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王女様と国王(語り部:国王の娘)

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 間もなくわたくしは、父である国王陛下へ面会をお願いしました。
 陛下は多忙なので、いくら娘と言えど会ってもらえないことも珍しくはありませんが、今回はちょうど隙間時間があったようで、幸運にもお話する機会がありました。
「おお、アリーシャ。どうしたのだ?」
「お父様……お耳をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「何だ何だ?」

 わたくしは勇者が、魔族討伐を兵士任せにしてパワハラをしている話や、更に魔族の王女の首を確かめもせずに持ってきているという話を打ち明けました。
「……あ奴ならやりそうなことじゃな」
「もし、首を持参してきたら、しっかりとした調査をお願い致します」
「当然の話じゃ。奴の問題行動は目に余るものがある……ここらで手を打っておいた方がよいじゃろうな」


 それから数日経つと、勇者一行が首桶を持って姿を現しました。
「わりぃな王様。行軍に少々手間取っちまった」
「構わん。で、それが魔王の娘の首か」
「ええ、と言っても腐敗も進んでいるから……あまり見ない方がいいですよ」

 普段の父なら、わかったわかったと言って首桶をすぐに手下の人間に押し付けていたところでしょう。しかし、今回は違いました。
「確認するのも王の務めでな。念のため検めさせてもらおう」


 父はそういうと、首桶を開けて険しい表情をしていましたが、目を細めながら首を睨んでから言います。
「……おい、魔王の娘の肖像画を!」
「た、直ちに……!」

 近衛兵が大慌てで引き出しの中から肖像画を出すと、急いで父に差し出します。
 父は肖像画を睨むように見て、そして首桶に視線を戻すと、しばらく睨んでから唸るように言いました。
「……焼けていて、大分見えづらくはなっているが……顔立ちに違和感があるな」
「そ、そうでしょうか?」
「おい、探索系能力者を呼べ」
「は、はい!」


 遠くからそのやり取りを拝見していましたが、父の態度はブラフだと感じました。
 首桶の中から流れ出るマナの様子から、中の首は恐らく焼けていると思われます。そのうえに腐敗が進んでいるのですから、普通なら女の首くらいしかわからないはずです。

 近衛兵は、宮廷魔導師の中でも探索能力に優れた使い手を3人呼ぶと、すぐに首桶に視線を向けました。
「……では、確認させていただきます」


 彼らはマスクや手袋を付けて首を出そうとしたので、わたくしは目を背けました。さすがに直視できるほど肝は太くないのです。
 宮廷魔導師たちは、首を布の上か何かに置いて首が本物か確認しているのでしょう。
「ふむ……確かに魔族の女性のようですね」
「しかし、年齢が……」
「ああ、何だか違うように思えるな」

「そんなはずはねえだろう! てめえらいい加減なことを……」
「黙れ!」
 さすがの勇者も父の命令には逆らえないようです。渋々という様子で口を閉じると、宮廷魔導師たちは作業を再会しました。
「……陛下」
「なんだ?」
「この魔族の女性の皮膚を、少し拝借してもよろしいでしょうか?」
「構わん。持って行け」

 父が許可すると、魔導師たちは皮膚を削り取って回収し、1人が自分たちの部屋へと戻っていきました。
 そして興味深かったのが、他の魔導師たちの行動です。他にも何か道具のようなモノを出して首桶の中を調べたりしているのです。

 勇者は落ち着きなく座ったまま、貧乏ゆすりをしたり右の人差し指で床を突いたりしています。本心では今すぐにこの確認作業を止めさせたいに違いありません。


 複雑な分析をするのかと思っていましたが、先ほど退出した宮廷魔導師はすぐに戻ってきました。
「陛下」
「ずいぶん早いな」
「先ほどの毛を、鼻の効くウェアウルフに確認してもらったところ、27歳の魔族の女性であることが判明しました」
「な、そんなわけ……!」

 勇者がすぐに声を荒げたが、宮廷魔導師は反論します。
「近衛兵の中でも、特に鼻の利くウェアウルフ5人に確認してもらいました。全員別々に証言してもらいましたが、27歳と答えた方が3人、25歳が1人、28歳が1人でした」
「デタラメをほざくなぁ!」
「だから、黙れと言っているのが聞こえんのか勇者!」

「デタラメではありませんよ勇者様。嗅覚強化のアビリティを持っているウェアウルフはオオカミと同等の嗅覚を持っています。オオカミは雪原で10メートル埋めた動物の肉も嗅ぎ分けるほどの力を持っています」
「ぐぬぬぬぬ……」


「ふむ……取って来る首を間違えたようだな。まあ炎で焼け落ちる最中なら致し方あるまい」
 父はそうおっしゃると、近衛兵たちを見ました。
「ここは現場の兵士たちへの聞き取りで最終判断をするとしよう。突入した兵士たちを招集して、一人一人に証言してもらうように」
「ははっ!」


 こうして突入した兵士たち1人1人に聞きとり調査をすることになりましたが、ここで味方をしていた魔族の女性兵士を殺害し、その首を首桶に入れたという証言が近衛兵たちの耳に入りました。

 この件の報告を聞いた父は表情を変え、すぐに勇者を呼び出しましたが、勇者は招集を無視しただけでなく、実行犯と思われる兵士たちを次々と殺害して逃亡。
 父である国王は、勇者を指名手配して身柄を拘束しようとしましたが、勇者一行が王都から逃れたため、勇者討伐命令が出されることとなりました。


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