上 下
32 / 41

28.リッカシデン号が連れてきた人

しおりを挟む
 11月の上旬。
 私はお腹を撫でながら、子供の様子を感じていました。

 頭を下にした姿勢が落ち着き、あとはゆっくりと身体を整えていくだけという感じです。まあ、赤ちゃん本人にとっては、私のお腹の中は狭く感じているかもしれませんが、我慢を覚えてもらうことも必要です。
「あまり、苦労を感じないと……私みたいなニートになっちゃいますからね……」

 そんなことを呟きながらゆっくりとしていると、何日かぶりに一角獣リッカシデン号が戻ってきました。
「お帰りなさい」
「ただいま……」

 私はしばらく、シデン号が連れてきた女子を見ていました。
 年は、私よりも若そうです。まるで職人のようなつなぎを着ていて、工具のようなモノも持っています。
「あの、彼女は?」
「彼女の名はルビー。村大工の娘だったみたいなんだけど……親戚の家に行っている間に、故郷が山賊に襲われてしまったみたいでね」


 ルビーと呼ばれた少女は、シデン号から降りると私の前で跪きました。
「お妃様……どうか、あたしに武術を習う機会をください」
「ええと……侍女を目指すのかな?」

 ルビーが返答に困った顔をしていると、シデン号は言います。
「小生としては、彼女を騎士見習いとして取り立ててみることを勧めたいんだけどね」

 その言葉を聞いていた侍女たちは、驚いた様子でお互いを見合っていました。
 侍女長メアリーも、難しい顔をしながら言います。
「興味深いお考えだとは思いますが、我々のような女の細腕では、幼少期から厳しく育てられた男性騎士に対抗するのは難しいのでは?」

 シデン号は微笑みながら答えます。
「確かに、体格差だけ見れば男の方が有利だね。だけど……騎士の仕事というのは敵を倒すだけじゃないよ」
「と、仰いますと?」
「野営地を設営したり、破損した重機を修理したり、橋を架けたり、場合によっては敵の攻撃を受けた街そのものを修繕しないといけないこともある」


「なるほど。だから大工の娘に目を付けたというわけか……」
 そう言いながら歩いてきたのは、ライアン皇太子と一角獣スピカオブアムアス号でした。
「うん。だから戦闘訓練をしつつ、同じような技術を持った女性を集めて、騎士団を作るのもアリなんじゃないかと思うんだ」

 皇太子はすぐに頷きました。
「吾も賛成だが、どうだろうレナ?」
「私もやってみたいと思います。お給料はどのくらいがいいでしょうか?」
「まずは、見習いとして年間で小金貨10枚あたりで様子を見るか」

 その話を聞いたルビーは「金貨10枚!?」と驚きの声を上げていましたが、シデン号はやや不満そうに言います。
「ルビーの作業内容を考えると、工具なんかも揃えなきゃいけないから10では足りないと思う。せめて15はあった方がいいと思うな」

 皇太子は少し渋るような表情をしましたが、考えてもみればシデン号の言っていることも尤もです。
「わかりました。では1期あたりで小金貨4枚。1年で16枚では?」

 更に給料をつり上げられたためか、ルビーは驚いていましたが。シデン号は満足そうに頷きます。
「その方がわかりやすくていいし、ウマもそれなりのモノを仕入れられそうだね」
「ウマの管理までさせてしまうのも大変でしょうから、私の牧場にいるウマを1頭貸し出します」


 話がまとまると、皇太子も頷きました。
「よし、話がまとまったところで、戦闘訓練からだな。まずは準騎士辺りに指導してもらうか」

 私も窓から訓練の様子を見ていましたが、何とルビーは武術の心得があるようです。
 女性にも関わらず、下手な準騎士よりも強かったため。皇太子は納得した表情をしていました。
「なるほど……さすがにシデン号が推薦しただけのことはあるな」


 この後ルビーは、騎士として必要な座学や教養などを学びつつ、乗馬などの訓練も受けていました。
 彼女の飲み込みはとても早く、12月になる頃には準騎士としてなら十分な知識や技術を持って、私の前に戻ってきました。


