上 下
13 / 41

レナの存在を知る元妃(語り部ズバーヴァ)

しおりを挟む
 皆さんごきげんよう。
 元ライアン皇太子の正室にして、最もこの世で美しく聡明で素晴らしい存在の令嬢ズバーヴァよ。

 今日、私はとても腹が立ったことがあったの。
 何かといえば、アーヴィック王国の征服作戦を父上に相談したんだけど、あろうことか父上は、「そんなことをやっている場合ではない。我らは今……クロスナイツ遠征に忙しいのだ!」ですって!

 クロスナイツ遠征とは、ミリズスが降り立った地である【約束の地】を我が国が取り返す聖戦のこと。
 ミリズス教の聖地と言われる場所はいま、異教徒たちの支配下にあり、信心深い父上はその土地を取り返すためにはるばる数百キロメートル……いいえ千数百キロメートルの遠征に力を入れているの。


 私としては、世界の中心がこのヴァーカリランドなのだから、約束の地なんて必要ないと思うのだけど、民草やイヌっころ……いいえ、家来の騎士たちの一部には【約束の地】をこの手に戻したいという人もいるの。
 全く、そんなのどうでもいいじゃない。そんなことよりも領土拡大よ! この素晴らしい存在であるはずの私に恥をかかせた……あの蛮族一族。いずれ八つ裂きにしてやるわ!!


 ああそういえば、その蛮族一族がどうやら、妙な小娘を嫁にしたそうね。
 名前は確か……レナだったかしら。間者の話では荷物のようにウマに背負われて、奴隷のように蛮族の城まで連行されていたらしいわ。

 なんでも霊力が強かったから、そのまま嫁入りしたという噂を聞いたけど、体よく奴隷として売り飛ばされるのが関の山ではないかしら。
 仮にも一国の皇太子を名乗っているのだから、それなりの地位の妻を欲しがるでしょう。どこから連れてきた女なのか知らないけど、従者もなく1人だけで連れてこられている時点で、大したことはないわ。

 あのライアン皇太子がどこで本性を現すかしら。いえ、もしかしたらもう売り飛ばされている頃かもしれないわね。
 ちょうど密偵が新しい情報を持ってきたし、高みの見物と……

 …………
 …………
 何ですって!?


 ゴホン、どうやら、そう悠長なことを言ってはいられなくなったわ。
 いま密偵がもたらした情報によれば、西の大国……ガーディアス帝国がアーヴィック王国への侵攻計画を立てているようなの。普通ならクロスナイツ遠征をしている我が国を狙ってきそうなモノなのだけど、どうやら帝国はアーヴィック王国に内偵を放っているらしく、内部の状況が丸わかりみたい。

 なぜそんなことを私が知っているのか……だって?
 ふふふ、私は聡明な王女にして令嬢よ。ヴァーカリミリズス信者はアーヴィック王国にもガーディアス帝国にもいるわ。信徒たちの力を使えば、情報などいくらでも入ってくるモノなの。
 クーデターを画策した時だって、どの家臣が不満を持っているのかなんてことは、信徒を通して伝わってきたからね。やはり宗教ほど強いものはこの世にはないわ。


 これはチャンスよ。すぐに我が国もガーディアス帝国の動きに合わせて、アーヴィック王国の北側に聖戦を仕掛けないと!
 私はすぐに父上にそのことを伝えました。ただ伝えるだけでなく、このまま黙って見過ごせば、我が国は西側だけでなく南側にあるアーヴィック王国側もガーディアス帝国に囲まれて、同時侵攻を受ける形になってしまう。

 そこまできちんと伝えたのに、父上は「だからお前は何度言ったらわかるのだ! まず優先するのは約束の地の奪還だ! それに聖騎士団の大半が出払っているから、侵攻できるような戦力は残っていない!!」ですって!


 それだけでも腹立たしいのに、腹心の参謀まで「これは絶好の機会ですぞ。ガーディアスがアーヴィックを攻めているうちに、我らは東側の小国を征服しましょう!」ですって!
 そんなことしている場合じゃないの。一体いつになったら、アーヴィック征服ができるのよ!

 父上も「そうだな。その策で行こう」じゃないのよ。
 どいつもこいつも無能揃いなんだから!!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。 その数、三十九人。 そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、 ファンタジー、きたーっ! と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと? でも安心して下さい。 代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。 他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。 そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。 はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。 授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。 試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ! 本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。 ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。 特別な知識も技能もありゃしない。 おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、 文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。 そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。 異世界Q&A えっ、魔法の無詠唱? そんなの当たり前じゃん。 っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念! えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命? いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。 異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。 えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート? あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。 なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。 えっ、ならばチートスキルで無双する? それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。 神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。 ゲームやアニメとは違うから。 というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。 それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。 一発退場なので、そこんところよろしく。 「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。 こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。 ないない尽くしの異世界転移。 環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。 星クズの勇者の明日はどっちだ。

異世界勇者~それぞれの物語~

野うさぎ
ファンタジー
 この作品は、異世界勇者~左目に隠された不思議な力は~の番外編です。 ※この小説はカクヨム、なろう、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のアイランドでも投稿しています。  ライブドアブログや、はてなブログにも掲載しています。

ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ
ファンタジー
 年収が低く、非正規として働いているため、決してモテない男。  それが、この物語の主人公である【東龍之介】だ。  そんな30歳の弱者男は、飲み会の帰りに偶然立ち寄った神社で、異世界へと移動することになってしまう。  異世界へ行った男が、まず出逢ったのは、美しい紫髪のエルフ少女だった。  彼女はエルフの中でも珍しい、2柱以上の精霊から加護を受けるハイエルフだ。  どうして、それほどの人物が単独で旅をしているのか。彼女の口から秘密が明かされることで、2人のワークライフがはじまろうとしている。 ※この物語で使用しているイラストは、AIイラストさんのものを使用しています。 ※なかには過激なシーンもありますので、外出先等でご覧になる場合は、くれぐれもご注意ください。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

処理中です...