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28.リッカシデン号が連れてきた人
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11月の上旬。
私はお腹を撫でながら、子供の様子を感じていました。
頭を下にした姿勢が落ち着き、あとはゆっくりと身体を整えていくだけという感じです。まあ、赤ちゃん本人にとっては、私のお腹の中は狭く感じているかもしれませんが、我慢を覚えてもらうことも必要です。
「あまり、苦労を感じないと……私みたいなニートになっちゃいますからね……」
そんなことを呟きながらゆっくりとしていると、何日かぶりに一角獣リッカシデン号が戻ってきました。
「お帰りなさい」
「ただいま……」
私はしばらく、シデン号が連れてきた女子を見ていました。
年は、私よりも若そうです。まるで職人のようなつなぎを着ていて、工具のようなモノも持っています。
「あの、彼女は?」
「彼女の名はルビー。村大工の娘だったみたいなんだけど……親戚の家に行っている間に、故郷が山賊に襲われてしまったみたいでね」
ルビーと呼ばれた少女は、シデン号から降りると私の前で跪きました。
「お妃様……どうか、あたしに武術を習う機会をください」
「ええと……侍女を目指すのかな?」
ルビーが返答に困った顔をしていると、シデン号は言います。
「小生としては、彼女を騎士見習いとして取り立ててみることを勧めたいんだけどね」
その言葉を聞いていた侍女たちは、驚いた様子でお互いを見合っていました。
侍女長メアリーも、難しい顔をしながら言います。
「興味深いお考えだとは思いますが、我々のような女の細腕では、幼少期から厳しく育てられた男性騎士に対抗するのは難しいのでは?」
シデン号は微笑みながら答えます。
「確かに、体格差だけ見れば男の方が有利だね。だけど……騎士の仕事というのは敵を倒すだけじゃないよ」
「と、仰いますと?」
「野営地を設営したり、破損した重機を修理したり、橋を架けたり、場合によっては敵の攻撃を受けた街そのものを修繕しないといけないこともある」
「なるほど。だから大工の娘に目を付けたというわけか……」
そう言いながら歩いてきたのは、ライアン皇太子と一角獣スピカオブアムアス号でした。
「うん。だから戦闘訓練をしつつ、同じような技術を持った女性を集めて、騎士団を作るのもアリなんじゃないかと思うんだ」
皇太子はすぐに頷きました。
「吾も賛成だが、どうだろうレナ?」
「私もやってみたいと思います。お給料はどのくらいがいいでしょうか?」
「まずは、見習いとして年間で小金貨10枚あたりで様子を見るか」
その話を聞いたルビーは「金貨10枚!?」と驚きの声を上げていましたが、シデン号はやや不満そうに言います。
「ルビーの作業内容を考えると、工具なんかも揃えなきゃいけないから10では足りないと思う。せめて15はあった方がいいと思うな」
皇太子は少し渋るような表情をしましたが、考えてもみればシデン号の言っていることも尤もです。
「わかりました。では1期あたりで小金貨4枚。1年で16枚では?」
更に給料をつり上げられたためか、ルビーは驚いていましたが。シデン号は満足そうに頷きます。
「その方がわかりやすくていいし、ウマもそれなりのモノを仕入れられそうだね」
「ウマの管理までさせてしまうのも大変でしょうから、私の牧場にいるウマを1頭貸し出します」
話がまとまると、皇太子も頷きました。
「よし、話がまとまったところで、戦闘訓練からだな。まずは準騎士辺りに指導してもらうか」
私も窓から訓練の様子を見ていましたが、何とルビーは武術の心得があるようです。
女性にも関わらず、下手な準騎士よりも強かったため。皇太子は納得した表情をしていました。
「なるほど……さすがにシデン号が推薦しただけのことはあるな」
この後ルビーは、騎士として必要な座学や教養などを学びつつ、乗馬などの訓練も受けていました。
彼女の飲み込みはとても早く、12月になる頃には準騎士としてなら十分な知識や技術を持って、私の前に戻ってきました。
12月になったときは、私のお腹の子も赤ん坊と変わらないほど成長し、今すぐ生まれて来ても大丈夫なのではないかと思うほどでした。
ただ、ここまで大きくなると、人と応対するだけでも一苦労です。
「皇太子妃さま……準騎士としての資格を無事に得てきました」
「さすがですね。本来なら今すぐにお祝いしてあげたいのですが……」
「御無理はなさらないでください。いつ……お産がはじまってもおかしくないご様子……」
私は少し楽な姿勢をすると、準騎士ルビーを見ました。
「…………」
「…………」
身体が出産に備えている影響でしょうか。彼女のパラメータが見れません。
こういうこともあるんだなと思いながら、私は会話を続けました。
「では、これからいよいよ……武具を調達したり、部下を募ったりするのですね?」
「はい。ですので……ご予算を頂けると……」
「わかりました。小金貨を40ほどでいいでしょうか?」
弓使いや熟練兵士の給料が年間当たりで小金貨5枚。一般の歩兵が3枚なので、40枚あれば10人前後の小隊が作れるはずです。
侍女長メアリーが小金貨を40枚を袋に入れてから差し出すと、準騎士ルビーは畏まった様子で受け取ってくれました。
「我が部隊は、身寄りのない女を中心に編成しようと思います」
「わかりました。貴女たちの活躍を期待します」
こうして準騎士ルビーは、自分と同じ大工や職人の技術を持ちながら、失業している女性を次々と隊に入れていきました。少し変わった経歴の持ち主としては、ロウソク職人、床屋、料理人も混じっていたのが印象的です。
