上 下
43 / 43

龍之介、正社員に……

しおりを挟む
 彼女が職場に来て、大分慣れたころ、僕こと龍之介にちょっとした昇進話があった。
 実は、会社側から正社員にならないかという話があったのだ。

 以前の僕なら、仕事が増えて面倒くさいとその話を蹴っていただろうけど、今の僕はその話を受けることにした。
 なぜなら、彼女と一緒に過ごすうえでワンルームでは狭いからだ。年収も220万円から300万円ほどまで上がるので、悪い話ではない。
 仕事が終わったところで、僕は休憩室に向かうと、そこでは恋人の咲良がスマートフォンから僕に視線を映した。
「ごめん、待たせたね!」
「待ったよ15分くらい♪」

 その言葉に驚いた。てっきり1時間以上は待たせてしまったと思ったけど……
「ずいぶん長く働いてたんだね」
「ちょうど残業して欲しいって、管理者に言われたの」
「なるほど……」


 間もなく、僕は帰り道で、正社員への登用があった話を彼女に伝えた。
「……というワケで、ちょっと残業とかも増えると思う」
 そう伝えると、彼女こと咲良はいいなぁ……と言いたそうな表情をしていた。
「凄いなぁ……龍之介さんは……」
「咲良も頑張ってるじゃないか」

 僕は周りを見ると、彼女の耳元でささやく。
「鈴木主任も近々……君をフルパートに誘おうかって話をしていたよ」
「それ本当!?」
 咲良は少し嬉しそうな顔をしたけれど、何か裏があるのかなと言いたそうな顔をしていた。
「……もしかして、前に1人フルパートさんが辞めたよね。もしかして……その代わり?」

 さすがに彼女なら、そういうこともわかるか……と思いながら頷いた。
「さすがに解りやすかったかな。咲良は仕事も慣れてきたからミスもかなり減ったし、どうだろうって主任が話をしているのを聞いたんだ」
「なるほど~」

 
 僕たちは帰る途中で足を止めた。
 ちょうど不動産会社があって、色々な物件を紹介していたからだ。
「ちょっと見ていくかい?」

 そう提案してみると、咲良も笑顔で「うん!」と答えた。こうして、2人で新しい部屋の物件を見るだけでも楽しいものだ。
 一つ一つ部屋をチェックすると、例えばここは日当たりがよさそうとか、ここは駐車場があるから車を持ったときにお得とか、隣の県ならゴミ出しが楽とか、色々なことを話し合える。

 そんなことをしていると、空もすっかりと暗くなってきたので、僕たちはとりあえず家に帰ることにした。
「でも、新しくどこかを借りるのなら、頭金とか必要だよね?」

 彼女がそう聞いてきたので、僕も頷いた。
「そうだね……僕の今住んでいる安アパートも、入居する時には20万近くかかったから、両親から借金したんだった……」

 そういうことを思い出すと、貯金50万円ではとても少ないことに気が付かされる。
「……いけないな。もっと貯金しておかないと……」
「私も協力するよ。今月からはお給料も入るし、お家賃出すね!」
 その言葉を聞いて、僕はホッとしていた。
 そうだった。今までは僕一人で何とかしなければならなかったけれど、これからは咲良も一緒なんだ。


「そうだったね。僕には咲良がいる……頼りにしているよ!」
 そう伝えると、咲良は嬉しいような、困ったような表情をしている。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……私、ダメダメ人間だから……」
「そんなことはないよ」
 僕はまっすぐに咲良を見下ろすと、彼女は顔を赤らめていた。そして照れているらしく目を逸らしている。なんて可愛らしい仕草だろう。
「君が居てくれるおかげで、僕も明日から頑張ろうって思えるようになったんだ」
「…………」

 普段だったら、絶対に恥ずかしくて言えないことだけど、何だろう。夕暮れ時だったからだろうか。それとも周りに人がいなかったからだろうか。
 通り抜けていく車の騒音がちょうどいい感じに言葉を隠してくれたからこそ、僕は言うことができた。
「大好きだよ……」
「……わ、私も……です!」
「もし、一緒になれることがあったら……あの神様の神社で……どうだろう?」

 そう伝えると、咲良は頬を赤らめながら……嬉しそうに頷いてくれた。


【嬉しそうな神の眷属】



【作者スィグからの挨拶】
 最後まで、【ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~】をお読みくださり、誠にありがとうございます!
 皆さんのおかげで、当作品は男性ホットランキングで1位を獲得することができました。
 重ねてお礼を申し上げます。


 今までにも、様々な主人公を書いてきましたが、欠点や失敗をする主人公が少ないことに気付き、やる時はやるけどしょうもないことをする。というタイプの男を出そうと思い、リューノはこのような性格になりました。

 そんな男でも生活できるような懐の深い世界がいいなと思いながら異世界を考えていましたが、現実世界も決してそんなに懐が狭いわけではないということにも気が付いたので、どちらにも主人公を配置するという方法で書いてみることにしてみました。

 そうしたら、普段に日本で暮らしている時の主人公という一面も表現することができて、個人的には満足できる結果となりました。正直、彼のしょうもない部分は、筆者に似ていると感じています(爆)


 では最後に、新規の作品の構想について、簡単に紹介させていただきます。
 次回はペガサスに跨る天馬騎士を題材に作品を作ろうと考えています。主人公は異世界転生した青年で、その妹がペガサスナイトを目指しているため、彼女を支える物語を計画しています。

 11月の後半までに、投稿を開始することを目標に筆を進めていきたいと思います。
 では、短くはありますが……これで筆者からの挨拶とさせて頂きます。最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

桃
2023.10.30
ネタバレ含む
スィグトーネ
2023.10.30 スィグトーネ

感想を頂き、ありがとうございます!
私の場合は、アルコールが体質に合わないので翌朝には凄いことになります。お酒には気を付けたいと思います。

なるべく、異世界を再現できるように頑張りたいと思います♪

解除
ドミトリー
2023.10.27 ドミトリー
ネタバレ含む
スィグトーネ
2023.10.27 スィグトーネ

感想を頂き、ありがとうございます!
酔いが醒めると、まともな部分もある主人公なので長い目で見てやってください(お酒はしばらくの間は、控えた方がいいと作者も思いますが……(笑))。

主人公のダメなところをどうやって表現するのかを、試行錯誤をしながらやっていきますので、これからも是非、よろしくお願いします。





解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

竜が守護せし黄昏の園の木に咲く花は

譚音アルン
ファンタジー
小さな頃から荒野の夢を見ていた少女、風祭真奈。 ある時、その夢の中で不思議な白い花を見つけて触れると、異世界へとトリップしてしまう。 飛ばされた先は見渡す限りの不毛の大地。 途方に暮れていた所、飛竜に乗った赤髪蒼眼の青年魔術師ゼーウェンと出会って助けられる。 真奈は様々な困難と経験を通じて、生きる力とその意味を学んでいきながら地球へと戻る道を探し求めてゆく。 ※割と真面目な王道ファンタジー。

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。