 12月になったときは、私のお腹の子も赤ん坊と変わらないほど成長し、今すぐ生まれて来ても大丈夫なのではないかと思うほどでした。
 ただ、ここまで大きくなると、人と応対するだけでも一苦労です。
「皇太子妃さま……準騎士としての資格を無事に得てきました」
「さすがですね。本来なら今すぐにお祝いしてあげたいのですが……」
「御無理はなさらないでください。いつ……お産がはじまってもおかしくないご様子……」

 私は少し楽な姿勢をすると、準騎士ルビーを見ました。
「…………」
「…………」

 身体が出産に備えている影響でしょうか。彼女のパラメータが見れません。
 こういうこともあるんだなと思いながら、私は会話を続けました。
「では、これからいよいよ……武具を調達したり、部下を募ったりするのですね?」
「はい。ですので……ご予算を頂けると……」
「わかりました。小金貨を40ほどでいいでしょうか?」

 弓使いや熟練兵士の給料が年間当たりで小金貨5枚。一般の歩兵が3枚なので、40枚あれば10人前後の小隊が作れるはずです。
 侍女長メアリーが小金貨を40枚を袋に入れてから差し出すと、準騎士ルビーは畏まった様子で受け取ってくれました。

「我が部隊は、身寄りのない女を中心に編成しようと思います」
「わかりました。貴女たちの活躍を期待します」

 こうして準騎士ルビーは、自分と同じ大工や職人の技術を持ちながら、失業している女性を次々と隊に入れていきました。少し変わった経歴の持ち主としては、ロウソク職人、床屋、料理人も混じっていたのが印象的です。

 この女性職人部隊が、どう成長していくのかが楽しみです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界勇者~それぞれの物語~

野うさぎ
ファンタジー
 この作品は、異世界勇者~左目に隠された不思議な力は~の番外編です。 ※この小説はカクヨム、なろう、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のアイランドでも投稿しています。  ライブドアブログや、はてなブログにも掲載しています。

ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ
ファンタジー
 年収が低く、非正規として働いているため、決してモテない男。  それが、この物語の主人公である【東龍之介】だ。  そんな30歳の弱者男は、飲み会の帰りに偶然立ち寄った神社で、異世界へと移動することになってしまう。  異世界へ行った男が、まず出逢ったのは、美しい紫髪のエルフ少女だった。  彼女はエルフの中でも珍しい、2柱以上の精霊から加護を受けるハイエルフだ。  どうして、それほどの人物が単独で旅をしているのか。彼女の口から秘密が明かされることで、2人のワークライフがはじまろうとしている。 ※この物語で使用しているイラストは、AIイラストさんのものを使用しています。 ※なかには過激なシーンもありますので、外出先等でご覧になる場合は、くれぐれもご注意ください。

『застежка-молния。』

日向理
ファンタジー
2022年9月1日(木)〜2022年12月6日(火)全69回 月〜金曜0時更新 『手のひら。』『Love Stories。』の直接の続編となります。 現実世界の、ちょっと先にある、ちょっと不思議なお話。 脳内で自己構築をしまくって、お楽しみください。 『застежка-молния。』はト書きの全く存在しない、全く新しい読み物。 『文字を楽しむ』という意味でジャンルは『文楽(ぶんがく)』と命名しております。 小説とは異なり、読み手の想像力によって様々に質感が変化をします。 左脳・理論派の方には不向きな読みものですが、 右脳・感覚派の方はその、自由に構築できる楽しさを理解できるかもしれません。 『全く新しい読み物』なので抵抗感があるかもしれません。 お話も、一度読んで100%解るような作りに敢えてしておりません。 何度も反芻してゆくうちに、文楽(ぶんがく)ならではの醍醐味と、 自分の中で繰り広げられる物語にワクワクする事でしょう。 『застежка-молния。』は自身のホームページ ( https://osamuhinata.amebaownd.com )にて 2021年8月1日〜2022年1月20日まで既に連載を終えたものです。 *文楽(ぶんがく)は、フォント・文字サイズ・センタリング等 リッチテキスト形式を駆使した作りになっております。 本サイトでは形式上、簡易版となっていますので、予めご了承ください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...