この女性職人部隊が、どう成長していくのかが楽しみです。
私はお腹を撫でながら、子供の様子を感じていました。
頭を下にした姿勢が落ち着き、あとはゆっくりと身体を整えていくだけという感じです。まあ、赤ちゃん本人にとっては、私のお腹の中は狭く感じているかもしれませんが、我慢を覚えてもらうことも必要です。
「あまり、苦労を感じないと……私みたいなニートになっちゃいますからね……」
そんなことを呟きながらゆっくりとしていると、何日かぶりに一角獣リッカシデン号が戻ってきました。
「お帰りなさい」
「ただいま……」
私はしばらく、シデン号が連れてきた女子を見ていました。
年は、私よりも若そうです。まるで職人のようなつなぎを着ていて、工具のようなモノも持っています。
「あの、彼女は?」
「彼女の名はルビー。村大工の娘だったみたいなんだけど……親戚の家に行っている間に、故郷が山賊に襲われてしまったみたいでね」
ルビーと呼ばれた少女は、シデン号から降りると私の前で跪きました。
「お妃様……どうか、あたしに武術を習う機会をください」
「ええと……侍女を目指すのかな?」
ルビーが返答に困った顔をしていると、シデン号は言います。
「小生としては、彼女を騎士見習いとして取り立ててみることを勧めたいんだけどね」
その言葉を聞いていた侍女たちは、驚いた様子でお互いを見合っていました。
侍女長メアリーも、難しい顔をしながら言います。
「興味深いお考えだとは思いますが、我々のような女の細腕では、幼少期から厳しく育てられた男性騎士に対抗するのは難しいのでは?」
シデン号は微笑みながら答えます。
「確かに、体格差だけ見れば男の方が有利だね。だけど……騎士の仕事というのは敵を倒すだけじゃないよ」
「と、仰いますと?」
「野営地を設営したり、破損した重機を修理したり、橋を架けたり、場合によっては敵の攻撃を受けた街そのものを修繕しないといけないこともある」
「なるほど。だから大工の娘に目を付けたというわけか……」
そう言いながら歩いてきたのは、ライアン皇太子と一角獣スピカオブアムアス号でした。
「うん。だから戦闘訓練をしつつ、同じような技術を持った女性を集めて、騎士団を作るのもアリなんじゃないかと思うんだ」
皇太子はすぐに頷きました。
「吾も賛成だが、どうだろうレナ?」
「私もやってみたいと思います。お給料はどのくらいがいいでしょうか?」
「まずは、見習いとして年間で小金貨10枚あたりで様子を見るか」
その話を聞いたルビーは「金貨10枚!?」と驚きの声を上げていましたが、シデン号はやや不満そうに言います。
「ルビーの作業内容を考えると、工具なんかも揃えなきゃいけないから10では足りないと思う。せめて15はあった方がいいと思うな」
皇太子は少し渋るような表情をしましたが、考えてもみればシデン号の言っていることも尤もです。
「わかりました。では1期あたりで小金貨4枚。1年で16枚では?」
更に給料をつり上げられたためか、ルビーは驚いていましたが。シデン号は満足そうに頷きます。
「その方がわかりやすくていいし、ウマもそれなりのモノを仕入れられそうだね」
「ウマの管理までさせてしまうのも大変でしょうから、私の牧場にいるウマを1頭貸し出します」
話がまとまると、皇太子も頷きました。
「よし、話がまとまったところで、戦闘訓練からだな。まずは準騎士辺りに指導してもらうか」
私も窓から訓練の様子を見ていましたが、何とルビーは武術の心得があるようです。
女性にも関わらず、下手な準騎士よりも強かったため。皇太子は納得した表情をしていました。
「なるほど……さすがにシデン号が推薦しただけのことはあるな」
この後ルビーは、騎士として必要な座学や教養などを学びつつ、乗馬などの訓練も受けていました。
彼女の飲み込みはとても早く、12月になる頃には準騎士としてなら十分な知識や技術を持って、私の前に戻ってきました。
12月になったときは、私のお腹の子も赤ん坊と変わらないほど成長し、今すぐ生まれて来ても大丈夫なのではないかと思うほどでした。
ただ、ここまで大きくなると、人と応対するだけでも一苦労です。
「皇太子妃さま……準騎士としての資格を無事に得てきました」
「さすがですね。本来なら今すぐにお祝いしてあげたいのですが……」
「御無理はなさらないでください。いつ……お産がはじまってもおかしくないご様子……」
私は少し楽な姿勢をすると、準騎士ルビーを見ました。
「…………」
「…………」
身体が出産に備えている影響でしょうか。彼女のパラメータが見れません。
こういうこともあるんだなと思いながら、私は会話を続けました。
「では、これからいよいよ……武具を調達したり、部下を募ったりするのですね?」
「はい。ですので……ご予算を頂けると……」
「わかりました。小金貨を40ほどでいいでしょうか?」
弓使いや熟練兵士の給料が年間当たりで小金貨5枚。一般の歩兵が3枚なので、40枚あれば10人前後の小隊が作れるはずです。
侍女長メアリーが小金貨を40枚を袋に入れてから差し出すと、準騎士ルビーは畏まった様子で受け取ってくれました。
「我が部隊は、身寄りのない女を中心に編成しようと思います」
「わかりました。貴女たちの活躍を期待します」
こうして準騎士ルビーは、自分と同じ大工や職人の技術を持ちながら、失業している女性を次々と隊に入れていきました。少し変わった経歴の持ち主としては、ロウソク職人、床屋、料理人も混じっていたのが印象的です。
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