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22.貴婦人の中に腐女子が……

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 9月も後半になると、お腹もより大きくなり、背中や腰をメアリーたちに心配されるようになりました。
 どうやら背中が圧迫されて血の巡りが悪くなったり、腰痛に悩まされる妊婦も珍しくないようです。

「ですから、今日もウォーキングをしましょう」
「は、はい!」
 貴婦人は普通、ハイヒールなどを履いていますが、この時ばかりは転倒が原因で流産してしまうこともあるので、ローヒールをはいて、周囲には必ず護衛役の侍女が何人も付きます。

 やはり御城の中には、私のことを快く思っていない貴婦人も多く、それはすれ違った際に現れるパラメータの数値を見ればよくわかります。
「凄い……今の人、私への好感度が1桁だった……」


 通り過ぎてからそう呟くと、隣を歩いていた侍女たちは羨ましそうな顔をしました。
「便利な能力ですね……」
「幾つくらいだと危ないのですか?」
「詳しいことはわかりませんが、好感度は30を下回っていたら黄色い文字で見えるようになり、10に近づくほどにオレンジ色……10を下回っていると真っ赤に見えます」

 そんな話をしていたら、曲がり角から貴婦人が下女たちと共に歩いてきました。
 彼女は道を開けたので、私は会釈してから通ります。ついでに……好感度をチェックしてみると……

【シャーロット 伯爵令嬢
政治72 武勇4 采配21 智略57 野心56 義理68 好感度70】

 好感度70とは、珍しい人がいたものです。
 私は驚いてじっと眺めていると、その伯爵令嬢は不思議そうな表情で私を見ました。
「お妃様……私の顔になにかついていますか?」

 私はハッとして我に返りました。
「いえ。素敵な方だと思いまして……」
「まあ……おだてても何も出ませんよ?」

 そう言いながら彼女は上品に笑いましたが、好感度が2ほど上がりました。私のような者でも褒められると嬉しいのでしょうか。
「お名前は?」
「シャーロット・イズリンと申します」
 彼女は言いました。
「皇太子妃殿下の街に行ってみましたが……男性同士の恋愛模様を描かれるなんて、私も思わず見入ってしまいました。私も男性の恋を見るのが好きなので、今度ご一緒にお茶でもしながらいかがでしょう?」

 もしかしたらこの令嬢、腐女子に近いものがあるのでしょうか。
 私の本性を知って変な女と軽蔑されるのも怖いですが、リアルの友達が増えるかもしれないという誘惑には勝てませんでした。
「はい、では近日中にお茶会をしましょう」


 そして後日、シャーロット嬢とお話をしてみました。
 彼女は貴族なので丁寧な言葉を使っていますが、言っていることはネット上の腐女子と同じでした。

 例えば、一角獣のスピカ号とシデン号の攻めや受けの話に始まり、重臣のベンジャミンとオリヴァーはどちらが受けでどちらが攻めか……とか、ティーセットとポットを美男子化した絵を絵師に書かせたとか、スピカ号や皇太子が聞いたら、すぐに止めに入りそうな話に夢中になっていました。

「あら……もうこんな時間!」
「そういえば!」
 侍女とシャーロットの付き人たちは、後片付けをはじめました。
「楽しい時間でした。今日は私のためにお付き合いして頂き、ありがとうございます」

 そうお礼を言うと、シャーロットはとんでもないと言いたそうな表情をしました。
「こちらこそ、ありがとうございます!」
 彼女は少し考えると言います。
「あと、実は私以外にも、こういう話が好きな人がいるのですよ……また、ご一緒してくださいますか?」
「もちろんです!」


 お互いに予定などがあるので、少し先になると考えると、何だか残念な気持ちになりましたが、意外にも次のお茶会は1週間後に行うことができました。
 シャーロットの友人は3人いて、中には私への好感度も30ギリギリという令嬢もいましたが、その令嬢は無機物同士の擬人化カップリングが好きだったので、その手の話をしていたら……何と好感度が45まで上がりました。


 そして10月の中旬になった頃には、すっかり御城の貴婦人の中にも異空間が出現していました。
 貴婦人の多くが美しい顔立ちや姿をしていて、いかにもプライドも高い上流階級という感じなのですが、私たちの周りだけは、腐女子特有の空気に満たされていて実家のような安心感があります。

 しかも、大方の人が想像する腐女子とは違って、ここにいる娘たちは、見た目では上流階級の美少女にしか見えないんですよね。口さえ開かなければ美人を地で行っています。

「おい、あそこ……あそこの令嬢たちは、男同士の恋愛に寛容らしいぞ」
「どこだよ?」
「ほら、皇太子妃様のいるグループ」
「侍女たちがいるからすぐにわかるな!」

 それだけでなく、この世界では男性同士の恋愛は普通のことのようです。
 だから、男性貴族や騎士の間では、私たちのような腐女子は【大らかな令嬢】と呼ばれて、ひそかに噂に上がっているのだそうです。

 決して、そんなにいいモノではないのですけどね……
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