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4.アデルハイトの私室
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この世界に来て初めての夜。
僕は部下の女中に連れられて、ある部屋へと入った。
「少々、ここでお待ちください」
「は、はい……」
女中にベッドの上に腰を下ろすように合図されると、僕はその甘い匂いで、ここがアデルハイトの部屋であることを理解した。彼女を妻にもらったのだから当然の話なのだが、こうして部屋に通されると意味を改めて実感させられる。
ベッドの上に腰を下ろすと、それは百貨店なんかで売られているモノと同じくらいフワリとしていた。
思い出してみると、ここは剣と魔法の中世世界だ。ほとんどの人間がワラのベッドとか、簡易寝台で寝ているような世界なのだから、こんな綿か何かが詰められた布団で寝られるのなんて一部だけだろう。
そもそも僕には彼女がいたことなんてないのだから、女の子の部屋に入ったのはこれが初めてだ。
アデルハイトのテリトリー……なんて考えていたら、途端にいかがわしいことをしているような気分になってきた。彼女の部屋をジロジロと見るということは、彼女の内面を覗き見ているようなモノではないだろうか。
どこか落ち着かない気分で待っていると、複数の人間の足音が聞こえてきた。
「お待たせしました……あなた」
アデルハイトは、先ほどよりも薄着で露出度の高いドレスを着て現れた。しかも、辺りはすでに暗くなりはじめていたため、ロウソクの光が彼女の美しさを引き立たせている。
侍女たちは一礼して立ち去ると、アデルハイトは僕の隣にゆっくりと腰掛けた。
「夜更けまで、少しまだ時間があるので……よろしければ楽器でも嗜みましょうか?」
さすがはアデルハイトだと思った。
魔族とはいえ高貴な女性だけあり、そういう嗜みもあるようだ。僕ももちろん聞きたかったので頷く。
「聞いてみたいな。どんな楽器を使うんだい?」
「では笛を……」
彼女はベッドの奥にある机の引き出しを開いて、中のモノに手を伸ばすと、ちょうど机に乗っていたノートのようなモノが床に落ちていた。
僕はそっと立ち上がって、ノートを手に取ると……彼女は顔を真っ赤にしてノートを見てきた。
「も、戻しておくよ」
「は、はい……」
僕が元通りにノートを戻すと、彼女はホッとした様子で表情を戻していた。
その後、僕はアデルハイトの笛の音にすっかり聴き入った。笛自体もいいものなのだろうけど、彼女は音色に感情を乗せるのが上手いらしく、演技を見ているように錯覚してくる。
演奏が終わったところで、僕もアデルも軽く晩酌をしていたので、どちらともなく両手を絡めたり、肩を寄せ合っていた。
彼女の細くて美しい指が僕の指に絡むと、それだけで気分が高揚したし、彼女が僕の肩に身を寄せてくると、甘い匂いと共に長く美しい髪の毛が、僕の太ももにも掛かってくる。
そして、お互いに額を寄せ合うと、彼女の息吹を感じた。
ゆっくりと彼女の体をベッドに寝かせてから、身体を抱きしめてみると柔らかく、まるで暖かい布団を抱きしめているように感じてしまう。
ここまで、アデルハイトは恥じらってはいるけれど、僕を受け入れてくれているし、全て想定の範囲内という雰囲気だ。
だからこそ気になってしまう。あのノートを手に取った時の豹変ぶりはいったい……いや、気にしても仕方ないか。誰だって見られたくない秘密の1つや2つあるものだろう。
風が強く吹いてくるとロウソクの光は消え、部屋の中は真っ暗になった。
侍女も別の仕事に忙しかったらしく、彼女がロウソクに火を灯しにきたときには、僕もアデルハイトもすっかりと眠っていた。
彼女は、僕たちが起きないように布団を整えると、再び控室へと戻っていく。
そのまま僕はしばらく眠っていたが、何かが動いた気がして意識を戻すと、アデルハイトはベッドから起き上がって机に向かっていた。
何をしているんだろう。そっと薄目を開けて様子を窺ってみると、どうやら、僕が先ほど拾ったノートを眺めている。
何か確認したいことでもあったのだろうとスルーすることにしたが、それにしても長いな。
まだ見ているのだろうかと視線を向けると、彼女も僕を見ていたらしく、お互いに目が合ってしばらく沈黙してしまった。
「…………」
「…………」
「すみません。いま……戻ります」
彼女は慌てた様子でノートを机の中にしまうと、顔を真っ赤にしたままベッドに戻ってきた。
「もしかして、日記か何かだったのかい?」
そう聞くと、彼女はバツが悪そうな表情をしたまま答える。
「つ、拙い小説まがいのモノです……その……」
ああ、そう言えば聞いたことがある。
僕は小説というモノは書いたことはないが、書いている人の中には恥ずかしくて人には見せられないという人がいるようだ。彼女も恐らく……そのひとりなのだろう。
「わかってる。勝手に見たりはしないよ」
「よ、よかった……」
「だけどもし、見せる気になったら……見せて欲しいかな?」
そう伝えると、彼女は顔を真っ赤にしたまま呆然と僕を眺めていた。しばらく放心状態だったようだが、我に返ったらしく「つまらないことで起こしてしまいました」とだけ謝罪して、すぐに縋りついてくる。
