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10.星空の下で
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「そろそろか……」
僕はゆっくりと起きると、真っ暗な船内を歩いていく。
いま、見張り台にはネコ族のマーチルがいるだろうから、そろそろ見張りを交代してあげないと可哀そうだ。
甲板に出て、マストに付いている階段を登っていくと、マーチルは夜の海を真剣な表情で眺めている。そのまなざしはまるで少年のようだと思っていると、彼女は振り返った。
「マーチル、交代の時間だよ」
「ありがとう……さすがに、この季節でも夜は寒いね」
「足元に気をつけてね」
マーチルはマントを着なおすと、ゆっくりと階段を下りていき、やがて船内へと入った。
さて、ここに立ったからには、しっかりと見張りもするか。僕の場合は目視によって周辺を見渡すのはもちろん、エッケザックスの宝玉を使って、浅瀬がないか確認することもできる。
宝玉だけを出して丸盾状に変形させると、海流の様子や海底の様子が映し出された。
よし、とりあえず近くに、船を座礁させるようなポイントはない。
海底の安全の確認ができたのだから、あとは怪し気な船が近くにないかどうかだけ見張ればいい。
そう思っていたら、背後に誰かの気配を感じた。
「誰?」
振り返ると、そこにはエルフのオフィーリアが立っており、彼女も驚いた様子で僕を見ていた。
「な、なんだ……オフィーリアか」
「驚かせてしまってごめんなさい。その宝玉をもっとゆっくりと見たいと思いまして……」
そういえば、こうやって彼女とゆっくりと話すのはこれが初めてだ。
ゴーレム作りの時は、お互いに忙しかったからな……そう思いながら丸盾化した宝玉を見せると、彼女は顔を赤らめながら手に取った。
「僕には、海流や海中の構造がわかる程度なんだけど、君には何が見えているんだい?」
「マナの流れというべきでしょうか。この辺りとか、こことか……あとここに生き物のマナが見えます。もしかしたら魚群がいるのかも」
「凄いな……僕に、そういうのは見えないからね」
そう言いながらオフィーリアを見ると、彼女の胸のあたりが光っているように感じた。この気配は、過去にも感じたことがある。
もしかして、彼女も……僕と同じなのだろうか?
オフィーリアもまた、僕の頭上に視線を向けていた。
「もしかして……君にも見えてるのかい?」
そう言いながら僕は、自分の頭にあるオーブの破片を指さすと、オフィーリアも頷いた。
「……貴方にも見えるんですね」
「ああ、それだけじゃなくて、この船に攻め込んだ時、ここの船長も僕ら側の人間だった」
「…………」
ミホノシュヴァルツ号から聞いた話を伝えようか少し悩んだが、胸に留めておくことにした。必要ならば彼女の方から聞いてくるだろう。その時に答えればいい。
「まだ、どういうモノなのか……わからないことは多いけど、一緒に生きていくということはできそうだね」
オフィーリアは、少しホッとした様子で微笑んでくれた。
僕も大海原を眺める仕事を再会しなければ。
水面を照らしているのは月と星くらいなので、本当に暗い空間が広がっているが、目が慣れたのか少しだけ海の動きも見えるようになっている。
「オフィーリアは何をしたいんだい?」
そう聞くと、彼女は僕の隣に並んでから大海原を眺めた。
「そうですね……ずっと土地に根付いて生きたいとも、人間のように様々な場所に行きたいという思いもあります」
不思議なことを言うんだなと思いながら眺めていると、彼女は少し恥ずかしそうに僕に視線を向けてくる。
「こう思うのも、ニンフになってしまったから……なのでしょうね」
「何だか……わかるような気がするよ」
僕も星を眺めながら答えた。
「僕も冒険者をしていた時さ、どこかもっと遠くに行きたいと思いながら、自分の居場所があることに安心していた。そういうモノなのかもしれないよね」
そう言って笑いあっていた僕たちだけど、オフィーリアは表情を変えて船の甲板に視線を落としていた。何だろうと思って僕も視線を下げると……そこにはニヤニヤ笑いをするマーチルがいる。
「おい、なに笑ってるんだよ?」
「いや~ お熱いですねぇ……青春だなぁ……」
コイツ、絶対になにか勘違いしているだろ。
そう思っていたら、甲板の隅で寝ていたミホノシュヴァルツ号も首を上げて答える。
『こらこらマーチル。他人のプライベートに首を突っ込むモノじゃないぞ』
そこで止めてくれていたら単なる善良な一角獣なのだが、相手はミホノシュヴァルツ号だ。コイツまでニヤッと笑ってから言った。
『牡が牝を口説いているのだから、黙って見守るのがスジというもの』
「ああ~ そっかそっか~ そりゃあ、そうだよねぇ~ くくくくく……」
「おい、お前ら!」
そう叫ぶと、隣にいたオフィーリアまで噴き出すように笑っている。
「これはもう、決定的な証拠を掴まれてしまったから言い逃れはできませんね。観念してください。あ・な・た」
この星空の下に、一組のカップルが爆誕したという話なのでありました。
というか、翌朝にはニッパーやリーゼまでニヤニヤ笑いながら、僕たちのこと見てきたからな。噂って本当に広がるのが早いモノだと思う。
