40 / 43
35.想定外のこと
しおりを挟む
スライム使いとの騒動から数日後。
いつも通りメリザンドと就寝していると、彼女はゆっくりと起き上がり……そして何やら考え事をしているようだ。
「……どうしたんだい?」
「なんでしょう。よくは判らないのですが……最近、あまり痛みを感じなくなってきたのです」
僕は起き上がって彼女の肩口を見てみることにした。
彼女の言う通り、肩のあたりにあった瘴気の塊が小さくなっているように感じる。これは……順調になくなっているのだろうか。それとも……
「ちょっと、おウマ先生に診てもらおう」
「それがいいですね!」
僕たちが納屋へと向かうと、リットウシグレ号は目を瞑ってブツブツと独り言をいっているように感じたが、納屋の前に立つと、やがてその行動を止めた。
「どうしたんだい、2人して?」
「実は……」
事情を話すと、リットウシグレ号は頷いた。
「確かに君たちの言う通り、2つのパターンが考えられるね……ちょっと診せて」
「どうぞ」
リットウシグレ号が身を乗り出して、メリザンドの肩を眺めると、目を細めた。
「…………」
「…………」
緊張する。これでもし、毒素が身体中に広がって悪性転移していました。とかだったら、本格的に終わることを意味しているが、果たして結果はどうなのだろう。
リットウシグレ号は、目を開けると僕たちを見た。
「念のため、匂いも嗅がせて」
「はい」
シグレ号は鼻腔を大きく開くと、やがて頷いた。
「間違いないね……メリザンドの身体が瘴気を本格的に潰しにかかっている」
「え!? それじゃあ……!」
「その病、じきに治るよ」
一角獣の太鼓判を貰って、僕もメリザンドも嬉しさのあまり飛び上がりたくなった。
だけど、不思議な話である。どうして、吸血鬼の毒を中和できるのだろう。この呪いに関して僕も調べてみたけれど、自力で中和できるような生易しいものではないはずだ。
なにせ、どんな種族でも、この呪いを受ければ等しく魔物に身体を作り変えてしまうほどの毒。いったい……これは……
「ねえ、シグレ号?」
「なんだい?」
「嬉しいんだけど、少し疑問なんだ……どうしてメリィは吸血鬼の病に打ち勝つ可能性が高まったのかな?」
リットウシグレ号は頷くと答えた。
「それは色々な要素が絡み合っているけど、一番の理由は彼女のアビリティにある気がする」
「アビリティって……このフルハウスかい?」
そう聞き返すと、リットウシグレ号は頷いた。
「この能力を見たときに疑問があったんだ。どうして……彼女の部屋がないのだろうってね」
そう言われてみればそうだ。
彼女は常に僕の部屋で寝泊まりしているし、自分の部屋というモノに入ったことがない。
「恐らくそこに、呪いの元凶……呪詛が押し込まれている」
シグレ号の言葉を聞き、メリザンドも頷いた。
「はい……一角獣様の仰る通りです」
「そして、この納屋の位置……実は、その呪詛を感じる空間と最も近いんだ」
そこまで言うと、リットウシグレ号はその方向を睨んだ。
「その方向……呪詛を広げようとする何かに向かって、常に霊力を送り続けるとどうなるのか……実は僕としても興味があったからやってたんだ」
彼の言葉を聞いていたらしく、もう一つの部屋からも少女が現れた。
他ならぬアビゲイルだ。
「実は、私も気になっていまして……その方向に向けて祈りを捧げていました」
彼女は微笑んだ。
「まあ、私の場合は……少し距離が離れているので、シグレ号ほどの影響力はなかったでしょうけどね」
とにかく、これで話はつながった気がする。
彼らの頑張りがあったから、フルハウスの中が清められ、フルハウスはメリザンドの身体や精神に直結した空間なので、身体の中に仕込まれていた吸血鬼の呪いにも影響を及ぼしたということか。
そこまで言うと、シグレ号は言った。
「そして、スライム……これがまた役に立ったよ」
「スライムが?」
あまりに意外だったので聞き返すと、シグレ号は更に頷いて答えていく。
「ああ、アビゲイルのスライムを少し借りてさ、角で霊力を込めながら増やして、わずかなドアの隙間からけしかけてみたんだ。そしたら、乾いた綿のように瘴気を吸い取ってくれてね……」
「瘴気を吸ったスライムを浄化すれば、再利用も可能……というワケか」
「そーいうこと♪」
なるほど。これを繰り返せば、瘴気も薄まっていずれ……メリザンドの部屋も使えるというワケか。
さすがはシグレ号だと思ったとき、メリザンドの顔色が急に真っ青になっていった。
「メリィ……?」
「う……ええ……こ、これは……」
「どうしたのです!?」
アビゲイルがメリザンドに近づいて、額に手を当てると、リットウシグレ号は耳をピクリと動かした。
「想定外の事態発生か……!」
彼は、更に低い声で唸る。
「まさか、自らラスボス様がおいでとはね」
いつも通りメリザンドと就寝していると、彼女はゆっくりと起き上がり……そして何やら考え事をしているようだ。
「……どうしたんだい?」
