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20.有翼人女性の訪問

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 治療をすると、その冒険者は自分の手を動かしていた。
「本当に痺れがなくなった……こりゃすげえ!」

 彼はそう言いながら、僕に謝礼の霊力の支払いをする。
「確かに後金も貰ったよ」
「じゃ、ありがとよ!」
 そういうと冒険者たちは立ち去った。
 治した後で後金を払わずに戦闘……ということも想定していたのだが、拍子抜けするくらいに商談もまとまったモノだと思う。


 神社へと戻ると、フリーダも安心した様子で姿を現した。
「お疲れ様です」
「もしもの時のために、スタンバイしてくれていたんだね。ありがとう2人とも!」
 そう言うとジルーもまた、物陰から姿を現した。
「冒険者って、荒くれ者や元犯罪者も多いからね。どうしても警戒しちゃうよ」

 そんな話をしていると、おや……何か野鳥が、神社の屋根に止まったままこちらを眺めている。
 前にも鳥が姿を現したことならあるが、今回のは癖が少ない。恐らく、魔王クラスの人間でも監視されていることにすら気付かないだろう。
「…………」

 僕が視線を向けると、その鳥は気まずそうに少し視線をずらした。
「…………」
 こちらとしても言いたいことくらいはあるが、ここは無言で見つめるのが一番効くだろう。
「チチチチチチ……」
 その鳥はバツが悪そうな雰囲気をしたまま、身体の毛をいじると飛び去っていった。

「偵察……かな?」
 ジルーが言うと、フリーダも頷いた。
「どこかの魔王の側近か、冒険者パーティーの探索系能力者……でしょうかね?」
 どちらもあり得る話だ。

 僕たちはしばらくの間、ゆっくりとしていると誰かが僕のダンジョンに入ってきた。
 数は1人。匂いから……女性の有翼人か。
 この様子だと、どこかの勢力の使者と考えるのが妥当なところだろうか。

 間もなくジルーやフリーダも、女性の有翼人が入ってきたことに気が付いたようだ。
「ねえ、魔王さま……有翼人の女の人が入ってきたよ」
「先ほどの鳥の飼い主でしょうか?」
「恐らく……そうだろうね。どんな用事なんだろうね?」

 一番現実的なケースは、どこか強力な魔王軍が脅迫として使者を送ってくる。
 次にあり得そうなのは、そこそこの規模の勢力が、僕の治癒能力かフリーダのハイエルフの力を目当てに同盟を持ちかけてくるケース。
 3番目辺りにあり得るのは、ケガか病気で苦しむ人間の権力者か冒険者パーティーが、治療をして欲しいと使者を出した感じだろうか。

 さて、どれだろう。
 15分ほどで、有翼人の若い女性は鳥居の前までやってきた。髪の毛は短くしているが、艶があって美しい。
「…………」
 彼女は神社を興味深そうに眺めている。野鳥を用いて偵察しているのだろうが、使い魔を通して見える光景と、実際に自分の目で見る光景はけっこうと違うモノだ。
 有翼人は、僕の前までやってくると敬礼した。
「お初にお目にかかります。私はカテリーナと言います」

「ようこそいらっしゃいました。今日はどういったご用件でしょうか?」
 丁寧に答えを返すと、カテリーナは少し思い切った様子で言う。
「私を……臣下に加えては頂けませんか?」

 有翼人カテリーナの言葉に、ジルーやフリーダは驚いていた。
 ハッキリ言って、僕もええっ……と仰天しそうになっている。まさか、有翼人の女性で……これほど霊力のありそうな人が失業中だなんて信じられない話だ。
「ええと……本当に君、失業中なのかい?」

 そう聞き返すと、カテリーナは恥ずかしそうに頷いた。
「はい。実は私……見聞を広めるために、ツーノッパ地域の各地を旅して回っていたのですが、そろそろ落ち着こうと思ったとき、仕官が難しくなっていることに気付かなくて……」

 彼女の話を聞いていると、何となくだが事情を呑み込めたように感じた。
 恐らく、カテリーナもまた何勢力も面接を受けたのだろうが、敵勢力と通じているのではないかと、採用担当者に勘繰られたのではないだろうか。


 だけど彼女の匂いからは、他勢力のにおい……特に男の影のようなモノは感じない。
 僕も頷きながら答える。
「なるほど。君の場合は情報収集の専門家として雇うことになるよ。エリアマスターになるには、しばらくかかると思うけど……我慢できるかい?」

 その話を聞いたカテリーナは、「はい!」と即答した。
 こちらの条件を呑んでくれたのだから、僕としても充分だ。
「よかった。歓迎するよ」

 そう答えると、フリーダやジルーもカテリーナに話しかけていた。
 こうやって見ていると、彼女たちは種族こそ違うが、仲の良い姉妹のように見えるから微笑ましい。

「えーと、エルフの貴女がジルーさん……ウェアウルフの貴女がフリーダさん」
「逆だよ逆! あたしがジルー!」
「わ、私がフリーダですよ!」
 おや、少し……カテリーナには、マヌケなところがあるようだ。

 
【有翼人カテリーナ(寝ているジルーの眺める様子)】
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