上 下
16 / 41

14.スピカ号の情報網

しおりを挟む
「皇太子妃さま……陛下と皇太子殿下が、お留守のあいだはあなた様が城主です」
 侍女長メアリーは、なるべく自室にいるようにと私に告げました。
「わかっています」

 私はそう言うと、一角獣スピカ号を見ました。
「スピカ号」
「なんだ?」
「戦場となっている場所から、私に情報が届くまでに……どれくらいの時間がかかりますか?」
「国境付近だろうから、早馬を飛ばして10日くらいか。そんなことを知ってどうする?」
「もし、兵士たちの武器や食料が不足したとき……情報が届いてから準備していたら遅いので……」


 私は高校を中退した後に、弟のやっていた戦略ゲームにハマっていたことがあります。
 その時には、画面上でリアルタイムに前線で味方の様子、特にケガ人の数や、食料の残量などがわかったのですが、今回は情報そのものにタイムラグがありますし、食料や人員だってボタンひとつで送ることなどできません。

 スピカ号は、少し考えると答えました。
「ならば、渡り鳥たちに監視させるか」
「渡り鳥がいるんですか!?」
「ああ、我らユニコーンには治癒能力があるからな。その能力を目当てに、鳥の方から話を持ち掛けて来ることが多いんだ」

 特にウインドユニコーンとなると、デリケートな翼を治療する技術に長けているので、鳥の中でも人気があるのだそうです。
 スピカ号は、表に立つとすぐに鳥たちに何かを伝えていました。鳥が飛び立つと、スピカ号はこちらを見ます。
「幸いにも、ヒマを持て余している者が何羽かいるので、数時間置きに偵察を頼むことにした」

 このシーズンは、鳥たちは子育てに忙しいはずですよね。
 いまヒマということは、もしかしたらお相手に恵まれなかった、日本に居た頃の私のような鳥なのでしょうか……
「なんだか、彼らに親近感が湧きますね」
「まあ、一角獣と深いつながりを持つ鳥は、異性にモテるようだからな。何事も努力が肝心だろう」


 鳥たちは、時間を空けて次々と飛んでいくと、最初の1羽が5日ほどで戻ってきました。
 陸地から行くと、川を越えたり山道や市街地があるので、移動も大変ですが、空を一直線に進める鳥は、丸3日もあれば国境付近まで行けるようです。

「…………」
「どうでした?」
「どうやら、2日前の時点では、国境沿いの地方都市は持ち堪えているようだ」
 その話を聞いて、侍女たちは喜びの声を上げました。
 最初の報告が入った時には、すでに10日が経っていることから、もう13日は攻撃に耐えていることになります。

「さすがですね。まだ持ちそうですか?」
「…………」
「…………」
「厳しそうだ……と言っている。すでに城門のダメージは深刻だし、城内の兵もけが人や犠牲者であふれている」
「そ、そうですか……」


 次の鳥が戻ってくると、地方都市が陥落したという情報がもたらされました。
「……無念です」
 侍女たちは力なく言っていましたが、それ以上に気にしなければならないことがあります。
「この情報……陛下や皇太子殿下はご存知なのですか?」

 そう質問すると、スピカ号は少し心配そうな顔をしました。
「一応、国境沿い地方都市が陥落した場合は、国王軍の上空から鳴き声を響かせるように指示はしておいた……彼らが気付くかは……わからん」


 2時間おきに、上空で「ピーピー」と鳴き声を上げながら、鳥が通過していけば、異変を感じるとは思いますが、国境沿いの地方都市が陥落というところまでは、さすがに気付かないかもしれません。

「あの……スピカ号?」
「なんだ?」
「渡り鳥の1羽に、鳴き声の意味を書いた手紙を持たせ、国王にお知らせすればいいのでは?」
「…………」


 スピカ号は、そうかと納得した様子で頷きました。
「そういえば、お前たち人間は文字という便利なシロモノを使えるのだったな……書いて貰ってもいいか?」

「すぐに伝書鳩用の手紙入れを用意します!」
 侍女長のメアリーは、すぐに手紙と小さな筒を用意すると、スピカ号の言葉を文字として記しました。

 ちょうど、次の協力者は鳩だったので、私たちは急いで手紙の入った筒を鳩の首に下げます。
「…………」
「…………」
 スピカ号が、鳴き声をモールス信号のように使うと、鳩は頷いてから大空に飛び立ちました。
 こうやって彼の行動を見ていると、協力を要請しているというより、特殊能力で鳥を操っているようにも見えます。

「あとは、状況を見守るとしよう」
「はい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界勇者~それぞれの物語~

野うさぎ
ファンタジー
 この作品は、異世界勇者~左目に隠された不思議な力は~の番外編です。 ※この小説はカクヨム、なろう、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のアイランドでも投稿しています。  ライブドアブログや、はてなブログにも掲載しています。

ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ
ファンタジー
 年収が低く、非正規として働いているため、決してモテない男。  それが、この物語の主人公である【東龍之介】だ。  そんな30歳の弱者男は、飲み会の帰りに偶然立ち寄った神社で、異世界へと移動することになってしまう。  異世界へ行った男が、まず出逢ったのは、美しい紫髪のエルフ少女だった。  彼女はエルフの中でも珍しい、2柱以上の精霊から加護を受けるハイエルフだ。  どうして、それほどの人物が単独で旅をしているのか。彼女の口から秘密が明かされることで、2人のワークライフがはじまろうとしている。 ※この物語で使用しているイラストは、AIイラストさんのものを使用しています。 ※なかには過激なシーンもありますので、外出先等でご覧になる場合は、くれぐれもご注意ください。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

『застежка-молния。』

日向理
ファンタジー
2022年9月1日(木)〜2022年12月6日(火)全69回 月〜金曜0時更新 『手のひら。』『Love Stories。』の直接の続編となります。 現実世界の、ちょっと先にある、ちょっと不思議なお話。 脳内で自己構築をしまくって、お楽しみください。 『застежка-молния。』はト書きの全く存在しない、全く新しい読み物。 『文字を楽しむ』という意味でジャンルは『文楽(ぶんがく)』と命名しております。 小説とは異なり、読み手の想像力によって様々に質感が変化をします。 左脳・理論派の方には不向きな読みものですが、 右脳・感覚派の方はその、自由に構築できる楽しさを理解できるかもしれません。 『全く新しい読み物』なので抵抗感があるかもしれません。 お話も、一度読んで100%解るような作りに敢えてしておりません。 何度も反芻してゆくうちに、文楽(ぶんがく)ならではの醍醐味と、 自分の中で繰り広げられる物語にワクワクする事でしょう。 『застежка-молния。』は自身のホームページ ( https://osamuhinata.amebaownd.com )にて 2021年8月1日〜2022年1月20日まで既に連載を終えたものです。 *文楽(ぶんがく)は、フォント・文字サイズ・センタリング等 リッチテキスト形式を駆使した作りになっております。 本サイトでは形式上、簡易版となっていますので、予めご了承ください。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...