「なんでしょう。よくは判らないのですが……最近、あまり痛みを感じなくなってきたのです」
僕は起き上がって彼女の肩口を見てみることにした。
彼女の言う通り、肩のあたりにあった瘴気の塊が小さくなっているように感じる。これは……順調になくなっているのだろうか。それとも……
「ちょっと、おウマ先生に診てもらおう」
「それがいいですね!」
僕たちが納屋へと向かうと、リットウシグレ号は目を瞑ってブツブツと独り言をいっているように感じたが、納屋の前に立つと、やがてその行動を止めた。
「どうしたんだい、2人して?」
「実は……」
事情を話すと、リットウシグレ号は頷いた。
「確かに君たちの言う通り、2つのパターンが考えられるね……ちょっと診せて」
「どうぞ」
リットウシグレ号が身を乗り出して、メリザンドの肩を眺めると、目を細めた。
「…………」
「…………」
緊張する。これでもし、毒素が身体中に広がって悪性転移していました。とかだったら、本格的に終わることを意味しているが、果たして結果はどうなのだろう。
リットウシグレ号は、目を開けると僕たちを見た。
「念のため、匂いも嗅がせて」
「はい」
シグレ号は鼻腔を大きく開くと、やがて頷いた。
「間違いないね……メリザンドの身体が瘴気を本格的に潰しにかかっている」
「え!? それじゃあ……!」
「その病、じきに治るよ」
一角獣の太鼓判を貰って、僕もメリザンドも嬉しさのあまり飛び上がりたくなった。
だけど、不思議な話である。どうして、吸血鬼の毒を中和できるのだろう。この呪いに関して僕も調べてみたけれど、自力で中和できるような生易しいものではないはずだ。
なにせ、どんな種族でも、この呪いを受ければ等しく魔物に身体を作り変えてしまうほどの毒。いったい……これは……
「ねえ、シグレ号?」
「なんだい?」
「嬉しいんだけど、少し疑問なんだ……どうしてメリィは吸血鬼の病に打ち勝つ可能性が高まったのかな?」
リットウシグレ号は頷くと答えた。
「それは色々な要素が絡み合っているけど、一番の理由は彼女のアビリティにある気がする」
「アビリティって……このフルハウスかい?」
そう聞き返すと、リットウシグレ号は頷いた。
「この能力を見たときに疑問があったんだ。どうして……彼女の部屋がないのだろうってね」
そう言われてみればそうだ。
彼女は常に僕の部屋で寝泊まりしているし、自分の部屋というモノに入ったことがない。
「恐らくそこに、呪いの元凶……呪詛が押し込まれている」
シグレ号の言葉を聞き、メリザンドも頷いた。
「はい……一角獣様の仰る通りです」
「そして、この納屋の位置……実は、その呪詛を感じる空間と最も近いんだ」
そこまで言うと、リットウシグレ号はその方向を睨んだ。
「その方向……呪詛を広げようとする何かに向かって、常に霊力を送り続けるとどうなるのか……実は僕としても興味があったからやってたんだ」
彼の言葉を聞いていたらしく、もう一つの部屋からも少女が現れた。
他ならぬアビゲイルだ。
「実は、私も気になっていまして……その方向に向けて祈りを捧げていました」
彼女は微笑んだ。
「まあ、私の場合は……少し距離が離れているので、シグレ号ほどの影響力はなかったでしょうけどね」
とにかく、これで話はつながった気がする。
彼らの頑張りがあったから、フルハウスの中が清められ、フルハウスはメリザンドの身体や精神に直結した空間なので、身体の中に仕込まれていた吸血鬼の呪いにも影響を及ぼしたということか。
そこまで言うと、シグレ号は言った。
「そして、スライム……これがまた役に立ったよ」
「スライムが?」
あまりに意外だったので聞き返すと、シグレ号は更に頷いて答えていく。
「ああ、アビゲイルのスライムを少し借りてさ、角で霊力を込めながら増やして、わずかなドアの隙間からけしかけてみたんだ。そしたら、乾いた綿のように瘴気を吸い取ってくれてね……」
「瘴気を吸ったスライムを浄化すれば、再利用も可能……というワケか」
「そーいうこと♪」
なるほど。これを繰り返せば、瘴気も薄まっていずれ……メリザンドの部屋も使えるというワケか。
さすがはシグレ号だと思ったとき、メリザンドの顔色が急に真っ青になっていった。
「メリィ……?」
「う……ええ……こ、これは……」
「どうしたのです!?」
アビゲイルがメリザンドに近づいて、額に手を当てると、リットウシグレ号は耳をピクリと動かした。
「想定外の事態発生か……!」
彼は、更に低い声で唸る。
「まさか、自らラスボス様がおいでとはね」
10
お気に入りに追加
831
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…


クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。


劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる