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11.絶対絶命の状況だが……
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気が付けば、べっとりと手汗を握りしめていた。
王国軍って、どれくらい城と地域を支配していただろうか。
「アデルハイト……」
「なんでしょう?」
「王国軍って、どれくらいの城や地域を支配してたっけ?」
アデルハイトは、険しい表情をしながら答える。
「御城の数は、聞いた話によれば14。支配地域は91だったと思います」
僕たちの勢力は、城数1の支配地域6だ。
勢力がまさか10分の1にも満たないとは。これはもう多勢に無勢とか、巨人の前の小人とか、そういう次元の話になってしまう。
勇者たちと争っても勝てるかどうかわからないし、そもそも争うことは悪手。
かと言って降伏を願い出ても、相手が寛大な措置を取ってくれる確率も低い。僕たちはこのまま蹂躙されてしまうしかないのだろうか。
何か、何かないだろうか。生き残る方法は……?
「リットーヴィント号」
『なんでしょう?』
「君が僕だったら……どうする?」
そう質問すると、リットーヴィント号は眉間にしわを寄せて答えた。
『この戦……勝ち目はほぼありません。ここは城を放棄し、1人でも多く森に撤収することを指示するでしょう』
その言葉を聞いてアデルハイトも険しい表情をしていた。
「困りましたね……その方法を使っても、恐らく逃げた者の大半は、飢えと病気に苛まれながら命を落とします」
『そうでしょうね。ですが……争って負けた時と比べれば犠牲は少ないと思います』
「……アデルハイトだったら?」
そう質問すると、アデルハイトは唾を呑んでから、険しい表情で答えた。
「……一か八か……王国軍の良心に縋ると思います。恐らく……この首に鎖を付けられることとなるでしょうが……」
その話を聞いていた兵士は、とんでもないと言いたそうに言った。
「お二人とも、魔族としての誇りを忘れてはなりません! もし……攻めてきたら全力で迎え撃つべきです! 全員で力の限り戦って果てて、魔族としての意地を後世に残るべき!!」
誰に聞いても勝ち目がないということが前提か。
確かにこの戦力差を考えれば、そういう答えになってしまうのも仕方ないだろう。つまり、当事者は全てが……この戦いの結末は同じだと考えていることになる。
『いっそのこと、みんなで死んだふりをするっていうのは?』
ひょっこりとスィグワロス号が顔を出し、笑いながら言うと、兄ウマは不機嫌そうに答えた。
『馬鹿! いま我らは重要な話をしているのだ……邪魔をするのなら向こうに行っていろ!』
僕も呆れながら、なんでこの弟ウマは空気を読まないのかとため息をついていた。
もし討伐隊が来れば、それこそ相当な数で押し寄せてくる。そうなってしまえば、あっという間に……
ん、待てよ。
スィグワロス号っていま、みんなで死んだふりって言ってたよな。
僕はすぐにアデルハイトに視線を向けた。
「アデル?」
「な、なんでしょう?」
「偽物の人間の死体って……用意できる?」
そう質問すると、アデルハイトは頷いた。
「あまりにも人間に近い精巧なモノは作れませんが、暗闇の中でそれっぽく見えるモノなら……」
『陛下。アンデッド部隊を作るのなら、お止めになられた方がよろしいかと。あれは……』
「いや、違うよ。死体が動いたら変じゃないか。死体はあくまで転がっていることに意味がある」
そう伝えると、ここにいた全員は半信半疑という表情のまま、無理やり納得するように頷いた。
『そ、それは……その通りですが……』
「アデル、子供の死体に模したニセ死体を200ほど用意できる? 魔王討伐隊が出撃したら、幼女多めで用意して欲しい」
「は、はい! 可能です」
『それから、街道破壊部隊が必要だな。レオニーの領地と、この御城を繋ぐ街道を今のうちに破壊して欲しい』
「承知いたしました」
「それから、これからレオニーに向けて伝令文を書く。後でロドルフォを呼んで」
僕の指示を聞いていたリットーヴィント号は不思議そうな表情をしていた。
『陛下……いったい、何をはじめられるおつもりですか?』
「死んだふり作戦だよ」
『し、死んだふり……?』
「そう、死んだふり」
そう言いながら笑うと、彼はますます不思議そうに首をひねっていた。
王国軍って、どれくらい城と地域を支配していただろうか。
「アデルハイト……」
「なんでしょう?」
「王国軍って、どれくらいの城や地域を支配してたっけ?」
アデルハイトは、険しい表情をしながら答える。
「御城の数は、聞いた話によれば14。支配地域は91だったと思います」
僕たちの勢力は、城数1の支配地域6だ。
勢力がまさか10分の1にも満たないとは。これはもう多勢に無勢とか、巨人の前の小人とか、そういう次元の話になってしまう。
勇者たちと争っても勝てるかどうかわからないし、そもそも争うことは悪手。
かと言って降伏を願い出ても、相手が寛大な措置を取ってくれる確率も低い。僕たちはこのまま蹂躙されてしまうしかないのだろうか。
何か、何かないだろうか。生き残る方法は……?
