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41.幸せな結婚式の横で……(語り部:旅の傭兵)

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 俺のことを覚えているだろうか。
 名前はマイク。ツーノッパ王国にいたとき、カイトやオリヴィアという2人組の隣で宿泊していた、しがないモブ傭兵だ。


「か、かっこいい馬!」
 視線を外に向けると、教会でインディゴメイルズのハイスペック冒険者が、アイアンメイスのヒーラーと結婚式を挙げているようだ。
 そして、インディゴメイルズの新郎は黒毛で整った馬に跨って登場し、新婦の方はタテガミと尻尾が白い栗毛馬に乗って式場に登場している。
「やはりハイスペック同士だから……豪華な結婚式になるな」


 俺のような三下の傭兵では7度生まれ変わっても、こんな豪勢な式を挙げることなどできないだろう。
 自分の力なら……そうだな。どこかの小さなバーを貸し切って、神父さんを連れてきて式を挙げる。それくらいが限界だ。

 それにしても、あのたてがみと尻尾が白い馬……見事な毛並みだったな。
 体つきもたくましい牡馬だったし、さては新郎の男……どこかの牧場にでも頼み込んで、この日のために用意したに違いない。こういうデキル男に愛されのは女にとっての幸せの一つだろう。

「お客さん、そろそろだよ」
 バーのマスターに言われて、俺は気を引き締めた。


 俺が何をしているのかと言えば、離婚調停の用心棒役である。
 実はここのバーのマスターは神父でもあり、ここでは表立って教会で言えないように離婚話を成立させる場所なのである。

 最初の離婚話は、冒険者の男と、雑貨屋で働く妻の離婚だ。
 ここまで聞くと、ごく普通の夫婦が、ありきたりな理由で離婚をしようとしているように聞こえるだろうが、この冒険者の男が……まあ、あまり大きな声では言えないのだが、男に目覚めてしまったから妻を抱けなくなったというのだ。

 これは妻には何の落ち度もないので、プラチナ貨2枚の慰謝料を払うと言うことで離婚は成立。せめて流血の事態にならなくて良かったと思う。


 次のお客さんは、中年の男性だった。
 どうやら妻が、妙な宗教にハマってしまったらしく、貯えや自分の稼ぎを次々と寄付していって生活ができないというのだ。

 神父さんは、その妻を今すぐに連れてくるように言うと、何でもその宗教は教会などには悪魔がいるらしく、関係する施設の敷地内に入ることを禁止しているとか。

 そっと、神父の顔を見てみると、怒り出す寸前という雰囲気だった。今のミリズス会は、一時期のように魔女狩りなどは積極的に行ってはいないが、神を悪魔扱いしようものなら僧兵たちが飛んで行くぞ。

 神父は、その怪しげな宗教団体の調査を、ミリズス会に行うように働きかけることを約束し、その男性と別れた。彼の問題が解決するには、もう少し時間がかかりそうだ。


 そして、最後の3人目のお客さんは女性だった。
 どうやら彼女は、夫が密かに悪行を重ねていることを気に病んでいるようだった。

 詳しく話を聞いてみると、ハントしてはいけない動物を密猟したり、同僚のアイテムを勝手に盗んだり、レッドトマホークのギルド員を密かに闇討ちしたり、シャドーアローズのギルドに放火したり、女風呂をのぞき見したり、近所の女の下着をハントしたり……とやりたい放題らしい。

 神父は、女性の記憶をアビリティによって確認してみると、やがて険しい顔をした。
「これは大変ですね。今すぐにそんな夫とは離縁すべきです……ですが」
「なんでしょう?」

 不思議そうな顔をする女性を診て、神父は言った。
「そもそも我が教団だけでなく、フロンティア国そのものが貴方がたを夫婦とは認めていないので……内縁の関係を解消するだけでよいのでは?」


 このフロンティア地域では、様々な宗教が入り混じっている。
 だから、この奥さんのように1か所で結婚式をしたから、夫婦だと思い込んでいる人も多かったりする。
「むしろ、夜逃げ用の業者を紹介しましょうか?」

 そう提案すると神父は渋い顔をしていたが、やがて背に腹は代えられないか……と言いたそうに黙認の態度を取っていた。


 間もなく彼女は、便所紙の1枚に至るまで自分のモノを家から持ち出し、その危険な男から逃れたのだが、それはまた……別の話だ。


【バーで働いている少女】
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