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4.良妻賢母モードのレナさん

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 間もなく私は、皇太子から本を借りました。
 どんな本かと言えば、自国だけでなく周辺国の名産品が載っている本です。とても親切な本で、出版した時期から過去数年に遡って、どれくらいの値段で売られていたかということも記されています。

「……やっぱり、無いのですね」
 私が知りたかったのは、植物のソバに関してと、ハチミツに関してです。
 ソバはどうやら、この地域ではソバ粥として食べられているのみですし、ハチミツに関しても養蜂などは行われておらずに、天然物を森から取って来て……しかも巣を壊してハチミツを絞り出しているようです。
 だからハチミツはとても高額です。不作の年は同じ重さの金と取引されているときもあったほどです。

「ハチミツとクマのカップリングノベルを書いていて正解でしたね」
 なぜソバとハチミツなのかと言えば、ソバの花はハチミツの材料を出してくれる【蜜源植物】なのです。他にも蜜源植物は、クローバー、トチノキ、ミカン、ラベンダー、レンゲ、クリなどがあったと思います。


 さっそく、養蜂の話を皇太子にしてみると、彼はすぐに首を傾げました。
「ハチを飼う……? そんなことができるのか?」
「できます。重箱というハチの家を用意し、その内側に砂糖を縫って、周りにソバやレンゲ、ラベンダーやクリなどを植えれば、ハチの方から近づいてくると思います」


 皇太子は少し悩んでいましたが、まあいいか……という雰囲気で頷きます。
「まあ、お前がやりたいのなら必要なモノは手配する。御城の空き地でも使ってやってみろ」
「ありがとうございます」

 その言葉の通り、皇太子はすぐに材料や種と、お抱えの大工や数人の侍女を連れてきてくれました。
 私は侍女たちにレンゲソウの苗や、ラベンダーやソバなどの種を植えてもらい、お抱えの大工には重箱……つまりハチの家を作ってもらいます。
「ここに鉄のヒモを通すのですか」
「はい。箱の中でハチの巣が落ちないように、支えるモノが必要なのです」

「なるほど。で、こっちがエンシンブンリキというシロモノですか」
「はい。蜂の巣を手製のハンドルで回転させて、巣を壊さずにハチミツだけを遠心力で絞り出すことができます」
「ほほう……この構造なら、酒ダルを改造すれば作れそうだ」


「お妃様!」
 侍女たちも、種を植え終わったようです。
「今から育てれば、レンゲは4月くらい。ソバは5月の下旬。ラベンダーは6月の下旬に、花を咲かせると思います」
「時期もバラバラだから助かりますね。これならハチも蜜を集めやすいでしょう」

「なかなかに考えているな……」
「あなた!」
 皇太子は感心した様子で、ハチミツ作りの現場を見に来ました。
「なるほど……これがジュウバコとやらか」
「はい。日陰に置いておいて、ハチが巣を管理しやすいようにしようと思います」
「ふむ……問題があるとすれば、どうやってハチのいる巣から、ハチミツを取るか……だな」


 それは……私自身も素人なので、全身を防護服のようなモノで守りながら、蜂の巣を取るしかないでしょうか。
 そう思っていたら、皇太子は言いました。
「回収の際はゴーレムを使うか」

 詳しく話を聞いてみると、ゴーレムとは、私たちの世界で言えば二足歩行ロボットのようなものでした。魔法力と魔導技術で動いているか、機械と科学の力で動いているか……というくらいの差しかありません。


 作業が終わると、私たちは御城の中へと戻りました。
「さて、今から収穫が楽しみだな」
「お言葉ですが……そもそもハチがこなければ、ただのガーデニングになってしまうんですよ」

 あくまで私にできることは、ハチが生活しやすい環境を整えるだけです。肝心のハチが来てくれないことには、ハチミツは手に入りません。
 そう不安に思っていたら、皇太子さまは笑いながら言います。
「それなら、部下たちにハチ玉でも探させよう。もう少し春になると……森には巣立っているのか追い出されているのかわからんが、ハチどもが住処を探していることがあるからな」


 夕食を終えると、皇太子は私を伴って自室へと戻りました。
「今日は、吾の執務によく付き合ってくれた。モノのついでに風呂場に来い」
「は、はい……」

 こうして私は、皇太子の背中などを流すと一緒にお風呂に入ってと……妻らしい行動をするようになりました。
 それにしても綺麗な肌です。これから様々な戦場などに行って、傷ついたりするのかと思うと……なんとも勿体ない感じがします。

 今のうちに、妄想を膨らませておくとしましょう。
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