ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ

文字の大きさ
上 下
30 / 43

26.ゴブリンを壊滅させた者

しおりを挟む
 僕は隊列を変更することにした。
 先頭は僕、2番手がリットウシグレ号、そして最後尾はメリザンドとアビゲイルという陣形だ。

 これは1-1-2という、バッグアタックやサイドアタックを警戒する陣形だ。中央にシグレ号を置けば、どこの方向から攻められても、彼の広い視野に引っかかることになる。
「どう、洞窟の中は?」
「大丈夫……ばっちりと見えるよ」
 どうやら、ウマの目は暗いところでもよく見えるようだ。これなら安心して、洞窟の様子を調べることができる。


 洞窟の中を歩き出すと、シグレ号は言った。
「ゴブリンの臭いが少しずつ強くなってきたね。それに……人のにおいも……」
「ということは、両方ともこの洞窟内にいるということか……」

 そう言いながら歩みを進めていくと、僕は驚きのあまり歩みを止めていた。
 何と、ゴブリンがスライムに絡めとられて捕食されかけているのだ。それも1匹や2匹だけじゃない。かなりの数がいる。
「なるほど。ゴブリンの巣は……こうして壊滅させられていたんだね」
「冷静に言っている場合か! すぐに冒険者を救い出して……」
「待って」


 メリザンドは手で僕の言葉を制止すると、耳を澄まして何かを聞いていた。
 彼女は、険しい顔をしながら目を開けていく。
「……この音色……まさか……」
「どうしたの?」

 僕とシグレ号がお互いを見合うと、アビゲイルが慌てて僕たちを突き飛ばした。
 その直後に、彼女はスライムに圧し掛かられ、あっという間にからめとられていく。
「くっ……」

 慌ててスライムを電気で威嚇しようとしたが、すぐにシグレ号に止められた。
「待って、電撃するとお姉ちゃんまで感電してしまう!」
「くっ!」

 僕が舌打ちをした直後に、足音が聞こえてきた。
 姿を現したのはエルフだった。女は笛を片手に持ちながら、どこか人を人とも思わない不気味な笑みを浮かべながら僕たちを眺めてくる。
「なかなか意気がいいわね」
「お前は何者だ!?」

 そう聞き返すと、女は不敵な笑みを浮かべていた。
「スライム使い……聞いたことくらいはあるでしょう?」

 僕たちが身構えると、メリザンドは僕たちの前に手をかざして静止した。
 よく見ると、彼女の足にもスライムがまとわりついている。
「すぐに、ギルド長たちを呼んでください……我々の手には余る相手です」


 すぐに彼女の言葉を否定しようとしたが、スライム使いの言葉を聞いて僕は唾を呑んでいた。
 その身体から流れ出ている力は、まるで霊力とは言えないほどおぞましい色をしていた。姿かたちはどう見ても人間なのに、中に入っているのが全くの別物。
 いいや、はっきり言って悪魔が人間の皮を被っているという感じさえする。

「行こう、シグレ号!」
「うん!」

 2人で逃げ出すと、メリザンドは複数のファイアショットを放つが、その攻撃はことごとくスライム使いが操るスライムによって阻まれた。
 それだけでなく、スライム使いは笛を楽し気に吹きながら、スライムを使役してメリザンドにけしかけていく。

 そもそも液体のスライムに、炎系の攻撃は効き目がなく、メリザンドはスライム使いに決定打を与えられないまま、足元に忍び寄ったスライムに纏わりつかれ、彼女は転倒した。
「これで実力の違いはわかったでしょう? いい加減に無駄な抵抗はやめなさい……でないと」

 スライム使いは、既に捕らわれていたアビゲイルのアゴを掴むと、その口と鼻にスライムを近づけた。
「私は彼女を窒息させることもできるのよ?」
「ダメ、口車に乗っては……私のことは……むぐっ!」
「誰が喋れと言ったの? もっと恥ずかしい格好させるよ?」

「くっ……」
 メリザンドは険しい顔をしながら両手を上げると、スライム使いはメリザンドのローブを眺めた。
「へぇ……ミスリルのローブなんて、なかなかいいモノ持ってるじゃない」
「…………」
「私に寄越しなさい」

 メリザンドが震える手でローブを手渡すと、スライム使いの足音が響いた。
「コレクションに相応しい、芸術的な作品にしてあげる……ふふ、楽しみね」
「余裕ね。あの2人を放っておいてもいいの?」
「ご心配なく。この洞窟の外へは一歩も出られないわ」

 その言葉を聞いたメリザンドからは、みるみる血の気が引いていく。
「まさか……入り口にまで仕掛けを!?」
「無臭のスライムを岩に擬態させておくことなんて、私にとっては朝飯前よ」

 そこまで言うと、スライム使いは嗤った。
「炎使いだからって抵抗しないほうがいいわよ。スライムは燃えないけど、下着くらいには着火するからね」
「…………」
 まもなく、メリザンドは両手を上げた。


【捕まったメリザンドとアビゲイル】


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...