7 / 17
7.O・MO・TE・NA・SI
しおりを挟む
森の精霊は視線を、侵入者たちがいる方角へと向けた。
「だいぶ近づいてきたようですね」
そう言うと精霊は、不敵に笑った。
そして周囲の木々がザワザワと音を立てながら揺れていき、少しずつ霊力を放出し始めていく。
地面からも少しずつ霧が現れはじめ、木々のざわめきは静まっていき、森全体を静寂が支配するようになっていった。
これは……間違いなく、あの術を使うつもりのようだ。
「……まさか」
思わずそう呟くと、精霊は不敵な笑みの中に妖艶な表情も混ぜて、こちらを見た。
「太古の昔の民は、我々を畏れ敬ったものです……」
霧が濃くなってきた。
「森は時として無慈悲に……人を食べますからね」
そこまで言うと、彼女は無表情になって小生を見た。
「不肖の息子よ。早くお行きなさい……貴方までお説教を受ける気はないでしょう?」
「あ、ああ……失礼します。我らが偉大なる母君よ」
私は森の中を駆けながら思い出していた。
人喰いの森は、世界各地に伝承として残っている。どうやら侵入者たちは、その意味をこれからじっくりと知ることになるようである。
悲鳴にも近い声が聞こえてきた。
「ま、前が……見えねえ!」
「くそ……どうして突然濃霧が!?」
「これ、絶対にユニコーンの魔力だろう!」
「くそ、こういう時の神頼みだ! 教会にどれくらい投げ銭したと思ってるんだ!」
「神よ……どうか、この魔力から我らをお守りください。ユニコーンを捕らえた暁には、必ずやお布施を……」
――確かに、神の力は偉大なものです
「……!?」
――しかし人間よ。いい加減に気が付くべきですね
「な、なんだ……なんだこの声は!?」
「魔女だ、きっと魔女の仕業だ!」
「い、いや……ユニコーンの魔力だろう、騙されるなぁ! 出てこないと……森を焼き払うぞ!!」
――世の中には、貴方がた人間の作り出した常識が通じない場所がある
人喰いの森は、世界各地に伝承として残っているものだ。
その聖域に許可なく足を踏み入れた者は、得体の知れない何かによって……消される運命にある。
――――――――
――――
――
ー
精霊の空間を脱出すると、その先にはごく普通の暗闇に包まれた雑木林へと出た。
さて、あの旅の演奏家はどこだろう。耳で探しても、匂いで探しても、視界で探しても、その気配を感じない。
「…………」
精霊は脱出したと言っていたから大丈夫だとは思うが、森を出たあとの身の安全までは保障してくれてはいない。探して合流できるのなら合流した方がいいだろう。
その雑木林を歩き回って彼女の気配を探ってみたが、本当にこの周辺にはいないようだ。
「……足跡はおろか、気配すらないな」
彼女だって、今まで独りでたくましく旅をしてきた人物だ。街道を歩いていたら再会という可能性もある。
そう思いながら小生は雑木林で一休みし、旅を再開することにした。
仮眠を終えると、雑木林にもすっかり朝日が差し込んできた。
旅をしながら探す人物も2人に増えてしまったわけだが、やることは以前とそれほど変わらない。小生は泉の側まで行くと、まずは全身に炎の気をまとって、寝ている間に身体にまとわりついたノミを一斉処分した。
「さて……これからどこに向かおうかな?」
少しずつ泉から立ち去ろうとしたとき、ふと脚元を見て小生は思わず表情を変えていた。
なんと、生えていたのは伝説の秘薬といわれる【イリクサー】の材料として、知られている草が生えているのである。
それも、1株や2株ではない。
200以上もの貴重な薬草が群生しており、小生は思わず「これは夢か……?」と呟いていた。
「誰か……精霊が管理しているのかな……?」
小生は焦る気持ちを抑えながら、角を光らせて精霊へと呼びかけを行ってみた。こういうモノが生えているからと言って、下手に口にしたら後から持ち主が……というパターンは避けたい。
「…………」
「…………」
小生は再び「本気か……?」と呟いた。
どうやら、持ち主と言えるような精霊や竜族もいないようだ。もちろん、人間のにおいや気配もない。
「つまりこれ、本当に気まぐれ的に自然発生したもの……ということか!?」
そして当然のことながら生唾を呑んだ。
これほどたくさんの薬草を食べることができれば、霊力が強まるだけでなく、新たな回復魔法も使えるようになるかもしれない。
