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14.スピカ号の情報網
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「皇太子妃さま……陛下と皇太子殿下が、お留守のあいだはあなた様が城主です」
侍女長メアリーは、なるべく自室にいるようにと私に告げました。
「わかっています」
私はそう言うと、一角獣スピカ号を見ました。
「スピカ号」
「なんだ?」
「戦場となっている場所から、私に情報が届くまでに……どれくらいの時間がかかりますか?」
「国境付近だろうから、早馬を飛ばして10日くらいか。そんなことを知ってどうする?」
「もし、兵士たちの武器や食料が不足したとき……情報が届いてから準備していたら遅いので……」
私は高校を中退した後に、弟のやっていた戦略ゲームにハマっていたことがあります。
その時には、画面上でリアルタイムに前線で味方の様子、特にケガ人の数や、食料の残量などがわかったのですが、今回は情報そのものにタイムラグがありますし、食料や人員だってボタンひとつで送ることなどできません。
スピカ号は、少し考えると答えました。
「ならば、渡り鳥たちに監視させるか」
「渡り鳥がいるんですか!?」
「ああ、我らユニコーンには治癒能力があるからな。その能力を目当てに、鳥の方から話を持ち掛けて来ることが多いんだ」
特にウインドユニコーンとなると、デリケートな翼を治療する技術に長けているので、鳥の中でも人気があるのだそうです。
スピカ号は、表に立つとすぐに鳥たちに何かを伝えていました。鳥が飛び立つと、スピカ号はこちらを見ます。
「幸いにも、ヒマを持て余している者が何羽かいるので、数時間置きに偵察を頼むことにした」
このシーズンは、鳥たちは子育てに忙しいはずですよね。
いまヒマということは、もしかしたらお相手に恵まれなかった、日本に居た頃の私のような鳥なのでしょうか……
「なんだか、彼らに親近感が湧きますね」
「まあ、一角獣と深いつながりを持つ鳥は、異性にモテるようだからな。何事も努力が肝心だろう」
鳥たちは、時間を空けて次々と飛んでいくと、最初の1羽が5日ほどで戻ってきました。
陸地から行くと、川を越えたり山道や市街地があるので、移動も大変ですが、空を一直線に進める鳥は、丸3日もあれば国境付近まで行けるようです。
「…………」
「どうでした?」
「どうやら、2日前の時点では、国境沿いの地方都市は持ち堪えているようだ」
その話を聞いて、侍女たちは喜びの声を上げました。
最初の報告が入った時には、すでに10日が経っていることから、もう13日は攻撃に耐えていることになります。
「さすがですね。まだ持ちそうですか?」
「…………」
「…………」
「厳しそうだ……と言っている。すでに城門のダメージは深刻だし、城内の兵もけが人や犠牲者であふれている」
「そ、そうですか……」
次の鳥が戻ってくると、地方都市が陥落したという情報がもたらされました。
「……無念です」
侍女たちは力なく言っていましたが、それ以上に気にしなければならないことがあります。
「この情報……陛下や皇太子殿下はご存知なのですか?」
そう質問すると、スピカ号は少し心配そうな顔をしました。
「一応、国境沿い地方都市が陥落した場合は、国王軍の上空から鳴き声を響かせるように指示はしておいた……彼らが気付くかは……わからん」
2時間おきに、上空で「ピーピー」と鳴き声を上げながら、鳥が通過していけば、異変を感じるとは思いますが、国境沿いの地方都市が陥落というところまでは、さすがに気付かないかもしれません。
「あの……スピカ号?」
「なんだ?」
「渡り鳥の1羽に、鳴き声の意味を書いた手紙を持たせ、国王にお知らせすればいいのでは?」
「…………」
スピカ号は、そうかと納得した様子で頷きました。
「そういえば、お前たち人間は文字という便利なシロモノを使えるのだったな……書いて貰ってもいいか?」
「すぐに伝書鳩用の手紙入れを用意します!」
侍女長のメアリーは、すぐに手紙と小さな筒を用意すると、スピカ号の言葉を文字として記しました。
ちょうど、次の協力者は鳩だったので、私たちは急いで手紙の入った筒を鳩の首に下げます。
「…………」
「…………」
スピカ号が、鳴き声をモールス信号のように使うと、鳩は頷いてから大空に飛び立ちました。
こうやって彼の行動を見ていると、協力を要請しているというより、特殊能力で鳥を操っているようにも見えます。
「あとは、状況を見守るとしよう」
「はい」
侍女長メアリーは、なるべく自室にいるようにと私に告げました。
「わかっています」
私はそう言うと、一角獣スピカ号を見ました。
「スピカ号」
「なんだ?」
「戦場となっている場所から、私に情報が届くまでに……どれくらいの時間がかかりますか?」
「国境付近だろうから、早馬を飛ばして10日くらいか。そんなことを知ってどうする?」
「もし、兵士たちの武器や食料が不足したとき……情報が届いてから準備していたら遅いので……」
私は高校を中退した後に、弟のやっていた戦略ゲームにハマっていたことがあります。
その時には、画面上でリアルタイムに前線で味方の様子、特にケガ人の数や、食料の残量などがわかったのですが、今回は情報そのものにタイムラグがありますし、食料や人員だってボタンひとつで送ることなどできません。
スピカ号は、少し考えると答えました。
「ならば、渡り鳥たちに監視させるか」
「渡り鳥がいるんですか!?」
「ああ、我らユニコーンには治癒能力があるからな。その能力を目当てに、鳥の方から話を持ち掛けて来ることが多いんだ」
特にウインドユニコーンとなると、デリケートな翼を治療する技術に長けているので、鳥の中でも人気があるのだそうです。
スピカ号は、表に立つとすぐに鳥たちに何かを伝えていました。鳥が飛び立つと、スピカ号はこちらを見ます。
「幸いにも、ヒマを持て余している者が何羽かいるので、数時間置きに偵察を頼むことにした」
このシーズンは、鳥たちは子育てに忙しいはずですよね。
いまヒマということは、もしかしたらお相手に恵まれなかった、日本に居た頃の私のような鳥なのでしょうか……
「なんだか、彼らに親近感が湧きますね」
「まあ、一角獣と深いつながりを持つ鳥は、異性にモテるようだからな。何事も努力が肝心だろう」
鳥たちは、時間を空けて次々と飛んでいくと、最初の1羽が5日ほどで戻ってきました。
陸地から行くと、川を越えたり山道や市街地があるので、移動も大変ですが、空を一直線に進める鳥は、丸3日もあれば国境付近まで行けるようです。
「…………」
「どうでした?」
「どうやら、2日前の時点では、国境沿いの地方都市は持ち堪えているようだ」
その話を聞いて、侍女たちは喜びの声を上げました。
最初の報告が入った時には、すでに10日が経っていることから、もう13日は攻撃に耐えていることになります。
「さすがですね。まだ持ちそうですか?」
「…………」
「…………」
「厳しそうだ……と言っている。すでに城門のダメージは深刻だし、城内の兵もけが人や犠牲者であふれている」
「そ、そうですか……」
次の鳥が戻ってくると、地方都市が陥落したという情報がもたらされました。
「……無念です」
侍女たちは力なく言っていましたが、それ以上に気にしなければならないことがあります。
「この情報……陛下や皇太子殿下はご存知なのですか?」
そう質問すると、スピカ号は少し心配そうな顔をしました。
「一応、国境沿い地方都市が陥落した場合は、国王軍の上空から鳴き声を響かせるように指示はしておいた……彼らが気付くかは……わからん」
2時間おきに、上空で「ピーピー」と鳴き声を上げながら、鳥が通過していけば、異変を感じるとは思いますが、国境沿いの地方都市が陥落というところまでは、さすがに気付かないかもしれません。
「あの……スピカ号?」
「なんだ?」
「渡り鳥の1羽に、鳴き声の意味を書いた手紙を持たせ、国王にお知らせすればいいのでは?」
「…………」
スピカ号は、そうかと納得した様子で頷きました。
「そういえば、お前たち人間は文字という便利なシロモノを使えるのだったな……書いて貰ってもいいか?」
「すぐに伝書鳩用の手紙入れを用意します!」
侍女長のメアリーは、すぐに手紙と小さな筒を用意すると、スピカ号の言葉を文字として記しました。
ちょうど、次の協力者は鳩だったので、私たちは急いで手紙の入った筒を鳩の首に下げます。
「…………」
「…………」
スピカ号が、鳴き声をモールス信号のように使うと、鳩は頷いてから大空に飛び立ちました。
こうやって彼の行動を見ていると、協力を要請しているというより、特殊能力で鳥を操っているようにも見えます。
「あとは、状況を見守るとしよう」
「はい」
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