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23.皇太子の部屋の日常

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 ライアン皇太子は、部屋に戻るとびっくりしていました。
 私やメアリー侍女長がいるのは、まあいつものことですが、他にもシャーロットたち腐女子仲間の令嬢も集まっていました。
「大らか令嬢たちまで集まって何をしているんだ?」
「これは皇太子さま!」

 一同は立って礼をしたので、皇太子はすぐに「楽にしていい」と伝えました。
 すると、シャーロットは答えます。
「皇太子妃様の領地の店に、次はどんな本を出版するかを話し合っているのです」
「ほう……勝手に父上や重臣たちのことを書かなければ構わんぞ」
「ご安心ください。今の巷のブームも擬人化です。今回は矛と盾の擬人化恋愛をと思いまして……」

 その言葉を聞いた皇太子は、何とも言えない顔をしました。
「そ、そうか……売れるといいな」


 皇太子がベッドに腰掛けると、私はお腹を撫でながら言います。
「お腹の中の子……ますます活発に動いていますよ」
「そろそろ、我々の声も聞こえているかもしれんな」

 間もなく、次に出す薄い本の内容が決まると、仲間の令嬢たちは帰る準備をはじめました。
「では、このように絵師に書かせてみます」
「もし売れれば、発行部数に応じた謝礼を払うので後日確認しに来てください」
「ご配慮……痛み入ります」


 彼女たちが帰ると、皇太子は感心した様子で私を見ました。
「売り上げの一部を還元するのか……」
「はい。彼女たちのアイディアで作った本なのですから当然です」
「これは……モチベーションが変わるな」

 10月も後半に入ったいま、お腹の中の子もより大きくなっているのがわかります。今もお腹の中で動いたので、もしかしたら父である皇太子を呼んでいるのかもしれません。
「あなた……この子が、もっと構って欲しいと言っていますよ」
「ふむ……仕方のない奴だな」

 皇太子は私のお腹に顔を近づけると、「おい」や「聞こえているか?」と普段よりも優しい声で語り掛けてくれました。妊娠7か月という感じなので、反応すると思うのですが……。
 おや、また動きました。
「どうやら、聞こえているようですよ」


 やはり、お父さんの声が聞こえると、お腹の中の子も私とは違った反応をするようです。
 自分の父親が皇太子だと知ったときは、どのような顔をするのでしょうか。やはりびっくりするでしょうね。

 2人でお腹の中の子供へと声をかけていると、次にイタズラ一角獣リッカシデンがやってきました。
「おお、育ってるな~ 小生の弟よ!」
「いつからレナ妃の子供が、お前の弟になったのだ?」

 後からやってきたのは、父一角獣のスピカオブアムアスです。彼も私のお腹を見ると「育っているな」と言いながら微笑みました。

 すると、再びお腹の中で子供が動きました。どうやらたくさんの男性の声が聞こえてきたので、誰が父親なのか混乱しているのかもしれません。


「お父さんはこの人ですよ」
 そう言いながら皇太子の手を取ると、ゆっくりとお腹を撫でて見ました。
「そうだぞ。吾が父だ。他の2人は、吾が国の誇る一角獣だ」
「この国の歴史上で、最も強い一角獣スピカオブアムアスと、最もしょうもない一角獣リッカシデン!」
 そこまで言うと、リッカシデンは笑いました。
「因みに、ダメダメな方がお兄ちゃんだぞ~!」
「父は子育てが下手……みたいな言い回しだな」
「誰にでも1つくらい、欠点があるものです!」
「自慢気に言うな!」


 その言葉を聞いて、私は笑いながら頷きました。
「スピカはともかく、私はダメダメですね!」
「あ、じゃあ、ダメ一角獣とダメ妃でコンビ組もうよ!」
「じゃあ、ダメ皇太子も入れるべきだな」

「まったく、ウソばかりつきおって……」
 そう言いながら姿を見せたのは、なんとお父様……つまり国王でした。

 彼は、私のお腹を見ると満足そうに微笑みます。
「おお、ワシの孫がすくすくと育っているようじゃな」
「はい。これも、お父上が数々の難しい戦を勝利してきたおかげです!」

「ワシは巷で言われているような、立派な王ではない。愚かな行動によって、多くの若者たちを殺してきたからな……」
 王はそう言いながら、私のお腹を撫でました。


「この老体になるまで、生き延びられたのは……運に恵まれたから……だろうな」
 王は少しのあいだ、ゆっくりとお茶を飲むと、やがて立ち上がりました。
「この子が、せめて自分の足で立ち上がれるようになるまでは、ワシも死ねんな……武術の鍛錬でもしてくるか!」

「それなら、このライアンめもお供させてください!」
「良かろう」
 私も十分に休んだことですし、ウォーキングをすることにしました。
 すると、蜂たちが今日も元気に飛び回って蜜を集めていました。季節も季節ですし、収穫してもいいかもしれません。

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