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25.ミツボーの実家を調べると……
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間もなくミツボー嬢は拘束され、取り調べが行われました。
当初は気分が優れないからハチミツを食べられなかったと言い訳をしていたミツボーですが、付き人などを証言から、彼女が体調不良ではなかったことはすぐに判明しました。
もし、彼女の具合が本当に悪いのなら、休養の申請はもちろんですが、午前中や午後の会合などがキャンセルになっていないことの説明ができないからです。
そして、ミツボーの過去の会計記録から使途不明金も見つかり、詳しく付き人を尋問するとヒ素を購入していたことが判明。もはや言い逃れは出来なくなりました。
ミツボー父親は何も知らない様子でお茶を飲んでいたので、今回はミツボー嬢だけが裁かれるケースかと思っていましたが、彼女の実家を調べていくうちに、恐るべき証拠が出てきました。
なんと、以前に侵攻してきた帝国と内通していたことが判明したのです。
この報告を受けた国王は激怒し、ミツボーだけでなく一族郎党に至るまで厳しい処罰を受けました。どれくらい厳しいのかと言えば、仕えていた執事やメイドに至るまで処刑されることになりました。
「あなた……このミツボー嬢の件ですが……」
そう話を切り出したとき、ライアン皇太子は毅然とした様子で答えました。
「この件は、父上がお決めになられたことだ。吾らがどうこう言う権利はない」
「さ、差し出がましいことを言いました。お許しください」
そう謝ると、ライアン皇太子は言います。
「最近、お前の命を狙ったり……他国に内通する者も目立っている。ここらで引き締めを行うことも必要だ」
彼は窓の外を睨みました。
「戦争に負けるということは、民が蹂躙されるということだ。私がお前にしたように、勝者は敗者の財産はもちろん、場合によっては自由や命さえも奪う」
「…………」
私が生唾を呑むと、皇太子は低い声で言います。
「吾も……敵軍が押し入って、女や子供を奴隷として捕縛している光景を何度も見てきた。泣き叫ぶ女を縄で縛って、護送車や船に押し込めるんだ……お前を強引に連れてきて偉そうなことを言える身ではないが、そういう輩から民を守るために吾はいる」
このとき、どうして私が……私をさらったこの人が嫌いにならなかったのか、わかる気がしました。
こんな時代に生まれてしまったから、私をさらって妃にこそしましたが、このライアンという男性は、人を思いやれる心を持った人なのです。
感情を思わず高ぶらせた私は、無意識のうちに彼の手を取っていました。
「……レナ?」
「わかりました。それなら私は……あなたを信じます」
皇太子は、視線を下げると小さな声で「ありがとう」とだけ答えました。
内通していた貴族を処罰して落ち着いた王家でしたが、11月が目前に迫ってきたときに新たな情報がもたらされました。
「皇太子妃!」
「どうしました、スピカ・オブ・アムアス号?」
「渡り鳥が気になることを言っていてな。皇太子はいるか?」
「今は新しく入った騎士見習いの訓練を視察しています。戻ってくるのは午後になると思いますが、私で良ければ代わりにお話を聞きましょう」
「そうか……実はだな、ブラックバンダナ一味が近づいている」
ブラックバンダナというのは、この辺りでは悪名高い海賊たちです。
この連中に襲われれば、草木一本残らないと言われ、特にミリズス会……イメージ的にキリスト教に似た宗教団体を激しく嫌っているようです。
「それは一大事ですね! この話はすぐに国王陛下にお伝えいたします」
私が立ち上がると、スピカ号は頷きました。
「私も行こう。既に渡り鳥たちを海岸方面に偵察に向かわせたが、相手は海賊だ……正確な現在地が掴みづらい」
「はい!」
間もなく、国王に海賊団を発見した報告をすると、彼はすぐに険しい顔をしました。
「海賊団か……ワシも若いころから何度も連中には煮え湯を飲まされてきた」
彼はスピカ号を見ます。
「で、被害を受けた漁村はどこなのだ?」
「隣国の南西部に位置する漁村だ。守備隊の配置もなく、一方的に略奪されたそうだ」
その報告を受け、国王はキョトンとした顔をしました。
「それはつまり……まだ、我が国は攻撃を受けていない……と?」
「ああ、ただ油断は出来ない。海賊が略奪を続けるつもりなら、船は海流に乗ってこちらの領内まで侵攻する危険性がある」
「渡り鳥を従えるというのは便利なモノだな……」
国王は感心した様子で言いましたが、すぐに表情を戻しました。
「よし、すぐにオリヴァーとジョンソンを呼べ!」
「は、はい!」
兵士は慌ただしく走っていくと、重臣のオリヴァーとジョンソンがやってきました。
「お呼びでございますか?」
「先ほど、隣国の漁村が海賊……それもブラックバンダナ一味の攻撃を受けたという情報が入った」
「なんですと!?」
「そこで、貴殿ら2名に、海岸の港町や漁村の警備に当たってもらいたい」
その話を聞いたオリヴァーやジョンソンは、しっかりと敬礼しました。
「はっ、直ちに出撃準備に移ります!」
この王都から港町までは、徒歩で3日ほどの距離があります。果たして……我々は村を守り切れるでしょうか。
当初は気分が優れないからハチミツを食べられなかったと言い訳をしていたミツボーですが、付き人などを証言から、彼女が体調不良ではなかったことはすぐに判明しました。
もし、彼女の具合が本当に悪いのなら、休養の申請はもちろんですが、午前中や午後の会合などがキャンセルになっていないことの説明ができないからです。
そして、ミツボーの過去の会計記録から使途不明金も見つかり、詳しく付き人を尋問するとヒ素を購入していたことが判明。もはや言い逃れは出来なくなりました。
ミツボー父親は何も知らない様子でお茶を飲んでいたので、今回はミツボー嬢だけが裁かれるケースかと思っていましたが、彼女の実家を調べていくうちに、恐るべき証拠が出てきました。
なんと、以前に侵攻してきた帝国と内通していたことが判明したのです。
この報告を受けた国王は激怒し、ミツボーだけでなく一族郎党に至るまで厳しい処罰を受けました。どれくらい厳しいのかと言えば、仕えていた執事やメイドに至るまで処刑されることになりました。
「あなた……このミツボー嬢の件ですが……」
そう話を切り出したとき、ライアン皇太子は毅然とした様子で答えました。
「この件は、父上がお決めになられたことだ。吾らがどうこう言う権利はない」
「さ、差し出がましいことを言いました。お許しください」
そう謝ると、ライアン皇太子は言います。
「最近、お前の命を狙ったり……他国に内通する者も目立っている。ここらで引き締めを行うことも必要だ」
彼は窓の外を睨みました。
「戦争に負けるということは、民が蹂躙されるということだ。私がお前にしたように、勝者は敗者の財産はもちろん、場合によっては自由や命さえも奪う」
「…………」
私が生唾を呑むと、皇太子は低い声で言います。
「吾も……敵軍が押し入って、女や子供を奴隷として捕縛している光景を何度も見てきた。泣き叫ぶ女を縄で縛って、護送車や船に押し込めるんだ……お前を強引に連れてきて偉そうなことを言える身ではないが、そういう輩から民を守るために吾はいる」
このとき、どうして私が……私をさらったこの人が嫌いにならなかったのか、わかる気がしました。
こんな時代に生まれてしまったから、私をさらって妃にこそしましたが、このライアンという男性は、人を思いやれる心を持った人なのです。
感情を思わず高ぶらせた私は、無意識のうちに彼の手を取っていました。
「……レナ?」
「わかりました。それなら私は……あなたを信じます」
皇太子は、視線を下げると小さな声で「ありがとう」とだけ答えました。
内通していた貴族を処罰して落ち着いた王家でしたが、11月が目前に迫ってきたときに新たな情報がもたらされました。
「皇太子妃!」
「どうしました、スピカ・オブ・アムアス号?」
「渡り鳥が気になることを言っていてな。皇太子はいるか?」
「今は新しく入った騎士見習いの訓練を視察しています。戻ってくるのは午後になると思いますが、私で良ければ代わりにお話を聞きましょう」
「そうか……実はだな、ブラックバンダナ一味が近づいている」
ブラックバンダナというのは、この辺りでは悪名高い海賊たちです。
この連中に襲われれば、草木一本残らないと言われ、特にミリズス会……イメージ的にキリスト教に似た宗教団体を激しく嫌っているようです。
「それは一大事ですね! この話はすぐに国王陛下にお伝えいたします」
私が立ち上がると、スピカ号は頷きました。
「私も行こう。既に渡り鳥たちを海岸方面に偵察に向かわせたが、相手は海賊だ……正確な現在地が掴みづらい」
「はい!」
間もなく、国王に海賊団を発見した報告をすると、彼はすぐに険しい顔をしました。
「海賊団か……ワシも若いころから何度も連中には煮え湯を飲まされてきた」
彼はスピカ号を見ます。
「で、被害を受けた漁村はどこなのだ?」
「隣国の南西部に位置する漁村だ。守備隊の配置もなく、一方的に略奪されたそうだ」
その報告を受け、国王はキョトンとした顔をしました。
「それはつまり……まだ、我が国は攻撃を受けていない……と?」
「ああ、ただ油断は出来ない。海賊が略奪を続けるつもりなら、船は海流に乗ってこちらの領内まで侵攻する危険性がある」
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国王は感心した様子で言いましたが、すぐに表情を戻しました。
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「は、はい!」
兵士は慌ただしく走っていくと、重臣のオリヴァーとジョンソンがやってきました。
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その話を聞いたオリヴァーやジョンソンは、しっかりと敬礼しました。
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