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皇太子の悪口を言う元妃(語り部ズバーヴァ)

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 私の名はズバーヴァ。
 偉大なる聖ヴァーカリランドの王家に生を受けし女。

 王女と説明するよりも、ライアン皇太子の最初の妻と言った方が伝わるかしら。
 南の隣国の皇太子ライアンは、顔こそ普通だったけれど、この素晴らしい私とウマが合うことはなかったわね。

 どうしてかって?
 それは、我が一族が代々に渡って信仰しているヴァーカリミリズス教に、興味すら示さなかったからよ。


 嫁入りしたとき、我が国では国教にも指定されている、ヴァーカリミリズス教の素晴らしさを夫になるライアンにも説いたわ。だけど……
「どんな宗教を信仰するのも貴殿の好きだが、吾が王家では中立的な行動や判断を義務付けられている。公の場で、そのような発言は慎むように」

 ですって!
 私の信仰するヴァーカリミリズス教のどこが、中立的ではないというのかしら。

 確かに元となったミリズス教は、人を殺すなとか、物を盗むなとか、嘘をつくなとか、淫らな行いをするなとか、隣人の家で好き勝手するなとか、安易に神の名を口に出すなとか、絵にかいたパンのようなきれいごとばかりを並べる宗教だった。


 しかし、ヴァーカリミリズス教は違うわ。
 神の信徒にさえなれば、異教徒のモノを盗もうが、嘘をついて騙そうが、淫らな行いをしようが、暴力を振るってケガをさせようが、命を奪おうが、神の名を使って脅そうが、その全てが許される。
 特に私のような王族になれば、この身は既に神の一部。我々王族が白と言えば白。黒と言えば黒になるの。

 これほど合理的な宗教があるでしょうか。
 元となったミリズス教には、力も魅力もありません。我々のような賢く優秀なヴァーカリ人の考えた、ヴァーカリミリズス教のような人々の心を掴むような魅力がなければ、宗教なんてモノは続かないの。


 ところが嘆かわしいことに……ライアン皇太子も、しょせんは蛮族の成り上がり皇太子だったの。
 いくら私がヴァーカリミリズス教の素晴らしさを解いても、聞く耳を持ちませんでしたし、私と初夜を共にしようともしなかったくらい。
 私との間に子を成して、それを王にさえしてしまえば、アーヴィランドも周辺にある異教徒の国を攻めて、異教徒を奴隷として売りさばいて莫大な利益を得られるというのに……

 まあ、サル並みの知恵しかない者に何を言っても無駄よね。
 皇太子は哀れな存在なのだと思い、神のしもべである私は、皇太子のいる隣国アーヴィランドを平定して、神の国の一部にしようと考えたのですが……アーノルドとかいう悪知恵の回る魔法使いに邪魔をされたの。


 全くあの魔法使い……忌々しい男!
 あれさえいなければ、クーデターはきっと成功していたでしょう。何人もの家臣と肉体的な関係を持った私は、密かに絶好の機会が来るのを待っていたのですが、それが蛮族の王にバレていたなんて……

 あの蛮族王……ゴホン、ライアン皇太子の父親は、戦争をすることしか能のない国王ですが、だからこそ戦争で対峙すると恐ろしいの。
 密かにこちらの手駒としたクーデター派の家臣たちは、残らず打ち倒されてしまいましたし、私も縄目を張られて、最後は祖国に肌着一枚で突き返されることになった。


 今はこうして、祖国で「出戻り」と言われて、肩身の狭い思いをしていますが……私はまだまだ諦めるつもりはないわ。
 じつはお腹の中に、手駒とした家来の1人との間に身ごもった子がいるの。これをライアン皇太子の子と言い張って、いずれは国盗りの戦いを挑もうと思う。

 最低でも、あの戦だけはやたらと上手い国王が居なくなることが条件。
 そしてできれば、事実を知っているライアン皇太子もいないことがベターなのですが、真実などどうとでもなるのよ。
 私はすでに神の一部です。私がライアンの子と言えば、このお腹の子は……ライアンの子なのですから。


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