「リットーヴィント号」
『なんでしょう?』
「君が僕だったら……どうする?」
そう質問すると、リットーヴィント号は眉間にしわを寄せて答えた。
『この戦……勝ち目はほぼありません。ここは城を放棄し、1人でも多く森に撤収することを指示するでしょう』
その言葉を聞いてアデルハイトも険しい表情をしていた。
「困りましたね……その方法を使っても、恐らく逃げた者の大半は、飢えと病気に苛まれながら命を落とします」
『そうでしょうね。ですが……争って負けた時と比べれば犠牲は少ないと思います』
「……アデルハイトだったら?」
そう質問すると、アデルハイトは唾を呑んでから、険しい表情で答えた。
「……一か八か……王国軍の良心に縋ると思います。恐らく……この首に鎖を付けられることとなるでしょうが……」
その話を聞いていた兵士は、とんでもないと言いたそうに言った。
「お二人とも、魔族としての誇りを忘れてはなりません! もし……攻めてきたら全力で迎え撃つべきです! 全員で力の限り戦って果てて、魔族としての意地を後世に残るべき!!」
誰に聞いても勝ち目がないということが前提か。
確かにこの戦力差を考えれば、そういう答えになってしまうのも仕方ないだろう。つまり、当事者は全てが……この戦いの結末は同じだと考えていることになる。
『いっそのこと、みんなで死んだふりをするっていうのは?』
ひょっこりとスィグワロス号が顔を出し、笑いながら言うと、兄ウマは不機嫌そうに答えた。
『馬鹿! いま我らは重要な話をしているのだ……邪魔をするのなら向こうに行っていろ!』
僕も呆れながら、なんでこの弟ウマは空気を読まないのかとため息をついていた。
もし討伐隊が来れば、それこそ相当な数で押し寄せてくる。そうなってしまえば、あっという間に……
ん、待てよ。
スィグワロス号っていま、みんなで死んだふりって言ってたよな。
僕はすぐにアデルハイトに視線を向けた。
「アデル?」
「な、なんでしょう?」
「偽物の人間の死体って……用意できる?」
そう質問すると、アデルハイトは頷いた。
「あまりにも人間に近い精巧なモノは作れませんが、暗闇の中でそれっぽく見えるモノなら……」
『陛下。アンデッド部隊を作るのなら、お止めになられた方がよろしいかと。あれは……』
「いや、違うよ。死体が動いたら変じゃないか。死体はあくまで転がっていることに意味がある」
そう伝えると、ここにいた全員は半信半疑という表情のまま、無理やり納得するように頷いた。
『そ、それは……その通りですが……』
「アデル、子供の死体に模したニセ死体を200ほど用意できる? 魔王討伐隊が出撃したら、幼女多めで用意して欲しい」
「は、はい! 可能です」
『それから、街道破壊部隊が必要だな。レオニーの領地と、この御城を繋ぐ街道を今のうちに破壊して欲しい』
「承知いたしました」
「それから、これからレオニーに向けて伝令文を書く。後でロドルフォを呼んで」
僕の指示を聞いていたリットーヴィント号は不思議そうな表情をしていた。
『陛下……いったい、何をはじめられるおつもりですか?』
「死んだふり作戦だよ」
『し、死んだふり……?』
「そう、死んだふり」
そう言いながら笑うと、彼はますます不思議そうに首をひねっていた。
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