「だいぶ近づいてきたようですね」
そう言うと精霊は、不敵に笑った。
そして周囲の木々がザワザワと音を立てながら揺れていき、少しずつ霊力を放出し始めていく。
地面からも少しずつ霧が現れはじめ、木々のざわめきは静まっていき、森全体を静寂が支配するようになっていった。
これは……間違いなく、あの術を使うつもりのようだ。
「……まさか」
思わずそう呟くと、精霊は不敵な笑みの中に妖艶な表情も混ぜて、こちらを見た。
「太古の昔の民は、我々を畏れ敬ったものです……」
霧が濃くなってきた。
「森は時として無慈悲に……人を食べますからね」
そこまで言うと、彼女は無表情になって小生を見た。
「不肖の息子よ。早くお行きなさい……貴方までお説教を受ける気はないでしょう?」
「あ、ああ……失礼します。我らが偉大なる母君よ」
私は森の中を駆けながら思い出していた。
人喰いの森は、世界各地に伝承として残っている。どうやら侵入者たちは、その意味をこれからじっくりと知ることになるようである。
悲鳴にも近い声が聞こえてきた。
「ま、前が……見えねえ!」
「くそ……どうして突然濃霧が!?」
「これ、絶対にユニコーンの魔力だろう!」
「くそ、こういう時の神頼みだ! 教会にどれくらい投げ銭したと思ってるんだ!」
「神よ……どうか、この魔力から我らをお守りください。ユニコーンを捕らえた暁には、必ずやお布施を……」
――確かに、神の力は偉大なものです
「……!?」
――しかし人間よ。いい加減に気が付くべきですね
「な、なんだ……なんだこの声は!?」
「魔女だ、きっと魔女の仕業だ!」
「い、いや……ユニコーンの魔力だろう、騙されるなぁ! 出てこないと……森を焼き払うぞ!!」
――世の中には、貴方がた人間の作り出した常識が通じない場所がある
人喰いの森は、世界各地に伝承として残っているものだ。
その聖域に許可なく足を踏み入れた者は、得体の知れない何かによって……消される運命にある。
――――――――
――――
――
ー
精霊の空間を脱出すると、その先にはごく普通の暗闇に包まれた雑木林へと出た。
さて、あの旅の演奏家はどこだろう。耳で探しても、匂いで探しても、視界で探しても、その気配を感じない。
「…………」
精霊は脱出したと言っていたから大丈夫だとは思うが、森を出たあとの身の安全までは保障してくれてはいない。探して合流できるのなら合流した方がいいだろう。
その雑木林を歩き回って彼女の気配を探ってみたが、本当にこの周辺にはいないようだ。
「……足跡はおろか、気配すらないな」
彼女だって、今まで独りでたくましく旅をしてきた人物だ。街道を歩いていたら再会という可能性もある。
そう思いながら小生は雑木林で一休みし、旅を再開することにした。
仮眠を終えると、雑木林にもすっかり朝日が差し込んできた。
旅をしながら探す人物も2人に増えてしまったわけだが、やることは以前とそれほど変わらない。小生は泉の側まで行くと、まずは全身に炎の気をまとって、寝ている間に身体にまとわりついたノミを一斉処分した。
「さて……これからどこに向かおうかな?」
少しずつ泉から立ち去ろうとしたとき、ふと脚元を見て小生は思わず表情を変えていた。
なんと、生えていたのは伝説の秘薬といわれる【イリクサー】の材料として、知られている草が生えているのである。
それも、1株や2株ではない。
200以上もの貴重な薬草が群生しており、小生は思わず「これは夢か……?」と呟いていた。
「誰か……精霊が管理しているのかな……?」
小生は焦る気持ちを抑えながら、角を光らせて精霊へと呼びかけを行ってみた。こういうモノが生えているからと言って、下手に口にしたら後から持ち主が……というパターンは避けたい。
「…………」
「…………」
小生は再び「本気か……?」と呟いた。
どうやら、持ち主と言えるような精霊や竜族もいないようだ。もちろん、人間のにおいや気配もない。
「つまりこれ、本当に気まぐれ的に自然発生したもの……ということか!?」
そして当然のことながら生唾を呑んだ。
これほどたくさんの薬草を食べることができれば、霊力が強まるだけでなく、新たな回復魔法も使えるようになるかもしれない。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる