旅行くおウマにヒッチハイク ~今日も様々な人の話に耳を傾けながら、ゆっくりと旅を続けます~

スィグトーネ

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4.演奏家を乗せて

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 けっきょくあの後も、オオカミの群れが襲ってくることはなかった。

 小生はすっかりと眠っていたが、笛の音が聞こえてくると夢から引き戻され、自分が少女と共に野宿をしていたことを思い出した。
「…♪~~~~~…♪♪」
「♪♪~~~………♪~~」

 演奏していたのは、やはり少女だった。
 彼女のメロディーが森の中に響くと、小鳥たちが演奏に参加するようにさえずりを響かせてくる。少女はまるで小鳥たちと演奏を合わせるように笛を吹き続けていき、やがて演奏は終了した。

「おはようございます、昨夜はぐっすりと眠れましたか?」
「ああ、君のおかげでね」

 そう答えると、小生はまだ半分は眠っている身体を起こし、しっかりと伸びをした。
「小生はここで腹ごしらえをしていくよ。君は先を急ぐかい?」
「いいえ。特に急ぐような旅でもありませんから……ここで朝を楽しんでいます」


 小生はおおよそ2時間ほどかけて食事をとった。
 これでもウマの中では急いでいる方だ。基本的にウマは1日の半分以上は草を食んでいる生き物である。もちろん他のウマのようにのんびり食事をしていては、旅をする時間が限られてしまうので、小生は効率よく食事をする工夫をしている。

 実は腹部に、乳酸菌をはじめとした消化効率を上げてくれるような菌を、たくさん飼っているのだ。おかげで他のウマの倍以上の消化効率をしているし、変なモノを食べてしまっても消化できることも多い。


「さて、そろそろ小生は旅をはじめるけど……」
「それなら私もお供します。次の村まで徒歩だと3日はかかるので、しばらくご一緒させていただくかもしれません」
「それなら、乗っていった方がいいかな」

 小生はそういうと、魔法の力でハミや鞍と言った馬具足を出した。特に長旅になると小生だけでなく乗り手にもかなりの負担になるので、これくらいの装備は必要だ。

「降りたくなったら、降りると言ってね」
 彼女は小生の背に乗ったら、悪ふざけする様子で声色を下げた。
「乗ったな……ふふ、残念だが貴様は二度と地上に戻ることは無い。このあと私の妻となるのだ……なんちゃって♪」

 芸術家らしい妄想たっぷりのセリフだ。
 しかし、女性というのはもっと強かな生き物だと思う。小生も声色を上げた。

「まあ、何と情熱的なお言葉でしょう。このウマミは喜んで貴方様の妻となりましょう。さあ、まずは仕事を辞めて、専業主婦として貴方に使えまする。そして、料理と洗濯とお部屋の掃除は、もちろん旦那様の負担で……」
「お前はなにをするというのだ?」
「旦那様のたくさん貯めた財宝を掃除させていただきます……なんちて♪」

 演奏家はクスッと笑うと、声色を戻した。
「そういう女性、たま~にいますから気を付けてくださいね」
「大丈夫。男や牡の中にも、対抗できるレベルでひどいのがいるから」


 歩きはじめると少女は聞いてきた。
「ところでユニコーン様は、どちらを目指されていらっしゃるのですか?」
「……人を探してるんだ」

「人? どのような人ですか?」
 小生は少女に視線を向けた。
「……君に今、小生の角は見えるかい?」

 彼女はじっと小生の顔を眺めてきた。
「……いいえ。ただ……」
「ただ?」
「目を瞑って演奏すれば、額の辺りに何かある……ということはわかるかもしれません」

 その言葉を聞いて、なるほどと感心した。
 人間は視覚や動体視力が優れていると聞いているけど、個体によっては聴覚も優れているのだ。耳が鋭い者なら小生が探しモノを目撃している者もいるかもしれない。

「小生はね……天使を探しているんだ」
 天使という言葉を聞いた少女は、不思議そうな顔をしていた。
「天使というと……あの背中に純白の翼がある、神話などに出てくる天の使いのことですか?」

「そう、その天使……彼らは人間界にいるときは、ずっと翼を隠して人間に混じって生活しているんだ」

 小生は、遠くまで広がる青空を見上げていた。
「彼女はもう、天に戻っているかもしれないし、魔にやられてしまっているかもしれない……ただ」
「ただ?」
「まだ小生は、この大地のどこかにいるんじゃないかと思えるんだ。自分の翼を直すことよりも、誰かを助けることを優先する人だからね」

「…………」

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