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1.突き付けられる決断
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僕は困惑していた。
意識はしっかりとしていたが体中が動かない。まるで全身を縄か何かで縛り上げられているかのようだ。
この金縛りという現象は、過去にも何度か味わったことがあるけれど、今回のは少しばかり特殊だった。
なんとか目を空けることには成功したが、目の前に黒い翼を生やした少女が微笑みながら立っている。
きっと金縛りの原因はコイツだろう。
真夏の夜の中に現れた、幽霊のような黒い翼の女は、僕を見下ろしていた。
「……冴えない中年男よ。死が近づいているようだな」
死……?
何を言っているんだこの女は。僕はまだ35歳だ。確かに中年かもしれないが、この程度のことで死ぬはずがないだろう。
そう思っていたが、身体から恐ろしいほどの量の汗が流れ出ていることに気が付いた。今の僕の状態は……もしかして……
女は満面の笑みを浮かべた。
「お前は汗を流しすぎている。頼みの綱のクーラーというシロモノが壊れたのが運の尽きだったな」
なるほど。つまりコイツは、死神というワケか。
全身の力を抜いたとき、その女は言った。
「このまま死を受け入れるのも自由だが、男よ……私の試練を受けてみる気はないか?」
試練だと……?
そう思いながら視線を返すと、女は頷いた。
「お前はこれから異世界に行く。そこでのクリア条件は最低2つだ」
「2つ……?」
そう聞き返すと、女は笑った。
「片方は、全てをかなぐり捨ててこの世界に戻ってくる」
「もう1つは?」
「とある少女を守り抜く」
その直後に吐き気を感じた。鼓動も激しくなってきて、いよいよ僕の身体は限界に近づいていることに気付いた。
迷っている時間はないようだ。
「どちらを達成してもいいんだな?」
「ああ、どちらでもお前は助かるだろう……どちらが幸せな未来かはわからんがな」
その黒い翼を持った女が指をはじくと、僕の意識は吸い込まれるように薄れていく。
「お前がこれから向かうのは……ツーノッパと呼ばれる、ヨーロッパと似た世界だ」
「最初に出る牢獄には魔女に捕まったエルフの少女がいる。ワルプルギスの前夜に飛ばしてやるから、あとは自分の目で見て、頭で考えるといい」
――――――――
――――
――
―
ゆっくりと目を開けたとき、目の前には若い女エルフがいた。
緑色の髪で歳は18歳くらいという感じだが、後ろ手に拘束され、更に奴隷のような首輪と、足にまで錠が付けられている。
彼女はそっと僕を見ると、小さな声で言った。
「貴方も、あの女に連れてこられたのですか?」
「そうだよ」
ここは牢獄の中のようだ。周囲を見渡しても何もない。
試しに少女を拘束している鎖を、力づくで外そうとしてもビクともしなかった。
さて、どうしたものか。
そう思っていた時、脳裏の【アビリティ】という単語が浮かんできた。
僕はどういうワケか、その単語の意味を理解できた。
確かアビリティとは僕自身が持っている固有の特殊能力のことだ。この世界の人間は1つ以上のアビリティを持っており、僕のような35年ものあいだ彼女1人作れない人間でも、生き抜くための特技を持っているはずだ。
「……確か、僕の特殊能力は」
思い出してみると、ハッとした。
能力名は確か……【レフトソード】
利き手である左手に剣や短剣を出すというシンプルな能力だが、これを上手く使えば少女を縛っている鎖を壊すことができるかもしれない。
意識をナイフの刃先に集中すると、刃先が光りを放ち……鎖を紙のように切り裂いた。
「……え!?」
僕自身も驚いたが、少女の驚きはそれ以上だったようだ。
ナイフを使いながら少女の両手を自由にすると、今度は足を拘束している鎖だ。右足を自由にし、次に左足を自由にすると、少女はゆっくりと立ち上がった。
「ありがとうございます」
「いや、あと首輪も……」
「いえ、それよりも脱出を……」
彼女はそういうと周囲を見回し、鉄格子に手を伸ばした。
「……アンロック」
そう言うと鍵穴が自動的に開き、鉄格子は音を立てて開いていく。
アビリティと呼んでいる力とは……似ているけど異質な力だと感じた。
「今のって……魔法?」
そう聞くと、エルフの少女は頷いた。
「はい。手さえ使えれば、私でもこれくらいできます」
彼女はあたりを見回した。
「幸いにも魔女の気配は感じません。魔女祭に出席しているのでしょうが……手下が見張っているはずです」
そう言えば、あの黒い翼の天使もそんなことを言っていたな。
牢獄から出ると、僕は前をエルフの少女は後ろに立った。
「……僕のことはカイトと呼んでくれ」
「オリヴィアです。気を付けてください……この音はガーディアンが来ます」
オリヴィアの言う通り、暗闇の中から動く岩のようなモノが現れた。
それは鈍重な動きながら、とても硬そうに思える。
だけど……僕のナイフは鎖も紙のように切り裂いたんだ。岩くらいいける!
