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王女様の激昂案件(語り部:国王の姫)
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みなさま初めまして。
わたくしの名はアリーシャ。数ある国王の娘の1人です。
国王の娘と言っても母君の身分がそれほど高くはないので、嫁がせたところであまり戦略的な意味をなさない娘に過ぎません。だから、父である国王も勇者を釣るためのエサとしてわたくしを使ったのでしょう。
客観的に見て、父上の娘の使い方は王として正しいモノだと思います。
ですからわたくしも……庶民であっても素朴で紳士的な殿方を求めていたのですが、いくら何でもあの男パワハーダは無しです。家来を虫けらのように扱うし、嘘はつくし、少しでも機嫌を損ねると大騒ぎするし、あんな男を王族に加えれば間違いなく我が国は滅亡するでしょう。
はぁ……なにかないものでしょうか。あの男と結ばれずに済む方法は。
今日も悶々とそんなことを考えていると、侍女のひとりが歩いて参りました。
「王女殿下……」
「なあに?」
「実は、魔王の残党討伐から戻ってきた兵士が……お耳に入れたいことがあると……」
わたくしは、その言葉にとても興味を持ちました。官位や爵位の無い方とお話をする機会はあまりないからです。
「もちろん、嫌でしたら私からお断り……」
「もちろん会いましょう。それからお茶の準備も」
「は、はは……!」
間もなく侍女が連れてきたのは、人として最低限の身なりはしているものの、とても貧しい恰好をした兵士の方でした。彼は臣下の者が行う礼儀作法を知らないらしく、何というかとても野性的で新鮮に感じます。
「し、失礼します……殿下!」
「お気楽にしてください。どうぞ……おかけください」
「は、はい!」
席に座るように勧めると、彼は緊張した表情のまま腰掛けました。
「魔王の討伐を命がけで行っていただきありがとうございます。父や民に代わってお礼を申し上げます」
「そ、そんな……もったいない!」
「もしや、わたくしの未来の夫か……父が御迷惑をおかけいたしましたか? もしそうなら、何なりとおっしゃて下さい」
そう話を切り出すと、その兵士の方は唾を呑み込みながら仰います。どうやら、わたくしの勘は当たらずとも遠からずだったようです。
「じ、実はですね……魔王の残党狩りをしていた時に……」
彼は言葉を止めると、辺りに目くばせをしていました。
その表情は凄く怯えていて、見ているだけでも気の毒になってくるほどです。わたくしは最低でも落ち着いてもらおうとお茶を勧めながら言うことにしました。
「ここには、わたくしの関係者しかいません。ですから、たとえ父上の悪口を言ったとしても外部に漏れることはありませんよ」
その兵士が驚いた表情をしていると、侍女も笑いながら言います。
「殿下のお話は本当ですよ。殿下のお庭はそういう場所だと宮廷でも有名ですから、今日も某伯爵が安心して不満を仰っていたくらいです」
「そ……そうですか……そ、それでは……」
彼は少し安心した表情になると、そっと話を切り出しました。
「実は……魔王の残党狩りをしていた時に、最後の砦を攻撃したのですが……すでに魔族の王女は自刃した後でした」
「は、はい……」
魔族の王女の自刃という話は、わたくしにとっても他人事とは思えない話でした。魔族とはいえ同じような立場の者がそのような最期を遂げたというのは……何というか痛ましいものがあります。
でもこの様子だと、話には続きがありそうです。
「魔王軍にも意地があったのでしょう。魔族の王女の首を持ち帰ろうとしたときに……砦が燃え始めていることに気が付きまして、私たちは逃げることが精一杯だったのです」
「全員……ご無事だったのですか?」
「はい。無事だったのですが……勇者様は、首を持ち帰らなかったことを酷くお怒りになられて……」
その言葉を聞いて、わたくしの胸中にはふつふつと怒りがこみあげてきました。
全く、あの男は何を考えているのでしょう。今すぐに勇者の悪口を言いたくなるのを堪えながら、兵士の人の話を聞いていきます。
「お怒りになられて……どうしたんですか?」
「仲間の数人が……近くにいた魔族の女を殺害して、王女のクビと偽って……勇者さまに渡したのです」
わたくしは努めて平静を装おうとしましたが、怒りのあまり指先が震えていました。あの勇者が兵士たちを脅して追い詰めているから、関係ない人が酷い目に遭うのです。
「それで、勇者様は……なんと?」
「満面の笑みを浮かべられて……お前らにしては上出来だ。これであのボンクラ国王なんざ十分だろ……と」
「……貴重な情報をありがとうございます。この件は私からお父上の耳に入れてもよろしいでしょうか?」