【オフィーリア】
僕はゆっくりと起きると、真っ暗な船内を歩いていく。
いま、見張り台にはネコ族のマーチルがいるだろうから、そろそろ見張りを交代してあげないと可哀そうだ。
甲板に出て、マストに付いている階段を登っていくと、マーチルは夜の海を真剣な表情で眺めている。そのまなざしはまるで少年のようだと思っていると、彼女は振り返った。
「マーチル、交代の時間だよ」
「ありがとう……さすがに、この季節でも夜は寒いね」
「足元に気をつけてね」
マーチルはマントを着なおすと、ゆっくりと階段を下りていき、やがて船内へと入った。
さて、ここに立ったからには、しっかりと見張りもするか。僕の場合は目視によって周辺を見渡すのはもちろん、エッケザックスの宝玉を使って、浅瀬がないか確認することもできる。
宝玉だけを出して丸盾状に変形させると、海流の様子や海底の様子が映し出された。
よし、とりあえず近くに、船を座礁させるようなポイントはない。
海底の安全の確認ができたのだから、あとは怪し気な船が近くにないかどうかだけ見張ればいい。
そう思っていたら、背後に誰かの気配を感じた。
「誰?」
振り返ると、そこにはエルフのオフィーリアが立っており、彼女も驚いた様子で僕を見ていた。
「な、なんだ……オフィーリアか」
「驚かせてしまってごめんなさい。その宝玉をもっとゆっくりと見たいと思いまして……」
そういえば、こうやって彼女とゆっくりと話すのはこれが初めてだ。
ゴーレム作りの時は、お互いに忙しかったからな……そう思いながら丸盾化した宝玉を見せると、彼女は顔を赤らめながら手に取った。
「僕には、海流や海中の構造がわかる程度なんだけど、君には何が見えているんだい?」
「マナの流れというべきでしょうか。この辺りとか、こことか……あとここに生き物のマナが見えます。もしかしたら魚群がいるのかも」
「凄いな……僕に、そういうのは見えないからね」
そう言いながらオフィーリアを見ると、彼女の胸のあたりが光っているように感じた。この気配は、過去にも感じたことがある。
もしかして、彼女も……僕と同じなのだろうか?
オフィーリアもまた、僕の頭上に視線を向けていた。
「もしかして……君にも見えてるのかい?」
そう言いながら僕は、自分の頭にあるオーブの破片を指さすと、オフィーリアも頷いた。
「……貴方にも見えるんですね」
「ああ、それだけじゃなくて、この船に攻め込んだ時、ここの船長も僕ら側の人間だった」
「…………」
ミホノシュヴァルツ号から聞いた話を伝えようか少し悩んだが、胸に留めておくことにした。必要ならば彼女の方から聞いてくるだろう。その時に答えればいい。
「まだ、どういうモノなのか……わからないことは多いけど、一緒に生きていくということはできそうだね」
オフィーリアは、少しホッとした様子で微笑んでくれた。
僕も大海原を眺める仕事を再会しなければ。
水面を照らしているのは月と星くらいなので、本当に暗い空間が広がっているが、目が慣れたのか少しだけ海の動きも見えるようになっている。
「オフィーリアは何をしたいんだい?」
そう聞くと、彼女は僕の隣に並んでから大海原を眺めた。
「そうですね……ずっと土地に根付いて生きたいとも、人間のように様々な場所に行きたいという思いもあります」
不思議なことを言うんだなと思いながら眺めていると、彼女は少し恥ずかしそうに僕に視線を向けてくる。
「こう思うのも、ニンフになってしまったから……なのでしょうね」
「何だか……わかるような気がするよ」
僕も星を眺めながら答えた。
「僕も冒険者をしていた時さ、どこかもっと遠くに行きたいと思いながら、自分の居場所があることに安心していた。そういうモノなのかもしれないよね」
そう言って笑いあっていた僕たちだけど、オフィーリアは表情を変えて船の甲板に視線を落としていた。何だろうと思って僕も視線を下げると……そこにはニヤニヤ笑いをするマーチルがいる。
「おい、なに笑ってるんだよ?」
「いや~ お熱いですねぇ……青春だなぁ……」
コイツ、絶対になにか勘違いしているだろ。
そう思っていたら、甲板の隅で寝ていたミホノシュヴァルツ号も首を上げて答える。
『こらこらマーチル。他人のプライベートに首を突っ込むモノじゃないぞ』
そこで止めてくれていたら単なる善良な一角獣なのだが、相手はミホノシュヴァルツ号だ。コイツまでニヤッと笑ってから言った。
『牡が牝を口説いているのだから、黙って見守るのがスジというもの』
「ああ~ そっかそっか~ そりゃあ、そうだよねぇ~ くくくくく……」
「おい、お前ら!」
そう叫ぶと、隣にいたオフィーリアまで噴き出すように笑っている。
「これはもう、決定的な証拠を掴まれてしまったから言い逃れはできませんね。観念してください。あ・な・た」
この星空の下に、一組のカップルが爆誕したという話なのでありました。
というか、翌朝にはニッパーやリーゼまでニヤニヤ笑いながら、僕たちのこと見てきたからな。噂って本当に広がるのが早いモノだと思う。
【オフィーリア】
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