僕はナイフを握りしめると、一気に駆け出しナイフで岩のバケモノを斬りつけた。
しかし……僕の目の前には砕けた刀身が舞っていた。
【囚われていたオリヴィア】
意識はしっかりとしていたが体中が動かない。まるで全身を縄か何かで縛り上げられているかのようだ。
この金縛りという現象は、過去にも何度か味わったことがあるけれど、今回のは少しばかり特殊だった。
なんとか目を空けることには成功したが、目の前に黒い翼を生やした少女が微笑みながら立っている。
きっと金縛りの原因はコイツだろう。
真夏の夜の中に現れた、幽霊のような黒い翼の女は、僕を見下ろしていた。
「……冴えない中年男よ。死が近づいているようだな」
死……?
何を言っているんだこの女は。僕はまだ35歳だ。確かに中年かもしれないが、この程度のことで死ぬはずがないだろう。
そう思っていたが、身体から恐ろしいほどの量の汗が流れ出ていることに気が付いた。今の僕の状態は……もしかして……
女は満面の笑みを浮かべた。
「お前は汗を流しすぎている。頼みの綱のクーラーというシロモノが壊れたのが運の尽きだったな」
なるほど。つまりコイツは、死神というワケか。
全身の力を抜いたとき、その女は言った。
「このまま死を受け入れるのも自由だが、男よ……私の試練を受けてみる気はないか?」
試練だと……?
そう思いながら視線を返すと、女は頷いた。
「お前はこれから異世界に行く。そこでのクリア条件は最低2つだ」
「2つ……?」
そう聞き返すと、女は笑った。
「片方は、全てをかなぐり捨ててこの世界に戻ってくる」
「もう1つは?」
「とある少女を守り抜く」
その直後に吐き気を感じた。鼓動も激しくなってきて、いよいよ僕の身体は限界に近づいていることに気付いた。
迷っている時間はないようだ。
「どちらを達成してもいいんだな?」
「ああ、どちらでもお前は助かるだろう……どちらが幸せな未来かはわからんがな」
その黒い翼を持った女が指をはじくと、僕の意識は吸い込まれるように薄れていく。
「お前がこれから向かうのは……ツーノッパと呼ばれる、ヨーロッパと似た世界だ」
「最初に出る牢獄には魔女に捕まったエルフの少女がいる。ワルプルギスの前夜に飛ばしてやるから、あとは自分の目で見て、頭で考えるといい」
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ゆっくりと目を開けたとき、目の前には若い女エルフがいた。
緑色の髪で歳は18歳くらいという感じだが、後ろ手に拘束され、更に奴隷のような首輪と、足にまで錠が付けられている。
彼女はそっと僕を見ると、小さな声で言った。
「貴方も、あの女に連れてこられたのですか?」
「そうだよ」
ここは牢獄の中のようだ。周囲を見渡しても何もない。
試しに少女を拘束している鎖を、力づくで外そうとしてもビクともしなかった。
さて、どうしたものか。
そう思っていた時、脳裏の【アビリティ】という単語が浮かんできた。
僕はどういうワケか、その単語の意味を理解できた。
確かアビリティとは僕自身が持っている固有の特殊能力のことだ。この世界の人間は1つ以上のアビリティを持っており、僕のような35年ものあいだ彼女1人作れない人間でも、生き抜くための特技を持っているはずだ。
「……確か、僕の特殊能力は」
思い出してみると、ハッとした。
能力名は確か……【レフトソード】
利き手である左手に剣や短剣を出すというシンプルな能力だが、これを上手く使えば少女を縛っている鎖を壊すことができるかもしれない。
意識をナイフの刃先に集中すると、刃先が光りを放ち……鎖を紙のように切り裂いた。
「……え!?」
僕自身も驚いたが、少女の驚きはそれ以上だったようだ。
ナイフを使いながら少女の両手を自由にすると、今度は足を拘束している鎖だ。右足を自由にし、次に左足を自由にすると、少女はゆっくりと立ち上がった。
「ありがとうございます」
「いや、あと首輪も……」
「いえ、それよりも脱出を……」
彼女はそういうと周囲を見回し、鉄格子に手を伸ばした。
「……アンロック」
そう言うと鍵穴が自動的に開き、鉄格子は音を立てて開いていく。
アビリティと呼んでいる力とは……似ているけど異質な力だと感じた。
「今のって……魔法?」
そう聞くと、エルフの少女は頷いた。
「はい。手さえ使えれば、私でもこれくらいできます」
彼女はあたりを見回した。
「幸いにも魔女の気配は感じません。魔女祭に出席しているのでしょうが……手下が見張っているはずです」
そう言えば、あの黒い翼の天使もそんなことを言っていたな。
牢獄から出ると、僕は前をエルフの少女は後ろに立った。
「……僕のことはカイトと呼んでくれ」
「オリヴィアです。気を付けてください……この音はガーディアンが来ます」
オリヴィアの言う通り、暗闇の中から動く岩のようなモノが現れた。
それは鈍重な動きながら、とても硬そうに思える。
だけど……僕のナイフは鎖も紙のように切り裂いたんだ。岩くらいいける!
僕はナイフを握りしめると、一気に駆け出しナイフで岩のバケモノを斬りつけた。
しかし……僕の目の前には砕けた刀身が舞っていた。
【囚われていたオリヴィア】
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