ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ

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21.人語を操れる若馬

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 翌日。僕はメリザンドやアビゲイルを連れてギルドの受付まで行った。
 すると、既に第2部隊の人たちが揃っており、先に仕事の斡旋を受けている。

「おはようございます!」
「おお、リューノ隊のメンバーじゃないか。おはよう!」
 そう声をかけてくれたのは、黒人戦士ヤーシッチだった。彼の部隊は戦士が中心の部隊で、戦士2、重戦士1、軽戦士1、ハンター1、魔法使い1という組み合わせだ。
 中には第1部隊と掛け持ちしている人もいるようだが、僕にはそれが誰だかはわからない。

「では、ヤーシッチ隊はゴブリン退治のクエストですね」
「ああ、この前の礼はきっちりさせてもらう!」

 どうやらヤーシッチ隊が引き受けたゴブリン退治というクエストは、出来高制の仕事のようだ。
 ゴブリン系の敵はツーノッパ王国からは害獣認定されているらしく、倒して右耳を持ち帰ると領事館から報酬が支払われるが、王国や領事館の依頼ともなるとボーナスも出るという。
「じゃあ、行ってくるよ!」
「お気を付けて!!」


 僕たちも受付嬢ソフィアの前に立つと、彼女はにっこりと笑って挨拶をしてくれた。
「おはようございます。リューノ隊の皆さん」
「おはようございます。クエストは何かありますか?」
「植物収集なら幾つか、新しい依頼がありますよ」

 僕たちは、仕事内容を見せてもらうと、その中の1つが気になった。
「この虫よけ草というのはどんなモノなの?」
 植物に詳しそうなメリザンドに視線を向けながらソフィアに聞くと、まずソフィアが答えてくれた。
「名前の通り、植物……特に蚊やハエを遠ざける草があるので、それを収集して欲しいのです」

 僕はその話を聞いて頷いた。
 この世界にはまだ網戸はないので、風通しを良くするために雨戸でも開こうものなら、これ幸いと羽虫が次々と侵入してくるのだ。
「この草って、効果はあるのかい?」
 メリザンドに聞くと、彼女は頷いた。
「ありますよ。特に今回のクエストに指定されている、ブラックゼラニウムは部屋に置いておくだけで目に見えた効果があるので、貴族やお金持ちの間では引く手あまたのようです」
「ただ、残念なことに……瘴気の強い場所でしか、ブラックゼラニウムはないんですよね」

 アビゲイルが困り顔で言うと、ソフィアも頷いた。
「そうなんですよ。報酬も高いだけあって……危険も伴いますが、挑戦してみますか?」

 2人を見ると、まずはメリザンドが頷いてから、今度はアビゲイルが頷いた。
「引き受けます」
「このクエストは、募集期間が長いので失敗したとしても、まだ何とかなります。無理はなさらないようにしてください」
 なるほど。ギルド員に無茶をしないように促すのも受付嬢の仕事だ。
 さすがはソフィアだと思いながら僕は頷いた。
「わかりました。慎重に仕事をしたいと思います」


 間もなく、僕はメリザンドやアビゲイルと一緒に森へと入った。
 陣形は、最前列が僕、真ん中にメリザンド、最後尾がアビゲイルだ。全員に負担が分散する形にすれば、報酬の際も仲よく等分という形で済ませられる。

 森の中へと入ると、おや……また視線を感じる。
「……ねえ」
 僕がそう囁くと、メリザンドが真っ先に反応した。
「はい。見られていますね……」
「一角獣かな?」
 アビゲイルも言うと、メリザンドは横を見た。
「ねえ、遠くから見てないで……姿を現したらどう?」
 その言葉を聞くと、気配が近づいてくるのがわかった。


 待機すること3分。僕たちの前に一角獣が姿を見せた。
 その毛艶から若馬だとわかったが、纏っている雰囲気が普通ではない。僕も何度かウマという生き物を見たことがあるけれど、目の前に現れた若馬はまるで僕たちを怖がっていないのだ。
「君は……昨日、アビゲイルと一緒にいた仔だね」
「ストーキングごっこを楽しむ予定だったけど、あまりにひどい目に遭っていたからね。ちょっとお節介を焼いちゃったよ」

 アビゲイルは、頬を赤らめながら言った。
「助けてくれてありがとう。まだ、お礼を言っていなかったから……」
「小生としても、君たちがどういうギルドなのか知りたかったからね。お礼を言うほどのことじゃないよ」

 そう言いながらニコニコと笑っていたが、喋れる時点でコイツが普通のウマとは思えなかった。
「もし、君が一角獣なら……ちょっと、彼女のことを診て欲しいんだ」

 その話を切り出すと、若馬は真顔になった。
「いいけど……条件がある」
「条件? なんだい?」
「きみは異国の神様の愛子でしょう?」

 愛子という言葉を聞いて、僕は少し考えこんだ。
 確かに美人で賢い神様とは知り合いだけど、愛されているのだろうか。
「そう見えるかい?」
「うん、まるで言い伝えで聞く、異世界の英雄を連想するような可愛がられ方だ。それを見込んでの相談だ」
「相談とは?」
「小生に名前を付けて。できればブラックとか、クロとか毛並みから簡単には推察できないモノがいい」


 まさか、いきなり名前を付けろ……か。
 本当にこの世界は、僕の予想の斜め上を行くものだ。


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