普段は落ち着いていることが多いからこそ、こういう一面が見えるのは新鮮だと思う。
僕は部下の女中に連れられて、ある部屋へと入った。
「少々、ここでお待ちください」
「は、はい……」
女中にベッドの上に腰を下ろすように合図されると、僕はその甘い匂いで、ここがアデルハイトの部屋であることを理解した。彼女を妻にもらったのだから当然の話なのだが、こうして部屋に通されると意味を改めて実感させられる。
ベッドの上に腰を下ろすと、それは百貨店なんかで売られているモノと同じくらいフワリとしていた。
思い出してみると、ここは剣と魔法の中世世界だ。ほとんどの人間がワラのベッドとか、簡易寝台で寝ているような世界なのだから、こんな綿か何かが詰められた布団で寝られるのなんて一部だけだろう。
そもそも僕には彼女がいたことなんてないのだから、女の子の部屋に入ったのはこれが初めてだ。
アデルハイトのテリトリー……なんて考えていたら、途端にいかがわしいことをしているような気分になってきた。彼女の部屋をジロジロと見るということは、彼女の内面を覗き見ているようなモノではないだろうか。
どこか落ち着かない気分で待っていると、複数の人間の足音が聞こえてきた。
「お待たせしました……あなた」
アデルハイトは、先ほどよりも薄着で露出度の高いドレスを着て現れた。しかも、辺りはすでに暗くなりはじめていたため、ロウソクの光が彼女の美しさを引き立たせている。
侍女たちは一礼して立ち去ると、アデルハイトは僕の隣にゆっくりと腰掛けた。
「夜更けまで、少しまだ時間があるので……よろしければ楽器でも嗜みましょうか?」
さすがはアデルハイトだと思った。
魔族とはいえ高貴な女性だけあり、そういう嗜みもあるようだ。僕ももちろん聞きたかったので頷く。
「聞いてみたいな。どんな楽器を使うんだい?」
「では笛を……」
彼女はベッドの奥にある机の引き出しを開いて、中のモノに手を伸ばすと、ちょうど机に乗っていたノートのようなモノが床に落ちていた。
僕はそっと立ち上がって、ノートを手に取ると……彼女は顔を真っ赤にしてノートを見てきた。
「も、戻しておくよ」
「は、はい……」
僕が元通りにノートを戻すと、彼女はホッとした様子で表情を戻していた。
その後、僕はアデルハイトの笛の音にすっかり聴き入った。笛自体もいいものなのだろうけど、彼女は音色に感情を乗せるのが上手いらしく、演技を見ているように錯覚してくる。
演奏が終わったところで、僕もアデルも軽く晩酌をしていたので、どちらともなく両手を絡めたり、肩を寄せ合っていた。
彼女の細くて美しい指が僕の指に絡むと、それだけで気分が高揚したし、彼女が僕の肩に身を寄せてくると、甘い匂いと共に長く美しい髪の毛が、僕の太ももにも掛かってくる。
そして、お互いに額を寄せ合うと、彼女の息吹を感じた。
ゆっくりと彼女の体をベッドに寝かせてから、身体を抱きしめてみると柔らかく、まるで暖かい布団を抱きしめているように感じてしまう。
ここまで、アデルハイトは恥じらってはいるけれど、僕を受け入れてくれているし、全て想定の範囲内という雰囲気だ。
だからこそ気になってしまう。あのノートを手に取った時の豹変ぶりはいったい……いや、気にしても仕方ないか。誰だって見られたくない秘密の1つや2つあるものだろう。
風が強く吹いてくるとロウソクの光は消え、部屋の中は真っ暗になった。
侍女も別の仕事に忙しかったらしく、彼女がロウソクに火を灯しにきたときには、僕もアデルハイトもすっかりと眠っていた。
彼女は、僕たちが起きないように布団を整えると、再び控室へと戻っていく。
そのまま僕はしばらく眠っていたが、何かが動いた気がして意識を戻すと、アデルハイトはベッドから起き上がって机に向かっていた。
何をしているんだろう。そっと薄目を開けて様子を窺ってみると、どうやら、僕が先ほど拾ったノートを眺めている。
何か確認したいことでもあったのだろうとスルーすることにしたが、それにしても長いな。
まだ見ているのだろうかと視線を向けると、彼女も僕を見ていたらしく、お互いに目が合ってしばらく沈黙してしまった。
「…………」
「…………」
「すみません。いま……戻ります」
彼女は慌てた様子でノートを机の中にしまうと、顔を真っ赤にしたままベッドに戻ってきた。
「もしかして、日記か何かだったのかい?」
そう聞くと、彼女はバツが悪そうな表情をしたまま答える。
「つ、拙い小説まがいのモノです……その……」
ああ、そう言えば聞いたことがある。
僕は小説というモノは書いたことはないが、書いている人の中には恥ずかしくて人には見せられないという人がいるようだ。彼女も恐らく……そのひとりなのだろう。
「わかってる。勝手に見たりはしないよ」
「よ、よかった……」
「だけどもし、見せる気になったら……見せて欲しいかな?」
そう伝えると、彼女は顔を真っ赤にしたまま呆然と僕を眺めていた。しばらく放心状態だったようだが、我に返ったらしく「つまらないことで起こしてしまいました」とだけ謝罪して、すぐに縋りついてくる。
普段は落ち着いていることが多いからこそ、こういう一面が見えるのは新鮮だと思う。
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