、武官は国王派と勇者派がこぞって雇い入れていますからね……いたとしても能力が低いか、性格に難があって雇えないかのどちらかでした』

 なるほど。それなら今は人気のない文官を優先的に勧誘した方がよさそうだ。
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