「は、はい……」
私は一礼すると、すぐに父上の所へと向かうことにしました。
わたくしの名はアリーシャ。数ある国王の娘の1人です。
国王の娘と言っても母君の身分がそれほど高くはないので、嫁がせたところであまり戦略的な意味をなさない娘に過ぎません。だから、父である国王も勇者を釣るためのエサとしてわたくしを使ったのでしょう。
客観的に見て、父上の娘の使い方は王として正しいモノだと思います。
ですからわたくしも……庶民であっても素朴で紳士的な殿方を求めていたのですが、いくら何でもあの男パワハーダは無しです。家来を虫けらのように扱うし、嘘はつくし、少しでも機嫌を損ねると大騒ぎするし、あんな男を王族に加えれば間違いなく我が国は滅亡するでしょう。
はぁ……なにかないものでしょうか。あの男と結ばれずに済む方法は。
今日も悶々とそんなことを考えていると、侍女のひとりが歩いて参りました。
「王女殿下……」
「なあに?」
「実は、魔王の残党討伐から戻ってきた兵士が……お耳に入れたいことがあると……」
わたくしは、その言葉にとても興味を持ちました。官位や爵位の無い方とお話をする機会はあまりないからです。
「もちろん、嫌でしたら私からお断り……」
「もちろん会いましょう。それからお茶の準備も」
「は、はは……!」
間もなく侍女が連れてきたのは、人として最低限の身なりはしているものの、とても貧しい恰好をした兵士の方でした。彼は臣下の者が行う礼儀作法を知らないらしく、何というかとても野性的で新鮮に感じます。
「し、失礼します……殿下!」
「お気楽にしてください。どうぞ……おかけください」
「は、はい!」
席に座るように勧めると、彼は緊張した表情のまま腰掛けました。
「魔王の討伐を命がけで行っていただきありがとうございます。父や民に代わってお礼を申し上げます」
「そ、そんな……もったいない!」
「もしや、わたくしの未来の夫か……父が御迷惑をおかけいたしましたか? もしそうなら、何なりとおっしゃて下さい」
そう話を切り出すと、その兵士の方は唾を呑み込みながら仰います。どうやら、わたくしの勘は当たらずとも遠からずだったようです。
「じ、実はですね……魔王の残党狩りをしていた時に……」
彼は言葉を止めると、辺りに目くばせをしていました。
その表情は凄く怯えていて、見ているだけでも気の毒になってくるほどです。わたくしは最低でも落ち着いてもらおうとお茶を勧めながら言うことにしました。
「ここには、わたくしの関係者しかいません。ですから、たとえ父上の悪口を言ったとしても外部に漏れることはありませんよ」
その兵士が驚いた表情をしていると、侍女も笑いながら言います。
「殿下のお話は本当ですよ。殿下のお庭はそういう場所だと宮廷でも有名ですから、今日も某伯爵が安心して不満を仰っていたくらいです」
「そ……そうですか……そ、それでは……」
彼は少し安心した表情になると、そっと話を切り出しました。
「実は……魔王の残党狩りをしていた時に、最後の砦を攻撃したのですが……すでに魔族の王女は自刃した後でした」
「は、はい……」
魔族の王女の自刃という話は、わたくしにとっても他人事とは思えない話でした。魔族とはいえ同じような立場の者がそのような最期を遂げたというのは……何というか痛ましいものがあります。
でもこの様子だと、話には続きがありそうです。
「魔王軍にも意地があったのでしょう。魔族の王女の首を持ち帰ろうとしたときに……砦が燃え始めていることに気が付きまして、私たちは逃げることが精一杯だったのです」
「全員……ご無事だったのですか?」
「はい。無事だったのですが……勇者様は、首を持ち帰らなかったことを酷くお怒りになられて……」
その言葉を聞いて、わたくしの胸中にはふつふつと怒りがこみあげてきました。
全く、あの男は何を考えているのでしょう。今すぐに勇者の悪口を言いたくなるのを堪えながら、兵士の人の話を聞いていきます。
「お怒りになられて……どうしたんですか?」
「仲間の数人が……近くにいた魔族の女を殺害して、王女のクビと偽って……勇者さまに渡したのです」
わたくしは努めて平静を装おうとしましたが、怒りのあまり指先が震えていました。あの勇者が兵士たちを脅して追い詰めているから、関係ない人が酷い目に遭うのです。
「それで、勇者様は……なんと?」
「満面の笑みを浮かべられて……お前らにしては上出来だ。これであのボンクラ国王なんざ十分だろ……と」
「……貴重な情報をありがとうございます。この件は私からお父上の耳に入れてもよろしいでしょうか?」
「は、はい……」
私は一礼すると、すぐに父上の所へと向かうことにしました。
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